【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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多忙

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「リヴィア」

「ティエリー」

「最近誘いを断られるって嘆いているんだけど、彼、何かした?」

「そうじゃないの。カイルセン様にはちゃんと忙しいって返事を出しているんだけど。
そもそも、もう私の手伝いなんか要らないはずよ?
人を雇う財力は十分あるんだし。寧ろ今のうちに募集して雇わないといけないわ。すぐ来るとも限らないし 採用できる人に当たるかも分からないし。採用した後は育てなきゃいけないし。
時間がかかると思って早く募集した方がいいわ」

「分かった。伝えておくよ」



乗馬の時間。

ティエリーはクラスが変わってしまったので、ヘンリー王子殿下が率先して面倒を見てくれるようになった。

「カルム、伏せ」

「ブルッ」

伏せたカルムに乗った。補助に殿下がついてくれている。

「カルム」

優しく首元を叩くと起き上がった。
コツを掴んで振り落とされることはなくなった。

立ち上がった後に首元を優しく2回叩くとゆっくり歩き始め、更に2回叩くと早く歩き始め、更に2回叩くと軽く走り始める。向きは手綱を向きたい方へ引くだけ。抱き付くと止まる。

「凄いよ。カルムさえいれば乗馬の単位は安心だな」

「カルムは優しくて賢いですからね。
よしよし、カルム、いつもありがとう」

「ヒヒン」

「言葉までわかるみたいだな」

「殿下は乗らないのですか?」

「一緒に乗らないか」

「授業中に?叱られます」

先生に許可をもらえばいいと言って 殿下は許可を取ってきてしまった。

カルムを伏せさせて私が乗って、立ったところで殿下が後ろに跨った。
殿下がカルムを歩かせようとするも動かない。

「あれ?」

「カルム、お願い」

首元を優しく2回叩くとゆっくり歩き始めた。

「リヴィアが乗っているときはリヴィア方式でしか動かないみたいだね」

「本当に優しい子だわ」

「だとすると、リヴィアに乗せてもらっていることになるね」

何周かして降りて片付けをした。

「ゴーグル、大丈夫か?」

「え?」

先生(カルフォン卿)が殿下を見た。

「あ、大丈夫です」

「無理はするなよ」

「はい」



週末。

「今の金髪の男性と赤毛の女性の調査をお願いします」

登城して婚約者候補のふりをしながら、瞳孔が変形した人をカルフォン卿に教えた。

「今日は多いな」

王族居住区で、王族の世話をするメイドや侍従達と接触していたのだが、既に6人目になっていた。

「でも今まで問題無かったんですよね?単純に私が嫌われているとか目障りとか そういうことかもしれませんよ」

「調べてみたらわかるさ。
ところで、本当にカシャ公子やヘンリー殿下とは大丈夫なのか?」

「はい。結局、例の人の力を弾いていますので、2人は普通の同級生です」

「そうか。辛くなったら言ってくれ」

「はい」



2日後、カイルセン様からお花と手紙が届いた。

“リヴィアと友人のつもりでいたのだが、私の妄想だったらしい。しつこく誘って悪かった。これからは一人寂しく頑張るよ。今までありがとう。
カイルセン”

「ん~もう!こういう駆け引きができたのなら どうして奥様にしなかったの!」

「お嬢様?」

「お返事を書くから用意してもらえる?」

「直ぐにご用意いたします」

“来週の日曜の夜に、アングラード家の料理が食べたいです。 友人 リヴィア”

ほんっとうに彼には困ったわ。私よりだいぶ歳上なのに甘え上手でちょっと強引で 同情心を刺激するのが得意なのだから。十分大人の殿方なのに胸がキュンとするのよね。構ってもらえない仔犬みたいな目をするのだもの。
あれなら直ぐに出会いがありそうだし、今や裕福な伯爵になったのだから再婚でも希望者が複数いそうなのに全く話を聞かないわね。

跡継ぎ問題のことを考えると20代がいいのかしら。直ぐに授かるとは限らないし、駆け落ち事件があったから、再婚後に妾を迎えることになると、どんな印象になるか分からないものね。



日曜日、朝から登城して、王妃殿下の公務をサポートする皆様に紹介されて3人見つけてしまった。
王妃殿下の悲しそうなお顔を見て気分が沈んでしまった。

ティータイムに間に合うように屋敷に帰り支度をすると、先週と同じ馬車が到着した。

「お嬢様、フレンデェ公爵家のご令息がお迎えにいらっしゃいました」

また、公子自ら来てくださったのね

「すぐ行くわ」

階段の上に差し掛かると公子が止めた。

「ストップ」

公子は階段を登り、私に手を差し伸べた。

「危ないからな」

「ありがとうございます、公子」

「“公子”?」

ピタッと止まり私を見下ろした。

こ、怖い…

「オードリック様、行きましょう?」

「今日は南の国のデザートを再現させたんだ。材料の入手に少し手間取ったけど美味しいと思うよ」

「はい、楽しみです」

機嫌なおって良かった…



フレンデェ邸に到着すると、公子の部屋に連れて行かれた。

「あ…」

先週私が落としていったものもそのまま。
机の上には読みかけの本や手紙、ソファのクッションは乱雑に置いてあった。

「ふふっ」

「えっ、駄目か?」

「合格です。では次は着崩してみましょう」

「リヴィア!?」

装飾品を取り襟元を崩し、少しだけ鎖骨が見える程度にボタンを外した。

「楽ではありませんか?」

「っ!」

見上げると公子は少し顔を赤くして目を逸らした。

「あ、恥ずかしかったですか?ごめんなさい」

「いや…楽になったよ」

そこにコーネリア様がノックして解放していたドアから入室した。

「に、兄様!?」

「今日の課題は着崩すことらしい」

「まぁ…ふふっ」

公子は咳払いをして メイドにお茶を淹れるよう促した。












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