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認めるしかない兄クロード
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【 クロード・オートウェイルの視点 】
家令が持って来たのは末弟ルイからの手紙だった。
読むのに少し勇気が必要だったので、夕食後に封を開けた。
“話がありますので時間をとってください”
いい知らせか 悪い知らせか。カルモンド子爵家からは特に問題があるという報告はない。
翌日の昼食を一緒にとりながら話を聞くと返事を出した。
翌日、妻同席で食事を始めると、ルイはいきなり本題に入った。
「ルイ、最近はどうだ?」
「僕、婚姻します」
「「……」」
「子爵邸の横に別棟を建ててくれるそうです。というか、もう建築を始めています」
「相手はどこの家門だ」
「アンナです」
「バリー伯爵家のアンナ嬢ね。でも、まだ成人前じゃないかしら。婚約して待つのね?」
「平民で20歳です」
「平民!?」
「恋人かしら」
「いえ、妻です。直ぐに婚姻しようと思っています」
「素性は」
ルイの説明を聞いて いい子なのは分かったが…
「ルイは侯爵家の人間だろう」
「別に侯爵籍でも平民と婚姻は可能です。法律が規制していません」
「家格というものがある」
「交流しませんので結構です。それに全員僕に無関心だったじゃないですか。僕が政略結婚をしないとオートウェイル侯爵家が立ち行かなくなるほど困窮しているのですか?」
「格差は婚姻生活にも影をさすものだ」
「僕だって放り出されて子爵家で働けと言われ、平民と肩を並べて仕事をして給金をもらっています。
差などありませんよ。寧ろ伝手ではなく子爵に雇われたアンナの方が格上です」
「社交はどうするんだ」
「僕は事業をしているわけでも爵位を継いだわけでもありませんから特に必要ありません。それに、父上の言葉を覚えていますか?僕を追い出すときに“誰とでもいいから婚姻しろ”と言ったのは父上です。つまり兄上が反対するのはおかしいです」
「それは貴族令嬢の中の誰でもという意味だ」
「もう手遅れです。一昨日、アンナと結ばれました」
「まあ若いからそういうこともあるだろう。合意か向こうが誘ったのなら 気にすることはない。どうしてもと言うのなら手切れ金を用立ててやる」
「正確な表現をしましょう。
嫌がるアンナの純潔を奪いました。
子爵家にも先方のご両親にも婚姻の許可を得ています。アンナは嫌がっていましたが逃すつもりはありません。
兄上が反対の意志を貫くのも自由ですが、僕は侯爵家に未練はありません。籍を抜くだけです」
「父上が知ったら先方の両親と話を付けると思うぞ」
「その前にこちらをどうぞ」
ルイは、領地と町の名前と 男の名前を書いた紙を渡した。
「これは?」
「アンナ一家が以前住んでいた町です。
ブリアックは当時の町長の息子でブリアックという名の平民です。アンナを裏切ってどうなったか調べてみてください。1ヶ月後にアンナを紹介します。それでも反対するなら縁を切ります。お好きなように」
ルイは席を立ち 帰ってしまった。
「お義父様とお義母様がなんと仰るか…」
「反対するのは確かだな。今夜話してみるよ」
そして夜、父上に報告をした。
「は?平民!?」
「反対するならば除籍で構わないと」
「手切れ金でも渡せば引き下がるだろう」
「それが、ルイは同意を得ずに純潔を奪ったようで」
「相手も婚姻を望んでいたのではないのか」
「婚姻も性交も嫌がっていたそうです」
「手切れ金じゃなくて慰謝料と口止め料じゃないか」
「こちらを調べてから1ヶ月後の顔合わせに出席するようにと」
「これは?」
「アンナ一家が以前に住んでいた町で、元婚約者は町長の息子だったようです」
「町長の息子の次は侯爵の息子か。仕方ない。調べてみよう」
3週間後。
父上は、母上と私と三男のエリックを呼び出した。
父「アンナの話は覚えているな?」
母「ええ。平民のお嬢さんでしょう」
エ「ルイが入れ込んでるって話ですよね」
父「それで一家のことを調べた」
アンナが女の幼馴染サンドラに騙されて森に置き去りにされたこと、その女の嘘を信じたアンナの婚約者は、その女と婚姻式をあげてしまったこと、町全体から嫌がらせを受け、商売が出来なくなったため、オートウェイル侯爵領へ移住したことを説明した。
母「でもアンナさんが本当に浮気をしていて町長の息子との婚姻が嫌になったのかもしれませんわよ」
父「サンドラが森に行っていないと証言したシスター2人はサンドラに脅されて偽証したんだ。シスター同士の同性愛をサンドラに知られてしまったらしい。1人は何故か言ってはならないようなことを口にするようになり 貴族に制裁され、もう1人は他人が悪魔に見えるという幻覚に悩まされて自害した。その遺書でサンドラの悪事が明かされた。
領主は町長をクビにして私財を没収し、サンドラには内職をさせているようだ。元町長も息子もサンドラも慣れない仕事で大変らしい」
エ「可哀想なのは分かりましたが、それとルイとの婚姻に何の関係が?無理に純潔を奪ったとしても平民。アンナという女が平民として一生困らない金を慰謝料と口止め料として渡して、また別の領地へ移住して貰えばいいではありませんか。アンナの両親に圧力をかければ簡単ですよ」
父「私がアンナの両親のことに触れるとルイがアンナ一家の過去を調べろと言ったんだ。
おかしくなったのは偽証したシスターだけじゃない。元婚約は原因不明の不能になり子孫を残せなくなった。サンドラは異常な速さで皮膚が老化している。シミやシワがどんどん増えて弛んでいっている。全身だ。調査員は20歳のサンドラが40歳以上に見えたそうだ。町の中では美人に入る娘だったらしい。
敢えて調べろと言ったのは、これが他人事ではないという警告だ」
エ「ぐ、偶然では?」
父「嫌がらせをして追い出してしまった町民達は教会に足繁く通いひたすら祈っているようだ」
母「それが本当ならば魔女ではありませんか!」
父「事件前はアンナの評判は良かった。事件だって被害者だ。カルモンド子爵邸でも評判が良い。しかも あのルイを射止めたんだ。魔女というよりは神の愛し子なのかもしれない。
とにかくアンナやアンナの両親に手出しはしてはならない。ルイも反対するなら除籍を望んでいる」
エ「でしたら、正妻を迎えさせてから愛人とか妾として囲えばいいではありませんか」
私「私は賛成です」
エ「兄上!?」
私「やっとルイが人間らしくなったのです。寂しい思いをさせてきたルイが幸せを見つけたのですから兄として応援します」
母「クロード!?」
父「なら決まりだ。ルイの妻としてアンナを快く迎えよう」
エ「本気ですか?」
父「クロード・オートウェイル侯爵が決めたことは絶対だ。当主に従うのは当然だろう」
私「感謝します、父上」
ルイに顔合わせの日時を手紙に書いて送った。
家令が持って来たのは末弟ルイからの手紙だった。
読むのに少し勇気が必要だったので、夕食後に封を開けた。
“話がありますので時間をとってください”
いい知らせか 悪い知らせか。カルモンド子爵家からは特に問題があるという報告はない。
翌日の昼食を一緒にとりながら話を聞くと返事を出した。
翌日、妻同席で食事を始めると、ルイはいきなり本題に入った。
「ルイ、最近はどうだ?」
「僕、婚姻します」
「「……」」
「子爵邸の横に別棟を建ててくれるそうです。というか、もう建築を始めています」
「相手はどこの家門だ」
「アンナです」
「バリー伯爵家のアンナ嬢ね。でも、まだ成人前じゃないかしら。婚約して待つのね?」
「平民で20歳です」
「平民!?」
「恋人かしら」
「いえ、妻です。直ぐに婚姻しようと思っています」
「素性は」
ルイの説明を聞いて いい子なのは分かったが…
「ルイは侯爵家の人間だろう」
「別に侯爵籍でも平民と婚姻は可能です。法律が規制していません」
「家格というものがある」
「交流しませんので結構です。それに全員僕に無関心だったじゃないですか。僕が政略結婚をしないとオートウェイル侯爵家が立ち行かなくなるほど困窮しているのですか?」
「格差は婚姻生活にも影をさすものだ」
「僕だって放り出されて子爵家で働けと言われ、平民と肩を並べて仕事をして給金をもらっています。
差などありませんよ。寧ろ伝手ではなく子爵に雇われたアンナの方が格上です」
「社交はどうするんだ」
「僕は事業をしているわけでも爵位を継いだわけでもありませんから特に必要ありません。それに、父上の言葉を覚えていますか?僕を追い出すときに“誰とでもいいから婚姻しろ”と言ったのは父上です。つまり兄上が反対するのはおかしいです」
「それは貴族令嬢の中の誰でもという意味だ」
「もう手遅れです。一昨日、アンナと結ばれました」
「まあ若いからそういうこともあるだろう。合意か向こうが誘ったのなら 気にすることはない。どうしてもと言うのなら手切れ金を用立ててやる」
「正確な表現をしましょう。
嫌がるアンナの純潔を奪いました。
子爵家にも先方のご両親にも婚姻の許可を得ています。アンナは嫌がっていましたが逃すつもりはありません。
兄上が反対の意志を貫くのも自由ですが、僕は侯爵家に未練はありません。籍を抜くだけです」
「父上が知ったら先方の両親と話を付けると思うぞ」
「その前にこちらをどうぞ」
ルイは、領地と町の名前と 男の名前を書いた紙を渡した。
「これは?」
「アンナ一家が以前住んでいた町です。
ブリアックは当時の町長の息子でブリアックという名の平民です。アンナを裏切ってどうなったか調べてみてください。1ヶ月後にアンナを紹介します。それでも反対するなら縁を切ります。お好きなように」
ルイは席を立ち 帰ってしまった。
「お義父様とお義母様がなんと仰るか…」
「反対するのは確かだな。今夜話してみるよ」
そして夜、父上に報告をした。
「は?平民!?」
「反対するならば除籍で構わないと」
「手切れ金でも渡せば引き下がるだろう」
「それが、ルイは同意を得ずに純潔を奪ったようで」
「相手も婚姻を望んでいたのではないのか」
「婚姻も性交も嫌がっていたそうです」
「手切れ金じゃなくて慰謝料と口止め料じゃないか」
「こちらを調べてから1ヶ月後の顔合わせに出席するようにと」
「これは?」
「アンナ一家が以前に住んでいた町で、元婚約者は町長の息子だったようです」
「町長の息子の次は侯爵の息子か。仕方ない。調べてみよう」
3週間後。
父上は、母上と私と三男のエリックを呼び出した。
父「アンナの話は覚えているな?」
母「ええ。平民のお嬢さんでしょう」
エ「ルイが入れ込んでるって話ですよね」
父「それで一家のことを調べた」
アンナが女の幼馴染サンドラに騙されて森に置き去りにされたこと、その女の嘘を信じたアンナの婚約者は、その女と婚姻式をあげてしまったこと、町全体から嫌がらせを受け、商売が出来なくなったため、オートウェイル侯爵領へ移住したことを説明した。
母「でもアンナさんが本当に浮気をしていて町長の息子との婚姻が嫌になったのかもしれませんわよ」
父「サンドラが森に行っていないと証言したシスター2人はサンドラに脅されて偽証したんだ。シスター同士の同性愛をサンドラに知られてしまったらしい。1人は何故か言ってはならないようなことを口にするようになり 貴族に制裁され、もう1人は他人が悪魔に見えるという幻覚に悩まされて自害した。その遺書でサンドラの悪事が明かされた。
領主は町長をクビにして私財を没収し、サンドラには内職をさせているようだ。元町長も息子もサンドラも慣れない仕事で大変らしい」
エ「可哀想なのは分かりましたが、それとルイとの婚姻に何の関係が?無理に純潔を奪ったとしても平民。アンナという女が平民として一生困らない金を慰謝料と口止め料として渡して、また別の領地へ移住して貰えばいいではありませんか。アンナの両親に圧力をかければ簡単ですよ」
父「私がアンナの両親のことに触れるとルイがアンナ一家の過去を調べろと言ったんだ。
おかしくなったのは偽証したシスターだけじゃない。元婚約は原因不明の不能になり子孫を残せなくなった。サンドラは異常な速さで皮膚が老化している。シミやシワがどんどん増えて弛んでいっている。全身だ。調査員は20歳のサンドラが40歳以上に見えたそうだ。町の中では美人に入る娘だったらしい。
敢えて調べろと言ったのは、これが他人事ではないという警告だ」
エ「ぐ、偶然では?」
父「嫌がらせをして追い出してしまった町民達は教会に足繁く通いひたすら祈っているようだ」
母「それが本当ならば魔女ではありませんか!」
父「事件前はアンナの評判は良かった。事件だって被害者だ。カルモンド子爵邸でも評判が良い。しかも あのルイを射止めたんだ。魔女というよりは神の愛し子なのかもしれない。
とにかくアンナやアンナの両親に手出しはしてはならない。ルイも反対するなら除籍を望んでいる」
エ「でしたら、正妻を迎えさせてから愛人とか妾として囲えばいいではありませんか」
私「私は賛成です」
エ「兄上!?」
私「やっとルイが人間らしくなったのです。寂しい思いをさせてきたルイが幸せを見つけたのですから兄として応援します」
母「クロード!?」
父「なら決まりだ。ルイの妻としてアンナを快く迎えよう」
エ「本気ですか?」
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