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プロローグ
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プロローグ
新宿の街に雨が降っている。
新宿の某雑居ビルの前にひとり傘をさして佇む少女。
地味なスーツに身を包んだ少女は風俗の面接にやってきた。
社長「さぁどうぞどうぞ こちらへお座りください」
応接セットに事務机がひとつの簡素な部屋。少女にウーロン茶を薦める男。
少女「……」
社長「はいはいっと」
少女の差し出した履歴書と身分証明書のコピーを眺める男。年齢は50代、肥大した身体とアバタ顔はいかにも風俗店のオーナー然としている。ラークに火をつける。指には18金の太いリング。
社長「鈴木かおり さんね…… ご実家は北海道ですか どうりで色が白いやねうんうん 杉並区に一人暮らし なになに19歳ね 女子大生なのキミ? けっこうけっこう 」
少女「はい……」
社長「えーー国立O女子大か へーずいぶんとお勉強できる子なんだね これまた けっこうけっこう いやいや あのね キミさデリヘルは初めてなんでしょ? うちみたいなお店はキミみたいな真面目そうな娘がうけるんだよ~ いやいいよ 実にいい」
少女「そうですか」ひきつった笑顔。
社長「志望動機はお金を貯めて海外旅行に行きたいのね」
少女「はい いまなかなか時給の高いアルバイトも見つからなくて」
社長「そりゃそうだよね 景気悪いんだよな アベノミクスだなんだかんだ言ったってさ 庶民まではそんな恩恵まわってこないもんね~」
少女「ええ」
少女の顔から下半身を舐め回すように眺める社長。
社長「いいんじゃないかな 合格合格 じゃあかおりさん さっそく今日から働いてもらえるかな?」
少女「は、はい……あの今からですか?」と、壁にかかった時計を見る。針は17時を指していた。
社長「そりゃそうだよ、お金 が欲しいんだったら 善は急げって言ってね 時は金なりってことわざ知ってるでしょ? 」
少女「は はぁ……」
社長「ほいじゃいくか」
少女「えっ どこへですか」
社長「キミはデリヘルというお仕事初めてみたいだから、いちど講習をしておかないとね お~い 反町いるか」
奥から男が顔を出す。
社長「一時間くらい出てくるからさ、あと頼むわ」
反町「わかりました いってらっしゃい」
社長「うんうん ほれ かおりちゃん」おいでおいでをする。
少女「は はい」下を向いて諦めたように立ち上がる。
事務所を出ていく社長と少女。雨は降り続いていた。
新宿の喧騒はその雨に掻き消えるかのようだった。
深夜3時 事務所にて社長と向き合う少女。
社長「はい、かおりちゃん お疲れ様でした~ 今日は4本ついたので4万円。10%源泉引かせてもらった から3万6千円ね」と、封筒を手渡す。
少女「ありがとうございます」
社長「初めてだから疲れたでしょ? まぁ でもすぐ馴れるから頑張ってみてよ ね 期待してるからさ」
少女「は はい……」と、頭を下げる。
社長「おーーい反町 彼女送ってってやれよ」
反町「俺がですか? 」
社長「いまドライバーが全員出払ってっからよ」
反町「はぁ」
社長「彼女 杉並だから近いだろ さっと行って さっと帰ってこいよ」
反町「わかりました」
少女は黙って反町の後をついていく。反町は身長175センチくらい、痩せているがとても清潔感のある服装と雰囲気を漂わせていた。少女は反町には「夜の匂い」がしない。と、感じた。決して愛想はよくないが、そこはかとない親しみも感じた。
降り続いた雨は上がっていた。反町は駐車場に停まっていたシトロエンDS20のドアを開ける。
反町「乗れよ」
少女「はい……」
反町「下高井戸のあたりでいいんだな?」
少女「あぁ はい」
車は走り出すが、車内は重い空気が流れている。
少女「あの……」
反町「なんだ? 」少女「かっこいい車ですね」
反町「中古のポンコツさ 過去の遺物だよ」
少女「フランスの車ですよねこれ……」
反町「…… あのな」
少女「は はい」
反町「ドライバーとは必要以上の口をきくんじゃない 社長から注意受けたろ」
少女「……でも」
反町「なんだ」
少女「反町さんはドライバーさんじゃないですよね? 」
反町「あぁ 俺はふだんドライバーじゃないが おまえの送迎を任されたからには今はドライバーだ それにな うちは女性従業員の管理に厳しくてな 女と親しくしていいのは社長だけって規則がある」
少女「そうなんですか」
反町「あぁ 悪いな」
青梅街道を走るシトロエンDS20。
少女「あっ次の交差点あたりでいいです」
反町「下高井戸はまだ先だぜ」
少女「ちょっとコンビニによりたいんです」
反町「……」
少女「あと、ちょっと風にもあたりたくて」
反町「そうか」
少女「すいません」
あわてて車を降りる少女、交差点を小走りに去っていく。
反町は彼女の姿を目で追うこともなく、ジタンに火をつけゆっくりと煙を肺に吸い込みDS20車内の天井を見上げた。薄茶色 のシミが欧州の形に見えた。古い車なのだ。
※※※※※※※※※※※※※※※
ラブホテルの洗面室で髪の毛をとかす少女。
50歳くらいの客「いや、うしろ姿もかわいいね」と、言って少女の胸を後ろからわしづかみにする。
少女「痛いっ」
50歳くらいの客「あぁごめんごめん あんまりカワイかったからつかんじゃったよ」
少女「大丈夫です 」
50歳くらいの客「今度はちゃんと指名するからね」と言って耳の裏にキスをする。
苦笑いする少女。
ホテルを出て、前に停まっていた白い日産キューブの後部座席に乗り込む少女。
ドライバー「ユキコさん90分コースお疲れ様です 今日はこれであがりなのでこれから事務所に戻ります」
少女「はい」
すかさず少女の携帯電話に着 信が入った。
少女「はい ユキコです」
社長の声「ユキちゃんお疲れさま~ 大丈夫だった?」
少女「はい 大丈夫です」
社長「あの客、必ずと言っていいほど本番強要するヤツだから心配してたんだけど問題なかったみたいね」
少女「ええ とりあえずは」
社長「そう よかった」
事務所に戻る前にコンビニでドリンクとサンドウィッチを買う少女。雑誌のコーナーにささっていた某外車誌に反町の乗っていた車が掲載されていたのを見かける。
社長「おつかれさま~はいユキちゃん」と、封筒を手渡す。「今日は頑張ったね6本分5万6千円」
少女「はい、ありがとうございます」
社長「この調子で頑張ってウチの看板娘になってちょーだいよ ね」
少女「はぁ まぁ それはち ょっと」
社長「まぁね あんた大学生だからムリにとは言わないけど 今度みんなで飲みにでも行きましょう たまにはストレス発散しないとね」
少女 困った感じで 「ええ そうですね あの そういえば反町さん見ませんね?」
社長「あぁ反町? あいつ辞めたんだよ 突然ね」
少女「えっ??」
社長「今月分の給料はいらないからって そういえばあんたのことを送っていった次の日」
少女「そうなんですか」
社長「困っちゃってさ、うちの店の事務仕事をほとんどやってたからもう今てんてこ舞いよマジで」
少女「……」
社長「あいつには特に目をかけてやってたのにさ スカウトから始めてうちの店ではもう3年近く勤めてたのに 辞めるとなったら薄情なもんだよね~ まぁこういう店だから仕方ないっちゃ仕方ないけど ユキちゃん あなたはすぐに辞めないでよ」
少女「はい しばらくはお世話になるつもりです」
社長「そう そうこなくっちゃ」
※※※※※※※※※※※※※※※
朝5時、下高井戸の駅から世田谷線に乗り 換える少女。
ガラガラの電車の座席に座り『松陰神社前』駅で降りる。
コンビニの袋を下げて古びた木造アパートの前に立ち一階角部屋のドアに立つ。
少女の顔が一瞬にしてこわばる。あわてて鍵を回してドア越しに中を見る。
少女「だれ? 中に誰かいるの?」
季節は三月、春曇りの午前5時過ぎは蛍光灯をつけていない日当たりの悪い部屋はまだ暗い。
しかし、確実に人の気配がした。
いや、その人影は少女が普段使っている勉強机の前に座りタバコを吸っていた。
少女「だ だれなの?? あなた」しかし、少女はこのタバコの匂いを知っていた。
男はゆっくりと口を開いた。
反町「よぉ」右手にはさんだタバコを軽くかかげた。
少女「なっ なにしてるんですか!!」
反町「そうだな」と、言って軽く微笑む。
少女「よ よくここが……」
反町「わかりましたね? ってか」缶コーヒーの空き缶の中にタバコを落とす。
少女「そ それによく入れましたね ど 泥棒なんですか そ そりまちさんて」
反町「まぁ そんなに慌てないでちょっと座れよ」
少女「慌てるでしょ ふつう あっ あっ ケーサツ呼びますよ」
反町「警察呼んで、なんて説明するんだ? バイト先のデリヘルの従業員が無断で部屋に入ってますってか?
俺はまだなにも盗んじゃいないぜ」
少女「か か 家宅侵入罪ですよ」
反町「まぁそうだが そのへんは大目に見て いったん座れって望月琴美さん」
少女「……!!」
反町「ほれ コーヒー飲むか」
反町はなれなれしくも暖かい缶コーヒーを放ってよこした。
観念したのか少女はテーブルの横にチョコンと座った。缶コーヒーのプルトップを開けて口に含む。
少女「ここが どうしてわかったんですか」
反町「んー あはは」反町は笑った。「ふん お前さんが O女子大学の自称・鈴木かおりじゃないってことくらい一発でわかったよ。教えといてやるけどな あんな店に面接にくる女でわざわざ身分証をコピーしてくるやつなんざ たいてい身分詐称してるに決まってる」
少女「で でも 」
反町「んなこた百も承知で雇ってんだよこっちは さすがに見た目が小学生ってんじゃ話にならないけど 高校生が姉の保険証をもってくることなんか日常茶飯事なんだ それをお前は学生証を偽造してまで面接にやってきた そもそも身分証を偽造する知識があるんならバカじゃない バカな女は店側も警戒するが バカじゃなければ普通に雇うさ」
少女「……」
反町「それにな 田中のやつが講習って言ってお前を裸にしてちゃんと身体を検分したろ? ガキじゃないか怪しくは無いか見てるんだ」
少女「べつに中学生じゃないし」
反町「あぁ 社長も言ってたよ あの身体なら もしかしたら高校生かもしれないがかまわないって」
少女「……」
反町「あぁ 調べて見て逆にこっちが驚いたよ 最初は俺も高校生かもって思ってたんだけどな まさか本当に国立大学の学生だとは予想つかなかったぜ」
少女「……」
反町「だけど当然だよな O女子大の学生証を使って来たんだからな そっからはすぐに調べはついたよ"鈴木かおり"って女はいなかったけど 一年生にローラーかけてみたらすぐにお前のことを知ってる同級生の女にヒットしたってわけ」
目を見開く琴美。
琴美「ど どうやってそんなこと……あたしお店のHPに顔も出してない のに」
反町「んー うちの店は事務所に監視カメラがついてるからな おまえが面接に来たときのVを拝借してプリントアウトしたの 顔までバッチリと映ってたぜ 」
鼻の穴も開く琴美
反町「そもそもO女子大の学生証は本物みたいだったからな 大方友達のバックの中から無断でパクってコピーしたんだろ? 悪い女だ」
ニヤニヤした顔で琴美を見据える反町
反町はテーブルを挟んで琴美に対面し顔をまぢまぢと覗き込んできた。
反町「うん 俺の見込んだとおりだ 」
琴美「な なにがですか」
反町「もちづきことみ 埼玉県川越市出身 12月24日生まれ 川越女子高卒業の19歳 現在は東京大学文学部在学中 偏差値79 知能指数150 得意教科は英語と数学 高校時代は手芸部 趣味は読書 身長158センチ 体重は45キロ 視力は左右2.0 スリーサイズは未確認だがブラジャーはCカップ 」
琴美「タンスの中まで見たんですか」
反町「そこまで変態じゃねー そこに干してあるやつを見ただけだ」
顔が赤くなる琴美。
反町「父親は他界 実家の川越にはパート勤めの母と地元の県立高校一年生の妹が一人 と」
琴美「いったい何が目的なんですか? お金なんかないですよ」
反町「金? おまえ……この一週間でいくら稼いだ?」
琴美「25万4千円…… 源泉で10%引かれたから手取りは22万8千6百円です」
反町「とっ 計算はえーな」
琴美「どうも」
反町「一週間で本指名が二本か、思ったより少ないじゃん」
琴美「土曜日はお休みしたし、それに……本番しないと指名はなかなか取れないって」
反町「誰に聞いたんだ?」
琴美「翔子さん お店の」
反町「まぁ手っ取り早く稼ぐにはその通りだな 本番すればチップも入るし
サービスも手抜きでいいから一石二鳥ってわけだ 」
琴美「……」
反町「本番やってねーのか」
琴美「やりませんよ 社長からも迫られたけど」明らかに顔は怒っている。
反町「ふ~ん お堅いね 殊勝なこった 」
琴美「いいじゃないですか 私の勝手ですよ」
反町「おまえ いまサイフの中にいくらあるんだ」
琴美「えっ」しぶしぶと言った表情でサイフの中から現金を出す。
反町「あれ残り10万もねーのかよ おいおい もう稼いだ金の半分も使っちまったのか」
琴美「しょーがないでしょ、今月の光熱費とか家賃も払っちゃったんだから」
ポリポリと小指で耳の後ろをかく反町。
琴美「服も 下着も買いました」唇をかみしめる琴美。
ため息をつく反町。
横に置いた紙袋の中に手を入れて、ガサガサと音を立てながら現金の束を出した。
ドンっ!!
反町「ここに一千万ある」
口をあんぐりと開ける琴美。
反町「おまえんちの借金は推定で一千万円とちょっと これじゃ利息分までには届かないかもしれないが
かなりの金額は 清算できるはずだ」
琴美「ちょっと なにを言ってるのかわからない」
反町「だよな」笑いをこらえる。
琴美「あのっ うちの借金と反町さんとどういう関係があるんですか
そもそもなんで私のことそんなに調べてるの? どうかしてるんじゃないですか」混乱する琴美。
反町「……」
琴美「いったい なにが目的なんですか 」目から涙があふれる琴美。
スーツのポケットからジタンとジッポを取り出しタバコに火をつけ観念したように語りだす反町。
反町「お前にこんな話をして信じるかは疑問だけど とりあえず聞け
おれはな 熊本の高校を卒業してから東京に出てきて新宿ですぐにスカウトマンになった 18歳でだ」
琴美の目を真剣に見つめる。
反町「それから10年間 ほぼ毎日のように女に声をかけ、ときにはその女たちを
風俗店やキャバクラに紹介したりAV女優の事務所に売りとばしたりもしてきた」
琴美「それは社長さんにも聞きましたけど 反町はスカウト時代から目をかけてきたのに って」
反 町「まーな 確かに田中社長には世話になったよ 何のケツモチも無いおれを使ってくれて
そこそこの給料も支払ってくれてたしな」
琴美「ケツモチ?」
右手で琴美の発言を遮る反町。
反町「バカバカしいと思うんじゃねーぞ いいか おれは今 人生において未だかつてないくらい真剣に話しをしようとしている だから 聞け」
コクコクとうなづく琴美。
反町「おれはな ダイヤモンドのように光り輝く 世界一のアイドルを探してる」
琴美「だ ダイヤモンド……?」
反町「そうだ そんな女を探すために今までスカウトマンをやってきたんだ」
琴美「え゛え゛っっ」驚愕。
反町「だから おれは今日から芸能事務所を立ち上げる!!」
琴美「げいのう じむしょ……ですか あの~ それと わたしと なんの関係もないじゃないですか」
反町「でかい声出すんじゃねーよ まだ早朝なんだから」
琴美「すいません って ここあたしの部屋なんですけど」
反町「……」
琴美「反町さんの言ってることと、このお金がどうつながるのか わたしにはわからないんですけど」
反町「ダイヤモンドを発見した」
琴美「そうなんですか?」
反町「まだ原石だけどな」
琴美「はぁ」
ふたりの間に少しの沈黙が流れる。
新宿の街に雨が降っている。
新宿の某雑居ビルの前にひとり傘をさして佇む少女。
地味なスーツに身を包んだ少女は風俗の面接にやってきた。
社長「さぁどうぞどうぞ こちらへお座りください」
応接セットに事務机がひとつの簡素な部屋。少女にウーロン茶を薦める男。
少女「……」
社長「はいはいっと」
少女の差し出した履歴書と身分証明書のコピーを眺める男。年齢は50代、肥大した身体とアバタ顔はいかにも風俗店のオーナー然としている。ラークに火をつける。指には18金の太いリング。
社長「鈴木かおり さんね…… ご実家は北海道ですか どうりで色が白いやねうんうん 杉並区に一人暮らし なになに19歳ね 女子大生なのキミ? けっこうけっこう 」
少女「はい……」
社長「えーー国立O女子大か へーずいぶんとお勉強できる子なんだね これまた けっこうけっこう いやいや あのね キミさデリヘルは初めてなんでしょ? うちみたいなお店はキミみたいな真面目そうな娘がうけるんだよ~ いやいいよ 実にいい」
少女「そうですか」ひきつった笑顔。
社長「志望動機はお金を貯めて海外旅行に行きたいのね」
少女「はい いまなかなか時給の高いアルバイトも見つからなくて」
社長「そりゃそうだよね 景気悪いんだよな アベノミクスだなんだかんだ言ったってさ 庶民まではそんな恩恵まわってこないもんね~」
少女「ええ」
少女の顔から下半身を舐め回すように眺める社長。
社長「いいんじゃないかな 合格合格 じゃあかおりさん さっそく今日から働いてもらえるかな?」
少女「は、はい……あの今からですか?」と、壁にかかった時計を見る。針は17時を指していた。
社長「そりゃそうだよ、お金 が欲しいんだったら 善は急げって言ってね 時は金なりってことわざ知ってるでしょ? 」
少女「は はぁ……」
社長「ほいじゃいくか」
少女「えっ どこへですか」
社長「キミはデリヘルというお仕事初めてみたいだから、いちど講習をしておかないとね お~い 反町いるか」
奥から男が顔を出す。
社長「一時間くらい出てくるからさ、あと頼むわ」
反町「わかりました いってらっしゃい」
社長「うんうん ほれ かおりちゃん」おいでおいでをする。
少女「は はい」下を向いて諦めたように立ち上がる。
事務所を出ていく社長と少女。雨は降り続いていた。
新宿の喧騒はその雨に掻き消えるかのようだった。
深夜3時 事務所にて社長と向き合う少女。
社長「はい、かおりちゃん お疲れ様でした~ 今日は4本ついたので4万円。10%源泉引かせてもらった から3万6千円ね」と、封筒を手渡す。
少女「ありがとうございます」
社長「初めてだから疲れたでしょ? まぁ でもすぐ馴れるから頑張ってみてよ ね 期待してるからさ」
少女「は はい……」と、頭を下げる。
社長「おーーい反町 彼女送ってってやれよ」
反町「俺がですか? 」
社長「いまドライバーが全員出払ってっからよ」
反町「はぁ」
社長「彼女 杉並だから近いだろ さっと行って さっと帰ってこいよ」
反町「わかりました」
少女は黙って反町の後をついていく。反町は身長175センチくらい、痩せているがとても清潔感のある服装と雰囲気を漂わせていた。少女は反町には「夜の匂い」がしない。と、感じた。決して愛想はよくないが、そこはかとない親しみも感じた。
降り続いた雨は上がっていた。反町は駐車場に停まっていたシトロエンDS20のドアを開ける。
反町「乗れよ」
少女「はい……」
反町「下高井戸のあたりでいいんだな?」
少女「あぁ はい」
車は走り出すが、車内は重い空気が流れている。
少女「あの……」
反町「なんだ? 」少女「かっこいい車ですね」
反町「中古のポンコツさ 過去の遺物だよ」
少女「フランスの車ですよねこれ……」
反町「…… あのな」
少女「は はい」
反町「ドライバーとは必要以上の口をきくんじゃない 社長から注意受けたろ」
少女「……でも」
反町「なんだ」
少女「反町さんはドライバーさんじゃないですよね? 」
反町「あぁ 俺はふだんドライバーじゃないが おまえの送迎を任されたからには今はドライバーだ それにな うちは女性従業員の管理に厳しくてな 女と親しくしていいのは社長だけって規則がある」
少女「そうなんですか」
反町「あぁ 悪いな」
青梅街道を走るシトロエンDS20。
少女「あっ次の交差点あたりでいいです」
反町「下高井戸はまだ先だぜ」
少女「ちょっとコンビニによりたいんです」
反町「……」
少女「あと、ちょっと風にもあたりたくて」
反町「そうか」
少女「すいません」
あわてて車を降りる少女、交差点を小走りに去っていく。
反町は彼女の姿を目で追うこともなく、ジタンに火をつけゆっくりと煙を肺に吸い込みDS20車内の天井を見上げた。薄茶色 のシミが欧州の形に見えた。古い車なのだ。
※※※※※※※※※※※※※※※
ラブホテルの洗面室で髪の毛をとかす少女。
50歳くらいの客「いや、うしろ姿もかわいいね」と、言って少女の胸を後ろからわしづかみにする。
少女「痛いっ」
50歳くらいの客「あぁごめんごめん あんまりカワイかったからつかんじゃったよ」
少女「大丈夫です 」
50歳くらいの客「今度はちゃんと指名するからね」と言って耳の裏にキスをする。
苦笑いする少女。
ホテルを出て、前に停まっていた白い日産キューブの後部座席に乗り込む少女。
ドライバー「ユキコさん90分コースお疲れ様です 今日はこれであがりなのでこれから事務所に戻ります」
少女「はい」
すかさず少女の携帯電話に着 信が入った。
少女「はい ユキコです」
社長の声「ユキちゃんお疲れさま~ 大丈夫だった?」
少女「はい 大丈夫です」
社長「あの客、必ずと言っていいほど本番強要するヤツだから心配してたんだけど問題なかったみたいね」
少女「ええ とりあえずは」
社長「そう よかった」
事務所に戻る前にコンビニでドリンクとサンドウィッチを買う少女。雑誌のコーナーにささっていた某外車誌に反町の乗っていた車が掲載されていたのを見かける。
社長「おつかれさま~はいユキちゃん」と、封筒を手渡す。「今日は頑張ったね6本分5万6千円」
少女「はい、ありがとうございます」
社長「この調子で頑張ってウチの看板娘になってちょーだいよ ね」
少女「はぁ まぁ それはち ょっと」
社長「まぁね あんた大学生だからムリにとは言わないけど 今度みんなで飲みにでも行きましょう たまにはストレス発散しないとね」
少女 困った感じで 「ええ そうですね あの そういえば反町さん見ませんね?」
社長「あぁ反町? あいつ辞めたんだよ 突然ね」
少女「えっ??」
社長「今月分の給料はいらないからって そういえばあんたのことを送っていった次の日」
少女「そうなんですか」
社長「困っちゃってさ、うちの店の事務仕事をほとんどやってたからもう今てんてこ舞いよマジで」
少女「……」
社長「あいつには特に目をかけてやってたのにさ スカウトから始めてうちの店ではもう3年近く勤めてたのに 辞めるとなったら薄情なもんだよね~ まぁこういう店だから仕方ないっちゃ仕方ないけど ユキちゃん あなたはすぐに辞めないでよ」
少女「はい しばらくはお世話になるつもりです」
社長「そう そうこなくっちゃ」
※※※※※※※※※※※※※※※
朝5時、下高井戸の駅から世田谷線に乗り 換える少女。
ガラガラの電車の座席に座り『松陰神社前』駅で降りる。
コンビニの袋を下げて古びた木造アパートの前に立ち一階角部屋のドアに立つ。
少女の顔が一瞬にしてこわばる。あわてて鍵を回してドア越しに中を見る。
少女「だれ? 中に誰かいるの?」
季節は三月、春曇りの午前5時過ぎは蛍光灯をつけていない日当たりの悪い部屋はまだ暗い。
しかし、確実に人の気配がした。
いや、その人影は少女が普段使っている勉強机の前に座りタバコを吸っていた。
少女「だ だれなの?? あなた」しかし、少女はこのタバコの匂いを知っていた。
男はゆっくりと口を開いた。
反町「よぉ」右手にはさんだタバコを軽くかかげた。
少女「なっ なにしてるんですか!!」
反町「そうだな」と、言って軽く微笑む。
少女「よ よくここが……」
反町「わかりましたね? ってか」缶コーヒーの空き缶の中にタバコを落とす。
少女「そ それによく入れましたね ど 泥棒なんですか そ そりまちさんて」
反町「まぁ そんなに慌てないでちょっと座れよ」
少女「慌てるでしょ ふつう あっ あっ ケーサツ呼びますよ」
反町「警察呼んで、なんて説明するんだ? バイト先のデリヘルの従業員が無断で部屋に入ってますってか?
俺はまだなにも盗んじゃいないぜ」
少女「か か 家宅侵入罪ですよ」
反町「まぁそうだが そのへんは大目に見て いったん座れって望月琴美さん」
少女「……!!」
反町「ほれ コーヒー飲むか」
反町はなれなれしくも暖かい缶コーヒーを放ってよこした。
観念したのか少女はテーブルの横にチョコンと座った。缶コーヒーのプルトップを開けて口に含む。
少女「ここが どうしてわかったんですか」
反町「んー あはは」反町は笑った。「ふん お前さんが O女子大学の自称・鈴木かおりじゃないってことくらい一発でわかったよ。教えといてやるけどな あんな店に面接にくる女でわざわざ身分証をコピーしてくるやつなんざ たいてい身分詐称してるに決まってる」
少女「で でも 」
反町「んなこた百も承知で雇ってんだよこっちは さすがに見た目が小学生ってんじゃ話にならないけど 高校生が姉の保険証をもってくることなんか日常茶飯事なんだ それをお前は学生証を偽造してまで面接にやってきた そもそも身分証を偽造する知識があるんならバカじゃない バカな女は店側も警戒するが バカじゃなければ普通に雇うさ」
少女「……」
反町「それにな 田中のやつが講習って言ってお前を裸にしてちゃんと身体を検分したろ? ガキじゃないか怪しくは無いか見てるんだ」
少女「べつに中学生じゃないし」
反町「あぁ 社長も言ってたよ あの身体なら もしかしたら高校生かもしれないがかまわないって」
少女「……」
反町「あぁ 調べて見て逆にこっちが驚いたよ 最初は俺も高校生かもって思ってたんだけどな まさか本当に国立大学の学生だとは予想つかなかったぜ」
少女「……」
反町「だけど当然だよな O女子大の学生証を使って来たんだからな そっからはすぐに調べはついたよ"鈴木かおり"って女はいなかったけど 一年生にローラーかけてみたらすぐにお前のことを知ってる同級生の女にヒットしたってわけ」
目を見開く琴美。
琴美「ど どうやってそんなこと……あたしお店のHPに顔も出してない のに」
反町「んー うちの店は事務所に監視カメラがついてるからな おまえが面接に来たときのVを拝借してプリントアウトしたの 顔までバッチリと映ってたぜ 」
鼻の穴も開く琴美
反町「そもそもO女子大の学生証は本物みたいだったからな 大方友達のバックの中から無断でパクってコピーしたんだろ? 悪い女だ」
ニヤニヤした顔で琴美を見据える反町
反町はテーブルを挟んで琴美に対面し顔をまぢまぢと覗き込んできた。
反町「うん 俺の見込んだとおりだ 」
琴美「な なにがですか」
反町「もちづきことみ 埼玉県川越市出身 12月24日生まれ 川越女子高卒業の19歳 現在は東京大学文学部在学中 偏差値79 知能指数150 得意教科は英語と数学 高校時代は手芸部 趣味は読書 身長158センチ 体重は45キロ 視力は左右2.0 スリーサイズは未確認だがブラジャーはCカップ 」
琴美「タンスの中まで見たんですか」
反町「そこまで変態じゃねー そこに干してあるやつを見ただけだ」
顔が赤くなる琴美。
反町「父親は他界 実家の川越にはパート勤めの母と地元の県立高校一年生の妹が一人 と」
琴美「いったい何が目的なんですか? お金なんかないですよ」
反町「金? おまえ……この一週間でいくら稼いだ?」
琴美「25万4千円…… 源泉で10%引かれたから手取りは22万8千6百円です」
反町「とっ 計算はえーな」
琴美「どうも」
反町「一週間で本指名が二本か、思ったより少ないじゃん」
琴美「土曜日はお休みしたし、それに……本番しないと指名はなかなか取れないって」
反町「誰に聞いたんだ?」
琴美「翔子さん お店の」
反町「まぁ手っ取り早く稼ぐにはその通りだな 本番すればチップも入るし
サービスも手抜きでいいから一石二鳥ってわけだ 」
琴美「……」
反町「本番やってねーのか」
琴美「やりませんよ 社長からも迫られたけど」明らかに顔は怒っている。
反町「ふ~ん お堅いね 殊勝なこった 」
琴美「いいじゃないですか 私の勝手ですよ」
反町「おまえ いまサイフの中にいくらあるんだ」
琴美「えっ」しぶしぶと言った表情でサイフの中から現金を出す。
反町「あれ残り10万もねーのかよ おいおい もう稼いだ金の半分も使っちまったのか」
琴美「しょーがないでしょ、今月の光熱費とか家賃も払っちゃったんだから」
ポリポリと小指で耳の後ろをかく反町。
琴美「服も 下着も買いました」唇をかみしめる琴美。
ため息をつく反町。
横に置いた紙袋の中に手を入れて、ガサガサと音を立てながら現金の束を出した。
ドンっ!!
反町「ここに一千万ある」
口をあんぐりと開ける琴美。
反町「おまえんちの借金は推定で一千万円とちょっと これじゃ利息分までには届かないかもしれないが
かなりの金額は 清算できるはずだ」
琴美「ちょっと なにを言ってるのかわからない」
反町「だよな」笑いをこらえる。
琴美「あのっ うちの借金と反町さんとどういう関係があるんですか
そもそもなんで私のことそんなに調べてるの? どうかしてるんじゃないですか」混乱する琴美。
反町「……」
琴美「いったい なにが目的なんですか 」目から涙があふれる琴美。
スーツのポケットからジタンとジッポを取り出しタバコに火をつけ観念したように語りだす反町。
反町「お前にこんな話をして信じるかは疑問だけど とりあえず聞け
おれはな 熊本の高校を卒業してから東京に出てきて新宿ですぐにスカウトマンになった 18歳でだ」
琴美の目を真剣に見つめる。
反町「それから10年間 ほぼ毎日のように女に声をかけ、ときにはその女たちを
風俗店やキャバクラに紹介したりAV女優の事務所に売りとばしたりもしてきた」
琴美「それは社長さんにも聞きましたけど 反町はスカウト時代から目をかけてきたのに って」
反 町「まーな 確かに田中社長には世話になったよ 何のケツモチも無いおれを使ってくれて
そこそこの給料も支払ってくれてたしな」
琴美「ケツモチ?」
右手で琴美の発言を遮る反町。
反町「バカバカしいと思うんじゃねーぞ いいか おれは今 人生において未だかつてないくらい真剣に話しをしようとしている だから 聞け」
コクコクとうなづく琴美。
反町「おれはな ダイヤモンドのように光り輝く 世界一のアイドルを探してる」
琴美「だ ダイヤモンド……?」
反町「そうだ そんな女を探すために今までスカウトマンをやってきたんだ」
琴美「え゛え゛っっ」驚愕。
反町「だから おれは今日から芸能事務所を立ち上げる!!」
琴美「げいのう じむしょ……ですか あの~ それと わたしと なんの関係もないじゃないですか」
反町「でかい声出すんじゃねーよ まだ早朝なんだから」
琴美「すいません って ここあたしの部屋なんですけど」
反町「……」
琴美「反町さんの言ってることと、このお金がどうつながるのか わたしにはわからないんですけど」
反町「ダイヤモンドを発見した」
琴美「そうなんですか?」
反町「まだ原石だけどな」
琴美「はぁ」
ふたりの間に少しの沈黙が流れる。
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