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炎の魔法使い
国王との契約
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ノアはライダーに連れられて国王の前にいた。
ヒラヒラした上等のシャツに厚手のズボンとジャケット。
ノアの美しさと品の良い服の相乗効果で身分高い令息だと誰もが疑わぬほどになっていた。
口を開かなければ。
「ノア。家名はないということで間違いないか」
「はい王様」
「陛下とお呼びしろ」
「王様じゃないの?」
「はぁ。団長とライダー隊長以外は仕事に戻れ。護衛だけ部屋の外で待機してくれ」
「陛下!」
「退がれ」
不満気な男達が退出すると国王は続けた。
「まず、小隊5名について説明をしてくれないか」
「最初はただの宿泊客だったのに、夜遅くに宿の片付けが終わり、町にある集積所にゴミを出しに行ったら囲まれた。
“従順になれば優しくしてやるぞ”
そう言って僕をレイプしようとした。
僕は殺す気で抗うと警告はした」
「そうか。騎士達が非道なことをした。申し訳ない」
「……」
「遺体が出ていないが何処へやったのだ」
「燃やし尽くした」
「骨も?」
「灰になって風に飛ばされていった」
「とても温度が高いのだな」
「五体のゴミなんかあったら町民に迷惑がかかるからね」
「魔法を見せてもらえないか」
「どうして?」
「この国では氷魔法しか見たことがないのだ」
「……あの蝋燭を見てて」
パチン!
「火が灯った…」
「炎の魔法使い…」
団長達が驚いていると国王は探るように切り出す。
「その、小隊に使った魔法か賊に使った魔法を見たいのだが」
「それは話を聞いてから判断したい。
呼び付けた理由は何だろう」
「兵力を強化したい」
「何のために?」
「五国統一のために」
「四国を制圧しろということ?」
「そうだ」
「嫌だ」
「何故嫌なのだ」
「僕の望みではないし、僕が苦労しそうだ。
その間、王様やさっきの男達は何をしているの?13歳の子供に命を張らせるのだからそれ以上に危険な任務に就くんだよね?
どこの国へ向かうの?」
「………」
「こんな子供に戦いに行けと言っておきながら王様達は城の中ってことはないよね?まさかね。そんなこと言わないよね?」
「そのまさかだ。王の命をとられるということは敗北を意味する」
「そんなわけないよね。ひとりが死んでも大勢の人間がいるんだから。誰かが指揮をとればいい」
「君には分からないかもしれないが国王陛下に代わりはいないんだ」
「近衛騎士団長、僕にも代わりはいないよ?」
「っ!!」
「不満なら騎士団長の血縁を最年長から最年少まで前線に立たせてよ」
「赤子もと言うのか!」
「じゃあ、歩ける年齢の子からでいいよ。
僕にとっては関係ないからね。
勿論、王子も王女も妃もみんな前線にでるんだよね?」
「貴様!!」
青筋をたてて立ち上がりノアを怒鳴る近衛騎士団長にノアは失笑した。
「何で怒るのさ。あなた達が僕に要求していることはそういうことでしょ?
子供を前線で戦わせたいんでしょ?
僕に要求しておいて、自分達は暖かくてご馳走もある屋敷や城の中でいい服を着てメイド達に何もかもさせてふかふかのベッドで眠るわけ?
どういう育ち方をしたらそんな下衆な思考が持てるのさ。近衛のイメージが崩れて跡形もないよ。
名前、何だっけ」
近衛騎士団長イレール・マチューは腰の剣に手をかけた。
「団長さん。他の人を巻き添えにしたくないからそっち側からどうぞ」
「マチュー団長、止めてください!」
「ライダー!お前は頭がおかしくなったのか!?
お前に隊長は無理だったか!」
「おい、おまえ。
隊長を悪く言うなら今すぐ喉を焼いてやるぞ」
そう言うと部屋の空気は熱風に変わり空中に細い炎の竜巻のようなものが生き物のようにのび、マチューの口へ向かった。
だがその炎はすっと消えた。
ノアはライダーに抱きしめられていたから。
「ノア。あれくらいで怒らないでくれ」
「イライラする!」
「ありがとうな。でもちょっと言っただけで喉を焼かれたら謝ることもできないし、不便だろう。彼はまだ国のために働いて貰わなければならないかからな」
「じゃあ、今回は見逃す」
ライダーが頭を撫でるとノアは大人しくなり室温は元に戻った。
「地面が焼けていい所はないの?」
「第三演習場がある」
「処刑の決まった人達をそこに集めたら呼んで」
「何をするのだ」
「見たいんでしょ?人が焼き殺されるところを」
ノアは国王に向いていた顔をマチューに向きなおして言い放つ。
「参考にするといいよ」
マチューはひと言も発することができなかった。
「用意はいつできるの?」
「1時間後に」
「隊長、その間に散歩に連れていって」
「何処をみたいんだ?」
「なんか塔があるでしょ」
「使われていないぞ」
「うん」
「陛下、ノアに南の塔を見せてきます」
「分かった」
ノア達が退出すると部屋は重い空気に包まれた。
「1時間後に結論がでるが二人とも覚悟してくれ」
「あれを許されるのですか!?」
「見ての通り、ノアの信頼を得れば大人しくなる。ライダーも苦労したようだ。
1時間後に見る魔法はマチュー団長の部下や親族、友人、知人の命を多く救うものかもしれない。
しかも困ったことにノアの言う通り。身分もある大の大人がまだ声変わりもしていない平民の華奢な子供に最前線に行けと言っているんだ。
言われて当然だった。
言われなければ気が付かなかった。
我々は卑怯者だ。
とにかく1時間後を見てから結論をだそう」
ヒラヒラした上等のシャツに厚手のズボンとジャケット。
ノアの美しさと品の良い服の相乗効果で身分高い令息だと誰もが疑わぬほどになっていた。
口を開かなければ。
「ノア。家名はないということで間違いないか」
「はい王様」
「陛下とお呼びしろ」
「王様じゃないの?」
「はぁ。団長とライダー隊長以外は仕事に戻れ。護衛だけ部屋の外で待機してくれ」
「陛下!」
「退がれ」
不満気な男達が退出すると国王は続けた。
「まず、小隊5名について説明をしてくれないか」
「最初はただの宿泊客だったのに、夜遅くに宿の片付けが終わり、町にある集積所にゴミを出しに行ったら囲まれた。
“従順になれば優しくしてやるぞ”
そう言って僕をレイプしようとした。
僕は殺す気で抗うと警告はした」
「そうか。騎士達が非道なことをした。申し訳ない」
「……」
「遺体が出ていないが何処へやったのだ」
「燃やし尽くした」
「骨も?」
「灰になって風に飛ばされていった」
「とても温度が高いのだな」
「五体のゴミなんかあったら町民に迷惑がかかるからね」
「魔法を見せてもらえないか」
「どうして?」
「この国では氷魔法しか見たことがないのだ」
「……あの蝋燭を見てて」
パチン!
「火が灯った…」
「炎の魔法使い…」
団長達が驚いていると国王は探るように切り出す。
「その、小隊に使った魔法か賊に使った魔法を見たいのだが」
「それは話を聞いてから判断したい。
呼び付けた理由は何だろう」
「兵力を強化したい」
「何のために?」
「五国統一のために」
「四国を制圧しろということ?」
「そうだ」
「嫌だ」
「何故嫌なのだ」
「僕の望みではないし、僕が苦労しそうだ。
その間、王様やさっきの男達は何をしているの?13歳の子供に命を張らせるのだからそれ以上に危険な任務に就くんだよね?
どこの国へ向かうの?」
「………」
「こんな子供に戦いに行けと言っておきながら王様達は城の中ってことはないよね?まさかね。そんなこと言わないよね?」
「そのまさかだ。王の命をとられるということは敗北を意味する」
「そんなわけないよね。ひとりが死んでも大勢の人間がいるんだから。誰かが指揮をとればいい」
「君には分からないかもしれないが国王陛下に代わりはいないんだ」
「近衛騎士団長、僕にも代わりはいないよ?」
「っ!!」
「不満なら騎士団長の血縁を最年長から最年少まで前線に立たせてよ」
「赤子もと言うのか!」
「じゃあ、歩ける年齢の子からでいいよ。
僕にとっては関係ないからね。
勿論、王子も王女も妃もみんな前線にでるんだよね?」
「貴様!!」
青筋をたてて立ち上がりノアを怒鳴る近衛騎士団長にノアは失笑した。
「何で怒るのさ。あなた達が僕に要求していることはそういうことでしょ?
子供を前線で戦わせたいんでしょ?
僕に要求しておいて、自分達は暖かくてご馳走もある屋敷や城の中でいい服を着てメイド達に何もかもさせてふかふかのベッドで眠るわけ?
どういう育ち方をしたらそんな下衆な思考が持てるのさ。近衛のイメージが崩れて跡形もないよ。
名前、何だっけ」
近衛騎士団長イレール・マチューは腰の剣に手をかけた。
「団長さん。他の人を巻き添えにしたくないからそっち側からどうぞ」
「マチュー団長、止めてください!」
「ライダー!お前は頭がおかしくなったのか!?
お前に隊長は無理だったか!」
「おい、おまえ。
隊長を悪く言うなら今すぐ喉を焼いてやるぞ」
そう言うと部屋の空気は熱風に変わり空中に細い炎の竜巻のようなものが生き物のようにのび、マチューの口へ向かった。
だがその炎はすっと消えた。
ノアはライダーに抱きしめられていたから。
「ノア。あれくらいで怒らないでくれ」
「イライラする!」
「ありがとうな。でもちょっと言っただけで喉を焼かれたら謝ることもできないし、不便だろう。彼はまだ国のために働いて貰わなければならないかからな」
「じゃあ、今回は見逃す」
ライダーが頭を撫でるとノアは大人しくなり室温は元に戻った。
「地面が焼けていい所はないの?」
「第三演習場がある」
「処刑の決まった人達をそこに集めたら呼んで」
「何をするのだ」
「見たいんでしょ?人が焼き殺されるところを」
ノアは国王に向いていた顔をマチューに向きなおして言い放つ。
「参考にするといいよ」
マチューはひと言も発することができなかった。
「用意はいつできるの?」
「1時間後に」
「隊長、その間に散歩に連れていって」
「何処をみたいんだ?」
「なんか塔があるでしょ」
「使われていないぞ」
「うん」
「陛下、ノアに南の塔を見せてきます」
「分かった」
ノア達が退出すると部屋は重い空気に包まれた。
「1時間後に結論がでるが二人とも覚悟してくれ」
「あれを許されるのですか!?」
「見ての通り、ノアの信頼を得れば大人しくなる。ライダーも苦労したようだ。
1時間後に見る魔法はマチュー団長の部下や親族、友人、知人の命を多く救うものかもしれない。
しかも困ったことにノアの言う通り。身分もある大の大人がまだ声変わりもしていない平民の華奢な子供に最前線に行けと言っているんだ。
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我々は卑怯者だ。
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