【完結】失恋と小さな呪いの後は

ユユ

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流されるアンナ

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こ、侯爵邸に到着してしまった。

「アンナ」

先に馬車を降りたルイ様の手を取って馬車を降りると使用人達が出迎えてくれていた。直ぐに高貴そうな男性が出てきた。

「アンナ嬢。よく来てくれたね。私はクロード。ルイの一番上の兄だ。よろしく」

「初めましてオートウェイル侯爵様。アンナと申します」

「さあ、中に入ろう」

ルイ様が私の手を繋いで歩き出した。それを見て侯爵様はニヤニヤしていた。

応接間に通されるとルイ様のご両親と多分ルイ様のもう一人の兄がいた。

「ルイの父ジルナードだ。ようこそオートウェイル邸へ」

「ルイの母、イライザですわ。初めまして」

「ルイの三番目の兄エリックだ」

「私を含めて名前で呼んでくれ。皆オートウェイルだからな。私のことも気軽にクロードと呼んで欲しい」

「初めまして、アンナと申します。お招きいただきありがとうございます」

「もう1人、私とエリックの間にレイがいるんだが、彼は婿に出て国内にいない。だから滅多に会うことはないよ」

「はい」

「さあ、食事にしよう」

親切過ぎて怖い。絶対罵られると思っていたのに。


食堂で食事を始めると肖像画が目に入った。
ルイ様は母親似でとても美しい、他の三兄弟は父親似で勇ましい美形だ。

あれ?このままじゃ、私が子を産んで 私に似たら惨事じゃない?

私「あの、ぜひ皆様からもルイ様を説得していただけませんか?」

侯「どうして?」

ジ「ルイが選んだ女性だ。我々も歓迎したい」

私「平民ですよ?」

イ「聞いているわ」

私「容姿も…」

エ「美人を望んでいるならとっくにルイは妻を娶っているよ」

私「このままだと私に似た子が産まれて可哀想なことになります」

ル「僕の子を妊娠して産んでくれる想像をしてくれていたんだね。なんて可愛いんだ。食事が終わったら早く帰ろう」

したりないの!?

私「か、帰りたくありません」

侯「ルイ。怯えているじゃないか」

エ「ルイ?」

ル「嬉しさのあまり震えているんだろう」

全「………」

私「ル、ルイ様はご実家への帰省は久しぶりだと伺いました。数日滞在して家族の交流でも、」

ル「アンナが一緒にここに滞在したいというならランベール様に休暇の許可を取ろう」

私「私は帰りますので水入らずで、」

ル「まさか、僕のいない間に誰かと仲良くしたいのか?」

私「違います!」

ル「まだが必要なのか?もしくはお仕置きのか?」

私「ル、ルイ様と一緒に過ごせて嬉しいです」

イ「…ルイ。レディに圧をかけるのはやめなさい。優しくエスコートしてお庭の花でも見せてあげなさい。屋敷内を案内するとか、貴方の部屋にある思い出の品を見ながらアンナさんに話してあげたりしなさい。貴方のしたいことばかり押し付けたら嫌われるわよ」

ル「何もかもアンナが初めてだから分からないんだ。僕を嫌わないで欲しい」

私「嫌いとかじゃなくて、私は貴族の世界には不向きなのです。侯爵家の汚点になります」

ジ「考え過ぎだ」

ク「王家が呼ばない限り社交はパスしてかまわない」

エ「読み書きはできるんだよね?」

イ「テーブルマナーと挨拶だけ出来れば大丈夫よ」



夕食までご馳走になって帰ってきた。
さすがに疲れたからと自分の部屋で1人で寝させてくれた。

最後の砦 オートウェイル侯爵家は、反対するどころかルイ様とくっつけようとしている気がした。
これで八方塞がりになってしまった。
子爵様も笑って“良かったな”とか言っていたし。

私の体にすぐ飽きると思っていたルイ様は、毎日のように私を求めるし。
普通、間違えて“お爺さん”なんて話しかけたら“無礼者め!”とかいって嫌うと思うんだけど。
もうルイ様に普通を求めてはいけないのね。



翌日、すぐに入籍するというルイ様を宥めて、別棟が出来て暮らせるようになったらと譲らなかった。そして疲れるからと翌日に仕事がある日は手を出さないで欲しいとお願いした。大奥様の介入もあって守ってもらうことになった。
だって、声を他の男に聞かせたくないから出しちゃダメって言うくせに執拗に攻め立てるから、大変なんだもの。

ルイ様が早く仕上げるようせっつきだしたので、大事な新居は丁寧に作ってもらいたいから止めてとお願いした。



「え? 仕事辞めるよね?」

「辞めませんよ」

「だって…翌日仕事の日はしないって、」

「そうですね」

「駄目だ。新居が出来たら中に居て僕の帰りをまっていてくれ」

「ルイ様は閨事が出来れば私じゃなくてもいいのではありませんか?」

「アンナ!」

「何でも望む通りにして欲しかったら、下級貴族を娶ればいいじゃないですか。そう躾けられて育っていると聞きました。
平民はそうではありません。女性も働くことは普通ですし、貴族とは違って家事という仕事もあります。育った環境が違いますし、私は最初から貴族の生活は無理だと申し上げました。それでもいいと仰ったのはルイ様でしょう?」

「愛していたら抱きたいと思うのは普通だ。貴族も平民も関係ない!僕はアンナを愛しているんだ!!」

「ルイ。愛の告白はもう少し小さな声で休日にやってくれ。何も執務室でやらなくていいだろう」

子爵様から婚姻後の勤めについて聞かれている最中にルイ様が口を挟んできたので拒否した。でも揉め事なのにイチャイチャしているように見えたのだろう。

「僕はアンナと仲良くしたいのです。なのに、」

「せっかく完璧に外堀を埋めたのに、ルイが溝を掘ってどうするんだ。
例えて言うならアンナは空を飛ぶ鳥だ。いきなり捕まえて黄金の籠に入れても、暴れて怪我をさせたり衰弱してしまうぞ?」

「ごめん、アンナ」



安心したはずだったのに。

「ご懐妊です」

「はい?」

「吐き気は悪阻です」

「……」

毎回避妊をしていたはずなのに…。
月のモノの遅れはストレスだと思っていた。

「婚外子にしたくないから、直ぐに婚姻しようね」

ルイ様は満面の笑みだった。確信犯だ。

「婚外子か…。実家に帰らないと」

ルイ様が涙を流して跪いた。

「アンナ。強引なのは悪かった。でもアンナを肩時も離したくないんだ。この間だって、大奥様の友人が孫を連れて来たとき、君に色目を使っていた」

「あり得ません」

「アンナは男の事が分からないんだ。汚くて醜い心を隠している生き物なんだよ」

「ルイ様がですか?」

「僕はアンナに対しては白くて美しいつもりだよ」

「それ、幻覚か何かです」

「ああ。アンナに似た子なら仕事を辞めて永遠に、」

「働いてください。私は別棟で大人しくしています」

「アンナ!愛しているよ!」

「あの、もう帰っていいですか」

「ありがとうございます、先生」

お医者様が帰るとルイ様はデレデレ顔で屋敷中にお詫びをしたらしい。

子爵様と大奥様だけでいいじゃない!恥ずかしい!



そして入籍し、別棟で暮らし、産まれたのは……

イ「なんて可愛いの!天使よ天使!」

ジ「ハハッ 天使だな」

ルイ様のご両親…つまり義父母が赤ちゃんを見に来てくれた。
お義母様とルイ様にそっくりの女の子にメロメロだ。

イ「侯爵邸うちで暮らしなさい。不自由はさせないわ」

私「いえ、そんな、」

イ「何が欲しいの?何でも買ってあげるわよ」

私「特には、」

子「あ~」

イ「聞いた?今“お祖母様”って言ったわ」

ル「父上、母上は幻聴が聞こえているようです。医者に診せてあげてください」

赤ちゃんが義母の指を掴んだ

イ「ひいっ!」

私「どうかなさいましたか?」

イ「可愛過ぎて心臓が破裂しかけたわ。可愛いも過ぎると危険なのね」

ジ「名前は決まったのか」

ル「アンナがランベール様に名付けてもらいたいとお願いしたので、考えてもらっています」

イ「子爵のところへ行ってくるわ」

お義母様は早歩きで部屋を出て行った。

ジ「これからはルイではなくてイライザが迷惑をかけそうだが、イライザは自分に似た女の子が欲しかったんだ。大目に見てやって欲しい」

ル「次はアンナ似の女の子にしようね」

私「……」


その日にお義母様は別棟の1部屋を自分の部屋にして、月の半分以上こちらで暮らすようになった。
代替わりしたので問題無いらしい。

「エステルちゃん、可愛いおしゃぶりですよ」

黄金のおしゃぶりだった。
味が気に入らないらしく、美術品のように飾ることになった。



2年半後、また子を産んだ。
お義母様やルイ様やエステルにそっくりの男の子だった。

「ルイに似てるとねぇ」

「アンナに似てない」

「この子とエステルを連れて家出しますよ」

「素敵!私に似た孫だわ」

「僕に似てアンナに付き纏いそうだ。乳母を5人雇おうかな」

何故かルイ様は息子をライバル視しするので、ルイ様のいる時間に私の母乳を飲ませることができなかった。そうでないと夜に、ルイ様が母乳を飲み干そうと吸い付くからだ。

心配していた両家の格差は問題なかった。両親はいまだに緊張しているけど、オートウェイル家の皆様が優しく接してくださる。両親に援助の話もあったけど“困ったらお願いします”と断ったらしい。

ルイ様の2番目の兄様が里帰りをしたときに、唖然としていた。侯爵家が平民家族と仲良くしているし、母親に限ってはルイ様と私の家に入り浸って孫を放さないからだ。

“なにこれ”

第一声だった。

詳細を説明されるとルイ様の肩をバシバシと叩きながら“おめでとう”と言った。



失恋と小さな呪いの後に こんな人生が待っているとは思わなかった。今ではルイ様を好きだし幸せだ。









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