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フラれ同士
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やっとお休みだ。
今日は建国記念日のパーティなので仕事はない。明日もない。
パーティの間だけカルフォン卿が休憩しに来たのだけど、どことなく暗い。
「どうかなさったのですか?」
「俺では力不足だなと感じたんだ」
「お仕事の悩みですか?」
「どうだろう」
「オスカー様?」
「すまない」
「えっと?」
「リヴィアを守りたいと思ったのは本当だ。いい子だとも思っている。だけどやはり俺では力不足だ」
「一体何を…」
「君が卒業したら交際を申し込むつもりだった。だが俺じゃない方がいい」
「……」
「すまない」
「謝らないでください。私達はそこまでの関係ではありませんでした。カルフォン卿とは信頼で繋がっていると感じていただけです。
申し訳ありませんが心の整理をしたいのでお引き取りいただけますか」
「分かった。騎士の役目は果たすよ」
カルフォン卿はそう言って帰っていった。
コンコンコン
「お茶をお持ちしました… お、お嬢様!?」
ミリアがハンカチを差し出した。
「どうなさったのですか!?」
涙が出てくるのはきっと…
「好きだったみたい…フラれちゃった」
「えっ!?」
「好意はあったけど、涙が出るほどだとは…」
【 オスカー・カルフォンの視点 】
俺は跡継ぎではない。
「オスカー、デートか?」
「いや、フラれに行くんだ」
「は?」
宿舎を出て馬に乗った。
リヴィアをアルシュに渡すわけにはいかない。国内に留めておきたい陛下はフレンデェ公子の話に乗るのは良いことだろうと口にした。
彼女が交流しているということは潔白の証明でもある。それにあの男の気持ちは本物だ。
ネルハデス邸で俺達を見たときの彼の目には…特に俺を“オスカー”と呼んだときには嫉妬の炎が見えた。彼にはリヴィアに強い好意がある。それに王族派筆頭のフレンデェ公爵家の跡継ぎで女を寄せ付けないことで有名だ。
“すまない”
あのときの…ガゼボで見せたときに近い顔をした。
そして悲しそうに微笑んで受け入れてくれた。
馬に乗りネルハデス邸を出た。
「何だよ…何で苦しいんだよ…」
正しいことをしたはずだ。
なのに胸が…息が詰まるほど苦しい…。
宿舎に戻る気にならず、娼館に来てしまった。
「多少手荒くしてもいい女を頼む。殴ったりはしない」
「直ぐにお連れしますのでお部屋へご案内します」
実家に帰れば“いつ妻を娶るのか”と煩いから、特に今日は帰れない。
「ロゼッタと申します」
「入ってくれ」
「ご要望はございますか」
「忘れたいことがあるんだ」
「どちらかお使いになりますか」
「…城勤めだから麻薬は使えない」
「失礼いたしました」
「そっちのを酒に混ぜてくれ。薄めでいい」
「薄めてお出しします」
注いだ酒の中に小瓶の液体を数滴落として混ぜた。
「どうぞ」
飲んで数分後、身体が熱くなってきた。
「効いてきたようですね」
女が服を脱がせ始めた。
【 国王の視点 】
フレンデェ家の息子の話の後、弟を残して話し合った。
「ガニアン公爵家についてフレンデェが情報を仕入れたのだな」
「そのようですね」
アルシュという宗教国家の中でガニアン公爵家は圧倒的な力を持っていた。騎士も優秀で忠誠心が高い。宗教が絡むと詳しい情報を得るのは難しい。神罰を信じているからだ。そして神を信じるなら悪魔の存在も認める国。神罰の他に悪魔に狙われると強く信じているのだ。だから秘密を売ってはくれない。
忍ばせて仲間のフリをさせても質問した時点で余所者とバレてしまう。階級制度が厳しくて立ち入っていい場所が明確だし、警備兵だけじゃなくて使用人でさえ警戒心が強くて 見張りだらけと同じだと諦めて戻ってくるか音信不通になってしまう。
そんな国の情報を掴んできたのだ。
「リヴィア嬢もいつかは婚姻するとは思っていたが、まさかフレンデェだとは。あの女嫌いのオードリックを あのように本気にさせるなど想像もしていなかった」
「…意外です」
せっかく婚約しても、あまりの冷たさに令嬢たちが根を上げて辞退を申し入れるほどだ。フレンデェとの縁談に重圧があっただろうに それを跳ね除けてでも婚姻したくないと思わせた。
てっきり男色か何か秘密があると思ってはいたが、相応しい女を探していただけだった。
「ヘンリーとは無理だと分かったし カシャ家の息子も同じだろう。だとしたらフレンデェが最良だ。しかも恋に落ちている。女は愛される方がいい。愛されて子を産んで安心して暮らせる方がいい」
「…そうですね」
ヘンリーには決まってから話そう。
パタン
「はぁ」
弟もリヴィアを気に入っているのは知っている。
だが長男の廃嫡によりリヴィアは子を産まないという選択肢はないだろう。親戚から養子をとっても血の薄さによってはリヴィアの子をネルハデス家に戻すかもしれない。
弟は城内で安全に暮らす代償として子を作らないという契約をして迎え入れられた。つまり弟とリヴィアとの婚姻には壁があった。彼女の特殊能力のことを思えば弟と婚姻させて夫婦で務めて欲しかったし弟も喜んだだろう。
それでも、フレンデェが望むならフレンデェを優先させたい。コーネリア嬢を王子妃に迎え、リヴィアをフレンデェに嫁がせれは強固になる。一番は貴族派のカシャ家に取り持ちリヴィアを嫁がせて恩を売る事だったが、過去のあるリヴィアには無理だろうからな。
今日は建国記念日のパーティなので仕事はない。明日もない。
パーティの間だけカルフォン卿が休憩しに来たのだけど、どことなく暗い。
「どうかなさったのですか?」
「俺では力不足だなと感じたんだ」
「お仕事の悩みですか?」
「どうだろう」
「オスカー様?」
「すまない」
「えっと?」
「リヴィアを守りたいと思ったのは本当だ。いい子だとも思っている。だけどやはり俺では力不足だ」
「一体何を…」
「君が卒業したら交際を申し込むつもりだった。だが俺じゃない方がいい」
「……」
「すまない」
「謝らないでください。私達はそこまでの関係ではありませんでした。カルフォン卿とは信頼で繋がっていると感じていただけです。
申し訳ありませんが心の整理をしたいのでお引き取りいただけますか」
「分かった。騎士の役目は果たすよ」
カルフォン卿はそう言って帰っていった。
コンコンコン
「お茶をお持ちしました… お、お嬢様!?」
ミリアがハンカチを差し出した。
「どうなさったのですか!?」
涙が出てくるのはきっと…
「好きだったみたい…フラれちゃった」
「えっ!?」
「好意はあったけど、涙が出るほどだとは…」
【 オスカー・カルフォンの視点 】
俺は跡継ぎではない。
「オスカー、デートか?」
「いや、フラれに行くんだ」
「は?」
宿舎を出て馬に乗った。
リヴィアをアルシュに渡すわけにはいかない。国内に留めておきたい陛下はフレンデェ公子の話に乗るのは良いことだろうと口にした。
彼女が交流しているということは潔白の証明でもある。それにあの男の気持ちは本物だ。
ネルハデス邸で俺達を見たときの彼の目には…特に俺を“オスカー”と呼んだときには嫉妬の炎が見えた。彼にはリヴィアに強い好意がある。それに王族派筆頭のフレンデェ公爵家の跡継ぎで女を寄せ付けないことで有名だ。
“すまない”
あのときの…ガゼボで見せたときに近い顔をした。
そして悲しそうに微笑んで受け入れてくれた。
馬に乗りネルハデス邸を出た。
「何だよ…何で苦しいんだよ…」
正しいことをしたはずだ。
なのに胸が…息が詰まるほど苦しい…。
宿舎に戻る気にならず、娼館に来てしまった。
「多少手荒くしてもいい女を頼む。殴ったりはしない」
「直ぐにお連れしますのでお部屋へご案内します」
実家に帰れば“いつ妻を娶るのか”と煩いから、特に今日は帰れない。
「ロゼッタと申します」
「入ってくれ」
「ご要望はございますか」
「忘れたいことがあるんだ」
「どちらかお使いになりますか」
「…城勤めだから麻薬は使えない」
「失礼いたしました」
「そっちのを酒に混ぜてくれ。薄めでいい」
「薄めてお出しします」
注いだ酒の中に小瓶の液体を数滴落として混ぜた。
「どうぞ」
飲んで数分後、身体が熱くなってきた。
「効いてきたようですね」
女が服を脱がせ始めた。
【 国王の視点 】
フレンデェ家の息子の話の後、弟を残して話し合った。
「ガニアン公爵家についてフレンデェが情報を仕入れたのだな」
「そのようですね」
アルシュという宗教国家の中でガニアン公爵家は圧倒的な力を持っていた。騎士も優秀で忠誠心が高い。宗教が絡むと詳しい情報を得るのは難しい。神罰を信じているからだ。そして神を信じるなら悪魔の存在も認める国。神罰の他に悪魔に狙われると強く信じているのだ。だから秘密を売ってはくれない。
忍ばせて仲間のフリをさせても質問した時点で余所者とバレてしまう。階級制度が厳しくて立ち入っていい場所が明確だし、警備兵だけじゃなくて使用人でさえ警戒心が強くて 見張りだらけと同じだと諦めて戻ってくるか音信不通になってしまう。
そんな国の情報を掴んできたのだ。
「リヴィア嬢もいつかは婚姻するとは思っていたが、まさかフレンデェだとは。あの女嫌いのオードリックを あのように本気にさせるなど想像もしていなかった」
「…意外です」
せっかく婚約しても、あまりの冷たさに令嬢たちが根を上げて辞退を申し入れるほどだ。フレンデェとの縁談に重圧があっただろうに それを跳ね除けてでも婚姻したくないと思わせた。
てっきり男色か何か秘密があると思ってはいたが、相応しい女を探していただけだった。
「ヘンリーとは無理だと分かったし カシャ家の息子も同じだろう。だとしたらフレンデェが最良だ。しかも恋に落ちている。女は愛される方がいい。愛されて子を産んで安心して暮らせる方がいい」
「…そうですね」
ヘンリーには決まってから話そう。
パタン
「はぁ」
弟もリヴィアを気に入っているのは知っている。
だが長男の廃嫡によりリヴィアは子を産まないという選択肢はないだろう。親戚から養子をとっても血の薄さによってはリヴィアの子をネルハデス家に戻すかもしれない。
弟は城内で安全に暮らす代償として子を作らないという契約をして迎え入れられた。つまり弟とリヴィアとの婚姻には壁があった。彼女の特殊能力のことを思えば弟と婚姻させて夫婦で務めて欲しかったし弟も喜んだだろう。
それでも、フレンデェが望むならフレンデェを優先させたい。コーネリア嬢を王子妃に迎え、リヴィアをフレンデェに嫁がせれは強固になる。一番は貴族派のカシャ家に取り持ちリヴィアを嫁がせて恩を売る事だったが、過去のあるリヴィアには無理だろうからな。
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