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職人です
南門からは馬に乗った兵士が先導してくれた。
広いので案内が無ければ迷子になっただろう。
馬車が止まり建物の中に案内され、応接間と書かれた部屋に通された。
「直ぐに副団長をお呼びします。お茶もご用意しますのでお掛けになってお待ちください」
飲み物の用意の最中にノックの後 入室したのは騎士服を着た男性だ。
ガッシリとした身体で黒い髪に濃いグレーの瞳をしていた。
「ランデ伯爵夫人、リシュー嬢。お久しぶりです」
「お礼が遅くなりましたが。姪を助けていただきありがとうございました」
立ち上がり、カーテシーをした。
「助けていただき感謝しております。
私はリシュー子爵家の長女 ユリナと申します」
「隣国のご令嬢だとか」
「はい。伯母に会いに参りました」
「どうぞ掛けてください」
果実水がテーブルに置かれた。
お茶ではないのは私のためだろう。
「こっちは暑いからな。もう体調はいいのかな?」
「はい、副団長様」
「完治には至っておりませんが、調子を見つつ普通の生活は出来ていますわ」
「ん?」
伯母様が後遺症の件を話すと
「駄目そうなら直ぐに言うんだぞ」
「はい」
「そうか。敷地内を案内しようと思ったが止めておいた方がいいでしょう。ランデ夫人、滞在先はどちらでしょう」
「カメリアに宿を取りました」
「そうでしたか。あそこなら安心ですね」
副団長様はじっと私を見た。
「失礼だが、リシュー嬢はいくつかな?」
「18歳です」
「学生?」
「いえ。15歳になる年に入学して3年間通ったので卒業しております」
「なら好きなだけ伯爵家にいられるのかな?」
「流石にそんなには居候は出来ません」
「あら、いいのよ ユリナ。ずっと居ても」
「伯母様」
世間話で30分も副団長様の時間を取ってしまった。
「伯母様、そろそろ」
「そうね。お仕事中ですものね。
イオス副団長、私達はそろそろ失礼させていただきますわ」
「それでは送りましょう」
途中で部下らしき人が副団長に話しかけた。
「副団長」
「ちょっと失礼。
どうした」
「やはりジョルジオは当面復帰できません。ですが人手不足でこれから募集を掛けるしかありません」
「何故不足していたんだ」
「成り手がいないというより、合格レベルに達しないという点で不採用が続いてジョルジオ達に負担が掛かっていたのです。
更に1人減ったので残りの職人に負担が集中します。もう少し妥協してもらうしか」
「分かった。続きは夕方に聞こう。
ランデ夫人、リシュー嬢。お待たせしました」
「お困りのようですわね」
「ええ。剣やナイフなどの刃こぼれなどを修理した物をジョルジオという職人が最終仕上げをするのです。切れ味に影響しますから、誰でもいいわけではなくて」
「まあ」
「……」
「リシュー嬢、何か言いたそうだな」
「いえ」
「うちには表情に出てしまう部下が多くてな」
「鼻で笑われそうですので見逃してください」
副団長様は私の前に立ちはだかった。
「さあ、吐いてもらおうか」
圧に負けて、刃物を研いだ経験があると白状した。
「職人さんに比べたらおままごとレベルですから」
「ユリナ、硝子や宝石だけじゃなくて刃物も出来たのね」
「夫人?」
「私の実家は硝子細工で有名で、ユリナは暇だからと工房に入り浸っていたらしいのです。
職人達の近くで失敗した硝子製品を研磨して遊んでいたと聞きました。最近ではその趣味を活かして考案した宝石のカットを指導していたらしいのです」
「隣国の宝石のカット…エンヴェルカット?」
「まあ!ご存知ですのね」
何でバラしちゃうの 伯母様。
ふと見上げると副団長様がニヤリと口角を上げていた。
「夫人、少しだけお付き合いいただけますか」
「はい」
「リシュー嬢、行くぞ」
副団長は 後退りをしていた私の手を掴み、ある場所へ連れて行った。
石造りの倉庫のような建物に入ると、剣の修理を請け負う部屋だった。
「隣は武器庫、あっちは休憩室や仮眠室がある。
アルバート、ジョルジオは何処で作業を?」
「こちらです」
「リシュー嬢、俺のを研いでみてくれ」
回転式砥石を踏んで回し、預かったナイフを研いだ。
最初は機嫌の悪かったアルバートという職人も、私が磨き始めると作業の手を止めて近寄った。
仕上げをして、自分の髪の毛を一本取って持ち上げると垂れ下がった部分に軽く刃を当てた。髪の毛は切れて地面に落ちた。
「信じられない。副団長、この子は誰ですか」
「子爵令嬢だ。
リシュー嬢、ここは暑いか?」
「涼しいです」
「少しだけ手伝ってくれないだろうか。
少しでも具合が悪くなったら止めていい」
「副団長、ユリナは病み上がりで 重くはないですが後遺症も残っているのですよ」
「そうでした。仕上がりが良過ぎたのでつい」
「伯母様、試しに今日と明日やってみてもいいですか。ここは涼しいですし、体が怠ければ止めますので」
「でも」
「俺が送り迎えをしますので、夫人はホテルで休むか友人と会われては?」
「ユリナ……分かったわ。怪我をしたり倒れたりしたら即止めさせますからね」
「はい」
「では、後は副団長にお任せします。ユリナ、許すのは短時間ですよ。水分をこまめに飲みなさい。それと、」
細々した注意事項を口にして伯母様はホテルに戻った。
「副団長様、私が扱えるのは刃の短い物です。短くても重さがある物も扱えません」
「…まあ、そうだよな。ちょっと失礼」
副団長は外に出て2分も経たずに戻ってきた。
「アルバート、綺麗なエプロンはないか」
「お待ちください」
アルバートさんは綺麗なエプロンを出して私に渡してくれた。
「ありがとうございます」
少し待つとショートソードやナイフが合わせて5本届けられた。それを受け取り休憩を入れながら研いだ。今日はそこまでで終了し、副団長にホテルまで送って貰った。
【 グレイ・イオス副団長の視点 】
夕方、副団長以上の招集をかけた。
ウィルソン王族親衛隊長、ゼニエ王族親衛隊副長、カッセル騎士団長、バディス兵団長、ダカン副兵団長と俺が集まり会議室のドアを閉めた。
「先ず、預かり物をお返しします」
それぞれの手元にショートソードやナイフを返した。
「髪の毛を1本抜いて刃の上に落としてみてください」
髪の毛を抜いて刃物を鞘から取り出した。
短すぎる者には長めの者の髪の毛を渡した。
髪が落ち 刃に触れた瞬間、髪の毛は分断しテーブルの上に落ちた。
「嘘だろう!?」
「何ですかコレは」
「ジョルジオは腕を上げたのですね。でも当分休みだって言いませんでしたっけ」
首を振って答えた。
「間違っても刃に指を近付けるなよ。
イオス。優秀な職人が見つかったのだな」
「はい。ですが短かい物しか依頼できません。短くても重さがある物は無理です。そして明日数本研いだら彼女は居なくなります」
「彼女?女がコレを!?」
「何故 居なくなるんだ?」
「はい。先日助けて、お礼を言いに来た令嬢が研いでくれたのです」
「詳しく報告してくれ」
彼女のことを説明した。
「隣国のリシュー子爵家? 知らないな。グウェンを呼べ」
広いので案内が無ければ迷子になっただろう。
馬車が止まり建物の中に案内され、応接間と書かれた部屋に通された。
「直ぐに副団長をお呼びします。お茶もご用意しますのでお掛けになってお待ちください」
飲み物の用意の最中にノックの後 入室したのは騎士服を着た男性だ。
ガッシリとした身体で黒い髪に濃いグレーの瞳をしていた。
「ランデ伯爵夫人、リシュー嬢。お久しぶりです」
「お礼が遅くなりましたが。姪を助けていただきありがとうございました」
立ち上がり、カーテシーをした。
「助けていただき感謝しております。
私はリシュー子爵家の長女 ユリナと申します」
「隣国のご令嬢だとか」
「はい。伯母に会いに参りました」
「どうぞ掛けてください」
果実水がテーブルに置かれた。
お茶ではないのは私のためだろう。
「こっちは暑いからな。もう体調はいいのかな?」
「はい、副団長様」
「完治には至っておりませんが、調子を見つつ普通の生活は出来ていますわ」
「ん?」
伯母様が後遺症の件を話すと
「駄目そうなら直ぐに言うんだぞ」
「はい」
「そうか。敷地内を案内しようと思ったが止めておいた方がいいでしょう。ランデ夫人、滞在先はどちらでしょう」
「カメリアに宿を取りました」
「そうでしたか。あそこなら安心ですね」
副団長様はじっと私を見た。
「失礼だが、リシュー嬢はいくつかな?」
「18歳です」
「学生?」
「いえ。15歳になる年に入学して3年間通ったので卒業しております」
「なら好きなだけ伯爵家にいられるのかな?」
「流石にそんなには居候は出来ません」
「あら、いいのよ ユリナ。ずっと居ても」
「伯母様」
世間話で30分も副団長様の時間を取ってしまった。
「伯母様、そろそろ」
「そうね。お仕事中ですものね。
イオス副団長、私達はそろそろ失礼させていただきますわ」
「それでは送りましょう」
途中で部下らしき人が副団長に話しかけた。
「副団長」
「ちょっと失礼。
どうした」
「やはりジョルジオは当面復帰できません。ですが人手不足でこれから募集を掛けるしかありません」
「何故不足していたんだ」
「成り手がいないというより、合格レベルに達しないという点で不採用が続いてジョルジオ達に負担が掛かっていたのです。
更に1人減ったので残りの職人に負担が集中します。もう少し妥協してもらうしか」
「分かった。続きは夕方に聞こう。
ランデ夫人、リシュー嬢。お待たせしました」
「お困りのようですわね」
「ええ。剣やナイフなどの刃こぼれなどを修理した物をジョルジオという職人が最終仕上げをするのです。切れ味に影響しますから、誰でもいいわけではなくて」
「まあ」
「……」
「リシュー嬢、何か言いたそうだな」
「いえ」
「うちには表情に出てしまう部下が多くてな」
「鼻で笑われそうですので見逃してください」
副団長様は私の前に立ちはだかった。
「さあ、吐いてもらおうか」
圧に負けて、刃物を研いだ経験があると白状した。
「職人さんに比べたらおままごとレベルですから」
「ユリナ、硝子や宝石だけじゃなくて刃物も出来たのね」
「夫人?」
「私の実家は硝子細工で有名で、ユリナは暇だからと工房に入り浸っていたらしいのです。
職人達の近くで失敗した硝子製品を研磨して遊んでいたと聞きました。最近ではその趣味を活かして考案した宝石のカットを指導していたらしいのです」
「隣国の宝石のカット…エンヴェルカット?」
「まあ!ご存知ですのね」
何でバラしちゃうの 伯母様。
ふと見上げると副団長様がニヤリと口角を上げていた。
「夫人、少しだけお付き合いいただけますか」
「はい」
「リシュー嬢、行くぞ」
副団長は 後退りをしていた私の手を掴み、ある場所へ連れて行った。
石造りの倉庫のような建物に入ると、剣の修理を請け負う部屋だった。
「隣は武器庫、あっちは休憩室や仮眠室がある。
アルバート、ジョルジオは何処で作業を?」
「こちらです」
「リシュー嬢、俺のを研いでみてくれ」
回転式砥石を踏んで回し、預かったナイフを研いだ。
最初は機嫌の悪かったアルバートという職人も、私が磨き始めると作業の手を止めて近寄った。
仕上げをして、自分の髪の毛を一本取って持ち上げると垂れ下がった部分に軽く刃を当てた。髪の毛は切れて地面に落ちた。
「信じられない。副団長、この子は誰ですか」
「子爵令嬢だ。
リシュー嬢、ここは暑いか?」
「涼しいです」
「少しだけ手伝ってくれないだろうか。
少しでも具合が悪くなったら止めていい」
「副団長、ユリナは病み上がりで 重くはないですが後遺症も残っているのですよ」
「そうでした。仕上がりが良過ぎたのでつい」
「伯母様、試しに今日と明日やってみてもいいですか。ここは涼しいですし、体が怠ければ止めますので」
「でも」
「俺が送り迎えをしますので、夫人はホテルで休むか友人と会われては?」
「ユリナ……分かったわ。怪我をしたり倒れたりしたら即止めさせますからね」
「はい」
「では、後は副団長にお任せします。ユリナ、許すのは短時間ですよ。水分をこまめに飲みなさい。それと、」
細々した注意事項を口にして伯母様はホテルに戻った。
「副団長様、私が扱えるのは刃の短い物です。短くても重さがある物も扱えません」
「…まあ、そうだよな。ちょっと失礼」
副団長は外に出て2分も経たずに戻ってきた。
「アルバート、綺麗なエプロンはないか」
「お待ちください」
アルバートさんは綺麗なエプロンを出して私に渡してくれた。
「ありがとうございます」
少し待つとショートソードやナイフが合わせて5本届けられた。それを受け取り休憩を入れながら研いだ。今日はそこまでで終了し、副団長にホテルまで送って貰った。
【 グレイ・イオス副団長の視点 】
夕方、副団長以上の招集をかけた。
ウィルソン王族親衛隊長、ゼニエ王族親衛隊副長、カッセル騎士団長、バディス兵団長、ダカン副兵団長と俺が集まり会議室のドアを閉めた。
「先ず、預かり物をお返しします」
それぞれの手元にショートソードやナイフを返した。
「髪の毛を1本抜いて刃の上に落としてみてください」
髪の毛を抜いて刃物を鞘から取り出した。
短すぎる者には長めの者の髪の毛を渡した。
髪が落ち 刃に触れた瞬間、髪の毛は分断しテーブルの上に落ちた。
「嘘だろう!?」
「何ですかコレは」
「ジョルジオは腕を上げたのですね。でも当分休みだって言いませんでしたっけ」
首を振って答えた。
「間違っても刃に指を近付けるなよ。
イオス。優秀な職人が見つかったのだな」
「はい。ですが短かい物しか依頼できません。短くても重さがある物は無理です。そして明日数本研いだら彼女は居なくなります」
「彼女?女がコレを!?」
「何故 居なくなるんだ?」
「はい。先日助けて、お礼を言いに来た令嬢が研いでくれたのです」
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