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ベレニスとジョルジーヌ 4

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【 ジョルジーヌの視点 】


それからニヶ月が経ち、私達は王都での就職を諦めてどの土地に行くか調べていた。

そこにティーティア様から手紙が届いた。

『ジョルジーヌ、何て?』

『明後日の朝、馬車の迎えを出すから乗って王都のある場所に来て欲しいと書いてあるわ』

『朝なんて珍しいわね』

『帰りは本屋に寄って観光案内を見てみない?』

『栄えてる所なら求人あるかもしれないものね』






当日、

「はぁ。ティーティア様ともお別れね」

「あんなに素敵な令嬢はいないのに」

「残念だけど。お別れの贈り物も後で考えましょう」



到着すると御者が店を指差した。

小さそうな店舗で看板がまだ出ていない。
ノックをすると中からティーティア様が出ていらした。

「さあ、入ってください!」

中に入るととても品のある内装の小さなお店だった。

「ここ、私の店なのです。商品はこれから並べます。こっちの部屋は商談室、奥は水廻りです」

手を引かれて奥に行くと、奥も改装されてとても綺麗だった。

「二階も見てください」

二階の部屋も改装したてで品のあるお洒落な部屋だった。かなり詳しく説明するので疑問を投げかけた。

「それはね、一階から三階まで私が全て考えたからです。この収納もドレッサーもベッドも。ガラスのショーケースや棚、トイレや浴室。大抵の物が特注になりました」

「もの凄い大金をかけたのですね」

「それがかかっていないのです。
改装を請け負った商会長さんが、真似させてくれたら無料にすると提案なさったので受けました。店を除いて許可を出したので無料なのです。

トイレなんか陛下や宰相閣下達が欲しがるので売りました。トイレを作らせた所で委託販売をしてもらいます」

ベレニスも瞳を輝かせてベッドの下の引き出しを開けていた。


一階に戻り、商談室に座った。

「素敵な椅子……」

「それも特注ですのよ。

話は変わりますが職は決まりましたか」

「いえ。王都を離れ人気の観光地へ行って職を探そうかと」

「あの、これは強制ではありません。行きたい場所があるなら自由に行く権利があります。分かりますか」

「「 はい 」」

「この店はこれからオープンですが、いつまで続くのか分かりません。売れるのか、売れないのか。

しかも客層は平民から貴族まで。
どちらのお客様にも対応してもらわねばなりません。貴族の家名を覚え、読み書きをして、計算をして、包装もします。

いずれ要望の聞き取りや提案、在庫管理や工場との連絡、クレーム応対もやってもらわねばなりません。

ある程度できないと店に立てませんし、かなり大変です。特に貴族のお客様相手は。

求人を出す予定です。それでもやれそうなら応募してください。

審査次第ですが、希望者は住み込みも可能です。家賃や諸費用は徴収しません。
備品や制服は支給します。不足している家具も食器類も店側で用意します。

お給料は二週間分を一度に翌週末支払います。教育にかかる費用も店側が負担します。

住み込みの従業員がお財布を出すのは、服、装飾品、化粧品、医療、趣味、交友、食品などの個人的な部分に関してだけです。

5日後に求人を出しますので熟考してください。5日後からは早い者勝ちで相応しい人に採用の返事を出します。

今日の用事は以上です。
質問はありますか」

「ティーティア様、私達は元娼婦です。
貴族のお客様が中心です。私は専属でしたが、お茶出しなどの雑用もしておりましたので顔は知られております。

揉め事を招きそうなのに声をかけてくださるのですか?」

「しばらくは何度かあると思います。
ですがこの店は国王陛下の勧めでオープンさせます。大きく構えていればいいのです。
“それが何か?”と言ってやるのです。
“貴方が前職をバラすなら私もバラしますよ?”と言っておけばいいでしょう。

“伯爵家以下なら、この店は伯爵家の店ですよ、名前を控えますね”と言って名前を尋ねてもいいです。

侯爵家以上やしつこい場合は別途考えます。

注意をしても店のルールを守れなければ追い出して構いません」


ベレニスを見ると頷いていた。

「ティーティア様、私とベレニスは応募いたします」

「分かりました。後日連絡しますわ」

「よろしくお願いします」

「宿に戻られるなら馬車を出しますがどうなさいますか」

「行きたい所がありますのでここで失礼します」



ベレニスと広場のベンチに座りしばらく考え事をしていた。

私達に務まるのだろうか。ティーティア様にご迷惑がかかるのではないだろうか。

「ジョルジーヌ、私、あの部屋で暮らせるならお勉強頑張るわ。

もし、店が立ち行かなくなっても私達の立派な職歴になるし、これから勉強することは私達の武器となると思わない?

それにティーティア様とまた関われるわ」

「そうね」

「娼館では着飾っていたけど、次は制服だし、地味になるように変装してもいいと思うの。髪色を変えるとか、眼鏡をかけるとか」

「買いに行こうか」

「行こう!」





四日後、宿に手紙が届いた。

“来週から採用いたします。
月曜の9時に迎えの馬車を向かわせます。
宿を引払い荷物を馬車に乗せてください。

店に立てるように朝9時から夕方の5時まで研修を行います。
その間は伯爵邸で寝泊まりしてもらいます。

その期間は試用期間となります”


「試用期間だと7割のお給料が出るのよね」

「勉強させてもらうのにいいのかしら」

「何がなんでも覚えなくちゃ!」




月曜日、伯爵邸に着くと研修についての説明があった。

「こちらはマナーと読み書き計算の先生です。
午前中毎日教えてもらいます。

午後は外出もあります。
知り合いの商会長が推す方が接客や梱包や在庫管理、帳簿、銀行の手続きや発送業務、など教えてくださいます。

あと貴族の名前を覚えてもらったり商品の提案ができるまでになってもらいます」
 
「ありがとうございます」

「一生懸命頑張ります」



その日の夜、ベレニスは気疲れしたのか早く眠ってしまった。
伯爵邸の人は誰一人蔑む者がいない。
感情を出さないように徹底しているのか。

期待を裏切れば悪意を向けられるだろう。
そう思っていたけど、失敗しても何も言われることはなかった。
気遣いさえ感じる。ここは天国なのかもしれないと本気で思った。
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