バビロニア・オブ・リビルド『産業革命以降も、神と科学が併存する帝国への彼女達の再構築計画』【完結】

蒼伊シヲン

文字の大きさ
43 / 79
3章.無神格と魔女の血

38『ペルソナの後片』

しおりを挟む
 16歳のユキノと18歳のミランダは、極限状態の実戦に近い試験で、対峙する…
その内容は、参加人数に対して明らかに少ない支援物資と報酬を奪い合い、七日間目の日没まで生き残る形式である。

帝国の開発計画の一環として、封鎖された村で行われる試験も七日間目の黄昏時という最終局面を迎えている…

見棄てられた学校の図書室で、疲労の色を隠せないユキノとミランダが、にらみ合う。
お互いの胸元に埋め込まれた【疑似神格術式】を次の形態へ昇格させる為に、必要な報酬が入った箱の前で…

「ユキノ、ごめんね…今回ばかりは、あんたでも譲れないから。」
「それは、コッチのセリフだからミランダ。」
お互いに残弾数が少ない回転式拳銃リボルバーの銃口を向け合う…

「ユキノのお得意の迷彩魔術も品切れ?」
「そういうミランダこそ、蜘蛛の糸は出せない感じでしょ?」
お互いが、次の出方を窺っている…

しかし、そこにユキノの背後にある窓から、漁夫の利を狙っていた少年が窓を割り…
その勢いのまま、背を向けるユキノから制圧を試みるが…
ミランダは、自身の能力である、残された糸を口から絞り出し、ユキノをはね除け…
少年の攻撃の射線上から外す。

「くぅ…あぁ!」
そして、ミランダは眼前に迫る標的に向けて発砲し、見事に命中させるが…
少年が放った火の弾により脇腹を焼かれる。

ミランダと奇襲が未遂に終わった少年の2人は、同時に倒れる。

「あぁ、ミランダ…」
負傷したミランダの様子に、慌てたユキノが体を軽く左右に揺らしただけで、拘束していた糸は容易く解かれた…

「医療キット…医療…あっ、あった!」
さっきまでミランダとにらみ合いをしていた箱に駆け寄ったユキノは、目当ての報酬には目もくれず…同梱されていた包帯と消毒薬を手にし、ミランダへ応急措置を試みるが…

「ユキノ…何をしているの…報酬の昇格印を手にして…さっさと逃げないと、別の候補生が嗅ぎ付けて来るから…」
「こんな状態のミランダを置き去りにして行ける訳ないでしょ!」
必死に応急措置をするユキノの姿に、ミランダは痛みの中、苦笑する。

「なんの為に最後まで生き延びたのよ…今回の試験をパス出来なかった人間は、【化物シュタイン】の素材として廃棄されるって通告されていたでしょ?」

「分かっているよ!ミランダと共に、試験をパスしたかったよ…でも、想像以上に試験が難しくて…それが叶わないんだったら…」
ユキノは、涙をこぼしながら応える。

「私よりも優秀な、ミランダこそ生きて…帝国に貢献して欲しいっと思ったから…この図書室でにらみ合いになった時点でそう…決めたから…」
「そう…ありがとう。良い後輩に恵まれたな…でも、いくらアタシが優秀でも既に手遅れなの…」
残された力で、そう呟いたミランダは、何とか動く右手でシャツのボタンを外し胸元を、ユキノに見せる。

「ウソ…なにこの色は?」
ミランダの胸元にある【疑似神格術式】は、黒ずみ全く鼓動を感じられない…
「あはは、うん…アタシのやつはここに来て、拒絶反応が強くなって…腐ってしまってもうダメみたい。」
そうぼやくことしか許されないミランダは、ユキノの応急措置の手を止めさせる。

「だからさ…ユキノが、アタシの分まで生き残ってくれる?お願いだから…」
ミランダの涙に誘われ、ユキノは泣き叫ぶ。

血で汚れた手で涙をぬぐったユキノは意思を固める。
「……うん、わかった。これからの試験も全て合格してみせるよ。」
不器用な笑みを見せる姿に、安堵したミランダが続ける。

「ごめん、ユキノ…もう1つ頼みごとがあったわ…」
「うん?な、何?」
ユキノはキョトンした表情を見せたかと思いきや、何かを察して、表情が曇る。

「その銃でアタシを撃って…そして、アタシを化物シュタインにさせないで。」
「えっ…うん、分かったよ…」
嫌な予感が当たり、ユキノは一瞬だけ戸惑うが、ミランダの眉間に銃口を向ける。

「違うでしょ…疑似神格術式が完全に機能を停止しない限り、アタシ達は生存する可能性があるでしょ?」
ミランダは自分自身で、向けられた銃口を胸元まで下げる。

「うん…知ってる…」
そう応えたユキノだが…回転式拳銃リボルバーの引き金に指を掛けられない…

図書室での争いを嗅ぎ付けた、他の候補生が慎重にだが、確実に目当ての昇格印に近付いてくる足音が聞こえる…

「これからも頑張りなよ…泣き虫の後輩…」
「ありがとう…優しい先輩…」

ーーー

夜が近づき暗闇の支配が強くなってきたなか…図書室での僅かな光を、校庭の木に止まる機械的な鳩が見つめる…

「ふぅん…ユキノ君、興味深いねぇ…」
自身の魔術で遣わせた電子鳩で、今回の試験を観察していた統括長ドミニウムの一人エンキが、手にする候補生のリストに視線を落とす。

「いくら…帝国の為とは言え、こんなやり方には、俺は賛成しづらいな。」
好感触を示すエンキとは、打って変わって顔をしかめるのは…
帝国西圏側の統括長ドミニウムを務める大男【マルドゥク】である。

「全ての試験を合格した人間の中から、君とイシュタル君が運用している西圏側の【秘密警察ジーク】にも配属されているのだろう?」

「確かに…そうだな…利益だけを見て、その裏にある犠牲には目を瞑るのは、虫が良すぎるな。」

地下養成管理棟パノプティコンの進捗を視察した、エンキとマルドゥクは、その場から去る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

処理中です...