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遅い近況報告
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建国記念日の翌日、お父様とお母様が真剣な顔をして近況報告を促してきた。
「…という感じです」
「はぁ…手紙で伝えてきなさい」
「え?特に変わったことはありませんでした」
「「……」」
2人はヒソヒソと内緒話をし始めた。
「(鈍いのかしら)」
「(公子は堅物だったはずだ。女の口説き方を知らないのでは?)」
「(きっとそうね。でもいい嫁ぎ先だわ)」
「(うちを継がせても構わないのだが、あそこの夫人になるのは至難の業だ。もしかしたら妃より難しい。彼が望んでいるのなら私はいいと思う。リヴィアが嫌がらなければな)」
「(当然あちらですわ。ただし、しっかりとリヴィアのための契約書を交わさなければ嫁にはやりまさんからね)」
「(そうか)」
「(そうですわ。普通の貴族なら何かあっても介入できるけど、あの家門への介入は難しいもの。何かあったときに助けてあげられないわ。だからこそ契約書が重要よ)」
「あの、」
「確認だが、アングラード伯爵とはどうこうなる気はないのだな?」
「友人に昇格しましたが、それ以外はありません」
「カシャ公子とは?」
「学友です」
「婚姻したいとかはないのだな?」
「はい」
巻き戻り前と後とではルネ・カシャの様子が違うからよく分からない。だけど信じちゃいけない。
「ヘンリー王子殿下とも?」
「殿下も選択授業の学友なだけです。無理です」
「遠いアルシュに移住してガニアンに嫁ぐ気も?」
「ありません」
「ならばフレンデェ公爵家と交流を続けなさい。
リヴィアを私的に守ってくださる」
「はい?」
「公子のことは嫌いなの?」
「いえ、いい方です。でも守るとは?」
「ガニアンが望む能力をリヴィアが持っていると思えば何がなんでも自分ものにする可能性があるということだ。結束力の固い宗教国家と渡り合えるのは王家がフレンデェ公爵家くらいだろうということだ。
カシャ家が親戚なら、リヴィアを引き渡す可能性もゼロではないと思う。王家が嫌ならフレンデェ家しかない」
「私のことに巻き込めません」
「公子はね、リヴィアを好意的に思ってくれているようなの。リヴィアさえ良ければ婚約内定をお望みよ」
「…冗談じゃなかった?」
「まだ話していないことがあるようだな」
「話してしまいなさい」
さらに詳細を話すと、お父様達は呆れた顔をした。
「リヴィア…」
「(あなた、公子はちゃんと気持ちを伝えていたわ)」
「(うちの娘が鈍かったのか)」
「(公子をその気にさせたのはリヴィアじゃなくて?)」
「(女に初心な拗れ男を落としたのだな)」
「あの、内緒話が多過ぎません?」
「公子の主張は正しい。リヴィアが彼をその気にさせたんだ」
「はい?そんなつもりはありません」
「誰にも心を開かなかった殿方を弄んだのね」
「お母様っ」
「フレンデェ家と仲良くしなさい。移動や外出は変装でもすればいいわ」
「フレンデェ家と事業提携をしたと噂を流そう。王都にいる子供達に交流させると思わせればいい」
「……」
「どうしても嫌なら無理強いはしないが、アルシュへ行くことになる確率が上がるだけだろう」
「分かりました」
夕方、公子が訪ねてきた。
オ「お招きいただき感謝いたします」
父「ご迷惑かとは思ったのですが」
オ「かまいません。リヴィアとリヴィアのご両親と過ごせるのですから」
母「まあ、遠くからでも美男子でしたのに ここまで近いと目が眩みそうですわ」
オ「ハハッ お嬢様には眩んでもらえませんでした」
母「娘が鈍感なのはよく分かりましたわ」
父「どうぞ中へ」
席は父と母が並び、向かいには私と公子が並んで座った。
食前酒が運ばれてグイッと飲み干した。そしてワインを持ってきてとメイドに頼んだ。
オ「リヴィア、酒は強いのか?」
私「分かりません」
オ「ちゃんと食べ物を胃に入れてからじゃないと駄目だ。今夜はグラス半分にしておきなさい」
私「喉が渇いたんです」
オ「なら水を飲みなさい」
私の手に水の入ったグラスを持たせた。
半分飲むと前菜に手を付けた。
公子を見るとニコニコと私を見ていた。
私「そんなにレディを見つめたら駄目ですよ」
母「いいじゃないの。減るものじゃないのだから」
オ「ありがとうございます、夫人」
母「こんなに非の打ち所がないご令息はいらっしゃらないわよ。誰もが羨むわ」
私「お父様、お母様はオードリック様に乗り換えるつもりみたいです」
父「それは困ったな。太刀打ちできない」
母「私はあなただけですわ」
オ「私もリヴィアだけです。彼女といると楽しいです」
父「リヴィアを可愛がってあげてもらえますか。公爵家とは教育も雲泥の差でしょう。多少のことは大目に見てもらえませんか」
オ「何を仰いますか。彼女はまるで妃教育をしたかのような素晴らしさです」
巻き戻り前にしましたよ。妃教育。
母「お優しいのですね」
オ「ダンスも素晴らしくて驚きました。リヴィアは素敵なレディです。それに可愛い」
終始こんな調子で落ち着かないディナーを済ませた。
お見送りをすると、公子はハンドキスをした。
母にも。
私「本当は遊んでます?夜な夜な夜会に参加して女性達の手に同じことをしているのでは?」
オ「心外だな。心配なら毎夜一緒に寝るか?」
私「お気を付けて」
オ「ハハッ」
送り出した後、お母様がオードリック・フレンデェのファンになったことを知った。
「…という感じです」
「はぁ…手紙で伝えてきなさい」
「え?特に変わったことはありませんでした」
「「……」」
2人はヒソヒソと内緒話をし始めた。
「(鈍いのかしら)」
「(公子は堅物だったはずだ。女の口説き方を知らないのでは?)」
「(きっとそうね。でもいい嫁ぎ先だわ)」
「(うちを継がせても構わないのだが、あそこの夫人になるのは至難の業だ。もしかしたら妃より難しい。彼が望んでいるのなら私はいいと思う。リヴィアが嫌がらなければな)」
「(当然あちらですわ。ただし、しっかりとリヴィアのための契約書を交わさなければ嫁にはやりまさんからね)」
「(そうか)」
「(そうですわ。普通の貴族なら何かあっても介入できるけど、あの家門への介入は難しいもの。何かあったときに助けてあげられないわ。だからこそ契約書が重要よ)」
「あの、」
「確認だが、アングラード伯爵とはどうこうなる気はないのだな?」
「友人に昇格しましたが、それ以外はありません」
「カシャ公子とは?」
「学友です」
「婚姻したいとかはないのだな?」
「はい」
巻き戻り前と後とではルネ・カシャの様子が違うからよく分からない。だけど信じちゃいけない。
「ヘンリー王子殿下とも?」
「殿下も選択授業の学友なだけです。無理です」
「遠いアルシュに移住してガニアンに嫁ぐ気も?」
「ありません」
「ならばフレンデェ公爵家と交流を続けなさい。
リヴィアを私的に守ってくださる」
「はい?」
「公子のことは嫌いなの?」
「いえ、いい方です。でも守るとは?」
「ガニアンが望む能力をリヴィアが持っていると思えば何がなんでも自分ものにする可能性があるということだ。結束力の固い宗教国家と渡り合えるのは王家がフレンデェ公爵家くらいだろうということだ。
カシャ家が親戚なら、リヴィアを引き渡す可能性もゼロではないと思う。王家が嫌ならフレンデェ家しかない」
「私のことに巻き込めません」
「公子はね、リヴィアを好意的に思ってくれているようなの。リヴィアさえ良ければ婚約内定をお望みよ」
「…冗談じゃなかった?」
「まだ話していないことがあるようだな」
「話してしまいなさい」
さらに詳細を話すと、お父様達は呆れた顔をした。
「リヴィア…」
「(あなた、公子はちゃんと気持ちを伝えていたわ)」
「(うちの娘が鈍かったのか)」
「(公子をその気にさせたのはリヴィアじゃなくて?)」
「(女に初心な拗れ男を落としたのだな)」
「あの、内緒話が多過ぎません?」
「公子の主張は正しい。リヴィアが彼をその気にさせたんだ」
「はい?そんなつもりはありません」
「誰にも心を開かなかった殿方を弄んだのね」
「お母様っ」
「フレンデェ家と仲良くしなさい。移動や外出は変装でもすればいいわ」
「フレンデェ家と事業提携をしたと噂を流そう。王都にいる子供達に交流させると思わせればいい」
「……」
「どうしても嫌なら無理強いはしないが、アルシュへ行くことになる確率が上がるだけだろう」
「分かりました」
夕方、公子が訪ねてきた。
オ「お招きいただき感謝いたします」
父「ご迷惑かとは思ったのですが」
オ「かまいません。リヴィアとリヴィアのご両親と過ごせるのですから」
母「まあ、遠くからでも美男子でしたのに ここまで近いと目が眩みそうですわ」
オ「ハハッ お嬢様には眩んでもらえませんでした」
母「娘が鈍感なのはよく分かりましたわ」
父「どうぞ中へ」
席は父と母が並び、向かいには私と公子が並んで座った。
食前酒が運ばれてグイッと飲み干した。そしてワインを持ってきてとメイドに頼んだ。
オ「リヴィア、酒は強いのか?」
私「分かりません」
オ「ちゃんと食べ物を胃に入れてからじゃないと駄目だ。今夜はグラス半分にしておきなさい」
私「喉が渇いたんです」
オ「なら水を飲みなさい」
私の手に水の入ったグラスを持たせた。
半分飲むと前菜に手を付けた。
公子を見るとニコニコと私を見ていた。
私「そんなにレディを見つめたら駄目ですよ」
母「いいじゃないの。減るものじゃないのだから」
オ「ありがとうございます、夫人」
母「こんなに非の打ち所がないご令息はいらっしゃらないわよ。誰もが羨むわ」
私「お父様、お母様はオードリック様に乗り換えるつもりみたいです」
父「それは困ったな。太刀打ちできない」
母「私はあなただけですわ」
オ「私もリヴィアだけです。彼女といると楽しいです」
父「リヴィアを可愛がってあげてもらえますか。公爵家とは教育も雲泥の差でしょう。多少のことは大目に見てもらえませんか」
オ「何を仰いますか。彼女はまるで妃教育をしたかのような素晴らしさです」
巻き戻り前にしましたよ。妃教育。
母「お優しいのですね」
オ「ダンスも素晴らしくて驚きました。リヴィアは素敵なレディです。それに可愛い」
終始こんな調子で落ち着かないディナーを済ませた。
お見送りをすると、公子はハンドキスをした。
母にも。
私「本当は遊んでます?夜な夜な夜会に参加して女性達の手に同じことをしているのでは?」
オ「心外だな。心配なら毎夜一緒に寝るか?」
私「お気を付けて」
オ「ハハッ」
送り出した後、お母様がオードリック・フレンデェのファンになったことを知った。
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