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慰謝料
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サヴォワ家から追い出されて1ヶ月後、王宮に呼び出された。
通されたのは謁見の間。
怖いんですけど。
「エリス。私がいるのだから大丈夫だ」
「はい、お爺ちゃま」
「ハッハッハッ、フィルドナ侯爵。まだ孫娘に“お爺ちゃま”と呼ばせているのか」
「お元気そうで何よりです。国王陛下」
「エリス嬢。久しいな」
「国王陛下にご挨拶を申し上げます」
「しかしよく似ておる」
「はい。私にそっくりな上に性格も良いので可愛くて仕方がないのです」
「エリス嬢。婚家では辛い目に遭ったな。
詳細を聞くと稀に見ぬ異常さだ。よく3年も耐えたな」
「心を無にしました。それに、フィルドナ侯爵が個人資産を作ってくださったので凌げました」
「そうか。
今後はどうするのだ?
望むなら縁談を見繕うぞ」
「陛下!」
「まだ若く可愛い白百合の乙女だ。
いい男がいれば嫁ぐ方が安心だろう」
「エリスは私と暮らすのです」
「だが、どう考えても其方が先に天に召される。
その後は誰がエリス嬢を守るのかな?」
「ニコラが引き継ぎます」
「だが嫁を貰えば難しいかもしれん」
「私の全財産をエリスに残しますので不自由はさせません。その金で別邸を構えて悠々自適に過ごせばいいのです」
「そうそう。サヴォワ伯爵家への沙汰を伝えようと思ってな。
2人はサヴォワの籍から抜いたので平民になった。そのまま城から追い出した。
エリス嬢がされたようにな。
サヴォワ伯爵家は親類が継ぐ。
持参金はローランド子爵に返金した。
そして今回の離縁はジョゼフの重大な瑕疵によるものとして、慰謝料7000万を巻き上げた。
個人資産が増えたな。エリス嬢」
「か、感謝いたします」
「だが、少々ジョゼフにも可哀想な部分はあった。エリス嬢のことが好きで婚約したようだ。
だが、婚姻前から不能だったそうだ。
ゆっくり其方と関係を築き、上手く事が運ぶと思っていたそうだ。だが、母親から強いられた初夜の予行練習でその気持ちも失ってしまったと言っていた。
今でも其方が好きなのだろう。
だが、閨の有無を誤魔化したり、赤い離縁届を言われるがまま署名してはいけなかった。
それに妻を守るのは夫の役目。例え頭が上がらない伯爵家の要相手であってもな」
「ジョゼフ様も苦しんでいたのですね」
「追放した後、こっそり後を追わせた。
ジョゼフは早々に職を見つけて母親と決別し辺境へ旅立った。
ヴィクトリアは宿から親戚に連絡を入れたが返事が無く、まだ待っている。
一人減ったので、安宿なら一年近くは何とかなるだろう」
「陛下。この度はありがとうございました」
「陛下、私から頼みがございます」
「どうした?」
「今後、ローランド子爵から婚約などの届が出た場合、エリスの意思の確認なしに受理なさらないでいただきたいのです」
「気持ちは分かるが、エリス嬢はローランド子爵の娘だ」
「…ならば、潰すか」
「分かった分かった。公にはできんがな。
それよりも養育者の変更ならなんとかするぞ。
今回、赤い離縁届にローランド子爵も署名したからな。罰として養育者の変更をすれば、籍はローランドのままだが、全てにおいて侯爵の同意がなければ事は進まない。
それで我慢してくれ。
それでも不服なら、養女にすればいい。
穏便にな」
「では、早速お願いいたします」
「人使いの荒い奴め。
本日付けで養育権はフィルドナ侯爵に移ったと、ローランド子爵に書簡を出そう」
「感謝いたします」
「エリス嬢、問題ないか?」
「はい。感謝いたします」
お金も貰えて嬉しかったが、ちょっと複雑な気分だった。ジョゼフ様が私のことが好きで婚約したとは思わなかった。
それに、陛下の懸念は尤もだ。ずっとあの屋敷にいることはできない。
ニコラが婚姻する前に別の住まいを探さないと。
式は来年早々。あっという間だろう。
屋敷に帰って計画を立てることにした。
執事のアルバートとメイド長のマリアを呼び出して、秘密の会議を始めた。
「アルバートは他言しないことを誓います」
「マリアは他言しないことを誓います」
「ありがとう。忙しいだろうから話を始めるわね。
まず、籍はローランドだけど、お爺ちゃまが養育権を持ったの。養育って歳じゃないのだけどあのままじゃ、また父に変な縁談を持ってこられると困るから。
だけど来年早々ニコラがお嫁さんを迎えるでしょう? その前に独立しようと思うの」
「独立ですか」
「もう結婚ですか?」
「違うの。家を借りてフィルドナ邸から出るの」
「いけませんエリス様」
「そうですよ」
「だって、若いお嬢さんが嫁いできたら出戻りの親類が寄生してるだなんて嫌に決まってるわ」
「ですが侯爵様は」
「陛下に言われたの。お祖父様はいつか私より早く天に召されるわ。確かにその時にここでぬくぬくと暮らしていたら自立できなくて困るのは私だもの」
「どうなさるのですか」
「王都で部屋を探して日中だけお手伝いさんを雇うか、安住の地を探して家を購入するか」
「資金はどうなさるのですか」
「今回の離縁で慰謝料を多めに貰えたの。それと持っている個人資産を合わせれば、すこし贅沢な平民として生きていけるわ」
「では一度物件を見てみますか?
見たら考えが変わるかもしれませんし」
「そうね」
「では王都の不動産屋に予約を入れましょう」
「ありがとう。アルバート」
「では、私は簡単に家事を教えましょう」
「ありがとう。マリア」
通されたのは謁見の間。
怖いんですけど。
「エリス。私がいるのだから大丈夫だ」
「はい、お爺ちゃま」
「ハッハッハッ、フィルドナ侯爵。まだ孫娘に“お爺ちゃま”と呼ばせているのか」
「お元気そうで何よりです。国王陛下」
「エリス嬢。久しいな」
「国王陛下にご挨拶を申し上げます」
「しかしよく似ておる」
「はい。私にそっくりな上に性格も良いので可愛くて仕方がないのです」
「エリス嬢。婚家では辛い目に遭ったな。
詳細を聞くと稀に見ぬ異常さだ。よく3年も耐えたな」
「心を無にしました。それに、フィルドナ侯爵が個人資産を作ってくださったので凌げました」
「そうか。
今後はどうするのだ?
望むなら縁談を見繕うぞ」
「陛下!」
「まだ若く可愛い白百合の乙女だ。
いい男がいれば嫁ぐ方が安心だろう」
「エリスは私と暮らすのです」
「だが、どう考えても其方が先に天に召される。
その後は誰がエリス嬢を守るのかな?」
「ニコラが引き継ぎます」
「だが嫁を貰えば難しいかもしれん」
「私の全財産をエリスに残しますので不自由はさせません。その金で別邸を構えて悠々自適に過ごせばいいのです」
「そうそう。サヴォワ伯爵家への沙汰を伝えようと思ってな。
2人はサヴォワの籍から抜いたので平民になった。そのまま城から追い出した。
エリス嬢がされたようにな。
サヴォワ伯爵家は親類が継ぐ。
持参金はローランド子爵に返金した。
そして今回の離縁はジョゼフの重大な瑕疵によるものとして、慰謝料7000万を巻き上げた。
個人資産が増えたな。エリス嬢」
「か、感謝いたします」
「だが、少々ジョゼフにも可哀想な部分はあった。エリス嬢のことが好きで婚約したようだ。
だが、婚姻前から不能だったそうだ。
ゆっくり其方と関係を築き、上手く事が運ぶと思っていたそうだ。だが、母親から強いられた初夜の予行練習でその気持ちも失ってしまったと言っていた。
今でも其方が好きなのだろう。
だが、閨の有無を誤魔化したり、赤い離縁届を言われるがまま署名してはいけなかった。
それに妻を守るのは夫の役目。例え頭が上がらない伯爵家の要相手であってもな」
「ジョゼフ様も苦しんでいたのですね」
「追放した後、こっそり後を追わせた。
ジョゼフは早々に職を見つけて母親と決別し辺境へ旅立った。
ヴィクトリアは宿から親戚に連絡を入れたが返事が無く、まだ待っている。
一人減ったので、安宿なら一年近くは何とかなるだろう」
「陛下。この度はありがとうございました」
「陛下、私から頼みがございます」
「どうした?」
「今後、ローランド子爵から婚約などの届が出た場合、エリスの意思の確認なしに受理なさらないでいただきたいのです」
「気持ちは分かるが、エリス嬢はローランド子爵の娘だ」
「…ならば、潰すか」
「分かった分かった。公にはできんがな。
それよりも養育者の変更ならなんとかするぞ。
今回、赤い離縁届にローランド子爵も署名したからな。罰として養育者の変更をすれば、籍はローランドのままだが、全てにおいて侯爵の同意がなければ事は進まない。
それで我慢してくれ。
それでも不服なら、養女にすればいい。
穏便にな」
「では、早速お願いいたします」
「人使いの荒い奴め。
本日付けで養育権はフィルドナ侯爵に移ったと、ローランド子爵に書簡を出そう」
「感謝いたします」
「エリス嬢、問題ないか?」
「はい。感謝いたします」
お金も貰えて嬉しかったが、ちょっと複雑な気分だった。ジョゼフ様が私のことが好きで婚約したとは思わなかった。
それに、陛下の懸念は尤もだ。ずっとあの屋敷にいることはできない。
ニコラが婚姻する前に別の住まいを探さないと。
式は来年早々。あっという間だろう。
屋敷に帰って計画を立てることにした。
執事のアルバートとメイド長のマリアを呼び出して、秘密の会議を始めた。
「アルバートは他言しないことを誓います」
「マリアは他言しないことを誓います」
「ありがとう。忙しいだろうから話を始めるわね。
まず、籍はローランドだけど、お爺ちゃまが養育権を持ったの。養育って歳じゃないのだけどあのままじゃ、また父に変な縁談を持ってこられると困るから。
だけど来年早々ニコラがお嫁さんを迎えるでしょう? その前に独立しようと思うの」
「独立ですか」
「もう結婚ですか?」
「違うの。家を借りてフィルドナ邸から出るの」
「いけませんエリス様」
「そうですよ」
「だって、若いお嬢さんが嫁いできたら出戻りの親類が寄生してるだなんて嫌に決まってるわ」
「ですが侯爵様は」
「陛下に言われたの。お祖父様はいつか私より早く天に召されるわ。確かにその時にここでぬくぬくと暮らしていたら自立できなくて困るのは私だもの」
「どうなさるのですか」
「王都で部屋を探して日中だけお手伝いさんを雇うか、安住の地を探して家を購入するか」
「資金はどうなさるのですか」
「今回の離縁で慰謝料を多めに貰えたの。それと持っている個人資産を合わせれば、すこし贅沢な平民として生きていけるわ」
「では一度物件を見てみますか?
見たら考えが変わるかもしれませんし」
「そうね」
「では王都の不動産屋に予約を入れましょう」
「ありがとう。アルバート」
「では、私は簡単に家事を教えましょう」
「ありがとう。マリア」
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