Arrive 0

黒文鳥

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4章

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 柔らかいなと感心したように言われた時には、流石にどうしようもない羞恥に襲われた。
 後孔に触れた指先が、緩んだ縁を撫でてあっさりと中へ入り込む。
 抵抗は全くない。
 熱で身体の力が抜けているからか、どうしようもなくそれを待ち望んでいたからか。
 どちらにせよ取り繕うことも出来ず、そこは悦んでユーグレイの指を呑む。
 一本二本と時を置かずに増やされた指が、戯れにその入口を拡げて弱い粘膜を擦った。
 
「ーーーーーーは、あぁ、あ゛ぅ」

 横向きに寝たまま背後から抱かれていて、ユーグレイの表情は見えない。
 顔を見てしたいと思ったが、どっぷりと快感に浸った身体はまともに動かなかった。
 
「もう大丈夫そうだな」
 
 低く掠れた声が、そう言う。
 引き抜かれて行った指に切なさを覚える間もなく、熱の塊がそこに宛てがわれた。
 ぼんやりと滲んだ視界。
 脈打つような頭痛が、その快感で少しだけ遠のく。
 
「んっ、う゛ぅーーーー!」

 ぬるりと挿し込まれたそれが、奥を突いた。
 ばくばくと心臓が鳴る。
 ユーグレイは獲物を押さえ込むように、腕に力を込めた。
 そんなことをされなくても最初から逃げられない。
 それでも身動きが出来ない状態でイくのは、辛かった。
 遠慮なく暴いてくれれば良いのに、ユーグレイはそのまま動かない。
 
「ちが……、う」

「何が? 酷くしろと言ったのは君だろう」

 酷いの方向性が違う。
 アトリが首を振ると、ユーグレイの手が腹部を摩った。
 咥え込んだものを確かめるように悪戯に力を入れられて、ぎゅうっと目を瞑る。
 ずっとイッているのに、終わりはいつまで経っても見えて来ない。
 
「なん、でぇ……!」
 
 いつもならもう少しまともな言葉を発している。
 沸騰したような頭はもっと激しい絶頂を求めるばかりで、正気であれば出せない酷く甘えた声が唇から溢れた。
 動いて、と強請る。
 ユーグレイだってそうした方が気持ち良いはずなのに、奥まで挿れてそれっきり。
 繰り返し襲って来る衝動のまま何度もそれを締め付けたのに、まだ一度も中を擦り上げてはくれない。
 必死だった。
 ユーグレイを包んだ内壁が耐え難いほどの快感を訴えている。
 奥が溶けそうで、怖い。

「ユーグ、ぅ」

 腹部を摩っていた手が、不意に胸の先端に触れた。
 喉から迫り上がった声を辛うじて堪える。
 
「意外と好きだろう、ここも」

 指先で摘まれた突起が、じんと痺れる。
 意外と好きなのはお前だろ、と言い返したかったが、爪を立ててそこを弾かれると反論どころではない。
 ユーグレイに抱かれるまでは、こんなところで快感を得られるなんて知らなかったのに。
 
「は、あ、ぁっ………、そ、こじゃ、なくて、つッ!」

 痛いほどに爪が食い込む。
 ひゅ、と息を呑んでそのまま絶頂する。
 ぐらぐらと滲んだ視界が揺れた。
 熱い。
 酷くしてもらえば、さくっと意識を失えるだろうと思ったのに。
 どっか間違ったな。
 
「……ナカも、熱いな」

 刺激で膨らんだ先端を今度は優しく撫でられた。
 ぐうっと腰が押し付けられて、挿入されたままのそれが奥を叩く。
 気持ち良いけれど、あまりに深すぎて苦しさの方が強い。
 鈍い痛みのような圧迫感のような、よくわからない感覚がある。
 咄嗟に逃げようとした身体は、やはりユーグレイの腕の中でまともに動かなかった。
 
「ぁう、く、るしぃ……からぁ、ユー、グ」

「駄目か?」

「だ、め……ッ! い、奥、ぅ、やめッ……ーーーーっ!!」

 小刻みにそこを叩かれて頭が真っ白になった。
 痙攣する身体をユーグレイが強く抱き締める。
 ああ、今落ちそうだったのに。
 あまりに快感が大き過ぎて、上手く意識を手放せなかった。

「君の奥まで、入りたい」

 耳元で囁かれて、意味を理解する余裕もなくアトリは首を振る。
 
「あ……ぁ? もぅ、は、はいって……る、て」

「違う。まだ、さきがあるだろう。そこが、欲しい」

 重く響いた言葉は、有無を言わせない圧があった。
 欲しい、んじゃない。
 そこまで所有すると、ユーグレイに宣言されたのだとわかった。
 こんなに何度も身体を重ねていて、飽きるどころかまだ満足していなかったのか。
 それはそれで、嬉しい、けれど。

「いぃ、けど……、いや、だ」

「どっちだ」

 わからない。
 そもそもこんな訳がわからなくなっている状態の時に、聞かないで欲しい。
 ユーグレイは答えを急かすように、アトリの首筋を軽く噛んだ。
 
「うッ、ぁ!」

「酷くして欲しいんだろう?」

 いや、だから、違う。
 あれ? 違わないのか。
 まだ何も答えていないのに、ユーグレイは埋め込んだ熱で最奥を割り開こうとする。
 アトリはユーグレイの腕に手をかけて、不規則な呼吸を繰り返した。
 目の前が白くなって、音が遠くなる。
 痛みも、苦しさも、もう手が届かない。
 もちろん、ユーグレイが欲しいなら何だってあげたい。
 でも、ここじゃ嫌だ。
 やるなら、帰ってからが良い。
 そう伝えたいのに、言葉など今更出ては来ない。
 
「ーーーーッあ、ん゛ぅううっ!!」

 ぐぷ、と音がした。
 今、なんか、凄いのが。
 許容し切れない快感に、意識は壊れた映像のように飛び飛びになる。
 あまりに気持ち良くて、押し出される声が蕩けた。

「んあ、あッ、あ゛ぁあ、ーーーーっ!」

「は、気持ち、良いな。アトリ」

 ユーグレイの手が不意に性器を撫でて、いつの間にかそれが熱を吐き出していたことに気付く。
 防衛反応でそれは反応しないはずなのに。
 勢いなくとろとろと溢れる白濁を、ユーグレイは指先で掬う。
 気持ち良い。
 
「ゆ、ぅ……ぐ……っ! きもち、いぃ」

「……ああ」

 満たされたような吐息と共に、ユーグレイが短く答える。
 ああ、もういっか。
 激しくはない動きで、ゆるゆると身体を揺さぶられる。
 思考を諦めて、アトリはただ与えられる快感に身を任せた。
 すぅっと意識が遠のくのがわかる。
 同時に、それまで防衛反応の影に追いやられていた頭痛が存在を訴えてきた。
 無理やりに意識を剥がされるような、そういう痛みだ。
 
「ぁ、あっ……、く、ぅ」

 何故か、このまま落ちたら駄目だと思った。
 待ち望んでいたはずの終わりなのに。
 けれど踏みとどまるには何もかも限界で。
 アトリは無意識にユーグレイの強く腕を掴む。
 手を握っていて欲しい。
 そう伝えたかったけれど、口から出るのは掠れた喘ぎばかりだ。

 ユーグ。
 何か、怖い。

 水溜まりを無邪気に叩くような音が聞こえる。
 ユーグレイが息を詰める気配。
 拓かれたそこに、溢れるほどに注ぎ込まれる。
 
「ッ、ーーーーーーー!」

 がくんと身体が仰け反る。
 底のない穴に落ちていくような恐怖。
 ばちんと乱暴に電源を落としたように、意識がなくなった。



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