バビロニア・オブ・リビルド『産業革命以降も、神と科学が併存する帝国への彼女達の再構築計画』【完結】

蒼伊シヲン

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3章.無神格と魔女の血

35『ソーセージとワイン樽』

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 帝国東圏側A区内にある、ペコから聞いた場所を訪れた南花達5人の眼前には…
孤児院というよりか、療養所サナトリウムの様な出で立ちの3階建ての建物が建っている。
その孤児院の純白な外壁は、清潔感を通り越し、ある種の不気味さを放つ…

「孤児院にしては、大きな建物ね…」
炊き出しに必要な備品等を載せたトラックの運転席から降りたアリサが、その異様な雰囲気に思わず身構える。

「そうだね…なんか、寒気がするよ。」
助手席から降りた南花は、両の二の腕を、両手で短く擦る。
トラックの荷台から、飛び降りたサクラ、コマチ、アオイが、備品を降ろしていると…

「初めて訪れた方々が、嫌悪感を抱くの仕方ありません…閉鎖された精神病院を再利用した孤児院ですので…」
そう言いながら南花達に近付いてきた中年の男性は、恵比寿神の様に目が細く、ふくよかなオーラを放っている。

「初めまして、この孤児院の代表を務める【マイルズ・アラウト】と申します。今回は、ありがとうございます。」
マイルズはニッコリっと笑い、南花に握手を求める。

「えっ…源南花と言います。本日は、よろしくお願いします。」
一瞬、躊躇いを見せつつも南花は握手する。

「初めまして。ここの子供たちの支援員長【メアリ・アプシー】です。源さんとクロウさんのご活躍のお噂は耳にしておりますよ…」
アリサに話しかけてきた女性は、ロングスカートのメイド服の上にエプロンをしている。

「いいえ、そんな大したことありませんよ…今日は、よろしくお願いします。」
アリサとメアリがお互いに軽く会釈する。

「炊き出しを行って頂くのは、中庭になりますのでご案内致します…あぁ、運ぶのを手伝いますよ。」
わたくしもお手伝い致します。」
案内役を申し出たマイルズとメアリは、率先してトラックから降ろされた荷物持ちを申し出る。

ーーー

中庭に案内された南花達は、準備を終え…孤児達が学校から帰宅するまでの時間、束の間の休息を得ている。
その中庭の中心にある噴水を囲うように、円形の花壇には、背丈の低いランタナが様々な色の花を咲かしている…

「皆さん、そろそろ子供たちが帰って来ますが…準備はよろしいですか?」
「はい、準備万端です。」
支援員長【メアリ】の問い掛けに応じた南花は、アリサにアイコンタクトを送る。
その視線に気付いたアリサも、無言で頷くと…

子供たちの賑やかな声が中庭に入ってくる。

「はいはい!みんな、今日は首都機関から来てくれたお姉さん達が、ホットドッグを差し入れしてくれるから、ちゃんとありがとうって言うのよ。」
メアリの呼び掛けに返事をした子供たちの中には、普段馴染みのない首都機関所属の南花達に羨望の眼差しを送る子供もいる。

「はい、熱いから気をつけてね。」
南花は、子供たち一人一人に微笑みながら、自らの手で狩り、加工も手伝った猪肉のソーセージを挟んだホットドッグを手渡ししていく。

「南花さん、次のソーセージの焼き加減は、これくらいで良いですか?」
次々と手渡す南花の背後に立つアオイは、バーベキュー用の大きいコンロで焼きを担当している。
「うん?…アオイちゃん、それでいいよ。」
アオイの問い掛けに応じた南花の隣では、アリサも子供たちに手渡している。

「何?玉ねぎが嫌いなの?ダメよ、それじゃあ大きくなれないわよ…好き嫌いなく食べなさい、良い?」
「ふっ、ふふ…」
優しく諭すアリサに、南花は思わず笑ってしまう。

「何かしら?」
「いや、アリサがそんな事を言うなんて意外だなって思っただけだよ…ふふ…」
「南花の中では、そんなに堅物のイメージなのは心外ね。」
アリサは、長い銀髪の毛先を軽く弄りながら、照れる。

子供たち全員に渡し終えた…南花、アリサ、アオイもホットドッグを手に取ると…
複数の歓声が聞こえる、隣の芝生に視線を向ける。

視線の先では、地下道化師トネリコとして培った、手品や大道芸の腕前を披露するサクラとコマチがいる。
そこに、もう一人の地下道化師トネリコアオイが参加し、更に賑やかさが増した所で…アリサが、その場から目立たぬ様に離れる。

孤児院の施設内に入ったアリサは、事務室にて受付を担当する支援員に話しかける。
「首都機関の方ですよね?どうかされました?」
「すいません、お手洗いをお借りしたいのですが…場所を教えて頂けますか?」
トイレの場所を聞いたアリサは、短く礼を告げ、歩みを進める…

そして、トイレの個室に入り、鍵を掛けたアリサは…
慣れた動作で、施錠した個室の上から脱出する。

「全く…学校のトイレに何度も閉じ込められた経験がこんな形で役に立つなんてね…まぁ、今回は、扉を外から押さえるデッキブラシも、頭上からのバケツスコールも無かったけれどね。」
自虐を呟いたアリサは、ペコから聞いた本来の目的地に静かに急ぐ…

そして…2階、3階への上階と地下へと伸びる階段部分にたどり着いたアリサは、周囲に気配が無いことを確認し、地下へと降りていく…

「ここね…」
そこには、レンガ造りの壁に収まる木造のドアが鎮座する。
しゃがんだアリサは、錆び付いた南京錠の鍵穴に、2本の針金を通す…
そして、士官学校で身につけた偵察技術を駆使し、難なくと解錠する。

ギィ…ギギィっと軋む木造のドアを開けたアリサは、安全確認クリアリングし慎重に侵入する。
薄暗く肌寒い室内には、ワインセラーに多数の瓶詰めされたワインと大きいワインの樽が複数置かれている。

「どこなの…」
ペコの情報通りに、レンガの壁面に近付いたアリサは、手をかざし、風の抜け道を探す。
「この辺りから、風が抜けてる…」
見当がついたアリサが、さらに入念に調べると…

僅かに、ぐらつくレンガを一つ見つける。
そして、アリサが、そのレンガを引き抜くと…

「あったわね…」
微かに見える古びたドアノブに、アリサは恐る恐る、手を伸ばし…
そして、ドアノブを下げる。

すると、レンガの壁面の一部分ごと、押され開いていく…

「この先は、虎穴ね…」
早まる鼓動を理性で抑えようとするアリサは、愛銃である中折れ式の単発式拳銃シングル・ピストルを取り出し、構える。

そして、抜いたレンガを元に戻したアリサは、扉の先へ歩を進み…
扉の内側から、静かに閉める。
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