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3章
20
しおりを挟むユーグレイの寝室は、やはりアトリと同じで私物が殆どない。
ただ備え付けのチェストの上には数冊の本が積まれていて、どこか清廉とした気配に満ちていた。
ユーグレイの匂いだな、と心地良く思うのはいつものことだ。
ベッドに押し倒されると、整えられていたシーツが一瞬で乱れた。
何が琴線に触れたのか。
余裕のない表情のユーグレイに、唇を柔く食まれる。
呼吸を奪うような荒々しさはないが、これからするのかと思えば安穏と受け入れられるものでもない。
「……っ、ユーグ!」
肩を撫で、首筋を辿る右手。
もう片方の手が服の裾から直に肌に触れ、脚の間に潜り込む。
ひぇ、と色気のない声が漏れてアトリは僅かに上体を起こした。
先程の口付けで否応なしに反応していた自身を、大きな手のひらが包む。
人差し指と親指でぎゅうと先端を摘まれて、ひくと腰が浮いた。
「うっ、あ、ちょっと」
左手を差し出したアトリに、ユーグレイは一瞬不思議そうな顔をする。
ただ求められていることはわかったのだろう。
彼はアトリの手に右手を絡め、そのままシーツに押しつけた。
流れ込んで来るものは何もない。
愛撫を受けるそこから微かに滑るような水音が聞こえる。
かあ、と頬が熱くなった。
「い、や、そうじゃなくて! 魔力、は!?」
「魔力? 何故?」
「何故って、だっ、て」
今日は現場で魔術を行使した訳でもない。
だからユーグレイから魔力を受け取らなければ防衛反応は起きないのである。
受け入れる身としては、訳がわからないほど気持ち良くなってしまうのが一番だ。
恐らくは色々な手間もないし、ユーグレイだってそちらの方が楽なのではないか。
けれど彼は心底わからないみたいな顔で、ゆるりと首を振った。
「必要ないだろう。いや、君が本当に辛いようであれば再考するが。何故、わざわざ?」
「は? え? だって、俺、それされないと普通に」
そうなると、「女性」として快感を得るという前提が崩れてしまう。
男として反応するし、当然出してしまうだろう。
触れられたことがない訳ではないから、ユーグレイがそれを忌避するとまでは思わないが。
ちゃんと出来るのか、彼はそれで快楽を得られるのか、少しだけ不安になる。
ぐるぐると巡る思考を断ち切るように、アトリを責める手の動きが速くなった。
待て待て、と掠れた声で訴えたところで、意味はないと知っている。
くちゅくちゅと泡立つような音が大きくなった。
「……ぅ、く」
辛うじてユーグレイの腕を掴んだが、その動きを止めるには至らない。
止めて欲しいのかも、わからない。
必死に唇を噛んで声を殺すと、ユーグレイは何を思ったのか追い詰める手を止めた。
ふぅふぅと息を吐きながら、けれどやはり解放に至りたくて縋るような視線を向けてしまう。
「熱いな。気持ち良いのか、アトリ」
静かな声は、少しだけ震える。
労わるようにふわりと微笑むユーグレイは、限界まで張り詰めたそれを確かめるようにするすると撫でた。
形を覚えるように指先が執拗に行き来する。
その指は悪戯に後孔まで降りて来て、また熱の先端まで戻って行く。
気持ち良いけれど、決定的な刺激ではない。
イけそうで、イけない。
「お、前ぇ……ッ! そーいうの、さぁ!」
寸止めとか、わざとだとしたら流石にちょっとどうかと思う。
ただ幸いと言うべきか、ユーグレイは全くの無意識だったようだ。
どうした、と素で問われてアトリは「どーしたもこーしたもない」と唸る。
何が楽しいのか知らないが、こんなことではいつ解放してもらえるかわからない。
アトリは短く息を吸うと、掴んでいたユーグレイの腕を思い切り下に引っ張った。
ちゃんとイかせて欲しい、と小さく訴える。
「……………ああ」
すうっと細められた瞳。
見慣れた碧眼は、やけに鋭い。
絡めたままの手に力が籠った。
「ん、っ………! ん、う゛っ、う」
遠慮のない手つきで性器を激しく扱かれる。
性器の先端を爪で抉られて、熱が弾けた。
ぎゅうと目を瞑って、堪え切れなかった声を幾つか吐き出す。
こうやってまともに絶頂するのは、久しぶりかもしれない。
浮いた脚から力を抜き、アトリは深く息をしながらぐったりとベッドに沈み込む。
吐き出したもので下腹部の不快感が凄いが、仕方がない。
止まっていたユーグレイの指先が、爪を立てたそこをつうと撫でる。
ぼんやりと瞬いて、アトリは彼を見上げた。
「ユーグ?」
達したばかりのふわふわした思考のまま、呼びかける。
ユーグレイは、何も言わない。
アトリはゆっくりと身体を起こした。
掴んでいた彼の腕を摩って、その頬に手を当てる。
覗き込んだ瞳は酷く飢えていた。
ああ、だから。
「あんまキツイのは無理だけど、お好きなようにどうぞ」
一応逃げを打ってしまったことは、見逃して欲しい。
ユーグレイは僅かに目を見張って、それから絞り出すように「君が」と言う。
「君が、欲しい。アトリ」
番を得ようとする雄の表情をして、ユーグレイはそう繰り返した。
本能的に「これは随分と貪られそうだ」と悟る。
貫かれる快感を知る下腹部が、疼いた。
アトリは触れるだけの口付けをして、「良いよ」と答える。
その肩口に額を擦り付けると、ぎこちなくではあるがゆるりと腰を揺らす。
まだ性器を捕らえたままのユーグレイの手が擦れて、気持ち良い。
「ユーグが欲しいなら、欲しいだけ、良いよ」
息を飲む音。
喰らいつくような口付けを返されて、アトリはユーグレイの背に手を回す。
咽喉の奥から、甘えたような音が漏れる。
もっと、と媚びる響きに羞恥を覚える余裕さえなかった。
欲しい。
ユーグレイが欲しいと言ってくれるからあげたい。
こいつのためなら、何を差し出しても別に構わない。
でも、それだけじゃない。
アトリは必死になってユーグレイを抱き寄せる。
熱い身体が、応えるようにアトリを包んだ。
息継ぎを促される刹那。
何故か、泣き出したいような気持ちになった。
「俺も、ユーグが欲しい」
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