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子煩悩

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月日が流れ、もう臨月。
早朝から産気づいた。

「待ってろ!医者と産婆を呼ぶからな!」

「痛い~!!」

義姉様が手を握り

「アリエル!出産後に自分へのご褒美を考えるの!多少気が紛れるわ!」

「肉が食べたい~!」

「最高級のステーキを用意させるわ!」

「楽な服が欲しい~」

「平民の服ね!私も欲しいわ!」

「ペット飼いたい!」

「カイゼル様と相談して」

「痛い~!!」



1時間後に駆けつけたカイゼルは、アリエルに付き添った結果、10時間後に過呼吸で強制退場となった。

結局陣痛がきてから丸一日かかった、

産まれたのは女の子だった。
私にそっくりだとお母様は喜んでいた。
だけど瞳の色を確認した私は涙が止まらない。サシャ様と瓜二つの瞳の色をしていたのだ。

「身体に差し支えるわ。何も考えずに眠りなさい」

「ううっ」

「アリエルとこの子は私がいるから泣くな」





後日、相続放棄の書類を持って兄様が伯爵家に向かおうとしたらカイゼルが自分に告げさせて欲しいと願い出た。

兄様も一緒に行ってくれた。




戻って来た兄様達に報告を受けた。

「1ヶ月後に面会に来るそうだ」

「分かりました。ありがとうございます」

怒られるか心配だった。もしくは取り上げられるかも。

不安な1ヶ月を過ごし、面会の日を迎えた。

「アリエル・フェリングと申します」

「ローズ・バルトンと申します」

「事故の知らせをすぐにくださった事、葬儀に参列させてくださった事、夫人の寛大なお心遣いに感謝いたします」

「私達は典型的な政略結婚で恋愛のような気持ちはありませんでした。義務の上に成り立った生活でしたが夫は誠実だったと思います。

ある時、恋をしたと告げられました。
フェリング侯爵夫人だと。
格上のご夫人に手を出すことに反対しましたが、バルトン家よりあり得ないほど冷え切った関係だから問題ないと言われました。

契約は守るし、守れないときは私の弟に代わってもらい、息子に爵位を渡すと。

失礼を承知でアリエル様のことをお調べしたらそれ以上反対はできませんでした。

アリエル様と交際するようになり生き生きとし始めたのです」

「……っ」

「事故の3ヶ月以上前に再建手術を受けに行くと言いました。貴女との子が欲しくなったのね。でも結果がわからぬまま天へ召されてしまった」

「ううっ…」

「会わせていただけますか」

カイゼルが抱っこして連れて来てくれた。

「確かに、サシャ・バルトンの娘ですわ」

「私……」

「アリエル様はうちよりも遥かに資産を持っていらっしゃるから伯爵家の財産など何の魅力もないでしょう。放棄の書類はお返ししますわ。

よろしければ兄妹の交流はあってもいいと思っています。アリエル様が落ち着かれる日をお待ちしております。

お名前は?」

「うううっ…」

「シャーロットです。夫人」

「フェリング侯爵様は随分と変わられたのですね」

「酷い男でした」

「これは許してもらえるかしら」

そう言って箱をテーブルに乗せ蓋を開けた。

「サシャの遺品の一部です。
愛用の手袋、ペン、ティーカップ。
後、日記です」

「日記ですか」

「子を作ろうと決意してから毎日ではありませんが日記を記していました。アリエル様がお待ちになっていた方がよろしいかと思いましたの」

「アリエルは返事が出来る状態じゃないので私が代わります。
態々ありがとうございます。アリエルの心が安定したら読ませていただきます」

「アリエル様からの手紙やプレゼント、デートの半券は全て棺に納めましたわ。お許しください」

「感謝いたします」

「もし、兄妹を会わせていいという気持ちになってくださったら連絡をいただけますか」

「勿論、連絡いたします」

「アリエル様、お大事に」

夫人は帰っていった。

「アリエル、君にはまだ早い。義兄上に預けるよ」

呼ばれた兄様がカイゼルから報告を受けて箱を持って行った。





出産から1年、シャーロット付きの乳母と一緒にフェリング邸に戻った。
そして仕事と就寝以外は本邸で過ごすようになった。

カイゼルは子煩悩を爆発させてシャーロットを溺愛していた。
何処で見つけて来たのか背中に背負うための長い布のような物を持っていた。

乳母につけてもらいシャーロットを背負う。

「シャーロット~これで寂しくないだろう」

「キャッ!キャッ!」

「よし、屋敷内を隅々まで探索しよう!」

「マ~」

「ママもか。アリエル、行くぞ~」




食事の介助も着替えも寝かし付けもカイゼルが積極的に行う。

別棟はシャーロットの物で溢れていた。

風邪を引けばシャーロットの部屋に泊まり込み、熱を出したり咳が続けばすぐに医者を呼び、お義父様は領地から面会に来てカイゼルの姿を見ると“極端な奴だな”と呆れていた。

2歳になるとバルトン伯爵一家を招いた。

長男はもう少ししたら学園に通い出す年頃だ。髪の色は2人ともサシャ様と同じ色だがどちらにも似ていない気がする。

「お祖父様似なの」と夫人は笑った。

2人はシャーロットを覗き込んだ。
「父上の瞳だ」「そっくり」

交代でシャーロットを膝に乗せておやつを食べさせる。

「妹ってすごいな。弟とは全く違う気持ちになる」

「手がぷにぷにで可愛い」


その後、食事中のカイゼルの溺愛ぶりに夫人は唖然としていた。
膝に乗せて手際よくシャーロットに食べさせながら自分も食べる器用な技は私にはできない。

「子育てはカイゼルには敵いませんの」

「そろそろシャーロットに妹が弟ができるかしら」

「「 えっ 」」

「そろそろ次に進む頃ではないかしら。
シャーロットには必要よ。勿論うちの息子達もいるけど、一緒に暮らしているわけじゃないないもの」

「「………」」


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