バビロニア・オブ・リビルド『産業革命以降も、神と科学が併存する帝国への彼女達の再構築計画』【完結】

蒼伊シヲン

文字の大きさ
35 / 79
3章.無神格と魔女の血

30『偽りの瓦解』

しおりを挟む
 一発の銃声が、黄昏時の古びたレンガ倉庫内に響き渡る。
銃口から煙を上げるのは、パネトーネが手にする回転式拳銃リボルバーではなく…

レンガ倉庫へ向かう道中の坂道で、柘榴を拾うために脇道に逸れた
パネトーネの取り巻きの女生徒が、引き金を引いていた。

「はぁ?…ッウ!」
回転式拳銃リボルバーを持つ、右手に銃弾がかすめたパネトーネは…
キョトンした顔を見せたかと思いきや、遅れて襲われた痛みに怯む。

次の瞬間、アリサの周囲に飛散していた複数の柘榴が、大量の煙幕を吐き出す…
そして、一同の視界が奪われる。
充満する煙のなか、残る取り巻き達が放つ銃声と短い悲鳴が、南花の耳に届く。

煙幕が霧散し、再び視界が晴れると、そこには帝国憲兵アハトが佇んでいて
パネトーネ側の面子が全て意識を失い、地面に伏している。

「流石に、あれ以上は看過出来ないと思い介入させてもらいました…」
一番近くに座り込む南花に歩み寄ったアハトは、ハンカチを取り出す。
「南花さん、宜しければお使い下さい。」

「アハトさん、あの時に入れ替わっていたんですね…助かりました。」
感謝を告げた南花が、アハトの善意を受け取ろうとすると…

眼前の帝国憲兵の目元だけを隠した仮面に、薄氷の様な亀裂が入り…
瓦解していく。
そして、僅かに上がった口角だけでなく、微笑む女性の目元が露になる。

「あっ…しまった…」
微笑みから焦りの表情に変わってしまった女性の目元は、帝国憲兵としての口調に反して、新雪の様に冷たくも柔らかな雰囲気を放っている。

「【八型憲兵アハトさん】、彼女達を制圧する際に銃弾がかすめていたみたいね?そして、貴方は、誰なのかしら?」
アリサが神妙な面持ちで、問い掛ける。

「…その質問には、無論お答えすることは出来ませんよ、アリサさん。」
いつもの帝国憲兵アハトとしての口調で応えるが…

「その目元…その声…【ユキノ】姉さん?なんでしょ?」
チョーカーによる痛みから解放された、サクラが信じがたい現実に釘付けになる。

「はぁ…やっぱりな…アハトとの初対面の時に、感じた匂い…小さい頃に身近にあったものと同じだった訳か…」
同じくチョーカーの痛みが解消された、コマチは合点を得る。

「どういうことなの?」
状況に追い付けていない南花が疑問を発する。

「南花さん…私達3人が、まだ出身の村にいた、小さい頃に、一緒に遊んでいたお姉さんがいたんだけど…私達と同じく孤児になった一人で…」
アオイが驚きを感じつつも、南花の質問に応える。
「行方不明になっていた【冬野とうのユキノ】さんと、アハトさんが似ているということなんです。」

「…そうですよ。御夏みなつさんの言う通り、そっくりさんなだけです…」
アオイの言葉を拾い、八型憲兵アハトが口を開く。
「お三方と同様、あの【無神格】が集う村の出身と言うならば、その【ユキノ】さんと言われる方は、魔術が扱えない可能性が高いはずです…」

「それに対して、私は魔術が扱える【四神格】の持ち主である時点で別人じゃないでしょうか?」
目の前の八型憲兵アハトは、冷静にユキノと言われる人物とは、別人であることを示唆する。

「いいえ…それだけでは、同一人物の可能性を払拭出来ないはずよ。何故なら、兄さんによれば、帝国憲兵達が有する神格は…」
今まで静観していたアリサが、西圏側の第四騎士団の団長であるダージリンから聞いた機密の断片を語ろうとするが…

一発の銃声がレンガ倉庫内に響き、その言葉を遮る。

南花達が、銃声が聞こえた倉庫の入り口付近に、視線を向けると…
アハトと同じスカートタイプのスーツと目元を仮面で隠した、小柄の女性が立っている。

「あぁ~もう…アハトちゃんは何をやっているんだか…」
それまでの空気を、弾丸で絶ちきった主の声はフラットである。
そして、言葉を紡いでいたアリサに、真っ先に歩み寄ると…

「お前、少し黙れよ…じゃないと、唯一の肉親が、肉片になるぞ…」
アリサの耳元で、警告を低い声でささやく。

「アハトちゃん、アタシの予備を付けなよ。」
フラットな声に戻った小柄な女性が、アハトに新しい仮面を手渡す。

「えっと…貴方は?」
南花が躊躇いながら、小柄な女性の名前を聞く。

「あぁ、ごめんね!名乗るのが遅れちゃったね!私は、【六型憲兵ゼクス】と言って、機動力を増幅する魔術が得意です。宜しくね!」
六型憲兵ゼクスが敢えて陽気な口調で自己紹介をしていると…

「おい、ゼクス…気安く身辺に関する情報を与えるな…」
ゼクスとは打って代わって、落ち着いた口調で、同じくスーツ姿、目元を仮面で隠した大男が倉庫の入り口から入ってくる…

その大男は、倉庫の周辺を監視していたであろう、意識を失ったパネトーネの取り巻きの一人を、右肩に大きなカバンかの様に担いでいる。

「もう、相変わらず【九型憲兵ノイン】は堅物なんだから。因みに、彼の特徴は…」
「おい!言っているそばから、やめろ!」
巨石の様な雰囲気の九型憲兵ノインを、まぁまぁ…っと小動物の様な見た目の六型憲兵ゼクスがなだめる。

そうこうしていると…街中で数発の銃声が聞こえたという通報を聞き付けた、東圏側の一般兵士達が、雪崩れ込んで来る…

そして、各々が事情を聴取されるなか…帝国憲兵達は、手短に報告する…

「今日、見たことは深追いしないでね?それじゃ…」
六型憲兵ゼクスは、アリサを改めて注する。

そして、去っていく八型憲兵アハトに、アオイが呼びかける。
「ねぇ!本当はユキノ姉さんなんでしょ?ねぇ…ってば…」

しかし、八型憲兵アハトは振り向くこともせずに、他の2人の憲兵と共に闇夜に消えて行く…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

処理中です...