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続編:ヒューゴの結婚
増える家族
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「俺がついてるからな」
「奥様、呼吸を忘れてはいけません」
ついに陣痛が始まった。
予定より1ヶ月早い。
「痛い~!!死ぬぅ!!」
そりゃそうだ。こんなに大きくなった胎の中身がこの細い腰とあの狭い膣を通って出てくるんだ、痛いに決まってる。これは拷問だ。
「駄目ですね、切り替えましょう」
医者がそう言うと彼女は眠らされた。
「ではヒューゴ様は外へ」
「俺も立ち会う」
「腹を切って中の胎児を取り出すのですよ!?」
「俺はジオ家の嫡男だぞ」
「かしこまりました。では私達と同じ準備をしていただきます」
帽子を被り手袋をはめ、衣をすっぽり被った。
「では」
クリスティーナの美しい腹に刃物が当てられ皮膚と肉を割っていく。
子宮が見えた。
俺の子が2人も中に……
「ヒューゴ様、下がってください、涙が入ったら大変です」
「す、すまない」
本当に俺は役立たずだ。大事なときに泣いて邪魔をするなんて。だけど嬉しくてたまらない。今までクリスティーナからもらった喜びとは違う別の喜びに胸がいっぱいになる。
「オギャア!」
「オギャア!」
生きてる!2人とも生きてる!!
「ヒューゴ様、兄妹ですよ」
「そうか……ありがとう」
問題はクリスティーナだ。処置を終えた彼女には当面24時間の看護が付いた。
発熱に肝を冷やしたが、順調に回復し1ヶ月後に散歩を再開する頃には既に腹は切ったとわからないほど綺麗に治った。
「「あう~」」
俺にそっくりの双子は全てが同時。平民の家庭で双子を育てるのは大変だ。うちは乳母2人とメイド達が世話をするからいいが、いなかったらと思うと。何故出産後に幸せに包まれていたはずの母親が自死を選ぶことがあるのか少し理解できた。ほとんどのことが母親にのしかかることが要因の1つだろう。
「ミャウ ミャウ」
「可愛い!!」
ジュエルが6匹の子猫を産んだ。既に1匹はセルヴィー家、エルザ王子妃に1匹、モルゾン家に1匹、バノアの王家に2匹譲ることが決まっている。
彼女は1匹たりとも手放したくないと抵抗していた。だが、合わせて8匹もこんなに大きな猫は飼えない。広さ的には飼えるがペット用の別棟を建てることになる。使用人の中にもアレルギー持ちが何人かいるし、8匹もいたら気をつけていてもあちらこちらに毛を運んでしまうし、猫達の運動量は戯れる相手が多いほど多くなるし、来客を通す区域に忍び込んで問題を起こすかもしれない。大きすぎる猫に驚いて貴族夫人が転倒し怪我でもしたら大事だ。
クリスティーナが渋々諦めて選んだのが雌のシュガーだ。6匹の中で少し足が短めで可愛いと選んだ。
双子のレミオスとクリスタの1歳の祝いを内輪でするはずが、殿下とエルザ王子妃とその子ども達、ゼインとジネット夫人とその子ども達が勝手に集まった。
「招待していないのにようこそ」
「すまないな、ヒューゴ」
「招待しろよな」
「うちの嫁はどこ!」
「うちの嫁よ!」
既にクリスタ争奪戦が勃発しているが、俺に似ていると知って2人は少しガッカリしている。失礼過ぎやしないか?
セルヴィー伯爵はレミオスをオモチャにしているし、クリスタは伯爵令息の膝の上から退かない。
「クリスタはお兄様が好みなのね」
「1歳なのに慧眼を持っているのかしら」
「違うわジネット、クリスタはメンクイなのよ」
「もう少し早く生まれていたら、セルヴィー家に嫁いだのに」
「私もよ」
こらこら、ジネット夫人はともかくエルザ王子妃はまずいだろう。
殿下をチラッと見ると王子の仮面を数秒外して驚愕していた。
「駄目よ、お兄様は私のものよ」
さぞかしご満悦だろう。女3人と幼女から好かれて。
「可愛いクリスティーナ」
「お兄様♡」
今度は俺が殿下とゼインから哀れみの目を向けられた。
双子が3歳になる頃にははっきりと向き不向きが露見した。
ジオ家の血を色濃く継いだのは娘クリスタの方で、剣を握ると言い張っているし、レミオスは倉庫や宝物庫に入り浸ってはじっくりと眺めている。
2人とも学習能力が高いが、クリスタの方は兵士達の鍛錬を見たくて落ち着きがない。レミオスは教師に質問攻めだ。
双子が5歳になる頃に男児アーサーが、双子が7歳になった後に女児セリーヌが生まれた。
アーサーはジオ家の血を色濃く継ぎ、セリーヌは容姿がクリスティーナそっくりの大人しい子だった。
跡継ぎはアーサーとなるだろう。夫婦で話し合い、子作りは卒業することになった。
これからは悪阻中の禁欲がなくなる。産後の禁欲もしなくていい。
クリスティーナの身体は、一度の帝王切開と二度の自然分娩を経験したとは思えないほど以前と変わらない。
エルザ王子妃やジネット夫人が会う度に、何故彼女だけ老けないのかと不思議そうに触れまくる。
双子だから妊娠線はしっかりつくだろうと言われたがそれも無く、ありがちと言われた緩みもない。
十数日から1ヶ月程度の討伐から戻ると彼女は積極的だ。戻った最初の夜に俺の上で快楽を求めつつ的確に搾り取る。
「すまない、もうっ…」
「フフッ」
支配されているのは俺の方だ。
「愛してるよ」
「足りたないわ」
そのくせに、仕事となると俺を放置して出掛けてしまう。
「君が根を上げるまで止めないからな」
跨っていた彼女をベッドに寝かせて覆い被さった。
サブマ草、俺にも効いてくれないかな。精力剤にはならないだろうな。いつか役立たずという目で見られる日が来るだろう。
結局長女クリスタはエルザ王子妃の息子と婚約、セリーヌはジネット夫人の末息子と婚約した。
長男レミオスはセルヴィーの事業を一緒に担う分家に婿入りすることを選んだ。先方は激しく萎縮していた。
アーサーは誰も選ばない。昔の俺によく似ている。きっと俺のように1人の女に恋をするのだろう。それまで気長に待つしかない。
「ヒューゴ、クリスタ嬢は少々お転婆に育てすぎではないか?」
「知っていてクリスタを望んだのは殿下とエルザ王子妃様だろう」
先日、クリスタが下位貴族の令息を虐めていた侯爵令息の腕を捻り上げ、足を掛けて地面にうつ伏せに倒して上から乗ったことを聞いたのだろう。
「そうだけど」
「あれ以来、侯爵家の息子は大人しくなりクリスタのストーカーと化したと聞いているぞ」
「は?」
「刺激が強かったらしい。変わった性癖に目覚めさせたようだ」
クリスタは制服のスカートのまま令息の首と頭部辺りに跨り腰を下ろした。抵抗しなくなったのでクリスタが退くと令息の顔は紅潮し瞳は潤んでいた。その日以来、令息はクリスタを追いかけ回しているらしい。登校時は馬車の停車場で待ち、昼は食堂でクリスタの側に座り、贈り物を渡そうとするとレミオスが教えてくれた。
「家門間に問題はない」
違う意味で問題になりそうだがな。
「シルベスト殿下は大丈夫か?」
殿下達の息子でありクリスタの婚約者のことだ。エルザ王子妃に似てかなりの美男子だが中身は気が弱い。
「オロオロしていたのはそのせいなのだな」
2つ歳上のシルベスト殿下はクリスタが好きらしい。奥手で恥ずかしがり屋でチラチラとしかクリスタを見ることができない。婚約パーティでダンスを踊らせたら盛大にミスを繰り返して転倒した。それからはクリスタがシルベスト殿下を操り人形を扱うようにリードして踊っている。
彼はパーティの夜から熱を出し寝込んだ。手に触れ近くに寄りダンスを踊った恥ずかしさと、ダンスの失態への恥ずかしさからしばらく部屋から出てこなかったと聞いた。
その殿下は危機感を覚えたらしい。
「うかうかしていると盗られるぞ」
2日後
「お父様!!」
「何だ」
「シルベストに何を言ったんですか!」
「何も?」
学園から帰るとクリスタは顔を真っ赤にして怒鳴り込んできた。
後から入室したレミオスの言葉に状況が追いついた。
「シルベスト殿下が一年生の僕達の教室に入ってきて、いきなりクリスタにキスをしたんです。“僕の唇を奪った責任を取ってくれ”とか“お父上によろしく”とか言い残して去りました」
ああ、殿下がありのまま息子に伝えて、盗られると思ったシルベスト殿下が暴走したのだな。
しかし、クリスタもまんざらではなかったのだな。相思相愛らしい。
「俺のせいじゃない。クリスタがストーカーをこしらえるせいだろう」
「私のせいですか!?」
「積極的なストーカーが現れて、シルベスト殿下は愛しの婚約者を盗られると思ったんだろう。責任を取ってやれ」
「なっ!!」
クリスタは首まで真っ赤になった。
生きている間に2人の孫を見ることが叶うのかなどと思っていたが……
クリスタの卒業を2ヶ月後に控えた頃、クリスタが体調を崩した。
「ヒューゴ様、落ち着いて聞いてください」
医者が言い辛そうに前置きをした。まさか難病!?
「ご懐妊です」
「は?」
「悪阻です」
「……シルベスト~!!!!!」
殿下とエルザ王子妃は息子シルベスト殿下を連れて訪問。シルベスト王子は土下座。
教室で唇を奪って以来、彼はクリスタにアプローチしては発熱を繰り返しながら免疫を付けていき、最終的に去年の中頃にはデートに連れ出した先でクリスタに迫って結ばれた。それ以来所構わず盛っていたらしい。
一度だけ、遠出先の宿で避妊薬を用意させたがそれが効かなかったと推定された。粗悪品だったか単なる水か何かだったのか。
「あいつがしつこいから……」
ストーカーが諦めないらしく、既に卒業した彼は体を繋げることでクリスタを繋ぎ止めたかったようだ。
腕もある、脚も折れてない。歯もはえてるし顔の形も変わっていない。つまり無理矢理ではなくクリスタは合意をしたということになる。
「卒業後、悪阻か落ち着いたら式を挙げてくれ。悪阻はしばらく続くかもしれないし今月で終わるかもしれない。急ぎで間に合わないなんて言葉は聞きたくないぞ」
「急いで準備させよう。シルベストをクリスタに会わせてやってくれないか」
俺の監視付きでクリスタに会わせたが、彼がクリスタを愛していることが表情からも感じ取れた。優しく頬に触れ頭にキスを落とし、腹にもキスをした。
「嬉しいよ。僕とクリスタの愛の結晶だ」
「でも、結婚も卒業もしてないのに」
「僕が無理に君を抱いたと説明する。君は逆らえなかった」
「そんな嘘をつかなくても」
「矢面に立つのは男の役目だ。非難も僕1人が受ければいい。男なら当たり前の判断なんだ。クリスタ、どうか言う通りにしてくれないか?」
「はい」
お転婆のクリスタが何故シルベスト殿下との婚約を嫌がらなかったのかやっと理由がわかった。彼は強いんだ。
俺がクリスティーナの内面の強さに惹かれたように、クリスタは彼のこういう強さを見抜いていたんだな。
後に仕事で屋敷を空けていたクリスティーナが戻り、事態を知るとクリスタを叱っていた。
だがレミオスが間に入り落ち着かせた。
アーサーは“始末したくなったら声を掛けて”と言い、セリーヌは久しぶりに彼女の膝の上に乗って甘え出した。
それぞれが個々の性格をいかして家族の調和を取っていると感心した。
王家は隠すことなくクリスタの懐妊を発表。シルベスト殿下が罰を受けることで、婚前妊娠の非が彼にあることを世に知らしめた。
「奥様、呼吸を忘れてはいけません」
ついに陣痛が始まった。
予定より1ヶ月早い。
「痛い~!!死ぬぅ!!」
そりゃそうだ。こんなに大きくなった胎の中身がこの細い腰とあの狭い膣を通って出てくるんだ、痛いに決まってる。これは拷問だ。
「駄目ですね、切り替えましょう」
医者がそう言うと彼女は眠らされた。
「ではヒューゴ様は外へ」
「俺も立ち会う」
「腹を切って中の胎児を取り出すのですよ!?」
「俺はジオ家の嫡男だぞ」
「かしこまりました。では私達と同じ準備をしていただきます」
帽子を被り手袋をはめ、衣をすっぽり被った。
「では」
クリスティーナの美しい腹に刃物が当てられ皮膚と肉を割っていく。
子宮が見えた。
俺の子が2人も中に……
「ヒューゴ様、下がってください、涙が入ったら大変です」
「す、すまない」
本当に俺は役立たずだ。大事なときに泣いて邪魔をするなんて。だけど嬉しくてたまらない。今までクリスティーナからもらった喜びとは違う別の喜びに胸がいっぱいになる。
「オギャア!」
「オギャア!」
生きてる!2人とも生きてる!!
「ヒューゴ様、兄妹ですよ」
「そうか……ありがとう」
問題はクリスティーナだ。処置を終えた彼女には当面24時間の看護が付いた。
発熱に肝を冷やしたが、順調に回復し1ヶ月後に散歩を再開する頃には既に腹は切ったとわからないほど綺麗に治った。
「「あう~」」
俺にそっくりの双子は全てが同時。平民の家庭で双子を育てるのは大変だ。うちは乳母2人とメイド達が世話をするからいいが、いなかったらと思うと。何故出産後に幸せに包まれていたはずの母親が自死を選ぶことがあるのか少し理解できた。ほとんどのことが母親にのしかかることが要因の1つだろう。
「ミャウ ミャウ」
「可愛い!!」
ジュエルが6匹の子猫を産んだ。既に1匹はセルヴィー家、エルザ王子妃に1匹、モルゾン家に1匹、バノアの王家に2匹譲ることが決まっている。
彼女は1匹たりとも手放したくないと抵抗していた。だが、合わせて8匹もこんなに大きな猫は飼えない。広さ的には飼えるがペット用の別棟を建てることになる。使用人の中にもアレルギー持ちが何人かいるし、8匹もいたら気をつけていてもあちらこちらに毛を運んでしまうし、猫達の運動量は戯れる相手が多いほど多くなるし、来客を通す区域に忍び込んで問題を起こすかもしれない。大きすぎる猫に驚いて貴族夫人が転倒し怪我でもしたら大事だ。
クリスティーナが渋々諦めて選んだのが雌のシュガーだ。6匹の中で少し足が短めで可愛いと選んだ。
双子のレミオスとクリスタの1歳の祝いを内輪でするはずが、殿下とエルザ王子妃とその子ども達、ゼインとジネット夫人とその子ども達が勝手に集まった。
「招待していないのにようこそ」
「すまないな、ヒューゴ」
「招待しろよな」
「うちの嫁はどこ!」
「うちの嫁よ!」
既にクリスタ争奪戦が勃発しているが、俺に似ていると知って2人は少しガッカリしている。失礼過ぎやしないか?
セルヴィー伯爵はレミオスをオモチャにしているし、クリスタは伯爵令息の膝の上から退かない。
「クリスタはお兄様が好みなのね」
「1歳なのに慧眼を持っているのかしら」
「違うわジネット、クリスタはメンクイなのよ」
「もう少し早く生まれていたら、セルヴィー家に嫁いだのに」
「私もよ」
こらこら、ジネット夫人はともかくエルザ王子妃はまずいだろう。
殿下をチラッと見ると王子の仮面を数秒外して驚愕していた。
「駄目よ、お兄様は私のものよ」
さぞかしご満悦だろう。女3人と幼女から好かれて。
「可愛いクリスティーナ」
「お兄様♡」
今度は俺が殿下とゼインから哀れみの目を向けられた。
双子が3歳になる頃にははっきりと向き不向きが露見した。
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アーサーはジオ家の血を色濃く継ぎ、セリーヌは容姿がクリスティーナそっくりの大人しい子だった。
跡継ぎはアーサーとなるだろう。夫婦で話し合い、子作りは卒業することになった。
これからは悪阻中の禁欲がなくなる。産後の禁欲もしなくていい。
クリスティーナの身体は、一度の帝王切開と二度の自然分娩を経験したとは思えないほど以前と変わらない。
エルザ王子妃やジネット夫人が会う度に、何故彼女だけ老けないのかと不思議そうに触れまくる。
双子だから妊娠線はしっかりつくだろうと言われたがそれも無く、ありがちと言われた緩みもない。
十数日から1ヶ月程度の討伐から戻ると彼女は積極的だ。戻った最初の夜に俺の上で快楽を求めつつ的確に搾り取る。
「すまない、もうっ…」
「フフッ」
支配されているのは俺の方だ。
「愛してるよ」
「足りたないわ」
そのくせに、仕事となると俺を放置して出掛けてしまう。
「君が根を上げるまで止めないからな」
跨っていた彼女をベッドに寝かせて覆い被さった。
サブマ草、俺にも効いてくれないかな。精力剤にはならないだろうな。いつか役立たずという目で見られる日が来るだろう。
結局長女クリスタはエルザ王子妃の息子と婚約、セリーヌはジネット夫人の末息子と婚約した。
長男レミオスはセルヴィーの事業を一緒に担う分家に婿入りすることを選んだ。先方は激しく萎縮していた。
アーサーは誰も選ばない。昔の俺によく似ている。きっと俺のように1人の女に恋をするのだろう。それまで気長に待つしかない。
「ヒューゴ、クリスタ嬢は少々お転婆に育てすぎではないか?」
「知っていてクリスタを望んだのは殿下とエルザ王子妃様だろう」
先日、クリスタが下位貴族の令息を虐めていた侯爵令息の腕を捻り上げ、足を掛けて地面にうつ伏せに倒して上から乗ったことを聞いたのだろう。
「そうだけど」
「あれ以来、侯爵家の息子は大人しくなりクリスタのストーカーと化したと聞いているぞ」
「は?」
「刺激が強かったらしい。変わった性癖に目覚めさせたようだ」
クリスタは制服のスカートのまま令息の首と頭部辺りに跨り腰を下ろした。抵抗しなくなったのでクリスタが退くと令息の顔は紅潮し瞳は潤んでいた。その日以来、令息はクリスタを追いかけ回しているらしい。登校時は馬車の停車場で待ち、昼は食堂でクリスタの側に座り、贈り物を渡そうとするとレミオスが教えてくれた。
「家門間に問題はない」
違う意味で問題になりそうだがな。
「シルベスト殿下は大丈夫か?」
殿下達の息子でありクリスタの婚約者のことだ。エルザ王子妃に似てかなりの美男子だが中身は気が弱い。
「オロオロしていたのはそのせいなのだな」
2つ歳上のシルベスト殿下はクリスタが好きらしい。奥手で恥ずかしがり屋でチラチラとしかクリスタを見ることができない。婚約パーティでダンスを踊らせたら盛大にミスを繰り返して転倒した。それからはクリスタがシルベスト殿下を操り人形を扱うようにリードして踊っている。
彼はパーティの夜から熱を出し寝込んだ。手に触れ近くに寄りダンスを踊った恥ずかしさと、ダンスの失態への恥ずかしさからしばらく部屋から出てこなかったと聞いた。
その殿下は危機感を覚えたらしい。
「うかうかしていると盗られるぞ」
2日後
「お父様!!」
「何だ」
「シルベストに何を言ったんですか!」
「何も?」
学園から帰るとクリスタは顔を真っ赤にして怒鳴り込んできた。
後から入室したレミオスの言葉に状況が追いついた。
「シルベスト殿下が一年生の僕達の教室に入ってきて、いきなりクリスタにキスをしたんです。“僕の唇を奪った責任を取ってくれ”とか“お父上によろしく”とか言い残して去りました」
ああ、殿下がありのまま息子に伝えて、盗られると思ったシルベスト殿下が暴走したのだな。
しかし、クリスタもまんざらではなかったのだな。相思相愛らしい。
「俺のせいじゃない。クリスタがストーカーをこしらえるせいだろう」
「私のせいですか!?」
「積極的なストーカーが現れて、シルベスト殿下は愛しの婚約者を盗られると思ったんだろう。責任を取ってやれ」
「なっ!!」
クリスタは首まで真っ赤になった。
生きている間に2人の孫を見ることが叶うのかなどと思っていたが……
クリスタの卒業を2ヶ月後に控えた頃、クリスタが体調を崩した。
「ヒューゴ様、落ち着いて聞いてください」
医者が言い辛そうに前置きをした。まさか難病!?
「ご懐妊です」
「は?」
「悪阻です」
「……シルベスト~!!!!!」
殿下とエルザ王子妃は息子シルベスト殿下を連れて訪問。シルベスト王子は土下座。
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一度だけ、遠出先の宿で避妊薬を用意させたがそれが効かなかったと推定された。粗悪品だったか単なる水か何かだったのか。
「あいつがしつこいから……」
ストーカーが諦めないらしく、既に卒業した彼は体を繋げることでクリスタを繋ぎ止めたかったようだ。
腕もある、脚も折れてない。歯もはえてるし顔の形も変わっていない。つまり無理矢理ではなくクリスタは合意をしたということになる。
「卒業後、悪阻か落ち着いたら式を挙げてくれ。悪阻はしばらく続くかもしれないし今月で終わるかもしれない。急ぎで間に合わないなんて言葉は聞きたくないぞ」
「急いで準備させよう。シルベストをクリスタに会わせてやってくれないか」
俺の監視付きでクリスタに会わせたが、彼がクリスタを愛していることが表情からも感じ取れた。優しく頬に触れ頭にキスを落とし、腹にもキスをした。
「嬉しいよ。僕とクリスタの愛の結晶だ」
「でも、結婚も卒業もしてないのに」
「僕が無理に君を抱いたと説明する。君は逆らえなかった」
「そんな嘘をつかなくても」
「矢面に立つのは男の役目だ。非難も僕1人が受ければいい。男なら当たり前の判断なんだ。クリスタ、どうか言う通りにしてくれないか?」
「はい」
お転婆のクリスタが何故シルベスト殿下との婚約を嫌がらなかったのかやっと理由がわかった。彼は強いんだ。
俺がクリスティーナの内面の強さに惹かれたように、クリスタは彼のこういう強さを見抜いていたんだな。
後に仕事で屋敷を空けていたクリスティーナが戻り、事態を知るとクリスタを叱っていた。
だがレミオスが間に入り落ち着かせた。
アーサーは“始末したくなったら声を掛けて”と言い、セリーヌは久しぶりに彼女の膝の上に乗って甘え出した。
それぞれが個々の性格をいかして家族の調和を取っていると感心した。
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