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解れた心
グローリー邸
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*****三時間前のマクセル
「グローリー宰相」
「何だ」
「南の塔の専属メイドがこれを」
何かを書かれた紙を手渡された。
“サニー、ピニー、デービットへ
城出します。
飽きたら帰ります。
何か聞かれたら王都からそんなに離れないので国防はしますと伝えてください。
数日か数ヶ月か分かりません。
休暇明けで三人の騎士が戻ったら、自由にしてていいと伝えてください。
よろしくお願いします
ノア ”
「……城だから、家出じゃなくて城出ということですか?」
「………捜索隊を出す」
バン!
「大変です!」
「ノックくらいしろ」
「ご子息のクリストファー様が消えたそうです」
「は?」
「受付に執事がいらしています」
「でも、ノアが」
「ノア様は最強ですから大丈夫です。
そのうち帰ります。
それよりご子息はまだ子供です。
早く屋敷に戻ってください」
「仕方ない。後は頼む」
「かしこまりました」
自分が飛び出してノアを探しに行きたいのに何て運が悪いのか。
昼間の説教がそんなに嫌だったのか。
考えがまとまらないまま執事と馬車に乗った。
屋敷に着いて専属メイドがヒントを出した。
「おぼっちゃまは、お忍びをなされたのかもしれません」
「根拠は?」
「質素な服や靴がありません。財布もありませんので誘拐ではありません。
鞄も持っておられませんので家出ではありません。
多分ですが」
「門番は何と言っているんだ」
「いなくなられた時間帯は出入りの馬車が二台ありました。
一台は食料の搬入、もう一台はゴミの搬出。
荷馬車でしたので、潜んだのかもしれません」
「捜査は」
「捜索隊は出しました」
「では待とう」
苛立ちながら待つこと二時間、ほぼ日暮れにクリストファーが帰ってきたと呼びに来た。
息子は私の顔を見ると青ざめた。
「何をしたか分かっているのか」
「ごめんなさい」
「自分の意思で街に出たのか」
「はい」
「部屋に行け。しばらく謹慎だ。
私は城に戻る」
「父上、あの……」
「何だ」
「串肉をくださって、僕がしたことについて叱ってくださって、ここまで送ってくださった方がいて、お礼がしたいのです」
「どこの誰だか聞いたのか」
「泊まっていってとお願いしたのですが街に戻っていかれました。
とても美しい女性のような男性?でした。
名前はノアと、」
「何分前だ!」
「え?」
「別れたのは何分前だ!」
「多分、五分以上…」
マクセルは走って厩舎に寄り馬に乗ると門番にどっちに行ったか聞いて馬を走らせた。
直ぐに他の屋敷の門灯に照らされた外套の後ろ姿を見つけた。
前に回り込み馬を止めた。
「え!?マクセル!?」
「ノア!お前は!」
「どうしたんですか?」
馬から降りたマクセルに抱きしめられた。
「城出なんて言葉、初めて聞いたぞ」
「家じゃないので」
「心配しているのが分からないのか」
「心配?」
「囮に怒るのも、城出に怒るのも、ノアを心配しているからに決まってるだろう!」
ノアが背中に手を回したのでマクセルは落ち着き、ノアを馬に乗せた。
「どこに行くの?宿を探しに、」
「うちに連れて帰る」
「城……」
「グローリー邸だ」
到着したのはノアが少年を送った屋敷だった。
「え!ここ!?」
「そうだ」
「まさか、クリスって……」
「クリストファーは私の息子だ。
食べ物をくれて、叱って、送ってくれたそうだな。感謝する」
「いかにも令息だったから危ないと思って」
「ノアもいかにもだ」
「平民なんですけど」
「見た目も所作も平民に見られない」
屋敷に入ると使用人が出てきて、マクセルが執事に何か話すと執事がメイド長を呼んでまた耳打ちをした。
「ノエリア様、ようこそお越しくださいました。私は執事のロバートと申します。
クリストファー様を助けて送り届けてくださりありがとうございました」
「私はメイド長のメリンダと申します。
直ぐにお部屋にご案内いたします。
食事の用意が整いましたら食堂へご案内いたします」
「マクセル、」
「大丈夫、メリンダについて行きなさい」
豪華な部屋に案内され、着替えてさせられそうになったので断った。
「お風呂は食後に入りますし、着替えも今の服と変わりませんのでこのままでいいです」
「ワンピースドレスがございますからお着替えに」
「私は兵士のようなものですから、このままで結構です」
残念そうなメリンダを見送ってバルコニーに出た。
「広いな……」
エストフラムでも支援してもらったことを思い出し、グローリー家が金持ちだと再認識した。
呼ばれて食堂に行くと、クリスがいた。
「ノアさん」
「クリス。ちゃんと謝った?」
「はい。どちらにも謝りました」
「次からは護衛騎士にも変装してもらってお忍びするんだぞ」
「はい!」
「ノア、言葉が足りない。
当主に許可をもらってからでないとお忍びは駄目だ。
着替えはどうした」
「このままでいいです」
「父上はノアさんとお知り合いですか」
「そうだ。彼女も城で滞在して国を守っている」
「ノアさんは女性だったのですね。
ノアさんが国を守っているのですか」
「ノアは凄腕の魔法使いだ。国王陛下並みの貴賓だと思いなさい。
街では安全のために男装にしたのだろう」
「綺麗過ぎるからですか?」
「そうだ」
「明日、ノアさんとお忍びしてもいいですか」
「勉強は」
「します」
「……マクセルは明日も仕事ですか」
「そうだな」
「休んで一緒にお忍びしませんか」
「休むのか?」
「嫌ですか?」
「ノア……分かった。その代わり護衛が着くからな。服も用意したものを着てくれ」
「女装は嫌です」
「女装って……」
「いいですか?服が女性物だとしたら靴もそうなりますよね?足に合わない女性用の靴がどれだけ足を傷めると思いますか?
しかも街を歩き回るのですよ?
マクセルは私に拷問する気ですか?」
「分かった」
「グローリー宰相」
「何だ」
「南の塔の専属メイドがこれを」
何かを書かれた紙を手渡された。
“サニー、ピニー、デービットへ
城出します。
飽きたら帰ります。
何か聞かれたら王都からそんなに離れないので国防はしますと伝えてください。
数日か数ヶ月か分かりません。
休暇明けで三人の騎士が戻ったら、自由にしてていいと伝えてください。
よろしくお願いします
ノア ”
「……城だから、家出じゃなくて城出ということですか?」
「………捜索隊を出す」
バン!
「大変です!」
「ノックくらいしろ」
「ご子息のクリストファー様が消えたそうです」
「は?」
「受付に執事がいらしています」
「でも、ノアが」
「ノア様は最強ですから大丈夫です。
そのうち帰ります。
それよりご子息はまだ子供です。
早く屋敷に戻ってください」
「仕方ない。後は頼む」
「かしこまりました」
自分が飛び出してノアを探しに行きたいのに何て運が悪いのか。
昼間の説教がそんなに嫌だったのか。
考えがまとまらないまま執事と馬車に乗った。
屋敷に着いて専属メイドがヒントを出した。
「おぼっちゃまは、お忍びをなされたのかもしれません」
「根拠は?」
「質素な服や靴がありません。財布もありませんので誘拐ではありません。
鞄も持っておられませんので家出ではありません。
多分ですが」
「門番は何と言っているんだ」
「いなくなられた時間帯は出入りの馬車が二台ありました。
一台は食料の搬入、もう一台はゴミの搬出。
荷馬車でしたので、潜んだのかもしれません」
「捜査は」
「捜索隊は出しました」
「では待とう」
苛立ちながら待つこと二時間、ほぼ日暮れにクリストファーが帰ってきたと呼びに来た。
息子は私の顔を見ると青ざめた。
「何をしたか分かっているのか」
「ごめんなさい」
「自分の意思で街に出たのか」
「はい」
「部屋に行け。しばらく謹慎だ。
私は城に戻る」
「父上、あの……」
「何だ」
「串肉をくださって、僕がしたことについて叱ってくださって、ここまで送ってくださった方がいて、お礼がしたいのです」
「どこの誰だか聞いたのか」
「泊まっていってとお願いしたのですが街に戻っていかれました。
とても美しい女性のような男性?でした。
名前はノアと、」
「何分前だ!」
「え?」
「別れたのは何分前だ!」
「多分、五分以上…」
マクセルは走って厩舎に寄り馬に乗ると門番にどっちに行ったか聞いて馬を走らせた。
直ぐに他の屋敷の門灯に照らされた外套の後ろ姿を見つけた。
前に回り込み馬を止めた。
「え!?マクセル!?」
「ノア!お前は!」
「どうしたんですか?」
馬から降りたマクセルに抱きしめられた。
「城出なんて言葉、初めて聞いたぞ」
「家じゃないので」
「心配しているのが分からないのか」
「心配?」
「囮に怒るのも、城出に怒るのも、ノアを心配しているからに決まってるだろう!」
ノアが背中に手を回したのでマクセルは落ち着き、ノアを馬に乗せた。
「どこに行くの?宿を探しに、」
「うちに連れて帰る」
「城……」
「グローリー邸だ」
到着したのはノアが少年を送った屋敷だった。
「え!ここ!?」
「そうだ」
「まさか、クリスって……」
「クリストファーは私の息子だ。
食べ物をくれて、叱って、送ってくれたそうだな。感謝する」
「いかにも令息だったから危ないと思って」
「ノアもいかにもだ」
「平民なんですけど」
「見た目も所作も平民に見られない」
屋敷に入ると使用人が出てきて、マクセルが執事に何か話すと執事がメイド長を呼んでまた耳打ちをした。
「ノエリア様、ようこそお越しくださいました。私は執事のロバートと申します。
クリストファー様を助けて送り届けてくださりありがとうございました」
「私はメイド長のメリンダと申します。
直ぐにお部屋にご案内いたします。
食事の用意が整いましたら食堂へご案内いたします」
「マクセル、」
「大丈夫、メリンダについて行きなさい」
豪華な部屋に案内され、着替えてさせられそうになったので断った。
「お風呂は食後に入りますし、着替えも今の服と変わりませんのでこのままでいいです」
「ワンピースドレスがございますからお着替えに」
「私は兵士のようなものですから、このままで結構です」
残念そうなメリンダを見送ってバルコニーに出た。
「広いな……」
エストフラムでも支援してもらったことを思い出し、グローリー家が金持ちだと再認識した。
呼ばれて食堂に行くと、クリスがいた。
「ノアさん」
「クリス。ちゃんと謝った?」
「はい。どちらにも謝りました」
「次からは護衛騎士にも変装してもらってお忍びするんだぞ」
「はい!」
「ノア、言葉が足りない。
当主に許可をもらってからでないとお忍びは駄目だ。
着替えはどうした」
「このままでいいです」
「父上はノアさんとお知り合いですか」
「そうだ。彼女も城で滞在して国を守っている」
「ノアさんは女性だったのですね。
ノアさんが国を守っているのですか」
「ノアは凄腕の魔法使いだ。国王陛下並みの貴賓だと思いなさい。
街では安全のために男装にしたのだろう」
「綺麗過ぎるからですか?」
「そうだ」
「明日、ノアさんとお忍びしてもいいですか」
「勉強は」
「します」
「……マクセルは明日も仕事ですか」
「そうだな」
「休んで一緒にお忍びしませんか」
「休むのか?」
「嫌ですか?」
「ノア……分かった。その代わり護衛が着くからな。服も用意したものを着てくれ」
「女装は嫌です」
「女装って……」
「いいですか?服が女性物だとしたら靴もそうなりますよね?足に合わない女性用の靴がどれだけ足を傷めると思いますか?
しかも街を歩き回るのですよ?
マクセルは私に拷問する気ですか?」
「分かった」
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