【完結】孕まないから離縁?喜んで!

ユユ

文字の大きさ
5 / 15

ニコラの片思い

しおりを挟む
【 ニコラの視点 】


エリスが去ると、祖父のプロスペールと孫のニコラは白百合認定証を見つめていた。

「こんな扱いをすると知っていたら諦めなかった」

「ニコラ。過ぎたことだ。

まさかあいつが相談もなくエリスの婚約を決めてしまうと思わなかったしな」


先代のサヴォワ伯爵は、重大な瑕疵がない限り婚約解消はできないような契約書を作りローランド子爵に署名させていた。



エリスの婚約を知ったとき自分の気持ちを知った。

年の半分は一緒に過ごしていた少女はとても愛らしい顔をしていた。
大きな瞳は垂れ気味で、笑顔がとても可愛かった。

デビュータントもパートナーを務めた。 

ある日お祖父様がエリスの父親であるローランド子爵に激怒していた。ドアから漏れ出た怒鳴り声に心臓が止まりかけた。

『エリスをサヴォワ伯爵家と婚約させるなど、何を考えているんだ!!』



部屋に戻りエリスから貰ったプレゼントを眺めた。

エリスが他の男と結婚…

あの大きな瞳に別の男を映し、微笑みかけるのか?

別の男との子を産むのか?

激しい怒りと後悔が身体中を支配した。


何故今 気が付くんだ!
もっと早く気付いていてお祖父様に相談していれば!


翌日、お祖父様に相談した。

『やっと気が付いたのです。お祖父様、エリスと結婚させてください!』

『サヴォワ伯爵は賢かった。
あの契約書の内容では婚約解消は無理だ』

『そんな…』


重大な瑕疵。それは結婚式前日まで調査を入れたが見つからなかった。

エリスの花嫁姿を参列席から見ることになるだなんて。

エリスが結婚して一年後、婚約をした。
父の知り合いの娘だった。
彼女の卒業後に婚姻する予定だ。

可もなく不可もなく。

どうやら共通の知人の茶会で私を見かけて、親である公爵に私と結婚したいとお強請りしたようだ。

エリスでなければ、誰であろうと一緒だった。
だから婚約した。


だけど今、白百合の証明を持ったエリスが同じ屋根の下にいる。

それは婚姻相手にも、他の男にも、誰にも抱かれたことがないという証明だ。

つまり、今この瞬間もエリスは処女なのだ。

教会では処女膜の有無を確認してもらった。

近日中に離縁は叶う。



「クソ!」

なのに私は婚約してしまった。

エリスが結婚したことに傷心していないで、上手くいっているかどうか踏み込んで聞けばよかった。

手を繋いだのはデビュータント以来だ。
柔らかくて小さな手。私を見上げる瞳は以前と変わらず澄みきっている。

お強請りすれば何でもお祖父様に買ってもらえるのに、いつも遠慮している。
店でもそうだ。だから私とお祖父様が次々と選んだ。

エリスに義母のお古を直して着せるだなんて…しかもナイトドレスまで!

到底許せるものではなかった。


ジョゼフ・サヴォワ。あの男も許せない。
エリスに三年間も辛く恥ずかしい思いをさせて!



赤い離縁届、それは妻の不妊による離縁届だ。
貴族は跡継ぎを残さなくてはならないから、その場合は致し方無い。

務めが果たせなかったということで契約終了ということになる。そして慰謝料や財産分与は発生しない。ただし、身寄りがない場合は最低限の援助をしなくてはならない。

エリスは無一文で追い出されたことになる。



エリスがフィルドナ邸に来て10日後に手紙が届いた。

ローランド子爵からだった。

内容を読むと、赤い離縁届に署名したから帰って来いというものだった。

だからお祖父様が代わりに返信した。

“エリスを渡す気はない。
一生フィルドナ侯爵家で面倒を見る。
争えばジュエルと一緒に返してもらい、ローランドの籍から二人をフィルドナの籍に移す”

私は次期フィルドナ侯爵。
つまりエリスは私の庇護下に置くことになる。

エリスを守るためにお祖父様にもっと教えを乞わなければ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お前を愛することはないと言われたので、愛人を作りましょうか

碧井 汐桜香
恋愛
結婚初夜に“お前を愛することはない”と言われたシャーリー。 いや、おたくの子爵家の負債事業を買い取る契約に基づく結婚なのですが、と言うこともなく、結婚生活についての契約条項を詰めていく。 どんな契約よりも強いという誓約魔法を使って、全てを取り決めた5年後……。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

なぜ、虐げてはいけないのですか?

碧井 汐桜香
恋愛
男爵令嬢を虐げた罪で、婚約者である第一王子に投獄された公爵令嬢。 処刑前日の彼女の獄中記。 そして、それぞれ関係者目線のお話

婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。 アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。 もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。

元婚約者が愛おしい

碧井 汐桜香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

処理中です...