ハイカラ・オブ・リビルド『雷クモと乙女たちのモダン戦記』

蒼伊シヲン

文字の大きさ
12 / 29
Intermezzo-間章-

間章-桜の汽車道中記-

しおりを挟む
 赤坂村での事件から数日後…首都にある空軍管轄の施設『藤原研究所』内の自身の事務室へと帰還した、研究者である【藤原ユキノ】は作業机の椅子に腰を掛け、珈琲を一口飲む。

研究所の所長であるユキノの事務室内には…無造作に積まれホコリを被った書物、十数匹の小魚と小型のエビが同居する球体水槽アクアリウム、一度切断され縫合の跡がある蛹が数匹入っている虫籠が混在している。

そして、ユキノは眼前に立つクローンの少女であり、戦マキナの試作型【桜】がタイプライターで打った報告書に目を通している。

「ふぅ~ん…赤坂村へと向かう汽車の中で出会った自称私の知り合いの錬金術師から、このブリキ缶に入ったキャラメルを貰ったわけか…」
何故か不機嫌なユキノは、桜から受け取ったそのキャラメルを一つ頬張る。

「はい…その女性と博士は知り合いなんですか?でも…錬金術師とは言ってなかったような…」
桜も同じキャラメルを口にしながら、その汽車内でのやりとりを思い出す…

ーーー

赤坂村へ向かうために乗った蒸気機関車の三等客車のボックス席に座る桜は、首を傾げている…

「(このお菓子のどのへんが…シベリアなの?)」
不思議そうな顔を見せる桜の右手には、駅の売店で好奇心の赴くままに買った、カステラの間に小豆餡と羊羮が挟んだ形の菓子シベリアが握られている…

「(これがシベリアの味なの?)」
腑に落ちない表情を浮かべながら黙々と菓子シベリアを、3個4個…っと食べ終わった桜は、空になった菓子箱を座るボックス席の窓から投げ捨てるが…

走る汽車が発する風圧に押し返された空箱が、車内へと勢いよく戻って来る。

そして、その空箱が向かう先には、桜が気付かない内に相席していた西洋風の装いの貴婦人が座って読者をしている。

「あっ!あぶ…」
桜が危険を知らせようとするが、間に合わなかった…しかし、読者に集中する貴婦人は、本に視線を向けたまま…左手で瞬時に空箱を掴む。

「えっ!?…あっ、ごめんなさい、大丈夫ですか?」
その様に目が点になった桜は、我に帰り謝る。

「はい、気にしなくても大丈夫ですよ…その御菓子シベリアの名前の由来は、雪原を走るシベリア鉄道から来てる説や戦争中にシベリアの地でよく食べられていたとか…ないとか…」
見た目に反して飄々とした明るい声で答えた貴婦人が桜の方を見る…その貴婦人は右目が隠れる程に、つばの広い帽子を斜めに深々と被っている。

「そうなんですね…どちらの国からいらしたのですか?」
抱いていた疑問に対してある程度の答えを得られた桜が問い掛ける。

「そうだな…どこから来たって言えば良いのかな…まぁ【イタリ】の地から来たっていうことにしておこうかな。」
そう貴婦人がのらりくらりと返事をしている所へ、車内販売の女性が二人が座るボックス席へと近付いてくる。

「良かったら、あなたも食べる?」
その貴婦人が、車内販売の女性へと声を掛けて購入した2つの白桃のうち一つを桜へ差し出す。

「いえ、桃はあまり好きではないので、お気持ちだけ貰っておきます。(戦マキナである私は、桃を食べてはいけないって博士から言われてるし)」
少しあたふたする桜の様子に対して、貴婦人は左手で深く被っている帽子を持ち上げ、左目の視界を更に確保した上で凝視する。

その左目は僅かに瑠璃色の炎の様に輝き…帽子全体が持ち上がった事で、眼帯に覆われた右目部分も露になる。

「昔、見覚えのある女の子の一人に似てるなっと思って声を掛けてみたけど…そういうことか…紅茶よりも珈琲派の科学者ギークさんの知り合いだったのか…」
合点がいった貴婦人が微かに笑う。

「えっ、藤原博士と面識のある方でしたか…この汽車は下りなので、首都にいる博士と会う為には乗り換えないといけないですよ。」
桜が親切心から、貴婦人に対して諭す。

「ふっ…この国でもねぇ…あぁ、別にアナタのところの博士に会いに来た訳では無いから大丈夫。」
そう不敵な笑みを浮かべた貴婦人は、右手に持っている白桃をかじるかと思いきや…蛇の様に一つ、二つと軽快に丸のみする。

そして、ビックリする桜を他所に、白桃の種をちり紙に吐き出したついでに口元を拭き取る。

「それでは、どうして日本を訪れたのですか?」
落ち着きを取り戻した桜が問い掛ける。
「う~ん、そうだな…この国の未来…」
一瞬、考える素振りを見せた貴婦人が続ける。

「この国が歩む、滅びへの道を確めに来た…とでも言っておこうか…」
そう言葉のトーンを下げた貴婦人の左目は、またしても瑠璃色に輝いている。

「滅びる?…それは雷クモによって?…それとも、別の要因でですか?」
貴婦人の雰囲気が一変したこともあり、桜も真剣に返事をする。

「まぁ…そのうち、分かると思うよ…取り敢えず風変わりな貴方にとって役立つアイテムを渡しておこうかな。」
そう告げた貴婦人は、幾何学的な華の模様が刺繍されたトランクを開けて探り…キャラメルを桜へと差し出す。

ーーー

「あの変人が発明したお菓子にしては、なかなか美味しいじゃない…」
桜の報告書を読み終えたユキノは、不服そうな表情を見せながらも口の中でキャラメルを転がす。

「はい、そうですね…赤坂村での一件の際に源坂さんにも食べて貰いましたが、あまり好みではないと言っていましたね。」
同じく口の中でキャラメルを転がす桜が答える。

「まぁ、好みは人それぞれだからね。それよりも、気乗りはしないけど…戦マキナへの回復効果が見込めるのなら、このキャラメルを解析して各戦マキナへ持たせるしかないねぇ…」
そう考えを述べたユキノは、『守ヶ永もるがな・賢者乃キャラメル』と商品名が記載されているブリキ缶に対して、右手でデコピンを加える。

ユキノが再び珈琲を飲み、口の中の甘みを緩和していると…扉を強くノックする音が事務室内に響く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。 時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま! 「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」 ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは―― 公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!? おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。 「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」 精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...