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別れ
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そんな生活を2ヶ月も過ごしていた。
ある日、兄様が珍しくフェリング家の別棟に訪ねてきた。
「どうなさったの」
「隣に座れ」
「お兄様?」
「お願いだ」
切羽詰まった兄様の隣に座るときつく抱きしめられた。
何?
「サシャ・バルトンが亡くなった」
「えっ」
「伯爵が亡くなったんだ!」
「いくらお兄様でもそんな冗談は…」
「昨日の朝、後ろから来た暴走馬車に追突されて2台とも崖下に落ちた」
「嫌…」
手が冷えて思考が鈍る。
「即死だったと今朝連絡があった。
伯爵夫人が早馬を出してくださった」
夢だわ。悪い夢を見ているのだわ。
視界が歪む。
「アリエル!アリエル!」
目が覚めたら元通り。そう思っていた。
気を失った私は目覚めても悪夢から覚めなかった。
兄様は私をラクロワ家に移していた。
葬儀にも行って花を添えたが棺は開いていなかった。
私が立ち尽くしていると少しだけ蓋をずらしてもらえた。
顔は包帯で巻かれ見えなかった。鼻の凹凸がなかった。
手に触れると冷たかった。
「この傷……」
サシャ様が学生の頃に怪我をしたと言っていた傷だった。
そこからは涙が溢れて止まらなかった。付き添った兄様に強制的に連れ出されラクロワ邸に戻った。
翌日、夫人宛にお詫びの手紙を書いた。
半月後、私の心は閉じたまま。
心配する家族を制してフェリング邸の別棟へ帰った。
仕事だけして、あとはボーッとしていた。
食欲は全くなく、仕方なく何かを口に入れる。
月のモノは既に止まり、食べ物を受け付けなくなった。このままサシャ様が迎えに来るのかもしれないと不調に身を任せた。
メイドから報告を聞いていた侯爵が何度も医者を連れてきていたが拒んだ。
サシャ様が天に召されてから2ヶ月後、侯爵は兄様と医者を連れて来た。
仕方ないから診察を受け入れた。診せたら気が済むだろう。
「これはまずい、点滴を」
「いいのです。このまま逝かせてください」
「何を言っているのですか!赤ちゃんを殺す気ですか!!」
「えっ」
「悪阻で食べ物を受け付けなかったのかも知れません。栄養を補給しないと流産しますよ」
助手が点滴をしている私に付き添っている間に医者は兄様達に説明しに行ったようだ。
すぐに兄様と侯爵が入ってきた。
「アリエル、伯爵の子で間違いないな」
「はい。お兄様」
「伯爵の忘形見だ。健康に産んでやらないと」
「ううっ……はい……」
「カイゼル殿、そういう訳だ。アリエルは連れて帰る。離縁の手続きは後日、」
「別れません」
「無理をするな。アリエルは他の男の子を孕んでいるんだ」
「私の子として受け入れます」
「お父上が許すわけがないし、はっきり言ってカイゼル殿を信用できない」
「アリエルが何処で暮らそうが私の妻で、アリエルが産む子は私の子です」
「カイゼル様、慰謝料は払いますから」
「もう一度」
「慰謝料は」
「違う!名前を」
「……カイゼル様」
嬉しそうに破顔すると膝をつけて懇願した。
「ロビン殿、アリエル。お願いです。
アリエルを守るチャンスをください」
「今は決められない。兎に角アリエルには管理が必要だ。連れて帰る」
「見舞いに行かせてください。突然行っても具合が悪くなければ会わせてください。
一目無事を確認したら帰りますから!」
「分かった」
点滴が終わり、少し身体を休めている間にどうしても必要な物を纏めてもらった。
カイゼル様は門の外まで見送りに来た。
ラクロワ邸に着き、私を横抱きにして部屋に連れて行ってくれた後、事情を話しにお父様達の元へ行ってしまった。私はいつの間にか寝てしまった。
しばらくして目が覚めるとメイドがお父様とお母様を呼んできた。
「アリエル、おめでとう」
「お母様」
「欲しかったから作ったのでしょう」
「はい。サシャ様が強く望まれて、私も同意しました」
「夫人には知らせるか」
「産まれたら相続放棄の書類と一緒にお兄様に行っていただきたいです」
「分かった。後は元気になって健康な子を産む事だけを考えなさい」
「ありがとうございます」
「ロビンの子が先だけどね」
「もうすぐでしたね」
「そうね」
「もうひとり妊婦が増えるなんて、お義姉様に申し訳ないです」
「大丈夫だ。ニヤニヤしていたからな」
「それはまた別の意味で怖いですね」
「アリエルの受け付ける食べ物を探さないと駄目ね」
「何故かパンケーキだけは食べれそうです」
「添え物は?」
「バターは使わないでください。ジャムと蜂蜜がいいです」
「分かったわ。糖分の摂りすぎには気を付けなくちゃね」
「はい」
想像通り、頭に浮かんだパンケーキは食べることができた。
そして1日置きにカイゼルが訪ねてくる。
「アリエル、今日は可愛いぬいぐるみを見つけたよ」
「私にですか?」
「赤ちゃんに決まっているだろう」
「………」
その後も
「アリエル、可愛い靴下だろう。小さいよな」
「アリエル、ベビードレスだって!」
「アリエル、涎掛けに猫の刺繍を入れてもらったよ」
「アリエル、このオシメ、すごく手触りがいいんだ」
「アリエル、子供用の食器だよ」
「アリエル、乳母車を特注したからね。デザイン画はこれだよ」
来るたびに何かを買って持ってくる。
子供の通学用の馬車や家庭教師の手配をしようとしたので兄様に言って止めさせた。
そのうち兄様に第一子が産まれた。
兄様にそっくりな男の子だった。
髪の色だけお義姉様に似ていた。
乳母はいるがせっせと兄様が世話をしている。
カイゼルも1日置きに来ては赤ちゃん用品を置いて行き、兄様の赤ちゃんに挨拶をして数分眺めて帰るという。
「アリエル、あいつ、他の男との子でも大丈夫かもしれないぞ」
「………」
「気が向いたらチャンスをやって、駄目なら使用済みのオシメを顔に投げ付けて帰ってこい」
「ふふっ、私、そんなにコントロールがいいとは思えませんわ」
「よし、もう安定期だろう。練習しよう」
ある日、兄様が珍しくフェリング家の別棟に訪ねてきた。
「どうなさったの」
「隣に座れ」
「お兄様?」
「お願いだ」
切羽詰まった兄様の隣に座るときつく抱きしめられた。
何?
「サシャ・バルトンが亡くなった」
「えっ」
「伯爵が亡くなったんだ!」
「いくらお兄様でもそんな冗談は…」
「昨日の朝、後ろから来た暴走馬車に追突されて2台とも崖下に落ちた」
「嫌…」
手が冷えて思考が鈍る。
「即死だったと今朝連絡があった。
伯爵夫人が早馬を出してくださった」
夢だわ。悪い夢を見ているのだわ。
視界が歪む。
「アリエル!アリエル!」
目が覚めたら元通り。そう思っていた。
気を失った私は目覚めても悪夢から覚めなかった。
兄様は私をラクロワ家に移していた。
葬儀にも行って花を添えたが棺は開いていなかった。
私が立ち尽くしていると少しだけ蓋をずらしてもらえた。
顔は包帯で巻かれ見えなかった。鼻の凹凸がなかった。
手に触れると冷たかった。
「この傷……」
サシャ様が学生の頃に怪我をしたと言っていた傷だった。
そこからは涙が溢れて止まらなかった。付き添った兄様に強制的に連れ出されラクロワ邸に戻った。
翌日、夫人宛にお詫びの手紙を書いた。
半月後、私の心は閉じたまま。
心配する家族を制してフェリング邸の別棟へ帰った。
仕事だけして、あとはボーッとしていた。
食欲は全くなく、仕方なく何かを口に入れる。
月のモノは既に止まり、食べ物を受け付けなくなった。このままサシャ様が迎えに来るのかもしれないと不調に身を任せた。
メイドから報告を聞いていた侯爵が何度も医者を連れてきていたが拒んだ。
サシャ様が天に召されてから2ヶ月後、侯爵は兄様と医者を連れて来た。
仕方ないから診察を受け入れた。診せたら気が済むだろう。
「これはまずい、点滴を」
「いいのです。このまま逝かせてください」
「何を言っているのですか!赤ちゃんを殺す気ですか!!」
「えっ」
「悪阻で食べ物を受け付けなかったのかも知れません。栄養を補給しないと流産しますよ」
助手が点滴をしている私に付き添っている間に医者は兄様達に説明しに行ったようだ。
すぐに兄様と侯爵が入ってきた。
「アリエル、伯爵の子で間違いないな」
「はい。お兄様」
「伯爵の忘形見だ。健康に産んでやらないと」
「ううっ……はい……」
「カイゼル殿、そういう訳だ。アリエルは連れて帰る。離縁の手続きは後日、」
「別れません」
「無理をするな。アリエルは他の男の子を孕んでいるんだ」
「私の子として受け入れます」
「お父上が許すわけがないし、はっきり言ってカイゼル殿を信用できない」
「アリエルが何処で暮らそうが私の妻で、アリエルが産む子は私の子です」
「カイゼル様、慰謝料は払いますから」
「もう一度」
「慰謝料は」
「違う!名前を」
「……カイゼル様」
嬉しそうに破顔すると膝をつけて懇願した。
「ロビン殿、アリエル。お願いです。
アリエルを守るチャンスをください」
「今は決められない。兎に角アリエルには管理が必要だ。連れて帰る」
「見舞いに行かせてください。突然行っても具合が悪くなければ会わせてください。
一目無事を確認したら帰りますから!」
「分かった」
点滴が終わり、少し身体を休めている間にどうしても必要な物を纏めてもらった。
カイゼル様は門の外まで見送りに来た。
ラクロワ邸に着き、私を横抱きにして部屋に連れて行ってくれた後、事情を話しにお父様達の元へ行ってしまった。私はいつの間にか寝てしまった。
しばらくして目が覚めるとメイドがお父様とお母様を呼んできた。
「アリエル、おめでとう」
「お母様」
「欲しかったから作ったのでしょう」
「はい。サシャ様が強く望まれて、私も同意しました」
「夫人には知らせるか」
「産まれたら相続放棄の書類と一緒にお兄様に行っていただきたいです」
「分かった。後は元気になって健康な子を産む事だけを考えなさい」
「ありがとうございます」
「ロビンの子が先だけどね」
「もうすぐでしたね」
「そうね」
「もうひとり妊婦が増えるなんて、お義姉様に申し訳ないです」
「大丈夫だ。ニヤニヤしていたからな」
「それはまた別の意味で怖いですね」
「アリエルの受け付ける食べ物を探さないと駄目ね」
「何故かパンケーキだけは食べれそうです」
「添え物は?」
「バターは使わないでください。ジャムと蜂蜜がいいです」
「分かったわ。糖分の摂りすぎには気を付けなくちゃね」
「はい」
想像通り、頭に浮かんだパンケーキは食べることができた。
そして1日置きにカイゼルが訪ねてくる。
「アリエル、今日は可愛いぬいぐるみを見つけたよ」
「私にですか?」
「赤ちゃんに決まっているだろう」
「………」
その後も
「アリエル、可愛い靴下だろう。小さいよな」
「アリエル、ベビードレスだって!」
「アリエル、涎掛けに猫の刺繍を入れてもらったよ」
「アリエル、このオシメ、すごく手触りがいいんだ」
「アリエル、子供用の食器だよ」
「アリエル、乳母車を特注したからね。デザイン画はこれだよ」
来るたびに何かを買って持ってくる。
子供の通学用の馬車や家庭教師の手配をしようとしたので兄様に言って止めさせた。
そのうち兄様に第一子が産まれた。
兄様にそっくりな男の子だった。
髪の色だけお義姉様に似ていた。
乳母はいるがせっせと兄様が世話をしている。
カイゼルも1日置きに来ては赤ちゃん用品を置いて行き、兄様の赤ちゃんに挨拶をして数分眺めて帰るという。
「アリエル、あいつ、他の男との子でも大丈夫かもしれないぞ」
「………」
「気が向いたらチャンスをやって、駄目なら使用済みのオシメを顔に投げ付けて帰ってこい」
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