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8章
9
いや、本当にこの状況でする話だったか?
素直だなんだと言われても、正直長引いただけ自分が辛いとわかっているだけである。
そこまで含めての行為であるのなら、ちょっと勝ち目がないところだが。
「お兄さんの話だってわかってんなら、もう、良いだろ。ちょっ、ーーーー!」
戯れのように唇が塞がれる。
ユーグレイのためにと思ったのに、兄であるリューイが話に関わると知っても特に動揺した様子もない。
くらりと思考が熱に飲まれていくのがわかる。
こいつ、何でちょっと嬉しそうなんだ。
「良くはないな。それがどんな話であれ、僕は、君に嘘を吐いて欲しくはない」
「……そ、だろうとは思った。いやユーグ、一旦、手」
嘘を吐きたいという言い方をした時点で、こうなるだろうとどこかでわかっていたのかもしれない。
ただ黙っていたかったんだと、知ってはいて欲しかった。
ユーグレイの夢で味わった鋭い罪悪感は、胸の奥に刺さったままだ。
アトリは愛撫を続ける彼の手を押さえる。
それでもまだ中に入り込んだままの指は、ゆるゆると内部を擦っていく。
自然と上がっていく息に声が混ざる。
「それで兄がどうした? 無事では、なかったか?」
「や……、違う。大丈夫。そういう、話じゃ……なくって、ッ!」
急に刺激が強くなって、アトリは言葉を飲み込んだ。
完全にわざとだろう。
ユーグレイの胸を押すと、彼は微かに笑った。
「ではどういう話だ?」
全く他人の葛藤を何だと思っているのか。
アトリは唇を噛んだままユーグレイを睨んだ。
見慣れた碧眼が柔らかく細められる。
「言いたいことはわかるが、少し触れていた方が良いだろう。今後を考えて、負担は先に解消するべきではないのか?」
まだ防衛反応が起きていない、と言っても結局早いか遅いかの話だ。
宥めるように頭を撫でられてアトリは溜息を吐いた。
結局触れられて気持ち良いのだから、こちらの負けである。
アトリと名前を呼ばれて目を閉じた。
ぽつり、と。
回らない頭で言葉を選び出して、リューイ・フレンシッドが語ったことを伝えていく。
ユーグレイは、どう思うだろうか。
どうせそれがどれほどの痛みであったとしても、「そうか」と受け入れてしまうのだろうけれど。
リューイの提案を条件付きで飲んだことまで一気に話してしまうと、意に反して身体が震えた。
カップから水が溢れるように、快感が限度を超えたのがわかる。
「あ……、う…………」
「そうか」
ユーグレイの指を締め付けながら、予想通りの言葉を聞いて切なくなる。
重い瞼を持ち上げると、彼はただ穏やかな表情でアトリを見つめていた。
全身がゆっくりと溶けるような絶頂。
アトリは何とかユーグレイの背に手を回す。
「は……ぁ、ご、めん」
ユーグレイは奥に触れていた指を優しく引き抜いて、「構わない。起こすから安心しろ」と請け負う。
違う、そうじゃなくて。
「何も、してやれなくて、ごめん」
「………アトリ」
ペアとして情報の共有は正しい選択だったはずだ。
けれど、アトリはユーグレイの傷を知っている。
何か出来ることはなかったのだろうか。
説得か或いはあそこでリューイを拘束してしまえなかったのか。
もちろんそんなことは現実的じゃない。
でも。
こんな風に話してしまう以外に、もっと、何か。
「何故謝る? 君は、何より僕のことを優先してくれただろう」
「………………さあ、どう、だろ」
アトリはユーグレイの肩に額を押し当てる。
黙っていてやれたら良かった。
ペアとしてではなく、ただユーグレイのことを想うのなら。
でもそれでは嫌だとアトリ自身が思い知ったばかりだ。
だから「嘘を吐きたい」という告白で、それを暴くか暴かないかの決断を彼に委ねてしまった。
何も、してやれなかった。
「僕と、同じだな。アトリ」
ユーグレイは静かに笑った。
「大切で仕方がない。だから、躊躇して間違えて苦しむ。僕と、同じだ」
そうだ。
ユーグレイが、大切で仕方ない。
だから傷付いて欲しくなくて、嘘を吐きたくて。
どうするべきか自身では選べずに、こうして何もかも話してしまった後も苦しくて仕方がない。
ユーグレイが、アトリを守りたくて間違えたのと同じだ。
「ユーグと、同じ、か」
目を開く気力はなかった。
そうだろうな、と零れ落ちた言葉はユーグレイに聞こえてしまっただろう。
同じように想っているのだと、まあバレてはいるんだろうけれど。
もう、良いか。
アトリは半分自棄になったような心地で意識を手放した。
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