【完結】さようならと言うしかなかった。

ユユ

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【グレイ】助けた令嬢の過去

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【 グレイ・イオス副団長の視点 】

グウェンが入室し、リシュー子爵家について説明を始めた。

「ゲルズベル伯爵家の分家で、領地の一部を任されています。硝子細工で有名です。ブランド名はパピヨンです」

「超高級グラスなどを出しているブランドじゃないか」

「そこの令嬢ですか?」

次は俺が説明をした。

「暇だからと 失敗した硝子製品を使ってデザインを考えてカットしたり刃物を研いだりして過ごしていたらしいのです。しかもエンヴェルカットの考案者ですよ」

「妻に強請られて、高過ぎて買えないと返事をした宝石ですよ それ」

「確か今は販売が止まってしまったと聞いています」

「未婚の18歳か。国に帰るのか?」

「まだその予定は無いそうです。
勘ですが、祖国で嫌なことがあって隣国ここに住む伯母を頼ったのだと思っています」

「そうか。」

「帰しちゃっていいんですか?
俺、こんな武器を仕上げる人間のいる国と戦いたくないですよ」

「何言ってるんだ。隣は友好国だぞ」

「…駄目だな。令嬢には恋人か婚約者はいるのか」

「分かりません。デリケートな事を聞ける状態ではないのです」

「金はあるはずだ。だとすると引き留めるには縁談が一番だろう。できれば王都に屋敷のある家門の嫡男以外がいいな」

「嫡男は駄目ですか?」

「跡継ぎを産むために何度か孕むとなると、その間は依頼出来ないからな」

「あ、そうですね」

「女じゃなければなぁ…
1日に出来る本数は少ないだろうし」

「長い物、重い物は無理です。
それに体調が不完全なので、休憩を何度か挟みながら短い時間しか出来ません。毎日来てくれるかも分かりませんし、そもそも令嬢が仕事として引き受けてくれるとは思えません」

「ならば軍所属の未来の幹部もしくは現役幹部の妻ならどうだ」

「彼女の伯母である伯爵夫人に探りを入れてみます」


解散後、執務室で書類に目を通そうとしたが、あの日のことが浮かんできた。

イオス領から王都に戻る日、隣のランデ伯爵領に立ち寄った。手土産を買って馬車に戻る途中、店のテラスで騒ぎがあった。

『ユリナ!どうしたの ユリナ!』

近寄ると顔が赤く汗をかいていた。意識も無い。
倒れた椅子がある場所には陽が当たっていた。

『令嬢、屋敷は近いか?』

『はい』

『急いで運ぶぞ』

『ば、馬車を、』

『俺の馬車はすぐそこだ。一刻を争うからあれで向かう!

胸元のリボンを外した。

『な、何をっ』

『この子は熱中症だ。冷やさないと死んでしまうぞ!』

屋敷に到着して抱き上げて中に入った。

『バスタブに水を溜めろ!早く!
グラスに水と塩と蜂蜜を持ってきてくれ!
彼女の部屋は何処だ!』

部屋に入り布を沢山敷いて貰っている間にドレスを脱がせた。

ベッドの上に寝かせて濡らした布を全身に掛け 額にも乗せた。
そして仰いで風を送った。

『ご用意しました』

グラスの水に蜂蜜と塩を入れて混ぜ、飲ませようとしたが飲まない。

『飲まないと死んでしまうぞ』

僅かに聞こえた。

『いいの。死ねるのなら死なせて……』

『……』

水を口に含み、令嬢に口移しをして少しずつ飲ませた。
 
『あの、水風呂のご用意が整いました』

そして彼女を抱き上げ水風呂に入った。
沈まないよう、意識を戻したときに暴れないよう抱きしめた。

『ユリナ、戻ってこい』

濡らした布で頬や頭に水をかけ

『ユリナ』

名前を呼び続けた。


だいぶ体が冷えてきたので水から出て、メイドに彼女を託した。
医者が到着して、大丈夫だと分かると屋敷を後にした。

あんな若い令嬢が無意識下で死を望んでいたとは驚いた。もう一人の令嬢の話では普通に楽しそうに過ごしていたらしい。

そんな彼女の事情を夫人が話してくれるだろうか。
それ以前に知っているのだろうか。



翌日、王都のホテルまでリシュー嬢を迎えに行き 作業場へ送り届けた。
すぐにホテルへ戻りランデ伯爵夫人に尋ねた。

「リシュー嬢はあのとき“死なせて”と言いました。
彼女に何があったのでしょう」

「……」

「他言はしません」

「ユリナは…、」

学友として親しくしていた令息が侯爵家だった。そして彼女がエンヴェルカットを提供した。侯爵家は求婚をしたが彼女は断り、卒業後に既成事実を経て婚約した。だが式の数ヶ月前、婚約者の子を宿したと告げる公爵令嬢が現れて破棄。気分を変えに伯母である隣国のランデ伯爵夫人の元に身を寄せた。

……男を使うのは危険だ。

「リシュー嬢の腕は素晴らしく、軍の上層部が全員一致で彼女を求めています。
無理をしない程度に仕事を頼みたいのです。
いずれ採用する職人に指導をしてもらうということも含めたいのですがいかがでしょう」

「ユリナは令嬢です。それに体調が完全ではありません」

「令嬢ですが、子供の頃から硝子を磨き刃物も研いできた子なら、天職と言えるでしょう。仕上げた物を見ればそう言わざるを得ません。
体調は休みながらで結構です。ノルマなど設定しませんし、私が量を調整します。1日1本でも休みでも構いません」

「それではお困りでしょう」

「満足いかない剣を返すことにはなりますが、仕方ありません。他に実力者がいないのですから。まあ、贅沢を言わなければ問題のない仕上がりではありますので、リシュー嬢には大事な剣を優先に回します。それにあそこは涼しいので、彼女もリハビリには良いのではありませんか?

移住を考えるときに我々が推薦し即日許可が降りるようにしましょう。我々軍がリシュー嬢の味方になってお守りします王族親衛隊長もリシュー嬢の実力に惚れ込んでおりました。だとすると王族を味方に付けることと同じことです。二度と彼女を傷付けさせません」

「ユリナが望むなら反対はしません」

「ありがとうございます」

軍部に戻って報告を上げた。
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