バビロニア・オブ・リビルド『産業革命以降も、神と科学が併存する帝国への彼女達の再構築計画』【完結】

蒼伊シヲン

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4章.モネータとハンムラビ

45『湖畔の主と再会』

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 帝国西圏側にある、針葉樹林と木造の民家に周囲を囲まれた湖は、早朝の静けさと薄霧が相まって更に落ち着いた雰囲気を放っている…
そこへ、南花、アリサ、サクラ、コマチ、アオイの5人に加えてハンムラビが釣具を持って現れる。

「ふわぁ…うん?何だ、あの鳥は?」
コマチは、あくびをしながら停泊する小舟の上に佇む1羽の孔雀に興味を示す。
「あぁ…あれは、孔雀っていう鳥ですね。」
その問いに応えたハンムラビが続ける。

「そろそろ…ポイント…私がアトラ氏の懐中時計を落としてしまった箇所に着きます。」
「まぁ…誰だってうっかりすることはありますし…」
再び恥ずかしさに苛まれるハンムラビを、アオイがフォローする。

「あそこのコテージですか?」
「はい…そうですね…」
南花が指差す先には、木造の2階建ての建物が見えてくる。

そして、湖に面したコテージのベランダに着いた南花達は、荷物を置く。
「さぁ…準備しましょうか…」
そう端を発したアリサが、最初に釣具をケースの中から取り出す。

「うん…懐中時計の鎖の部分に釣糸を通しって…ぷっ…本当にこれで釣れるの…あっ、ごめんなさい。」
無意識に疑問を漏らしてしまったサクラが、赤面するハンムラビに謝る。

「おほん…龍魚は匂いに敏感らしいので、塩漬けのイクラをネットに入れた物を仕掛けに使って下さい。」
気を取り直したハンムラビは、セーフハウスに貯蔵していた魚卵を、数粒ほど編み目の細かいネットに入れ、結んだ物をアリサへと手渡す。

「湖のぬしにだけ与えるのは、勿体無いな…白ご飯が欲しくなるな…」
「コマチがそう言うと思って、おにぎりを握って持って来ているから。」
生唾を飲み込むコマチに対して、南花が朝食としてイクラが具材のおにぎりと水筒から味噌汁を差し出す。

「流石、南花だな!有り難く頂くとしよう…こっちの歪な塊はアオイだな…」
「ちょっと、コマチ!私が握ったほうも食べなさいよね。」
南花が握ったおにぎりだけを2個取ったコマチに、気付くアオイ。

「ふふ…これじゃあ、まるでピクニックね…」
早朝であるにもかかわらず、通常営業な2人のやり取りを横目に、アリサが懐中時計と仕掛けを付けた釣り針を水面へ投げ込む。

「よし…私も…」
意を決した南花も、父の形見でもある懐中時計を釣糸にくくり付けて投げ込む。
「じゃあ…残る一つは、私が投げるよ。」
サクラが、硝子細工の職人【きりこ】から譲り受けた懐中時計を付けた釣り針を垂らす。

ーーー

3つの釣り針が投げ込まれてから暫く時が経ったが…全く釣れる気配は無い。

「はぁ…釣れるのは、鱒や鯉ばかり…どうするかな…」
思わず南花がため息をこぼす。
「申し訳ありません…申し訳ありません…」
望んだ釣果ちょうかを得られない現状に対して、ハンムラビは謝罪する機械と化している。

「これは、これは南花さん達じゃない…こんな所で何をしているのかしら?」
「うげぇ…その声は…」
コテージに重たい空気が漂う中…南花と旧知の存在であり、首都機関兵でもある【ペコ・フラワリー】が現れる。

「ふぅん…って、ぷっ!何よ、その作戦は…第一騎士団の秘書さんは思いの外ポンコツなのね…」
「ちょっと!…そう言う、ペコ先輩こそ何故こんな所にいるんですか?」
謝罪する機械への追撃を防ぐ為に、南花が話題を変える。

「そうですわね…私は、東圏側の工業化が、西圏側…延いては、帝国全体の自然に与える影響を調べているの…今日は、ここの湖の水質検査が仕事なの。」
「ペコ先輩…それは…」
南花の忠告に気付かないペコは…釣り餌であることを知らずに、残っているイクラを盗み食いしながら、水面に近付き言葉を続ける。

「それにしても…この湖にそんな化物がいるのかしらね…今は、もう科学の時代なのよ…馬鹿げているわね…うん?」
ペコがイクラを手にしたことで、汚れた右手を水面で、パシャ、パシャとしていると…暗い湖底から大きな魚影が浮上してくる。

「ギィヤアァ!?何よ、この魚!…って、嘘でしょ!いやぁ、南花さん、たすけ…たす…」
突如として現れた8メートルを超える巨大な化物に襲われたペコは、そのまま丸呑みされ、湖底へと引きずり込まれていく…

予期せぬ出来事に開いた口が、閉まらない南花達6人。

「もしかして…あれが…」
「はい…あれが、この湖のぬしである龍魚です…歯を持たないと言われているので、命に別状は無いかと思われます…でも、まぁ…臭くなりますが…」
目が点の状態の南花の問い掛けに対して、ハンムラビも放心状態のまま応える。

「ペコさん…良い奴だったよ…」
「そうだね…うん?この言葉、前にも聞いたような…」
コマチの言葉に、サクラが既視感を感じる。

「うん?待って…あそこ!」
湖の水面が不自然に波立っていることに気付いたアリサが、指を指す。

すると、次の瞬間…龍魚が水面を跳び跳ねる。
そして、凝視するとペコが龍魚の口から脱出しようと奮闘している。

「あっ…また、潜っていった…」
大きな水飛沫を見た、アオイが呟く。

暫くの静寂が湖に訪れる…

「ぐすん…ペコ先輩との別れ方が、こんな形だなんて…」
南花が偽りの涙を流していると…

「はぁ…はぁ、湖の化物を仕留めてみせましたわよ…」
水飛沫と共に水面から現れた、首都機関から訪れた女性ハンターは、神格によって身体能力を強化し、8メートルを超える龍魚を両腕で、なんとか持ち上げながら…
南花達がいる、コテージのデッキに戻って来るが…

「魚臭いです…盾ゴリラ先輩…」
「臭うぞ、ペコさん…」
南花とコマチの一言に、アリサ達の他の面子は、ただ頷くだけで無言を貫く。

「それは…ないでしょ…もう、帰りますわ。その前に、シャワーと替えの服を貸して下さいまし。」
寒さと扱いの酷さからペコは、震えながら涙をこぼす。

ーーー

ペコが捕獲した龍魚を、第一騎士団の本拠地である教会へ運ぶ為…
アリサが首都機関の職員であることを名乗り、地元住民から輸送用のトラックを借りる相談を終えて、目的のトラックがあるガレージを訪れている。

「はい…ありがとうございます。」
アリサが、礼を告げると地元住民は去っていく。

「確かに、このサイズの車なら…持ち運べるわね…」
そう呟きながらアリサが一人で、大きなトラックの周囲をぐるりと回っていると…背後から人の気配を感じる…

「南花?…これなら、いけそうじゃないかしら?」
振り返ったアリサの瞳に映ったのは、南花ではなく…
思わず、フリーズし立ち尽くしてしまう。
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