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狙われた王子
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翌日、
特務室の執務室に呼ばれ、昨日の給仕の報告を受けた。まだ普段の勤務の時間ではない。夜明けに近かった。
「あの給仕はシュヴァール王国出身で、アルベリク第二王子のグラスに毒が混入していた。
ということは、我が国の誰かが黒幕ではなく王子の祖国の誰かが王子だけを狙っていることになる。
リヴィア。急だがアルベリク王子についてくれないか。戦闘はしなくていい。何か起きれば逃げるか隠れろ。頼んでもいいか?」
「はい、モロー室長」
厨房を訪れて、朝食を作っている者たちや厨房に出入りする者達の目を見た後は、食事を部屋に運ぶメイド達の目を確認し、アルベリク王子の部屋の外でモロー室長と待った。
食事を終え、メイド達がワゴンを押して退室した。入れ替わるように私達が入室した。
アルベリク王子は裸にガウンを羽織っただけだった。
「失礼」
乱れたガウンを整えた。
「アルベリク王子殿下、おはようございます。朝早くから申し訳ございません。ご報告がございます」
「2人ともかけてくれ」
「「失礼します」」
「何かあったのか?」
「実は、昨夜、殿下の毒殺未遂事件が起こりました」
「私が狙われたのか」
「そのようです。殿下のグラスにだけ猛毒が混入しておりました」
王子が私を見た。
え!? 何で!?
私じゃない!私じゃないから!!
慌てて首を横に振り手も横に振った。
「ククッ」
少し唖然とした後に王子は笑った。
あれ? 命を狙われて笑うの?壊れたのかしら。
「殿下?」
「モロー室長の部下は面白いな。ククッ」
私で笑ったの!?
「まあ そうですね」
室長 酷い。
「それで?」
「給仕の男はシュヴァールの者でした」
「なるほどな。迷惑をかけた」
「実は、彼女は自分に対する悪意を見抜けます」
「……見抜く?」
「多分、昨夜の晩餐で給仕がおかしいと見抜けたのは、刺客がいざという時に、彼女を含む兵士と戦う可能性を考えながら給仕をしていたからでしょう」
「そうか。ありがとうネルハデス卿」
「彼女に害意や敵意を向けないと、彼女には分かりませんが、彼女が反応する者には大抵は何かあります。身辺調査をすると小さなことから大きなことまで罪を犯しています。的中率はほぼ100%。彼女は優秀です。
そこで滞在中、彼女を側に置きませんか。
刺客が彼女に害意を向けなければ意味はありませんが、昨夜のように役立つ可能性もあります。
彼女は戦えませんので、いざという時は逃げるか隠れろと指示をしております。戦闘時は無駄に殺されるか足手纏いになりかねませんから。
いかがでしょう。気乗りしないようでしたら断っていただいても構いません」
「お願いしてもいいだろか」
「かしこまりました。
その代わり、一つ約束をしていただきたいのです」
「何かな」
「誰にもネルハデス卿の秘密を漏らさないこと。王女殿下にもシュヴァール国王陛下にも」
「私の護衛にもか?」
「はい」
「手遅れだ。クレマン」
王子が名を呼ぶと物陰から人が出てきた。
「ひっ!」
思わず声が出てしまった。怖かったんだもの。
クレマンと呼ばれて出てきた男は私をじっと見た。
心の中で謝った。“ごめんなさい、ごめんなさい”
「ククッ、クレマン。怯えているからこっちに来て自己紹介をしてくれ」
彼は全く音を立てずに王子の側へ移動した。
「クレマンと申します。姓はありません。
アルベリク王子殿下専属の護衛をしております」
彼がまた私をじっと見た。
「リ、リヴィア・ネルハデスですっ
本職の方ですね、よろしくお願いしますっ」
「ハハッ すまないね。クレマンは優秀だが人付き合いはちょっと。だが他言する相手がいないから大丈夫だ」
クレマン卿の目を見ても歪んでいない。
まあ、見えるのは目だけ。覆面をしているから分からない。だけど綺麗な人なのだろう。
「それと彼は火傷の痕があって覆面をしている。普通の任務の時は甲冑で分からない」
クレマン卿は覆面の首元を捲って見せた。広範囲に
瘢痕化していることが分かった。
「激しい痛みだったのでしょう」
「…そうですね」
手を挙げてメイドに命じた。
「こちらの卿が滞在中には念の為に冷たい飲み物もお出しして差し上げて。果実水とか」
「かしこまりました」
「何故冷たい飲み物と?」
「いつも覆面を被っていて、時には甲冑を身に纏っていては暑いに決まっています。冷える布がこの世に存在していれば良いのですか、私には冷たい飲み物をお出しするようお願いするしか出来ません」
「……」
「モロー室長、納得した。ぜひネルハデス卿に頼みたい。戦闘能力は無いのだな?」
「皆無です」
「分かった。ネルハデス…いやリヴィアでいいな。
よろしく頼む」
「微力ながら尽力いたします」
一度戻って朝食を済ませ、王太子殿下夫妻に報告した。
【 アルベリク王子の視点 】
特別な能力持ちと、クレマンの火傷の痕を見ても嫌がらないし、痛みに寄り添う姿勢を見せた。
「争奪戦だったはずだが、婚約者も作らず学園を卒業してもうすぐ3年と言っていたな。
ロナード、リヴィア・ネルハデスについて探れるか」
「やってみますが、無理だと思います。先程の室長か王太子殿下か本人に聞くことになると思います」
特務室の執務室に呼ばれ、昨日の給仕の報告を受けた。まだ普段の勤務の時間ではない。夜明けに近かった。
「あの給仕はシュヴァール王国出身で、アルベリク第二王子のグラスに毒が混入していた。
ということは、我が国の誰かが黒幕ではなく王子の祖国の誰かが王子だけを狙っていることになる。
リヴィア。急だがアルベリク王子についてくれないか。戦闘はしなくていい。何か起きれば逃げるか隠れろ。頼んでもいいか?」
「はい、モロー室長」
厨房を訪れて、朝食を作っている者たちや厨房に出入りする者達の目を見た後は、食事を部屋に運ぶメイド達の目を確認し、アルベリク王子の部屋の外でモロー室長と待った。
食事を終え、メイド達がワゴンを押して退室した。入れ替わるように私達が入室した。
アルベリク王子は裸にガウンを羽織っただけだった。
「失礼」
乱れたガウンを整えた。
「アルベリク王子殿下、おはようございます。朝早くから申し訳ございません。ご報告がございます」
「2人ともかけてくれ」
「「失礼します」」
「何かあったのか?」
「実は、昨夜、殿下の毒殺未遂事件が起こりました」
「私が狙われたのか」
「そのようです。殿下のグラスにだけ猛毒が混入しておりました」
王子が私を見た。
え!? 何で!?
私じゃない!私じゃないから!!
慌てて首を横に振り手も横に振った。
「ククッ」
少し唖然とした後に王子は笑った。
あれ? 命を狙われて笑うの?壊れたのかしら。
「殿下?」
「モロー室長の部下は面白いな。ククッ」
私で笑ったの!?
「まあ そうですね」
室長 酷い。
「それで?」
「給仕の男はシュヴァールの者でした」
「なるほどな。迷惑をかけた」
「実は、彼女は自分に対する悪意を見抜けます」
「……見抜く?」
「多分、昨夜の晩餐で給仕がおかしいと見抜けたのは、刺客がいざという時に、彼女を含む兵士と戦う可能性を考えながら給仕をしていたからでしょう」
「そうか。ありがとうネルハデス卿」
「彼女に害意や敵意を向けないと、彼女には分かりませんが、彼女が反応する者には大抵は何かあります。身辺調査をすると小さなことから大きなことまで罪を犯しています。的中率はほぼ100%。彼女は優秀です。
そこで滞在中、彼女を側に置きませんか。
刺客が彼女に害意を向けなければ意味はありませんが、昨夜のように役立つ可能性もあります。
彼女は戦えませんので、いざという時は逃げるか隠れろと指示をしております。戦闘時は無駄に殺されるか足手纏いになりかねませんから。
いかがでしょう。気乗りしないようでしたら断っていただいても構いません」
「お願いしてもいいだろか」
「かしこまりました。
その代わり、一つ約束をしていただきたいのです」
「何かな」
「誰にもネルハデス卿の秘密を漏らさないこと。王女殿下にもシュヴァール国王陛下にも」
「私の護衛にもか?」
「はい」
「手遅れだ。クレマン」
王子が名を呼ぶと物陰から人が出てきた。
「ひっ!」
思わず声が出てしまった。怖かったんだもの。
クレマンと呼ばれて出てきた男は私をじっと見た。
心の中で謝った。“ごめんなさい、ごめんなさい”
「ククッ、クレマン。怯えているからこっちに来て自己紹介をしてくれ」
彼は全く音を立てずに王子の側へ移動した。
「クレマンと申します。姓はありません。
アルベリク王子殿下専属の護衛をしております」
彼がまた私をじっと見た。
「リ、リヴィア・ネルハデスですっ
本職の方ですね、よろしくお願いしますっ」
「ハハッ すまないね。クレマンは優秀だが人付き合いはちょっと。だが他言する相手がいないから大丈夫だ」
クレマン卿の目を見ても歪んでいない。
まあ、見えるのは目だけ。覆面をしているから分からない。だけど綺麗な人なのだろう。
「それと彼は火傷の痕があって覆面をしている。普通の任務の時は甲冑で分からない」
クレマン卿は覆面の首元を捲って見せた。広範囲に
瘢痕化していることが分かった。
「激しい痛みだったのでしょう」
「…そうですね」
手を挙げてメイドに命じた。
「こちらの卿が滞在中には念の為に冷たい飲み物もお出しして差し上げて。果実水とか」
「かしこまりました」
「何故冷たい飲み物と?」
「いつも覆面を被っていて、時には甲冑を身に纏っていては暑いに決まっています。冷える布がこの世に存在していれば良いのですか、私には冷たい飲み物をお出しするようお願いするしか出来ません」
「……」
「モロー室長、納得した。ぜひネルハデス卿に頼みたい。戦闘能力は無いのだな?」
「皆無です」
「分かった。ネルハデス…いやリヴィアでいいな。
よろしく頼む」
「微力ながら尽力いたします」
一度戻って朝食を済ませ、王太子殿下夫妻に報告した。
【 アルベリク王子の視点 】
特別な能力持ちと、クレマンの火傷の痕を見ても嫌がらないし、痛みに寄り添う姿勢を見せた。
「争奪戦だったはずだが、婚約者も作らず学園を卒業してもうすぐ3年と言っていたな。
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