名探偵の条件

ヒロト

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43推理の始まり

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「冬弥・・・、さすがに少し時間をくれ。」

「ん。じゃあ、30分待つよ。」
そう言うと、冬弥はベッドに倒れこんだ。

そして、大きく伸びをすると、少し声を落として僕に話しかけてきた。


「弘幸。お前がこれから話す推理・・・俺の考えと同じ部分には、正直に同意していくよ。
そのかわり・・・」

「そのかわり?」
「弘幸の推理が詰まった時、それについての俺の説明は2日ぐらい待って欲しい。」

冬弥の意外な提案に、僕は驚いた。

「なんでだ? 今日じゃいけない理由でもあるのか?」


冬弥が、時間稼ぎをしている訳じゃないのは、僕にもわかる。
・・・冬弥は間違いなく真相に辿り着いている。

そう信じているからこそ、冬弥の提案には正直とまどった。


「犯人の動機を調べたい。俺が、最終的な判断をするためには、犯人の動機についても知る必要があるんだ。」


珍しく・・・そう、本当に珍しく、冬弥は真剣な表情で僕を見ていた。


・・・僕は、小さく息をついた。


「OKだよ。
冬弥にとって、そうする事が重要な事だというのなら・・・それでかまわない。
だいたい、冬弥に説明を強要する権利が僕にあるとは思えないしね。

そうだね。まあ、少なくとも真相を推理できていなければ・・・そんな権利はないだろな。」

最後は、少し冗談めかしおどけて話す。

冬弥の口元がふっと緩み、「サンキュ!」と礼を言ってきた。


なんというか・・・「阿吽(あうん)の呼吸」とまで言えるのかはわからないが・・・『お互いのリズムが合っている』そう感じられる間だった。



・・・悪くない気分だった。


「ただし、一つだけ条件がある!」
僕は、少し強い口調で冬弥に話しかけた。

「なんだ?」


「今、話をしていた分、10分間考える時間を延長してくれ。」

冬弥は少し驚いたような表情をしたが、すぐに意地悪そうな笑みを浮かべた。

「それは少し長すぎるな。延長は6分!」
「・・・ケチ」
「そんなこと言っている間に、しっかり考えたほうがいいんじゃないか? 後・・・28分だぜ。」

「あ~、もうわかったよ! とりあえず静かにしていてくれ!!」

さて・・・気持ちを切り替えて集中しないと。

一つずつ・・・そう、一つずつ確実に考えを進めていくんだ。


僕は気持ちを落ち着けると、少しずつ思考の海に沈んでいった。




そして・・・30分という時間が、瞬く間に過ぎた。


「もうい~かい?」
「ま~だだよ!」

いつものように、意味のない掛け合いを1分程やった後、いよいよ事件についての話が始まった。


――結局のところ――


残念ながら、僕はこの30分間で、推理を真相まで辿り着かせることができなかった。

しかし・・・それでも、自分なりに推理を進めることはできていた。

(まずは、それを話すしかないよな・・・)

話しているうちに、良いアイディアが浮かぶ可能性もある。

(千里の道も一歩から・・・行けるところまで行きますか。)


・・・そして、僕の推理が始まった。

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