【完結】孕まないから離縁?喜んで!

ユユ

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王都へ

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歩いて30分弱で町へ着いた。

ここは婚家のサヴォワ伯爵家の領地。
私の実家のローランド子爵家の領地は隣接していて、ここから実家の屋敷まで馬車で3日の距離だ。

だけど私は、

「すみません。貸切りにしたいのですが」

「おや、サヴォワ伯爵夫人」

「いえ、ローランド子爵令嬢ですわ」

「……終に?」

「はい!めでたく!」

「じゃあ、ローランド領へ?」

「いえ。王都へ」

「1週間かかるよ?この馬車じゃ辛いだろう」

「いいのです。片道しか乗りませんが往復の料金と宿代と食費もお支払いしますわ」

「そりゃ断れないな。
準備に少し時間をもらうよ」

「その間に着替えを買ってきます」

「襲われるから地味な服にしてくれよ」

「勿論です」



服屋に行き、男物の平民服を購入した。
トラウザーズ2着、シャツ7着、靴下7足、靴1足。

そして帽子を購入し、髪の毛を中に隠した。

馬車の側面を手で擦り、シャツや顔につける。
薄汚れた平民の青年の出来上がりだ。


襲われることなく到着した先は、王都の母の実家。
フィルドナ侯爵家の屋敷だった。

「ありがとうございました」

「元気でな」

馬車から降りて門に近付くと、門番が不審者を見るように私を見た。

私は帽子をとって名を告げた。

エリス・ローランドよ。ケヴィン、久しぶりね。

門番のケヴィンは驚いて直ぐに門を開けた。

「どうなさったのですか!」

「離縁を求められたから出てきたの。お祖父様は?」

「いらっしゃいます」

ケヴィンが笛を吹くと屋敷から使用人が出てきた。
遠くて誰かはわからない。

「じゃあ、行くわね」

「お待ちください。荷物を持たせますので」

「大丈夫よ」

歩き出すと屋敷から出てきた使用人が全速力で走ってきて私の荷物を持ってくれた。
サヴォワ伯爵家の使用人とは雲泥の差だ。

屋敷に入ると執事のアルバートがいた。

「アルバート、久しぶり。急にごめんなさい」

「エリス様!?」

少し動きが止まったが、直ぐに我に返ったアルバートが大声を出した。

「マリア!! ルイーズ!!シェリー!!」

マリアとはメイド長のことだ。

数分待つと3人がそれぞれ集まった。

「エリス様!」

「エリス様だわ!」

「エリス様ぁ~」

シェリー。泣かなくていいから。


「マリア。お部屋にご案内して湯浴みの支度を、」

「アルバート。早急にお祖父様に話さなくてはならないことがあるの。このまま取り継いでもらえる?」

「かしこまりました」



書斎のドアをノックするとお祖父様の返事が返ってきた。

「入れ」

「旦那様、エリス様が」

「手紙か?」

アルバートの背後から顔を出した。

「お祖父様。突然ごめんなさい」

「エリス!?」

ペンや書類を落とし、そのまま私の元へ小走りにやってくると脇に手を差し込んで高く上げた。

「エリス!私の可愛い孫娘!!」

「お祖父様、私、子供じゃないですから」

「いつまでも子供のままだ。
相変わらず可愛い顔をしおって」

義母に狸顔と吐き捨てられるが、この顔はお祖父様のお気に入り。
だって私は唯一のお祖父様似の親族だから。
お祖父様の子である母も叔父2人もお祖母様似。
孫達もお祖父様似は私だけ。

お祖父様は母方の顔らしい。
つまり曾祖母にも似ているというわけだ。

「お祖父様、先にご報告とお願いがございます」

「改まってなんだ。昔のように気楽に話しなさい」

「分かりました。

お爺ちゃま。義母から赤い離縁届に署名するよう促されちゃった」

「何だと!!」

「喜んで署名して直接お爺ちゃまに助けてもらいに来たの」

「すぐ没落させてやるからな」

「違うのお爺ちゃま。
しばらくここに置いて欲しいの。実家に帰るとまた変な縁談を受けてきちゃうから」

「分かった。マクシムには私から話しをつける。
結婚などしなくていい。ずっとここにいなさい」

「迷惑かけてごめんなさい」

「迷惑なものか!サヴォワ家なんかに大事なエリスを引き渡すマクシムが悪い!!」

「お爺ちゃま」

私はお祖父様に抱きついた。

「よしよし」

私を抱きしめ返して優しく撫でてくれた。

マクシムとは私の父で、お祖父様の娘ジュエルは父と恋愛結婚だ。
お祖父様は反対したが、娘の涙に仕方なく嫁に出した。
だからお祖父様は父が気に入らない。

「着替えておいで。湯浴みも必要だろう」

「その前に教会にアポイントをとってもらいたいの。白百合の認定をいただいて手続きしなくちゃ」

「そうか!白百合か!」

「お爺ちゃま、大声で言わないで」

「すまん、すまん。直ぐに手配しよう。
アルバート、頼んだぞ」

「かしこまりました」



ルイーズとシェリーに連れられて部屋に通された。

「相変わらず綺麗で豪華ね」

「毎日空気の入れ替えと掃除をしております」

「ありがとう。ルイーズ、シェリー」

「「おかえりなさいませエリス様」」





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