戦国タイムトンネル

サクラ近衛将監

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第一章 裏庭のトンネル

1ー1 プロローグ ~ 不思議な穴

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「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」というのは、川端康成の描いた小説 『雪国』の有名な出だしのはずやな。
 でも俺は、裏庭で偶然見つけたトンネルに入ったら、いきなり魂だけ戦国時代に飛ばされたようなんや。

 とある子供の身体に入り込んだみたいなんやが、一体どうすれば良いと思う?
 始まりは、俺が飛ばされた戦国時代じゃなく、令和で俺が普通に生活していた頃に戻る。

 そこで不思議な体験をしてしまったことから物語が始まる。

 ◇◇◇◇

 俺は三厩みんまや浩一郎こういちろう、滋賀県長浜市室町に住む、18歳や。
 両親は、俺が中学二年生の時に交通事故で亡くなり、俺を引き取ってくれた祖父母も昨年末に相次いで亡くなった。

 今は2031年の二月で、俺もこの三月には地元の高校を卒業なんや。
 一応、大学も受験してはみたんだが、目指す大学には合格できなかったので、正直なところ一浪するかどうか迷ったぜ。

 自分では大丈夫とは思っていたのやけど、やっぱり祖父母の急逝が心理的にかなりこたえていたのかもしれん。
 何となく受験勉強の最後の追い込みに身が入らなかったのは事実なんや。

 国立こくりつの二次試験は、共通一次が思いのほか成績が悪かったので、願書は出しているものの受験する気力がほぼ無いな。
 一応、事前に先生に勧められていた滑り止めの私大には受かっていたんやけど、必ずしも評判の良い大学じゃないので、俺は二の足を踏んでいる。

 第一志望か、第二志望の私立大学ならまだ良かったんやが、・・・。
 この滑り止めの大学からは合格通知が来ていて、「入学する意思があるなら入学金の払い込みをせよ。」という趣旨の催促もあったんやが、そのまま放置していたので、もうその期限が過ぎてしまったよ。

 進学せずに就職しようと思えば、地元近くに就職先は結構あるんやが、俺も結構な遺産を抱えていて、正直なところ、すぐに働かなくても良い状況ではある。
 両親が交通事故で死んだんは、そもそも相手車両の欠陥が原因で、対向車線の大型トラックが操縦不能に陥って、中央分離帯を越えて俺の親父とおふくろが乗っている車に正面衝突したことによる。

 この為、トラックの運送会社から相応の見舞金が入り、なおかつトラックを製造した大手自動車会社からの損害賠償と慰謝料それに見舞金が入って、これが相当な額に上った。
 そうして親父とおふくろが独自にかけていた生命保険金もかなりの高額やったな。

 子供は俺一人やったから、その大金が全部俺の口座に振り込まれているわけや。
 両親の死後、俺の祖父母である三厩みんまや喜一きいち信子のぶこ夫婦に引き取られ、親父が持っていた家屋は元々が中古やったけれど、これを売り払って金に換えたのが、事故から二ヶ月後のことやった。

 親父とおふくろは、享年42歳と41歳やったな。
 両親が亡くなった時、祖父が70歳、祖母は69歳やった。

 でもあれだけ元気だったのに、2030年の年末に流行った新型のインフルエンザで祖父母二人ともにあっけなく肺炎で亡くなった。
 祖父母の享年は、74歳と73歳やった。

 祖父母の遺産相続に際しては、相続人として親父の弟妹である叔父と叔母も居たために、多少のドタバタはあったものの、最終的に俺が室町にある祖父母の家を相続することで落ち着いた。
 叔父と叔母は、関東圏に住んでいるので室町の家には興味が無かったんや。

 祖父母は農業をしていたので、俺も手伝いは何度かしたものの流石に農業を専業とする自信は無いから、叔父・叔母とも相談して田畑は売り払っており、その売却金額が叔父と叔母に分与され、相続税もそこから引かれることになった。
 そんなわけで、俺は、室町の一角にある古い家に一人で住んでいる。

 この家は、三厩家先祖伝来の土地に曾祖父が建てたもので、築65年以上の代物だが、造りがしっかりしているのと手入れを怠っていなかった所為で、まだまだ十分に住める家なんやで。
 三厩家はこの地域では古い家柄で、系図では少なくとも江戸時代前期にまでさかのぼれる一族らしい。

 家屋自体は大事に使っていた所為でまだまだ使えるし、長浜駅までは徒歩で40分程度、新幹線の米原駅までは車で20分以内の距離にある。
 北陸道のインターも近く、最近近隣に大手のケミカル工場や精機工場が進出してきた所為もあって地価がやや値上がり気味で、土地の評価額は田舎にしては高いようや。

 長浜市の人口は10万人を少し切るあたり。
 全国的に見ても市としては中小の小に近い中規模都市やだろし、長期予測では今後10年ほどでさらに三割ほど人口が減少すると見られている。

 ここも田舎やから10年以上も前から過疎化は徐々に進んでいるのやけど、高速のインターがあったり、JR駅も比較的近かったりと交通に便利な場所もあるので一部の企業が進出してきていて何とかそれなりの人口は維持できていたようやな。

 ◇◇◇◇

 話は変わるが、来月初めには学校(滋賀県立長浜北高)の卒業式がある。
 俺も高校を卒業すれば、取り敢えずは節目が変わって一段落やな。

 ここ最近は、家の中にある爺ちゃんと婆ちゃんの遺品をちょこちょこと確認して、整理する日が続いている。
 屋敷の敷地は300坪ほどあるんやが、家の建て坪は60坪そこそこで、残りは祖母が手塩にかけた和風庭園と納屋兼車庫になっている。

 その敷地の北西端にはお地蔵さんと思えるような石像があり、木造の小さなほこらで覆われていたんやが、二月初めの時ならぬ突風で屋根が吹き飛び、壁も壊れてもうた。
 お地蔵さん(?)は、コケシのような形をしているだけで、表面の彫刻模様が消えているために、元々が本当にお地蔵さんであるかどうかは不明や。

 俺は別に信心深いわけじゃないけど、先祖代々大事にまつってきたものをおろそかにするつもりはない。
 だから暇に飽かせて、この祠を建て替えることにしたよ。

 自動車の運転免許は、昨年18歳になったばかりの時に車校(ドライビングスクール)に行って取得しており、祖父が使っていた中古の軽トラック(名義変更済み)を運転して、最寄りのホームセンターで色々と資材を購入してきた。
 壊れた上屋を片付けると、基礎部分も結構壊れていてガタガタになっていることが分かったよ。

 それで、納屋からミニバックホーを持ち出して、ロープで玉掛けし、石像を脇に一時移動して、先ずは基盤整備をすることにした。
 ミニバックホーや耕運機の運転は、爺ちゃんが生前に運転を教えてくれたものや。

 納屋にはセメントも袋入りであったのを確認している。
 どうせならきれいにしてやりたいと思って、土日の俺の臨時作業にしたのや。

 ひび割れして一部陥没していたコンクリートや玉石たまいしを取り除くと、なんだか洞穴が出てきたよ。
 さほど大きくは無いんやで。

 かなりいびつやけど、直径は下水管のマンホールよりも少し大きめかな。
 巻き尺で計ったら最大径が82センチもあった。

 入り口付近に入り込んでいる土砂なんかを丁寧に片づけて行くと、なんだか階段が出て来たぜ。
 ということは自然の洞穴じゃなくって人工的なトンネルか?

 内部の通路幅は、入り口よりもやや広い感じに見える。
 内部は照明が無いので暗いんだが、懐中電灯で照らすと概ね10m程も斜めに下がってその先にも通路が続いていそうや。

 さて、どうするかだが・・・。
 お地蔵さんをこのまま放置という訳にも行かないから、取り敢えず、元の位置から3mほどずらした位置にコンクリートの基礎を作り、そこに台座を造って石像を安置、祠風ほこらふうの簡易な上屋を造って雨風除けにした。

 取り敢えず、穴の入り口は、少し周囲を土盛りした上で、樹脂じゅし波板なみいたを覆うことで雨が入らないようにだけはしておいた。
 トンネルの内部については、また別の機会に調査すればよいやろ。

 特に地下に潜る人工的なほこらだから、何があるかわからないし、何となく石像で封印されていた風でもあるのがちょっと不気味なんよね。
 それに、長年放置されていたのなら中は酸欠の恐れもある。

 調査をするにはそれなりの準備も必要やろう。
 取り敢えずの祠の修復作業をなんとか土・日の二日間で済ませ、母屋の縁側に腰かけて、ポットに入れて用意しておいた温かい麦茶で一服(たばこは吸わないぜ)していると、幼馴染の山内やまうち京子きょうこが顔を見せた。

 今の俺の家から三軒向こうのお隣さんやから、気安く敷地の中にも入って来る。
 俺の親父の家は、山内家よりもさらに五軒ほど向こうにあったが、今は人手に渡っている。

 現在、俺が受け継いだ祖父の家は昔ながらの古民家やから、一応敷地の境界が分かるような低い垣根程度はあるものの、人の出入りを止められるようなフェンスではない。
 田舎やからな。

 武家屋敷なんかを除けば、昔ながらの田舎の家というのは防犯意識も割と薄いんや。

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