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序章-赤坂村のベッコウ師-

11『2人の約束』

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 ユキノの冷徹な一言に対して、空軍のテント内の空気が重たくなる…

「その『戦マキナ計画の完成型』の素体って何ですか?」
テフナが恐る恐る問い掛ける。

「それはですね。テフナさんの目の前にいる雷クモに対抗するべく開発された戦マキナ『試作型の桜』と『偵察・探知型の葵』以外にも…『攻撃・不死型』…そして、私の管轄外で海軍主体の『共鳴特異・量産型』が既に生み出されており…」
桜から葵へ視線を移動させながら説明するユキノが、テフナの方へ向き直す。

よろず型は、各戦マキナの戦闘データを元に操作した雷クモの遺伝子情報を、軍部で開発したクローンではなく…ベッコウ師としての素質を持ちながらも、雷クモに寄生されてしまった人間に対して使用することで、本来なら失われてしまう貴重な戦力いや…失礼…貴重な存在を復帰させる計画です。」
説明を終えたユキノが、黒い棺の様な冷蔵装置に封印されているレイへと視線を落とす。

「レイが、その候補になるかもしれないっていう事ですか…」
テフナの語気は更に沈んでしまう。

「でもさ、でもさ…普通なら雷クモに寄生されてしまったら処分されるしかない人が助かるっていう風にも…うへぇ!?」
テフナの心に対して追撃してしまった葵のみぞおちへと、桜による制裁が加えられる。

「源坂さん、私が謝ることではないかと思いますが…あの時、私の予想通りになる前に…あなたの代わりに私が…」
言葉を慎重に選ぶ桜の口の動きを、ユキノがわざとらしい咳払いで制止させる。

テフナとユキノ達の間…テントの中心に鎮座する冷蔵装置から、微かに漏れる低い音と白い冷気が、その場を支配する…

「私…レイが意識を完全に失う前に願いを託されたんです…ベッコウ師としての、源坂家としての『権利ノブレス』と『責務オブリージュ』を行使する覚悟を見せてって…」
テフナがポツリ…ポツリっと心中を話し出す。

「でも…撃てなかった…レイが、友達が、この赤坂村が変わってしまった事を認めたくなくて…」
冷蔵装置を見ながら涙目のテフナは続ける。

「レイは違って…直ぐに現実を受け止めて、村の為に最後まで戦ってくれた…だから、私もその想いに応えたい…」
決意したテフナが、改めてユキノと目を合わせる。

「藤原所長、無茶なお願いである事を承知な上で頼みますが…私にレイを撃たせて下さい。その代わりに、私がベッコウ師として多くの雷クモを狩る事を約束します。」
そう願いを告げたテフナは、頭を深く下げる。

「…権利ノブレス責務オブリージュかぁ…久しぶりに聞いたなぁ…」
口調が変わったユキノが考え込む素振りを見せる。

「初めて聞いた言葉なのに…」
「そんな気がしない…」
桜と葵も何故か、その言葉に対して特別な印象を受ける。

「そうですね…テフナさんの願いを叶えられる様に善処しましょう。但し、一つ条件があります。」
ユキノが桜の事を指差す。

「これからの一ヶ月の間で、桜よりも多くの雷クモを討伐する事が出来たら、テフナさんの希望を叶えさせて上げます。」
唐突な提案に対して、テフナと桜は僅かにフリーズする。

「私は構いませんが、そんな決断をしたら…同じ空軍の研究所はともかく、海軍の方達に対してはどう対応される考えですか!?」
了承しつつも、桜は別の問題の可能性を示唆する。

「まぁ、上手いこと言っておくから…桜達は気にしなくて良いよ。」
問題視する桜とは打って変わって、ユキノは軽く返事をする。

テフナは、テントの中心に置かれた冷蔵装置の隣を通りすぎ…ユキノと桜、葵へとに近付く。

「はい…私のレイと雷クモに対する希望を叶えられるのなら、その条件でよろしくお願いします。」
テフナが、改めてユキノへ覚悟を表明する。
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