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終章.バビロニア・オブ・リビルド
54『黄昏時乃アルケミスト』
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東圏側の【地下養成管理棟】にアリサが捕らわれてから数日…
一定の間隔で身体を蝕むザクロの実による痛みの影響で、満足に休息を得られていないアリサの表情は疲弊している。
「っう…はぁ、はぁ…」
捕らえられた直後に胸元に植え付けられたザクロだけではなく…
2日目に右足の太ももに植え付けられた2個目のザクロが、丈の短いワンピースの下から垣間見られる。
冷たい床に伏しているアリサの耳に、ここ数日で聞き慣れたヒールの足音が近付いてくる…
「アリサちゃんに、残念なお知らせよ…」
アリサが閉じ込められている檻の前で足を止めた女性、【メアリー・アプシー】が語りかけてくる。
「もうすぐ貴方のお仲間達が、エンキ局長によって捕まるみたいよ…アリサちゃんのだんまりな姿勢も無駄だったわね…あはは!」
床に伏しているアリサの視線に合わせる為に、中腰になったメアリーが勝ち誇った笑みを見せる。
「ふっ、そう…あなたの陰湿な苛めにこれ以上…付き合っていられないから…丁度、良かったわ…さっさと刑務所の檻にでも移送して欲しいわね…」
悪意ある言葉に対して、アリサは何とか嫌味を絞り出す。
「ッウ!まだ、そんな悪態を付ける元気があるのなら、最後にもう少しだけ私の道楽に付き合って貰いましょうか!」
感情を逆撫でされたメアリーの語気が強くなる。
そう言い放ったメアリーは、檻の中へ足を踏み入れると…
鎖に繋がれた手枷を手に取り、アリサの右手首、左手首の順番で拘束し…
再び、アリサに膝を付いた体勢を取らせる。
「そうね…3つ目は、どこにしようかしらね?」
右手に新たなザクロの実を手にしたメアリーが、吊るされたアリサを物色するかの様に、周囲をぐるりと回る…
「くぅ!」
そして、アリサの背後で足を止めると…取り出した刃物で白いワンピースごと、アリサの背中を浅く斬る。
「何かしらこれは…火傷の跡?いずれにしろ、まだ若いのに…こんなに傷だらけになって可愛そうなアリサちゃん…」
アリサが士官学校時代に背中に付けられた焼き印に一瞬、気を取られつつも…メアリーは、3つ目のザクロを切り傷に当てる。
「ッウ…かはぁ!」
新たに自身の血肉を貪る存在による激痛を無言で耐えようとするが、アリサの口から痛みが漏れてしまう。
3つの血肉を貪る存在の侵食の音のタイミングに合わせて、アリサを繋ぐ鎖が鈍い音を響かせる…
そして、アリサの口から、悲痛な声が漏れる。
「あぁ…良い三重奏ねぇ…あと少しだけしか聞けないのが残念だわ…」
痛みに耐えるアリサの眼前で、メアリーは恍惚な表情を浮かべる。
「ッウ…こんな…変態な人間が正義なんて…おかしいわね…」
激痛が走るなか…アリサが真意をこぼす。
「(そうだよねぇ…この帝国は、どのタイミングで歩む道を違えたんだろうね…)」
何処からともなく聞こえてくる、飄々とした女性の声にアリサの意識が向くが…その言葉はメアリーには聞こえていない。
「(幻聴?…疲弊し過ぎて可笑しくなってしまったの…)」
アリサが心身共に限界を超えてしまった事による幻を疑う。
「(あぁ、幻聴ではないよ…顕現する為に必要な魔力源もあるし、名乗る前に実体化しようかな。)」
飄々とした女性の声がそう告げた瞬間…アリサの背中にいるザクロの侵食が火傷の位置まで達して、その火傷の跡が微かに光を発し始める。
そして、アリサの背中から青白い光と共に、瑠璃色の蛇が姿を見せる。
「何よ!?この蛇は!」
唐突に現れた存在に対して、メアリーは反射的に攻撃魔法を発動させようとするが…
「ひぃ…いやぁ、やめて!やめぇ…」
瑠璃色の蛇によって、メアリーは瞬く間に丸呑みされてしまう。
魔術師1人分の魔力と人語を得た蛇は、一回り全長が伸びる…
そして、拘束されているアリサの眼前で、瑠璃色の蛇はとぐろを巻いて対峙する。
「えっ…蛇?」
突然、自身の背中から現れた存在に対して、驚くことしか出来ないアリサ。
「えっと…この蛇は、私の意識の一部を取り込んだ分身であり化身と言った存在だよ。」
瑠璃色の蛇が、飄々とした声で状況を語り出す。
「えっと…あなたは何者かしら?」
何とか冷静さを保とうとするアリサが問い掛ける。
「おっと!先ずは、名乗らないとね…私の名前は【モルガーナ・ピルグリム】。元東圏側A区の統括長であり、世界最高峰の錬金術師だよ。」
飄々とした声の主である、モルガーナが誇らしげに自己紹介をする。
「最高峰?…そうですか。貴方が、あのモルガーナさん…最高峰の錬金術師なのに、この帝国から追放されたのですか?」
自ら最高峰を謳う事に対して胡散臭さを感じたアリサが、痛い所を言及する。
「うっ…痛い所を突っ込まないで欲しいよ…それは、あれだよ…出る杭は打たれる的な感じだよ…そのあたりを話し始めたら長くなっちゃうし…取り敢えずは、現状況に対処するのが優先でしょ!」
あたかもモルガーナ本人があたふたしてるかの様に、瑠璃色の蛇の動きが感情豊かに見える。
「確かにそうね…それにしても、何時から私の体内に潜んでいたの?」
モルガーナの提案に賛同した、アリサが疑問を投げ掛ける。
「あぁ、それはね…君が、元同級生である金髪縦ロールの子に焼き印を押し付けられたタイミングからだよ。」
そう答えた蛇は、アリサの両手を拘束する枷を魔術によって、難なく破壊して見せる。
「ありがとう、助かるわ…それで、焼き印とモルガーナさんがどう関係しているのかしら?」
拘束から解放されたアリサが、更に問い掛ける。
「私の使い魔であるカラスが露店商の店主に化けて、あの子にブレスレットを買わせるついでに焼き印を渡したっていう流れかな…それにしても、傷付いたな…趣味の悪いブレスレットって言われて…」
モルガーナ本人に代わって、蛇が悲しみを代弁する。
「そう…ブレスレットに関しては事実だから仕方ないじゃない…ふっ…」
思い出し笑いをしたアリサが続ける。
「アトラ氏の懐中時計の所在に関して、何か知っているかしら?」
「そうだね…5個目の懐中時計…即ち、星座早見表は…」
瑠璃色の蛇は僅かに身体を伸ばして、視線を移動させる。
「実は、アリサ君…君の背中の火傷跡に、その設計図の情報を圧縮して刻み込んでいるんだよね。」
モルガーナの化身の一言に驚きを隠せないアリサ。
「そう…それなら、南花達との合流を急いだ方が良いわね…でも、問題は…この監獄からどうやって抜け出すかね。」
アリサは傷だらけになり疲弊している状態で、まともに動けない事を再認識させられる。
「うん、ここから抜け出す為の力を君に与えるよ…私も、この蛇にはまだ役割を与えているしね…しかし、一つ忠告だよ…」
それまで飄々としていた蛇の声のトーンが下がる。
「私の魔女の血を引き継いだ末裔である、アリサ君なら問題ないとは思うけれどね…私が築き上げた錬金術の一部を扱うには、相応の【責務】を背負う覚悟が要るよ?」
蛇の分身ではなく、錬金術師としてのモルガーナが警告する。
一瞬の間の後に、緊張を飲み込んだアリサ。
「再構築計画を実行しようと思った時から、【権利】と【責務】を背負う覚悟は決まっているわ…そして、何より南花達が危機に直面しているのに、見過ごせないわ。」
深く深呼吸したアリサが続ける。
「貴方の錬金術を、私に授けて欲しい。」
迷いの無いアリサの視線に対して、モルガーナの代わりとして蛇は深く頷く。
「そう…なら、この林檎を食べたら…傷も癒えるし、私が見てきた世界の一部が、君の物になるよ。」
そう告げた蛇は、何処からともなく赤い林檎を一つ錬成する。
「えぇ、分かったわ。」
そう短く応えたアリサは、眼前に転がる林檎を手に取る。
そして、躊躇うことなく口にする。
すると…次の瞬間…檻の中にいたはずのアリサの両脇には、巨大な本棚がそびえ立っている。
「っ!?…ここは、何処?」
静寂が支配する黄昏時の書斎に立つアリサは、左右の本棚…背後…そして、正面の順番で視線を移動させる。
「今のここは、私とアリサ君だけの世界…」
正面の机の席には、つばの広い帽子を右目が隠れる程に、深く被った錬金術師【モルガーナ・ピルグリム】本人が座っている。
「君は知識の世界に溺れることなく…元の世界に戻れるかな…」
そうモルガーナが呟くと…両脇の本棚から、本が崩れ落ちてきてアリサを襲い始める。
「っう…くそ…こんな所で、私は立ち止まれないの!」
本の雪崩を何とか登るアリサが決意する。
そう言葉を発した瞬間…遠い何処かの喫茶店で、少し大人びたアリサと南花が、矢絣袴にブーツという出で立ちで、対話している状況が一瞬だけ瞳に映る。
そして、気が付くと…アリサは元の檻の中に佇んでおり…傷も癒えていた。
「本当に傷が回復してる…ザクロの侵食も消えたし…」
ザクロが蝕んでいた胸元と太もも部分の肌が、元の状態に戻り安堵するアリサは、背中の火傷跡が消えていない事に気付いていない。
「それは良かった…流石に、ここのゴーレム達が勘づいたか…この辺で私は別の目的地に行く事にするよ。」
瑠璃色の蛇が言う通り異変に気付いた、施設の警備に当たる約2メートルのゴーレムが複数体、アリサの眼前で戦意を向けている。
「動かないでくれやがれ…大人しく指示に従って下さい…さもないぃ…」
言葉遣いが不安定な女性型ゴーレムの警告は、瑠璃色の蛇が丸呑みすることで遮られる。
ゴーレムを取り込んで大きくなった蛇が、更に2体目…3体目を捕食する度に巨大化していく…
「何よ…この蛇の化物は!」
更に騒ぎを嗅ぎ付けた人間の女性魔術師が攻撃体勢に移るが…間に合わず、またしても蛇によって捕食されてしまう。
瑠璃色の蛇は、【地下養成管理棟】の中心部を目指しながら、次々と現れるゴーレムや魔術師達を捕食していき…
中心部に生える大きな林檎の木に辿り着くと…木に実る赤い林檎を一つ食べる。
すると…蛇の姿形が、ティアマトの神獣であるドラゴン【ウシュムガル】へと転化する。
そして、そのドラゴンは施設内に重く響き渡る程の咆哮を上げたのちに…地上を目指して吹き抜けの天井を突き破り上昇していく…。
その咆哮によって、地下養成管理棟に少年少女達を捕える為の檻の鍵が、全て開錠される。
唐突な状況にキョトンする少年少女達であったが…脱出する好機だと気付いた存在が1人、また1人と増えていき…捕らわれていた屈辱に対する反骨心が伝播し、大きな反乱へと繋がる。
そして、火炎系の【疑似神格術式】を宿した少女が、狂喜しながら火を放った事で施設内の混沌が加速していく…
施設を警備する大人の魔術師達が対処しようとするが、数の暴力に押されて…瞬く間に制圧されてしまう。
秩序を失った地下養成管理棟の廊下を歩くアリサから溜め息が漏れる。
そして、アリサは、ウシュムガルが天井を突き破った林檎の木の下に辿り着く。
「まるで…フランケンシュタインね…よく分かっていない神様の技術を転用した人間達に相応しい末路ね。」
モルガーナとの契約から得られた言葉を放った錬金術師の背中から、黒鉄の翼が生える。
そして、錬金術師としての力を得たアリサが、林檎の木の元から飛び去っていく…
一定の間隔で身体を蝕むザクロの実による痛みの影響で、満足に休息を得られていないアリサの表情は疲弊している。
「っう…はぁ、はぁ…」
捕らえられた直後に胸元に植え付けられたザクロだけではなく…
2日目に右足の太ももに植え付けられた2個目のザクロが、丈の短いワンピースの下から垣間見られる。
冷たい床に伏しているアリサの耳に、ここ数日で聞き慣れたヒールの足音が近付いてくる…
「アリサちゃんに、残念なお知らせよ…」
アリサが閉じ込められている檻の前で足を止めた女性、【メアリー・アプシー】が語りかけてくる。
「もうすぐ貴方のお仲間達が、エンキ局長によって捕まるみたいよ…アリサちゃんのだんまりな姿勢も無駄だったわね…あはは!」
床に伏しているアリサの視線に合わせる為に、中腰になったメアリーが勝ち誇った笑みを見せる。
「ふっ、そう…あなたの陰湿な苛めにこれ以上…付き合っていられないから…丁度、良かったわ…さっさと刑務所の檻にでも移送して欲しいわね…」
悪意ある言葉に対して、アリサは何とか嫌味を絞り出す。
「ッウ!まだ、そんな悪態を付ける元気があるのなら、最後にもう少しだけ私の道楽に付き合って貰いましょうか!」
感情を逆撫でされたメアリーの語気が強くなる。
そう言い放ったメアリーは、檻の中へ足を踏み入れると…
鎖に繋がれた手枷を手に取り、アリサの右手首、左手首の順番で拘束し…
再び、アリサに膝を付いた体勢を取らせる。
「そうね…3つ目は、どこにしようかしらね?」
右手に新たなザクロの実を手にしたメアリーが、吊るされたアリサを物色するかの様に、周囲をぐるりと回る…
「くぅ!」
そして、アリサの背後で足を止めると…取り出した刃物で白いワンピースごと、アリサの背中を浅く斬る。
「何かしらこれは…火傷の跡?いずれにしろ、まだ若いのに…こんなに傷だらけになって可愛そうなアリサちゃん…」
アリサが士官学校時代に背中に付けられた焼き印に一瞬、気を取られつつも…メアリーは、3つ目のザクロを切り傷に当てる。
「ッウ…かはぁ!」
新たに自身の血肉を貪る存在による激痛を無言で耐えようとするが、アリサの口から痛みが漏れてしまう。
3つの血肉を貪る存在の侵食の音のタイミングに合わせて、アリサを繋ぐ鎖が鈍い音を響かせる…
そして、アリサの口から、悲痛な声が漏れる。
「あぁ…良い三重奏ねぇ…あと少しだけしか聞けないのが残念だわ…」
痛みに耐えるアリサの眼前で、メアリーは恍惚な表情を浮かべる。
「ッウ…こんな…変態な人間が正義なんて…おかしいわね…」
激痛が走るなか…アリサが真意をこぼす。
「(そうだよねぇ…この帝国は、どのタイミングで歩む道を違えたんだろうね…)」
何処からともなく聞こえてくる、飄々とした女性の声にアリサの意識が向くが…その言葉はメアリーには聞こえていない。
「(幻聴?…疲弊し過ぎて可笑しくなってしまったの…)」
アリサが心身共に限界を超えてしまった事による幻を疑う。
「(あぁ、幻聴ではないよ…顕現する為に必要な魔力源もあるし、名乗る前に実体化しようかな。)」
飄々とした女性の声がそう告げた瞬間…アリサの背中にいるザクロの侵食が火傷の位置まで達して、その火傷の跡が微かに光を発し始める。
そして、アリサの背中から青白い光と共に、瑠璃色の蛇が姿を見せる。
「何よ!?この蛇は!」
唐突に現れた存在に対して、メアリーは反射的に攻撃魔法を発動させようとするが…
「ひぃ…いやぁ、やめて!やめぇ…」
瑠璃色の蛇によって、メアリーは瞬く間に丸呑みされてしまう。
魔術師1人分の魔力と人語を得た蛇は、一回り全長が伸びる…
そして、拘束されているアリサの眼前で、瑠璃色の蛇はとぐろを巻いて対峙する。
「えっ…蛇?」
突然、自身の背中から現れた存在に対して、驚くことしか出来ないアリサ。
「えっと…この蛇は、私の意識の一部を取り込んだ分身であり化身と言った存在だよ。」
瑠璃色の蛇が、飄々とした声で状況を語り出す。
「えっと…あなたは何者かしら?」
何とか冷静さを保とうとするアリサが問い掛ける。
「おっと!先ずは、名乗らないとね…私の名前は【モルガーナ・ピルグリム】。元東圏側A区の統括長であり、世界最高峰の錬金術師だよ。」
飄々とした声の主である、モルガーナが誇らしげに自己紹介をする。
「最高峰?…そうですか。貴方が、あのモルガーナさん…最高峰の錬金術師なのに、この帝国から追放されたのですか?」
自ら最高峰を謳う事に対して胡散臭さを感じたアリサが、痛い所を言及する。
「うっ…痛い所を突っ込まないで欲しいよ…それは、あれだよ…出る杭は打たれる的な感じだよ…そのあたりを話し始めたら長くなっちゃうし…取り敢えずは、現状況に対処するのが優先でしょ!」
あたかもモルガーナ本人があたふたしてるかの様に、瑠璃色の蛇の動きが感情豊かに見える。
「確かにそうね…それにしても、何時から私の体内に潜んでいたの?」
モルガーナの提案に賛同した、アリサが疑問を投げ掛ける。
「あぁ、それはね…君が、元同級生である金髪縦ロールの子に焼き印を押し付けられたタイミングからだよ。」
そう答えた蛇は、アリサの両手を拘束する枷を魔術によって、難なく破壊して見せる。
「ありがとう、助かるわ…それで、焼き印とモルガーナさんがどう関係しているのかしら?」
拘束から解放されたアリサが、更に問い掛ける。
「私の使い魔であるカラスが露店商の店主に化けて、あの子にブレスレットを買わせるついでに焼き印を渡したっていう流れかな…それにしても、傷付いたな…趣味の悪いブレスレットって言われて…」
モルガーナ本人に代わって、蛇が悲しみを代弁する。
「そう…ブレスレットに関しては事実だから仕方ないじゃない…ふっ…」
思い出し笑いをしたアリサが続ける。
「アトラ氏の懐中時計の所在に関して、何か知っているかしら?」
「そうだね…5個目の懐中時計…即ち、星座早見表は…」
瑠璃色の蛇は僅かに身体を伸ばして、視線を移動させる。
「実は、アリサ君…君の背中の火傷跡に、その設計図の情報を圧縮して刻み込んでいるんだよね。」
モルガーナの化身の一言に驚きを隠せないアリサ。
「そう…それなら、南花達との合流を急いだ方が良いわね…でも、問題は…この監獄からどうやって抜け出すかね。」
アリサは傷だらけになり疲弊している状態で、まともに動けない事を再認識させられる。
「うん、ここから抜け出す為の力を君に与えるよ…私も、この蛇にはまだ役割を与えているしね…しかし、一つ忠告だよ…」
それまで飄々としていた蛇の声のトーンが下がる。
「私の魔女の血を引き継いだ末裔である、アリサ君なら問題ないとは思うけれどね…私が築き上げた錬金術の一部を扱うには、相応の【責務】を背負う覚悟が要るよ?」
蛇の分身ではなく、錬金術師としてのモルガーナが警告する。
一瞬の間の後に、緊張を飲み込んだアリサ。
「再構築計画を実行しようと思った時から、【権利】と【責務】を背負う覚悟は決まっているわ…そして、何より南花達が危機に直面しているのに、見過ごせないわ。」
深く深呼吸したアリサが続ける。
「貴方の錬金術を、私に授けて欲しい。」
迷いの無いアリサの視線に対して、モルガーナの代わりとして蛇は深く頷く。
「そう…なら、この林檎を食べたら…傷も癒えるし、私が見てきた世界の一部が、君の物になるよ。」
そう告げた蛇は、何処からともなく赤い林檎を一つ錬成する。
「えぇ、分かったわ。」
そう短く応えたアリサは、眼前に転がる林檎を手に取る。
そして、躊躇うことなく口にする。
すると…次の瞬間…檻の中にいたはずのアリサの両脇には、巨大な本棚がそびえ立っている。
「っ!?…ここは、何処?」
静寂が支配する黄昏時の書斎に立つアリサは、左右の本棚…背後…そして、正面の順番で視線を移動させる。
「今のここは、私とアリサ君だけの世界…」
正面の机の席には、つばの広い帽子を右目が隠れる程に、深く被った錬金術師【モルガーナ・ピルグリム】本人が座っている。
「君は知識の世界に溺れることなく…元の世界に戻れるかな…」
そうモルガーナが呟くと…両脇の本棚から、本が崩れ落ちてきてアリサを襲い始める。
「っう…くそ…こんな所で、私は立ち止まれないの!」
本の雪崩を何とか登るアリサが決意する。
そう言葉を発した瞬間…遠い何処かの喫茶店で、少し大人びたアリサと南花が、矢絣袴にブーツという出で立ちで、対話している状況が一瞬だけ瞳に映る。
そして、気が付くと…アリサは元の檻の中に佇んでおり…傷も癒えていた。
「本当に傷が回復してる…ザクロの侵食も消えたし…」
ザクロが蝕んでいた胸元と太もも部分の肌が、元の状態に戻り安堵するアリサは、背中の火傷跡が消えていない事に気付いていない。
「それは良かった…流石に、ここのゴーレム達が勘づいたか…この辺で私は別の目的地に行く事にするよ。」
瑠璃色の蛇が言う通り異変に気付いた、施設の警備に当たる約2メートルのゴーレムが複数体、アリサの眼前で戦意を向けている。
「動かないでくれやがれ…大人しく指示に従って下さい…さもないぃ…」
言葉遣いが不安定な女性型ゴーレムの警告は、瑠璃色の蛇が丸呑みすることで遮られる。
ゴーレムを取り込んで大きくなった蛇が、更に2体目…3体目を捕食する度に巨大化していく…
「何よ…この蛇の化物は!」
更に騒ぎを嗅ぎ付けた人間の女性魔術師が攻撃体勢に移るが…間に合わず、またしても蛇によって捕食されてしまう。
瑠璃色の蛇は、【地下養成管理棟】の中心部を目指しながら、次々と現れるゴーレムや魔術師達を捕食していき…
中心部に生える大きな林檎の木に辿り着くと…木に実る赤い林檎を一つ食べる。
すると…蛇の姿形が、ティアマトの神獣であるドラゴン【ウシュムガル】へと転化する。
そして、そのドラゴンは施設内に重く響き渡る程の咆哮を上げたのちに…地上を目指して吹き抜けの天井を突き破り上昇していく…。
その咆哮によって、地下養成管理棟に少年少女達を捕える為の檻の鍵が、全て開錠される。
唐突な状況にキョトンする少年少女達であったが…脱出する好機だと気付いた存在が1人、また1人と増えていき…捕らわれていた屈辱に対する反骨心が伝播し、大きな反乱へと繋がる。
そして、火炎系の【疑似神格術式】を宿した少女が、狂喜しながら火を放った事で施設内の混沌が加速していく…
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秩序を失った地下養成管理棟の廊下を歩くアリサから溜め息が漏れる。
そして、アリサは、ウシュムガルが天井を突き破った林檎の木の下に辿り着く。
「まるで…フランケンシュタインね…よく分かっていない神様の技術を転用した人間達に相応しい末路ね。」
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