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アルベリク王子が作った溝
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モロー室長の元へ向かっている途中、オードリック様と出会してしまった。
「お疲れ様です」
「待ってくれ リヴィア」
腕を掴まれてしまった。
「こちらに宿泊のようですね。公子は既婚者です。このようなことは困ります」
「何かあったのか?」
「え?」
「顔から怒りが滲み出ていた」
「あ…大丈夫です。何でもありません」
「まさか、あの第二王子に何かされたのか!?」
「違います。シュヴァールで働かないかとお声がけがあっただけで断りました。問題ありません」
「何かあったら、」
「公子。お止めください。夫人の瞳孔が歪みだして危険です」
「ハンナが?」
「はい」
「何故だ?」
この人は私以外の女性に対してすごく鈍感だわ。
「ハンナ様は以前から公子をお慕いしていたはずです。学園に通っていた3年生の頃、彼女は私に良い感情をお持ちではありませんでした。彼女はコーネリア様の友人という事でしたので、当時は ヘンリー殿下とコーネリア様の邪魔をする女として敵と見られていたのだと思っておりました。
ですが、公子とハンナ様が婚姻して分かりました。彼女は公子と私の間柄に腹を立てていたのだと。会う度に歪みは増していきます。
いくらフレンデェ公爵家に嫁いだ方でも、私に害をなせば無事では済みません。この世界が許したとしても私に能力を授けたモノは夫人を追い詰めます。
公子、今後はもう、ん!!」
誰が見ているかもわからない廊下でキスをされた。
顔を背けて公子の胸を叩いた。
「正気ですか!」
「この前は応じてくれたじゃないか。私とのキスは嫌じゃなかったはずだ」
「私の立場も考えてください!」
「(頬を打て)」
「はい?」
「(早く私の頬を打て!これは作戦だ!)」
パチン
「全く痛くないが仕方ない。目撃者には痛さまで分からないだろう」
「はい!?」
「言っておくがキスしたいからした。あの日は全く酔っていない。今もな。私はかなり酒に強い。コーネリアもだ。おやすみ」
全く分からないオードリック様の言動に悩まされながら室長の元へ向かった。すっかりアルベリク王子への怒りは消えてしまった。
翌日、アルベリク王子は謝罪をしていた。
ア「反省しています。申し訳ありませんでした」
国王陛下、王太子殿下、モロー室長、私の前で深々と頭を下げた。
ヘ「大事なリヴィアをアルベリク王子殿下に就けたのは私です。彼女は特別だと説明したのに引き抜きなど、裏切りと言われてもおかしくありませんよ」
モ「リヴィアが断っていなければどうなっていたと?」
ア「リ、ネルハデス卿があまりにも素晴らしく、シュヴァールにいてくれたらと夢を見てしまいました。お許しください」
陛「コーネリアは簡単にどうこうできる女性ではない。帰国予定日にジェルメーヌ王女を連れて跡を濁さず去って欲しい」
ア「それはどういう」
陛「ジェルメーヌ王女の留学は取り消させてもらう。もちろん縁談も受け付けない」
ア「陛下、」
陛「あのような策略を其方の権限で口にして良かったのかな?アルベリク王子」
ア「失言でした」
陛「其方は第二王子。シュヴァール王国を代表して来ているのではないか?そして成人し学園も卒業し妻子ある立派な大人だ。善悪の判断がついてもいいはずだし責任も取れるはずだ。
王太子妃を軽く見て其方の一存で挿げ替えることが出来ると思っている国とは友好的な関係は難しい。
それを許せば国が荒れる。フレンデェ公爵家は王家を支える筆頭で、コーネリアはフレンデェの大事な娘なのだ。敵対するつもりはないが、一歩引いた関係が丁度良いだろう」
ア「挽回のチャンスをいただけませんか」
陛「簡単に挽回などと口にすると己の首を絞めることになるぞ。この溝を埋めることができなければ逆に溝は深まるだろう」
ア「っ!」
陛「では、ジェルメーヌ王女に其方の口から説明してくれ。リヴィアは戻さない。コーネリアの側に戻す。以上だ」
まさかこんな大事になるとは思わなかった。全部報告するのはまずかったみたい。
だけどコーネリア様のことは守れる結果になった。複雑だわ。
3日後に開かれたパーティは留学に来るジェルメーヌ王女との事前交流のために計画されたものだった。留学の取り消しと婚約は望めないと知った王女の落ち込みは酷かった。
私を見かけて泣き付くほど。
どうやらジェルメーヌ王女は本気で私を気に入ってくれたようだ。
だから前夜に王女の部屋を訪ねた。
『リヴィア…』
王女は涙を浮かべ枕を抱えていた。
『ジェルメーヌ王女殿下、明日は当初よりもより重要なパーティとなります。歓迎、もしくは交流パーティから修復パーティに変わってしまいました。
留学が無くなってしまいましたが、王女としての務めを果たさなければなりません。
王女殿下が笑顔で出席し、参加する貴族達と仲良くできればアルベリク王子殿下の助けとなるでしょう』
『お兄様が変なことを言うからよ。何で私が被害に遭うの!?』
『巻き添えのようにも思えますが連帯責任からは逃れられません。
これから大変なのはアルベリク王子殿下です。帰国後、この責任を厳しく問われるでしょう。優しいジェルメーヌ王女殿下なら、どうしたら最善かお分かりになりますね?』
『その代わり、会場で気にかけてね』
『コーネリア王太子妃殿下についていますが、時折目を配ります』
『ありがとう』
だから、王女は集まった来賓に笑顔で接した。
少し奔放な雰囲気があったが しっかりと受けてきた教育を発揮した。
入場前に貴族達には“王女の留学は取り消しになったからその話には触れないように”と説明した。
このまま無事に終わってくれたらいいと願っていたのに。
コーネリア様がお花摘みに向かう時、会場を出てすぐ背後から名を叫ばれた。
「リヴィア・ネルハデス!!」
振り向こうとしたけど後ろから髪を掴まれて引き倒された。
コ「リヴィア!」
オ「リヴィア!」
ハ「オードリック様は私の夫なの!次期公爵夫人は私なの!なのに未だに色目を使って、私の夫にキスまで、キャア!」
私の髪を掴んで放さないハンナ様の手を解こうと オードリック様が左手を解いたところで聞いたことのない音がした。
ゴキっ
「ギャアアアアッ!!」
振り向くと会場の扉は閉められて、アルベリク王子と側近が扉が開かないようにしてくれていた。
そしてクレマン卿がハンナ様をうつ伏せにして腕を捻り膝で背中を押さえ付けていた。
オ「リヴィア、怪我は」
コ「リヴィア、医務室に行きましょう」
私「大丈夫です、それより」
ハンナ様は泣き叫んでいた。
ア「クレマン、退いていい」
ハ「腕が!腕が!!」
彼女の片腕はブランとして糸の切れた操り人形のようだった。
「お疲れ様です」
「待ってくれ リヴィア」
腕を掴まれてしまった。
「こちらに宿泊のようですね。公子は既婚者です。このようなことは困ります」
「何かあったのか?」
「え?」
「顔から怒りが滲み出ていた」
「あ…大丈夫です。何でもありません」
「まさか、あの第二王子に何かされたのか!?」
「違います。シュヴァールで働かないかとお声がけがあっただけで断りました。問題ありません」
「何かあったら、」
「公子。お止めください。夫人の瞳孔が歪みだして危険です」
「ハンナが?」
「はい」
「何故だ?」
この人は私以外の女性に対してすごく鈍感だわ。
「ハンナ様は以前から公子をお慕いしていたはずです。学園に通っていた3年生の頃、彼女は私に良い感情をお持ちではありませんでした。彼女はコーネリア様の友人という事でしたので、当時は ヘンリー殿下とコーネリア様の邪魔をする女として敵と見られていたのだと思っておりました。
ですが、公子とハンナ様が婚姻して分かりました。彼女は公子と私の間柄に腹を立てていたのだと。会う度に歪みは増していきます。
いくらフレンデェ公爵家に嫁いだ方でも、私に害をなせば無事では済みません。この世界が許したとしても私に能力を授けたモノは夫人を追い詰めます。
公子、今後はもう、ん!!」
誰が見ているかもわからない廊下でキスをされた。
顔を背けて公子の胸を叩いた。
「正気ですか!」
「この前は応じてくれたじゃないか。私とのキスは嫌じゃなかったはずだ」
「私の立場も考えてください!」
「(頬を打て)」
「はい?」
「(早く私の頬を打て!これは作戦だ!)」
パチン
「全く痛くないが仕方ない。目撃者には痛さまで分からないだろう」
「はい!?」
「言っておくがキスしたいからした。あの日は全く酔っていない。今もな。私はかなり酒に強い。コーネリアもだ。おやすみ」
全く分からないオードリック様の言動に悩まされながら室長の元へ向かった。すっかりアルベリク王子への怒りは消えてしまった。
翌日、アルベリク王子は謝罪をしていた。
ア「反省しています。申し訳ありませんでした」
国王陛下、王太子殿下、モロー室長、私の前で深々と頭を下げた。
ヘ「大事なリヴィアをアルベリク王子殿下に就けたのは私です。彼女は特別だと説明したのに引き抜きなど、裏切りと言われてもおかしくありませんよ」
モ「リヴィアが断っていなければどうなっていたと?」
ア「リ、ネルハデス卿があまりにも素晴らしく、シュヴァールにいてくれたらと夢を見てしまいました。お許しください」
陛「コーネリアは簡単にどうこうできる女性ではない。帰国予定日にジェルメーヌ王女を連れて跡を濁さず去って欲しい」
ア「それはどういう」
陛「ジェルメーヌ王女の留学は取り消させてもらう。もちろん縁談も受け付けない」
ア「陛下、」
陛「あのような策略を其方の権限で口にして良かったのかな?アルベリク王子」
ア「失言でした」
陛「其方は第二王子。シュヴァール王国を代表して来ているのではないか?そして成人し学園も卒業し妻子ある立派な大人だ。善悪の判断がついてもいいはずだし責任も取れるはずだ。
王太子妃を軽く見て其方の一存で挿げ替えることが出来ると思っている国とは友好的な関係は難しい。
それを許せば国が荒れる。フレンデェ公爵家は王家を支える筆頭で、コーネリアはフレンデェの大事な娘なのだ。敵対するつもりはないが、一歩引いた関係が丁度良いだろう」
ア「挽回のチャンスをいただけませんか」
陛「簡単に挽回などと口にすると己の首を絞めることになるぞ。この溝を埋めることができなければ逆に溝は深まるだろう」
ア「っ!」
陛「では、ジェルメーヌ王女に其方の口から説明してくれ。リヴィアは戻さない。コーネリアの側に戻す。以上だ」
まさかこんな大事になるとは思わなかった。全部報告するのはまずかったみたい。
だけどコーネリア様のことは守れる結果になった。複雑だわ。
3日後に開かれたパーティは留学に来るジェルメーヌ王女との事前交流のために計画されたものだった。留学の取り消しと婚約は望めないと知った王女の落ち込みは酷かった。
私を見かけて泣き付くほど。
どうやらジェルメーヌ王女は本気で私を気に入ってくれたようだ。
だから前夜に王女の部屋を訪ねた。
『リヴィア…』
王女は涙を浮かべ枕を抱えていた。
『ジェルメーヌ王女殿下、明日は当初よりもより重要なパーティとなります。歓迎、もしくは交流パーティから修復パーティに変わってしまいました。
留学が無くなってしまいましたが、王女としての務めを果たさなければなりません。
王女殿下が笑顔で出席し、参加する貴族達と仲良くできればアルベリク王子殿下の助けとなるでしょう』
『お兄様が変なことを言うからよ。何で私が被害に遭うの!?』
『巻き添えのようにも思えますが連帯責任からは逃れられません。
これから大変なのはアルベリク王子殿下です。帰国後、この責任を厳しく問われるでしょう。優しいジェルメーヌ王女殿下なら、どうしたら最善かお分かりになりますね?』
『その代わり、会場で気にかけてね』
『コーネリア王太子妃殿下についていますが、時折目を配ります』
『ありがとう』
だから、王女は集まった来賓に笑顔で接した。
少し奔放な雰囲気があったが しっかりと受けてきた教育を発揮した。
入場前に貴族達には“王女の留学は取り消しになったからその話には触れないように”と説明した。
このまま無事に終わってくれたらいいと願っていたのに。
コーネリア様がお花摘みに向かう時、会場を出てすぐ背後から名を叫ばれた。
「リヴィア・ネルハデス!!」
振り向こうとしたけど後ろから髪を掴まれて引き倒された。
コ「リヴィア!」
オ「リヴィア!」
ハ「オードリック様は私の夫なの!次期公爵夫人は私なの!なのに未だに色目を使って、私の夫にキスまで、キャア!」
私の髪を掴んで放さないハンナ様の手を解こうと オードリック様が左手を解いたところで聞いたことのない音がした。
ゴキっ
「ギャアアアアッ!!」
振り向くと会場の扉は閉められて、アルベリク王子と側近が扉が開かないようにしてくれていた。
そしてクレマン卿がハンナ様をうつ伏せにして腕を捻り膝で背中を押さえ付けていた。
オ「リヴィア、怪我は」
コ「リヴィア、医務室に行きましょう」
私「大丈夫です、それより」
ハンナ様は泣き叫んでいた。
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