二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

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第二章 それぞれの出会い

2-13 マルス ~王都参内 その四(公爵家訪問)

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 常宿に戻ったマルスは、昨日頂いた報奨金の内72枚を宿に預け、楽器の支払用として保管してもらった。
 また100枚を、騎士団の内荷駄隊襲撃に参加した50名の騎士に渡るように手配した。

 一人当たり2枚にしかならないが、彼らも功があった者達なのである。
 その話を聞いたデラウェアとレナンも報奨金の半額25枚ずつを差し出した。

 隊員一人当たりにすれば3枚となることになる。
 尤も、マルスと二人の分も入っているので金貨9枚は宙に浮くことになる。

 マルスはデラウェアとレナンにも相談して、その金で、カルベックに戻ってから慰労会をすることにしたのである。
 金貨9枚があれば、カルベックの居酒屋ならば100名の者が盛大に飲み食いしてもおつりがくるはずである。


◇◇◇◇ 公爵家訪問 ◇◇◇◇

 翌日の午後、デーミット荘にサディス公爵差配の馬車が迎えに来た。
 公爵家の騎士が二人警護についている。

 だが伯爵家の跡取りを単独で行かせるわけには行かないことから、デラウェアとレナンが選ばれて警護についた。
 こうして黒騎士二人と薄赤の騎士二人が随伴する馬車に乗って、マルスはサディス公爵の別邸に向かったのである。

 サディス公爵夫妻とは既に舞踏会で挨拶を交わしていた。
 曲の合間にアンリと話しているところへわざわざ公爵夫妻が顔を出されて、孔雀亭での礼を言われたのである。

 其の折にこの日の招待を正式に受けたのであった。
 無くなった兵士の葬儀は舞踏会の日の午前中に済ませたのだそうだ。

 無くなった兵士の家族はマルビスにいるために早めに葬儀を済ませて、マルビスに送る都合があったようである。
 本来ならば忌中を理由に舞踏会を遠慮することもできたが、アンリの命を救った恩人の晴れ舞台に欠席するのはなおさらに礼を失するということでアンリを連れて参加したようである。

 公爵の王都別邸は中心街から少し外れてはいたが、広い敷地を有し、伯爵の宿泊先であるデーミット荘よりも大きな建物と庭をもっていた。
 周囲は高い石塀に囲まれており、外部からは簡単には侵入できない構造になっている。

 マルスはその別邸でアンリの兄クレインと初めて出逢った。
 クレインは16歳ではあるが、マルスの方が0.1レムほど背丈が高かった。

 クレインが小さいのではなく、マルスが大きすぎるのである。
 そのクレインは左腕を負傷しているようで肩から三角巾で腕を吊っている。

 クレインは少々驚きながらも笑顔でマルスを迎えた。

「やぁ、初めてお会いするね。
 アンリから話は聞いていたけれど、マルス殿は本当にでかいや。
 本当に13歳なのかな?」

 マルスは苦笑しながら言った。

「はい、カルベックの水と食べ物がよほど合ったようで、よくムズラッドのようだと言われています。」

 ムズラッドは、バルディアスの山岳地帯に普遍的な巨木であり、成長が早いことで知られている。

「なるほど、ムズラッドねぇ。
 ムズラッド程成長が早ければ10年もすればこの屋敷の屋根をも超えているだろうね。
 でも、噂では単なる巨木ではなく、剣を持たせればカルベック随一の剣士と聞いているし、青の楽師団を始めとした名だたる音楽家が口をそろえて楽音の天才と崇めているとも聞いた。
 実際に、此度の戦役では随一の戦功があったと認められての王都参上だろう?
 僕が13歳の頃は単なる悪がきに過ぎなかったのだが、随分と違うようだね。」

「人の噂は、話半分と聞いてください。
 戦功にしても実際に動いたのは多数の騎士団ですし、たまさか口にした計画が上手くいっただけの話です。
 私一人では何事もできなかったでしょう。」

「いや、その口にしたことが大事だし、その話を取り上げられたことが重要なことだと思う。
 単なる口から出まかせの話ならば勝算が無いと一蹴されるはず。
 地の利を知った猟師の活用と布陣で敵の動きを止め、山中でのまさかの荷駄隊の奇襲、更には背後の逃げ道の封鎖で相手と戦わずして勝利を得たのだから、軍師として十分に賞賛されるべき功績だったのだよ。
 残念ながら僕は参陣できなかったけれど、仮に出陣していてもマルス殿のような動きはできなかっただろうと思う。
 その意味では、マルス殿は年下であったにしても十分尊敬に値する。」

「クレイン殿、偶然と幸運が重なって良い方向に風が吹いてくれたのです。
 戦は大勢の人が関わってこそ成せること。
 私や極少数の者がその功を称えられるのは、本来は余り良くありません。」

「確かに、多くの人が関わっている中で誰の功績を認めるかは難しい。
 選択を誤れば孤立や妬みを生ずるからね。
 だが一軍の将たる者は、いつでも配下の者を気遣ってやらねばならないのも道理。
 マルス殿もカルベック伯爵の跡取り、いずれは騎士団を指揮する身だから、それをいつも念頭において動かれるがよいでしょう。」

「はい、クレイン殿のお教えきっと守りましょう。」

 立ち話を中断してクレインは自分の部屋にマルスを案内した。
 部屋に落ち着いたところでマルスが言った。

「ところで、クレイン殿のその怪我は?」

「うん、・・・。」

 クレインは、幾分狼狽をみせたがやがて言った。

「アンリから何か聞いてはいないのかな?」

「先夜の舞踏会の折には、クレイン殿が怪我をされて舞踏会には参加できなかったとだけ・・・。
 どのような怪我なのかも言葉を濁して教えてはいただけませんでした。」

「そうか、・・・。
 隠しておいてもいずれは知れるやもしれぬ。
 マルス殿を信用して御話しよう。
 但し、他言無用に願いたい。」

「はい、クレイン殿がそう言われるならば誰にも言いません。」

 クレインは頷いた。

「実のところ、サディス家では不審な襲撃が続いている。
 三月前にマルビス城塞で付け火があって、館の一部が燃え尽きた。
 付け火があった部屋は父上と母上がいつも寝所に使う部屋だった。
 たまさか古くから懇意にしている方が遠方から城塞に見えられて、母上と父上とが夜更けまで昔話に興じられていたためにお二人とも無事ではあったのだが、部屋の扉は中からは開かないように細工が施されていた。
 巧妙な細工でね。
 薄い刃のような二枚の鉄片でできており、ネジを回すとぎりぎりと刃が開く。
 それが扉の隙間に4か所も仕掛けられていた。
 あれではいくら大力の者でも扉は明けられなかったと思う。
 付け火の方は、ロハドというカリギュリス地方で産出する液状の発火物が窓から投げ入れられて燃やされたらしい。
 壷の残骸とロハドの燃えカスが残っていた。
 尤も、付け火があってひと月もたってからお抱え学士たちがようやく突き止めたことだがね。
 いつもの時間であればお二人ともとうに就寝中の筈の出来事だった。
 火のないところからの出火と言い、扉の細工と言い、屋敷内にいるものの犯行か或いは加担があったものと見られているが生憎と正体が掴めていない。
 それで、父上と母上の警護を厳重にしたのだが、一月前には友人を訪問した帰り道で僕が刺客に襲われた。
 警護の騎士が奮戦したのだが、二人が死に、一人が重傷を負った。
 相手は飾りのない黒の衣装をつけ覆面をした者が6名、狙いは僕だったようだ。
 こちらも随分と頑張ったのだけれど、刺客の腕が勝っていたよ。
 その時に左腕を傷つけられた。
 幸いにして夜回りの警邏隊が気づいて駆けつけてくれたので助かったのだが、その後が大変だった。
 刺客が使った剣には毒が塗られていたのでね。
 僕は三日三晩高熱を発して寝込んだんだ。
 城塞には腕のいい薬師がいてね。
 僕が生きているのはそのお蔭だろうな。
 だが毒の性もあって、刀傷の治りが普通に比べると随分と遅い。
 一月経っても未だに完治していない。
 薬師の話ではもう一月はかかるだろうと言っているよ。」

 クレインは話を一旦区切って茶を一口飲んだ。

「この二つの襲撃は内密にしておいたのだけれど、国王陛下から暫しの間都に来るようにとお誘いがあったのはそんな時だった。
 おそらくは宰相ブルディス殿あたりが根回しをしたのだろう。
 仮にマルビスに襲撃の原因があるのであれば、そこから遠ざかることで何かが見えるかもしれないということで、20日ほど前から一家そろってこの都にやってきたというわけだ。」

「なるほど、それで外出の際も用心をされていたと・・・。」

「ああ、白昼まさか老舗の孔雀亭で、しかもベンドに襲われるとは思っていなかったのだがね。
 念のためにと多めの警護を付けていたし、厨房にも女官を配置して出される料理に支障が無いようにしていた。
 作りあがった料理は女官が運ぶ予定だったんだ。
 この王都でも狙われるとなると、どこにいても安心はできない。
 一昨日から王宮は近衛騎士団の警護を差し向けてきた。
 王都で王家の縁戚の命を狙われたことは王都の警護を預かる近衛騎士団としても放置できないことらしい。
 父上と母上は、王都でも襲撃があるようならばマルビスに戻ることも考えているようだ。
 領主たる者、何時までも領地を離れているわけにも行かないからね。」

「ご一家が誰かに恨みを買っているというようなことは?」

「うん、それも皆で話し合ったのだけれど、多少の恨み妬みはあるかもしれないが、少なくとも命を狙われるような覚えはないよ。」
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