二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

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第二章 それぞれの出会い

2-6 アリス ~出逢い その二(大食堂)

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 時刻は間もなく正午を迎える。
 昼食は乗客全てが大食堂になる。

 普段は二等、三等船客の朝食それに夕食の場所になるのだが、昼食だけは12時から14時の間に乗客全員が同じ場所で食事をすることになっており、ある意味で社交の場でもある。
 正装は必要とされないが相応の服装を要求される場所でもある。

 私は、黒のパンタロンに黒っぽい灰色のブラウス、それに昨日購入したアクセサリーの金鎖にした。
 髪はポニーテールをやめて、ヘアバンドで背後に垂れるように変えた。

 靴は黒革ローヒールのストラップ・パンプスにした。
 正装ではないがそれなりにオシャレになるはずだ。

 大食堂は7階層も下になりエレベーターを二つ乗り継ぐことになる。
 既に開いている大食堂の入り口を入るとそこは非常に広いスペースになっている。

 但し、1500人までの収容しかできないので見知らぬ客同士の合席も止むを得ないし、仮に1800人の最大定員の乗客全てが繰り出すと一部はホールで待たねばならないことになる。
 最も今回の乗客は合計で1548名、特一等の定員50名のところに3名、一等船客が定員100名のところ31名、二等船客定員750名のところ702名、三等船客900名のところ812名の乗客数であるようだ。

 幸いにして、私が大食堂に入った時はまだ半分ほどのテーブルが埋まった程度であった。
 私は空いている席に案内してもらい、席で待っていると不意に声を掛けられた。

「もし差し支えなければ、ご一緒しても宜しいでしょうか?」

 その人は午前中にジョギングで追い抜いて行った若い男性だった。
 未だ空いている席は無いわけではないから一瞬驚いたものの、すぐに微笑んで言った。

「ええ、どうぞ。
 私は構いません。」

 その彼も、微笑を返して、私の正面の席に座った。
 テーブルは4人席だからまだ二人ほどの合席になる可能性もある。

「今朝ほど、ジムナシアで走っておられた方ですね。
 僕は、マイク・ペンデルトンと申します。」

「ご丁寧にどうも。
 私は、アリス・ゲーブリングです。」

「僕の事は差し支えなければマイクと呼んでください。」

「では、私はアリスとお呼び下さいな。」

「どうも、アリスさん。
 貴方の走りは女性にしては中々のものでしたね。
 少なくとも僕の後を6周ほどは離れずについて来られたようですが、あのハイペースについて来られる人は男女に関わらず中々いないはずです。」

「確かに6周を過ぎたあたりでとてもついては行けなくなりました。
 でも、マイクさんはその後も同じペースで走り続けられたようですが、何周されたのですか?」

「今日は初日でしたので、30周ほどに留めました。
 普段は大体20セトランを走ることにしています。」

「ひょっとして毎日走っていらっしゃる?」

「いやぁ、ここではともかく地上では毎日は無理かな。
 雨や雪の日は取りやめていますからね。
 でもできるだけ暇を見つけては走るようにしています。」

「失礼ですけれど、陸上競技の選手の方でしょうか?」

「いいえ、あくまで趣味の範囲ですよ。
 アリスさんも陸上の選手には見えないな。」

「ええ、私のも趣味の範囲です。
 ですからあまり速くは無い。」

「いや、そんなつもりで申したわけじゃありません。
 貴方は女性ランナーとしては十分に上位に入れる力量はお持ちです。
 ただ、貴方のような綺麗な方が陸上の女性選手とは思えないし、スポーツ紙にもたまに目を通しますが貴方の写真は見たことが無い。
 ランナーよりはファッションモデルやアイドル・タレントの可能性が高いぐらいです。」

「あら、モデルですか?
 あなた以外の方にも昨夜言われました。
 モデルになりませんかって。」

「へぇ、それはまた・・・。
 差し支えなければ教えてください。
 どなたが仰ったのでしょうか?」

「ご存じかしら、ダイアン・メズローさんです。」

「うん?
 確か若手のデザイナーとして頭角を見せ始めている方でしたね。
 あ、そうか、昨日の夕食に貴方の隣に座っていらしたのがダイアン女史でしたか。」

「あ、どうしてそれを?」

「僕は大鹿座の席に居ましたのでね。
 特に貴方が目立っていましたので隣に居た方も目にしています。」

「あら、それは気づきませんでした。
 では一等か特一等のお部屋に?」

「ええ、そうです。
 ですからまた夕食の時にはお目にかかります。
 会食のテーブルは毎日席が変わりますので、ご一緒のテーブルになることもあるでしょう。
 確率は34人分の47日ですから少なくても1回は隣の席になりそうですし、4人から6人の少人数になれば、もう少し回数が増えますね。
 確か、今日の夕食はご一緒の席ですよ。」

「あら、そうなんですか。
 私はまだ確認をしていませんでした。」

 私は、携帯情報端末を取り出して夕食の席を確認した。
 今日は4人席で小兎こうさぎ座、隣がマイクで、向かい側の席は、バローズ夫妻であった。

「あら本当だわ。」

 マイクは微笑んで言った。

「今日は御縁が有りそうですね。
 今後ともどうかよろしくお願いします。」

 食事の間、話が弾んだ。
 マイクは話し上手に、聞き上手だ。

 マイクは21歳で私とは二つ違い。
 マイクは大学には行っていないが、メィビスでも一番と謳われているサビナス大学のディラ生になっている。

 ディラ生とは大学卒業者と同等以上の能力と認められた時に授与される称号で、5日間の面接で総勢25人もの教授から質問を受けて回答する口頭試問の結果で判断される。
 各大学の名誉が掛かっている試験であるから、並みの卒業試験などはるかに及ばないほど難しい。

 パーマー学園大学部を卒業し、修士課程にいた私だけれど、ディラ生の試験を受けたら落ちる確率が高い筈である。
 通常は他大学卒業生が受験する場合が多く、普通の大学でも合格率は極めて低く、1%未満と聞いたことが有る。

 ましてメィビスでも名の知れたサビナス大学ならば千人に一人以下の確率ではないかと思われる。
 それを合格したのだからマイクは途轍もなくのいい男性なのだ。

 おまけにお金持ちでもある。
 サビナス大学のディラ生になったのは1年前、それからメィビスの小惑星帯で鉱山採掘師をやっており、最初はレンタル機械を使っての仕事だったようだけれど、そこそこ儲けた後は、アルタミル星系に移動して、同じく小惑星帯で希少金属を捜していたようである。

 そうして3カ月で、レジリウムという希少金属を掘り当てた。
 レジリウムは超ウラン元素ではあるものの、放射性物質ではないドグバン属に類する超重元素である。

 何しろウラニウムの3倍の質量を持っており、小さくても実に重い物質である。
 そうして金のように柔らかく薄い箔にすることが可能である。

 この箔は放射線を通過させない特質がある。
 従って、宇宙船或いは軌道衛星などの外殻を覆う薄膜には最適の物質なのである。

 金箔は0.025ミーロ当たり55.4ルーブ程度の値がついているが、レジリウムはその6倍の値がつけられている。
 金箔にすると加工賃が付くので高くはなってしまうが、実のところ金の値段はレジリウムの30分の一程度である。

 そうしてレジリウムは金箔1枚の重量で336ルーブもするのである。
 内緒の話として教えてくれたのだが、彼が発見したレジリウムは、99.56ドトムーロの重量があった。

 1000ミーロで1ムーロ、1000ムーロで1トムーロ、1000トムーロで1ドトムーロである。
 1ドトムーロのレジリウムは1兆3440億ルーブの価値がある。

 従って彼が発見したレジリウムは金額にして130兆ルーブを超える。
 容積にするとおよそ1600立方トランであるから少し大きめな三階建の邸宅程度だろうか。

 公式水泳競技のプールに入っている水の容積が2000立方トラン超と聞いたことが有るのでプールの四分の3程度の水の容積で、重量はその60倍ほどになる。
 彼がアルタミル星系で購入した中古の採掘船では一度に運びきれず、4回に分けて運んだようだ。

 アルタミルの小惑星帯にはそうした鉱山採掘師達を相手にする公営の交易所があり、そこで売却したらしい。
 そこでの売価はアルタミルの中央銀行で売買するよりも2割ほども安いが、そこからアルタミルまでの輸送費用と手間暇それに鉱山採掘師崩れの盗賊の出没する危険性を考えると決して安い金額ではない。

 マイクはそこで全てのレジリウムを売却した。
 売値は107兆ルーブを超えたが、そこから公定の税金が4割引かれ、彼の口座には64兆ルーブを超える金額が入ったのである。

 これはメィビスの首都クレアラスの年間予算をはるかに超える金額だった。
 クレアラスの人口はおよそ5000万人、その年間予算は30兆ルーブを超えるが、その二年分の予算に匹敵する。

 そんなにたくさんのお金を一体どうするのかと尋ねると、いとも簡単に言った。

「今のところは、思案中。
 折角だから何か人のためになることに使えたらいいと思っているよ。
 何なら一部を君に投資してもいい。」

「私に?
 だって逢ったばかりの見知らぬ人なのよ?」

「そうだね。
 でも、君なら信用ができると思う。
 単なる感だけれどね。
 そうだなぁ、500億ルーブほど投資すると言ったら、君はどう使う?」

「500億も?
 そんな桁違いのお金とても使いきれないわ。」

「君が専攻していた有機化学の研究だって、結構な金食い虫なんだぜ。
 多分、大学の研究室に有った設備だけでも10億ルーブはくだらないと思うよ。」

「ええ、それはそうだけれど・・・。
 確かに最新の分光質量計は5000万ルーブだとは聞いたけれど・・・。」

「でしょう。
 金は天下の廻り物、有効に使えるならば、誰に託してもいいと思っている。
 さっき、君が話していたケルヴィスもいいんじゃないかな。
 メィビスに着いたら、ハリー機関長の従兄妹という人を二人で訪ねてみないかい?
 何という会社だったっけ?」

「えーと、ザクセン製薬のジル・コーデリアスさん。」

「リス多臓器不全症候群は、500万人に一人の難病だけれど、人口比率から言えば、メィビスだけで400人は下らない患者がいる。
 その人たちを救えるなら、投資も無駄にはならない。
 まして、人類全てを考えると20万人を超える患者がいることになるからね。
 誰かが取り組むべきだよ。」

「ふーん、マイクって随分と前向きな考え方をするのね。
 危険な環境の中で苦労して得たお金なんだろうから、自分のために使ってもいいのに。」

「自分のためだけなら精々5000万ルーブもあれば十分に贅沢な生活ができるよ。
 但し、金が有るからと言って安易に募金や見舞金に消費することはしない。
 キリがないからね。
 それに、困っている人が自立するための金なら使ってもいいけれど、単なる慈善事業に浪費するなら自己満足に過ぎないからね。
 自分でどん底から這い登ってくる人なら救う価値はあると思っている。」

 昼食の間、結構大食堂は込み合ってはいたものの、最後まで私とマイクの席には他の客が割り込んでは来なかった。
 マイクとは随分と話が弾んで10年来の友人のように別れたのである。

 無論、翌日の朝食と朝の日課のトレーニングの約束を取り付けた。
 私が言おうとしていたら、彼が誘ってくれたのだ。

 マイクは特一等船客の一人だった。
 その日からマイクとの出会いが一番の楽しみになった。

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