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ジョゼフの処罰と再出発
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【 ジョゼフの視点 】
陛下が着席すると眼鏡をかけた男が書類を読み上げた。
「ヴィクトリア・サヴォワとジョゼフ・サヴォワには、偽りの赤い離縁届を提出した嫌疑がかかっておりました。
ジョゼフ・サヴォワ伯爵の妻であるエリス・サヴォワ伯爵夫人が教会を通して白百合の証明書を提出しておりました。その受理をもって白い結婚の解消がなされました。
しかしすぐサヴォワ家から赤い離縁届が提出されました。
両書類の日付けを見ると、赤い離縁届の方が先に書かれたものでした。
つまり、赤い離縁届に署名した後に白百合認定されたということは、夫人が不妊だから離縁するという申請が虚偽だということです」
「嘘よ!ちゃんと毎週閨はありました!
そうよね?ジョゼフちゃん!」
「……」
「ジョゼフちゃん!お返事は!?」
「その後、教会で診察を受け持った女性医師が訪ねていらして、旧姓に戻ったエリス・ローランドが婚姻中にどのような扱いを受けてきたのかの説明と嘆願をされました」
その後、サヴォワ邸でのエリスの扱いを全部聞くことになった。
「帳簿、使用人の証言から、その訴えは事実だと分かりました。
エリス殿の使っていた部屋はまだそのままになっており、お下がりのドレスなど証拠の品もそのままでした。
また、洗濯係が、閨の痕跡は一度も無かったと証言しました。
さらに、離縁届が受理される前から、新しい妻を屋敷に住まわせておりました」
「ジョゼフ・サヴォワ。妻エリスと性交渉はしたか?」
国王陛下が鋭い視線を向けながら問う。
「……いいえ」
「ジョゼフ!?」
「何故嘘を申した。何故務めを果たさなかった」
「僕は不能でした。そこに母上の閨指導が入って益々その気になれませんでした。
問い詰められるのが嫌で生返事をしていました」
「そんな!」
「抱いてもいないのに不妊の不名誉を妻に背負わせたのだな?」
「はい」
「いくらでも“違う”とか“止めてくれ”と言えたのでは?」
「伯爵の仕事は実質母が執り仕切っています。僕に母の意向に逆らう勇気はありませんでした。
生活も可哀想だなとは思いましたが、僕は不能で無能だから……ううっ…エリス…」
「そんな馬鹿な……ジョゼフちゃんが不能……」
「まず、賠償から。
サヴォワ家は預かった持参金を全てローランド子爵に返金すること。
そして、現金で7000万を慰謝料としてエリス・ローランド個人に支払うこと。
そして二人はサヴォワの籍から外れ、親類に継がせる」
「それでは私達は!」
「其方達は何の非もない妻を無一文で放りだしただろう。しかも伯爵家で用意した物全て置いていくように言ったそうじゃないか。
己らのしたことが自身に返っただけだろう」
「陛下、知らなかったのです」
「ヴィクトリア・サヴォワ。
お古のドレスは嫁いびりだ。そんなドレスでどうやって社交をさせようというのだ?
金が無いわけではなかっただろう。
閨の体位の指定など正気とは思えん。お古のナイトドレスなんか着させたら息子は萎えるに決まっているだろう。
私でも勃たん」
「っ!」
「支払いの実行ができるようこちらで指導する。
其方達は今持っている着替えを持っていくことを許すので、そのまま釈放する。好きな所に行くといい。
サヴォワ領には立ち入れないぞ。
早々に職と住まいを見つけるか、宿から親類に助けを求めるなりするといい。
夫人のネックレスと指輪とイヤリングを売れば数ヶ月は慎ましく生きられるだろう。
平民ヴィクトリアとジョゼフを城外へ追い出せ!」
城から追い出されて歩き出した。
王都内の宿は高いので、辻馬車で隣町まで行って宿をとった。
2部屋は贅沢なので母と相部屋だ。
「ジョゼフちゃん、いつからなの」
「婚姻前からです」
「どうして言ってくれなかったの」
「言ってもプレッシャーを与えたでしょう?
僕はエリスが好きで、父上が縁談をまとめてくれたんです。
エリスに嫌われたくなかった。
でもエリスとならいつか出来ると思ったのに、母上は私達に何をさせましたか?
初夜の一時間前に貴女の前で腰振り練習をさせたではありませんか。
あれで一気にその気は無くなりました。
そして翌朝の食事の場で、ちゃんと奥に注いだのかと聞いてくるデリカシーの無さ。
面倒臭くて適当に返事をしました。
母上が嫁いだ時に、初夜の一時間前に祖母から腰振り練習をさせられましたか?
翌朝の食事の場で種付けしたかどうかの確認をされたのですか?
毎週閨の体位を決められていたのですか?
サヴォワ家の伝統ですか?」
「……」
「好きな女を妻に迎えるのにウエディングドレスもお古。式は質素。指輪さえ買ってやれなかった。
まさか、下着さえ買ってやらなくて、個人資産からエリスが買っていたとは知らなかった。
狸顔? 僕はその狸顔に惚れたんだ!
サヴォワなんかうんざりだ!!」
翌朝、王都に向かい職を探した。
若くて読み書き計算ができるし貴族の振る舞いも分かるから、貴族の領地での使用人見習いを斡旋してもらえた。
場所が不便で若い子が居付かないそうだ。
普通なら身元引受人や紹介状がないと無理だが、事情を正直に話し、反省してやり直したいと言うとチャンスをくれた。
それに不能が逆に利点になった。
夫人や令嬢への悪さの心配がないからだ。
隣町の宿に戻り、母に別れを告げた。
「母上。ここでお別れです。私は使用人見習いとして住み込みで雇ってもらえました。
母上も伯爵家を切り盛りしていた経験を生かして仕事をもらってください。
お金は大事に使ってください。
私は辺境に向かう馬車に乗せてもらえるのでカフスとタイピンと服を売って平民服を買います。
辺境までの旅費くらいは残るでしょう。
どうかお元気で」
「ジョゼフちゃん!!」
陛下が着席すると眼鏡をかけた男が書類を読み上げた。
「ヴィクトリア・サヴォワとジョゼフ・サヴォワには、偽りの赤い離縁届を提出した嫌疑がかかっておりました。
ジョゼフ・サヴォワ伯爵の妻であるエリス・サヴォワ伯爵夫人が教会を通して白百合の証明書を提出しておりました。その受理をもって白い結婚の解消がなされました。
しかしすぐサヴォワ家から赤い離縁届が提出されました。
両書類の日付けを見ると、赤い離縁届の方が先に書かれたものでした。
つまり、赤い離縁届に署名した後に白百合認定されたということは、夫人が不妊だから離縁するという申請が虚偽だということです」
「嘘よ!ちゃんと毎週閨はありました!
そうよね?ジョゼフちゃん!」
「……」
「ジョゼフちゃん!お返事は!?」
「その後、教会で診察を受け持った女性医師が訪ねていらして、旧姓に戻ったエリス・ローランドが婚姻中にどのような扱いを受けてきたのかの説明と嘆願をされました」
その後、サヴォワ邸でのエリスの扱いを全部聞くことになった。
「帳簿、使用人の証言から、その訴えは事実だと分かりました。
エリス殿の使っていた部屋はまだそのままになっており、お下がりのドレスなど証拠の品もそのままでした。
また、洗濯係が、閨の痕跡は一度も無かったと証言しました。
さらに、離縁届が受理される前から、新しい妻を屋敷に住まわせておりました」
「ジョゼフ・サヴォワ。妻エリスと性交渉はしたか?」
国王陛下が鋭い視線を向けながら問う。
「……いいえ」
「ジョゼフ!?」
「何故嘘を申した。何故務めを果たさなかった」
「僕は不能でした。そこに母上の閨指導が入って益々その気になれませんでした。
問い詰められるのが嫌で生返事をしていました」
「そんな!」
「抱いてもいないのに不妊の不名誉を妻に背負わせたのだな?」
「はい」
「いくらでも“違う”とか“止めてくれ”と言えたのでは?」
「伯爵の仕事は実質母が執り仕切っています。僕に母の意向に逆らう勇気はありませんでした。
生活も可哀想だなとは思いましたが、僕は不能で無能だから……ううっ…エリス…」
「そんな馬鹿な……ジョゼフちゃんが不能……」
「まず、賠償から。
サヴォワ家は預かった持参金を全てローランド子爵に返金すること。
そして、現金で7000万を慰謝料としてエリス・ローランド個人に支払うこと。
そして二人はサヴォワの籍から外れ、親類に継がせる」
「それでは私達は!」
「其方達は何の非もない妻を無一文で放りだしただろう。しかも伯爵家で用意した物全て置いていくように言ったそうじゃないか。
己らのしたことが自身に返っただけだろう」
「陛下、知らなかったのです」
「ヴィクトリア・サヴォワ。
お古のドレスは嫁いびりだ。そんなドレスでどうやって社交をさせようというのだ?
金が無いわけではなかっただろう。
閨の体位の指定など正気とは思えん。お古のナイトドレスなんか着させたら息子は萎えるに決まっているだろう。
私でも勃たん」
「っ!」
「支払いの実行ができるようこちらで指導する。
其方達は今持っている着替えを持っていくことを許すので、そのまま釈放する。好きな所に行くといい。
サヴォワ領には立ち入れないぞ。
早々に職と住まいを見つけるか、宿から親類に助けを求めるなりするといい。
夫人のネックレスと指輪とイヤリングを売れば数ヶ月は慎ましく生きられるだろう。
平民ヴィクトリアとジョゼフを城外へ追い出せ!」
城から追い出されて歩き出した。
王都内の宿は高いので、辻馬車で隣町まで行って宿をとった。
2部屋は贅沢なので母と相部屋だ。
「ジョゼフちゃん、いつからなの」
「婚姻前からです」
「どうして言ってくれなかったの」
「言ってもプレッシャーを与えたでしょう?
僕はエリスが好きで、父上が縁談をまとめてくれたんです。
エリスに嫌われたくなかった。
でもエリスとならいつか出来ると思ったのに、母上は私達に何をさせましたか?
初夜の一時間前に貴女の前で腰振り練習をさせたではありませんか。
あれで一気にその気は無くなりました。
そして翌朝の食事の場で、ちゃんと奥に注いだのかと聞いてくるデリカシーの無さ。
面倒臭くて適当に返事をしました。
母上が嫁いだ時に、初夜の一時間前に祖母から腰振り練習をさせられましたか?
翌朝の食事の場で種付けしたかどうかの確認をされたのですか?
毎週閨の体位を決められていたのですか?
サヴォワ家の伝統ですか?」
「……」
「好きな女を妻に迎えるのにウエディングドレスもお古。式は質素。指輪さえ買ってやれなかった。
まさか、下着さえ買ってやらなくて、個人資産からエリスが買っていたとは知らなかった。
狸顔? 僕はその狸顔に惚れたんだ!
サヴォワなんかうんざりだ!!」
翌朝、王都に向かい職を探した。
若くて読み書き計算ができるし貴族の振る舞いも分かるから、貴族の領地での使用人見習いを斡旋してもらえた。
場所が不便で若い子が居付かないそうだ。
普通なら身元引受人や紹介状がないと無理だが、事情を正直に話し、反省してやり直したいと言うとチャンスをくれた。
それに不能が逆に利点になった。
夫人や令嬢への悪さの心配がないからだ。
隣町の宿に戻り、母に別れを告げた。
「母上。ここでお別れです。私は使用人見習いとして住み込みで雇ってもらえました。
母上も伯爵家を切り盛りしていた経験を生かして仕事をもらってください。
お金は大事に使ってください。
私は辺境に向かう馬車に乗せてもらえるのでカフスとタイピンと服を売って平民服を買います。
辺境までの旅費くらいは残るでしょう。
どうかお元気で」
「ジョゼフちゃん!!」
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