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第三章 新たなる展開
3-1 マルス ~覚醒 その一(覚醒と殺戮)
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マルス達がサディス公爵一家の見送りを受けながら王都を経ったのはそれから二日後の事であった。
その間サディス公爵の家族に危険は迫らなかった。
マルス達がカルベック城塞に戻って二日後予期せぬ事態が発生した。
マルスは騎馬を駆って、荘園の外れにまで来ていた。
普段であれば、デラウェアとレナンがついてくるのであったが、何となく不安が有ったので彼らの伴を断っていた。
マルスと馬が入り込んでいたのは、カルベック荘園に隣接するデモラン男爵領に通じる間道であり、普段人が通らぬ道である。
猟師がたまに使う道であって、一般の人はそうした道があることすら知らないはずである。
マルス自身そうした道に何故入り込んだのかわからないでいた。
何かやみくもに自分を駆り立てているものがあった。
馬をおりて手綱を木立に結び付けると少し歩いた。
唐突に違和感を覚えた。
身体が熱いほどに火照っているし、何かが自分の中から飛び出してくるような違和感である。
そうしてそれがなされたとき、周囲に有る生き物全てに危害を与えることが予感でき、その恐れに身が震えた。
マルスは封印していた能力を使ってその場を離れた。
マルスが見境なく跳んだ場所は、マルスがいた場所から500光年先の惑星であった。
有害な大気が渦巻く世界であったが、その中でマルスは自らの体内に蓄積していた力を一気に放出したのである。
ほんの短い時間ではあったがそのエネルギーは凄まじく一気に惑星を崩壊させ、更にはその惑星を擁する恒星に大きな影響を与えた。
未だその時期に達してはいなかった恒星ではあるが、膨大なエネルギーをまともに受けた恒星は超新星に変化したのである。
恒星系は一瞬にして崩壊していた。
マルスは超新星に変わる直前、カルベック領の間道に戻っていた。
自らに強大な能力が開花したことを本能的に知っていた。
だがマルスは止めども無く襲い来る疲労感に、その場に寝転んで気を失っていた。
左程の時間ではなかったはずだが、目覚めると様相が変わっていた。
マルスの脳裏にその惑星に住むすべての思考が押し寄せ、マルスは半ばパニックに陥りかけていたが、やがて、その中でアンリに対する明確な殺意を抱いている集団の思考を見分けていた。
アンリと言うよりはサディス公爵一家すべてに対する殺戮の意図である。
そうしてその背後にある邪悪な意図を持つ者の意識も瞬時に読んでいた。
しかしながら、何故かアマンダ、クレイン、アンリの思考は読めなかったが、サディス公爵の思考は読めていた。
そのそばにアンリ達3人がいることも分かった。
サディス公爵一家はマルビスへ戻るために王都を離れるところだったのである。
そうして、一団の刺客がその帰路に待ち構えていた。
刺客が襲撃を予定している場所は、オズラン峠である。
王都を早立ちしたサディス公爵の一行は騎士団100名の警護を受けながら小半時もすればオズラン峠に差し掛かる。
その日はオズラン峠から34レグルのハイマル城塞で宿泊予定だったのである。
襲撃を企てているのは、ベンシャ公国のミコノス城塞に根城を置くアザシ族の末裔であった。
三度の襲撃に失敗し、今回はミコノス城塞の手練れ83名を総動員しての襲撃である。
頭目自らが陣頭指揮を執っている。
相手が100名の騎士団であっても、50名で正面突破ができるほどの十分な陣容であるが、今回は確実に成果を上げるために二段構え、三段構えの作戦を取っている。
オズラン峠の峠道は、サドベランス側はなだらかな緩斜面が続くが、ハイマル側の道筋に急斜面の部分が一か所だけある。
路は急斜面を削って造られており、通行には何ら支障は無いものの、西側は急傾斜の山であり、東側は断崖絶壁となって岩だらけの急流がはるか下にある。
無論そこから転落して無事でいられるのは先ず考えられない。
僅かに400レムほどの距離ではあるが、緩やかに道が湾曲している下り坂のここが難所である。
ここを通行する荷馬車が暴走して何度か谷底へ転落した事故があった。
ために現在では、用心のため崖側に太い柱の柵が設けられている場所である。
土地の者はオズランの大曲と呼んでいる。
アガシ族の残党が襲撃場所に選んだのがこの地である。
一行が大曲中央に差し掛かった時点で、大曲両端付近に多数の丸太を落下させて道を塞ぐことになっている。
その上で、中央付近にあって立ち往生している馬車二台をめがけて最初に大量の丸石を、次いで丸太を落下させるのである。
これらは全て索一本を断ち切れば容易に落下するように準備がなされている。
急斜面の山側はほとんど高い木のない灌木と草地になっているが、それらの仕掛けは藪に隠され下からは巧妙に隠されているのである。
仮に、馬車二台がこの襲撃で谷底に落下すればその時点で襲撃は終わりである。
ハイマル側の最寄りの城塞で怪我人が収容されるのを待ち、サディス家の生き残りがいれば再度夜間に襲撃する手はずである。
馬車二台が谷底に落ちなかった場合は、ハイマル側から力押しで馬車を襲うことになっている。
丸太や大石の落下に耐えて、生き残りがいたにしてもおよそ半数と見込んでおり、襲撃側はバルディアスでは余り知られていない弩弓をも準備し、矢には当然毒が塗られている。
これで斜面から狙い撃ちすれば隠れる場所など有り様も無い。
無論、サドベランス側に伏兵を置くのも忘れてはいない。
その場合にはサドベランス側には20名、斜面に20名の射手、ハイマル側に40名を張り付ける予定である。
残り3名はサドベランスから距離を空けて一行を追尾する役目を持っている。
仮に何らかの事情があって一行がサドベランスに引き返した場合の連絡要員でもある。
完璧な計画であったはずであった。
マルスは瞬時に決断し、アガシ族残党が待ち構える急斜面に跳んだ。
出現したのは急斜面の頂部付近のややなだらかな草原である。
賊たちはくつろいで待機していた。
未だ一行が峠に差し掛かっていないと知っているからである。
マルスの前で驚愕している男に剣が閃き、男の首が宙を跳んでいた、
マルスはそのまま短距離の遷移を繰り返しつつ、敵を倒していった。
襲われた方は何が起きたかわからぬうちに次々と精鋭の首が宙を跳んでいるのを目撃していた。
未だマルスの残像が離れた場所にあるうちに目の前に現れた実像に斬り伏されてゆく。
アガシ族に対抗手段は無かった。
弩弓を構えた男も矢を放つ前に首を刎ねられ、剣を構えた男も背後から首を刎ねられていた。
僅かの間に斜面に配置されていた80名の者達全てが命を失っていた。
その場に生き残りがいないことを確認すると、マルスは20レグルほどサドベランス方面に跳んだ。
商人に化けた3人が相次いで首を失っていた。
一行の背後を追尾していた者もいなくなった。
3人目の首が大地に落ちる前にマルスは別の場所に跳んだ。
そこはハイマルから58レグル、マルビスから62レグル離れたレモノス城塞である。
レモノス城塞は、クロディール家が治める荘園であり、サディス公爵とは従兄妹の間柄になるオトゥール・クロディール公爵がいた。
その実父に当たる隠居のサモアール・クロディール元公爵がサディス家襲撃の元凶であった。
サモアールは、前国王の次男であり、現国王の弟でもあるが、王位は継げず公爵を賜った。
しかしながら、若い頃に眼病を患いそれがためにマルビス領主となることを拒まれたのである。
マルビスは現サディス公爵の父である三男のロアが領主となり、サディス公爵家を名乗ったのである。
公爵家はバルディアスには5家あるが、いずれも王家の親族で占められている。
中でもサディス家はマルビスという港町を領有しているために非常に裕福であった。
王都はサドベランスであるがそれに次ぐ繁栄の城塞はマルビスであったのである。
サモアールは智謀に優れてはいたものの文字が読めず政務には向かなかった。
有能な官吏がつけば可能なことではあったが、実際のところ文書が読めなければ政務も難しい。
そのために左程重要視されないレモノス城塞を任されたのである。
お門違いではあるものの、サモアールは実の弟であるロアをそうしてサディス家をマルビスを奪った象徴として呪った。
サモアールは、我が子が元服した時点で隠居し、公爵位を我が子に譲った。
その上で自由に動ける身分を利用し、アザシ族の生き残りと連絡をつけ、人知れずロアを毒殺し、今またサディス公爵家を滅ぼすことを夢見ていたのである。
仮にサディス家一家が死んだにしても自らがマルビスを収めることはできないことは判っているが、我が子オトゥールにその夢を託したかったのである。
そのために、金貨千枚を褒章にアガシ族の末裔に暗殺を依頼したのである。
その事情を知った以上、マルスはサモアールを生かしておくわけには行かなかった。
サモアールは、広い隠居宅にいて多数の妾を侍らして自由気ままに生きていた。
その朝も一人の女官として雇われたばかりの生娘が朝餉後の茶を持ってきたのを良いことに、奥座敷に押し倒して無理やりに手籠めにしたばかりであった。
今しも、めそめそと泣く女を蹴飛ばして追い出し、薄衣を着て汗をかいた身体を覚まそうと庭に出た所である。
目は全く見えないわけではない。
おぼろげながら物が有るのは判るし、色彩も感じられる。
但し、細かい部分が見えないので書物などは読めないのである。
目が見えない分、嗅覚と聴覚は敏感である。
広い庭の池の畔にたたずむのが日課でもあった。
いつものように畔に立ったサモアールが血のにおいを感じた。
振り向いて誰だと言おうとした瞬間、胸を突かれて池の中に落ちた。
池の深さは膝よりも少し深いだけのものである。
水の中に落ちて、すぐに起き上がろうとしたが、できなかった。
胸が強い力でそのまま押さえつけられているのである。
手足をいくらバタバタさせてもその力を除くことはできなかった。
大量に水を飲み、肺の中の空気が逃げ出してもその力は取り除けなかった。
最後の気泡が口から漏れ出た時、サモアールの意識は暗闇に飲み込まれていた。
半時後池に浮かぶ当主の姿を女中が見つけ大騒ぎになったが、サモアールは既に死亡していた。
その間サディス公爵の家族に危険は迫らなかった。
マルス達がカルベック城塞に戻って二日後予期せぬ事態が発生した。
マルスは騎馬を駆って、荘園の外れにまで来ていた。
普段であれば、デラウェアとレナンがついてくるのであったが、何となく不安が有ったので彼らの伴を断っていた。
マルスと馬が入り込んでいたのは、カルベック荘園に隣接するデモラン男爵領に通じる間道であり、普段人が通らぬ道である。
猟師がたまに使う道であって、一般の人はそうした道があることすら知らないはずである。
マルス自身そうした道に何故入り込んだのかわからないでいた。
何かやみくもに自分を駆り立てているものがあった。
馬をおりて手綱を木立に結び付けると少し歩いた。
唐突に違和感を覚えた。
身体が熱いほどに火照っているし、何かが自分の中から飛び出してくるような違和感である。
そうしてそれがなされたとき、周囲に有る生き物全てに危害を与えることが予感でき、その恐れに身が震えた。
マルスは封印していた能力を使ってその場を離れた。
マルスが見境なく跳んだ場所は、マルスがいた場所から500光年先の惑星であった。
有害な大気が渦巻く世界であったが、その中でマルスは自らの体内に蓄積していた力を一気に放出したのである。
ほんの短い時間ではあったがそのエネルギーは凄まじく一気に惑星を崩壊させ、更にはその惑星を擁する恒星に大きな影響を与えた。
未だその時期に達してはいなかった恒星ではあるが、膨大なエネルギーをまともに受けた恒星は超新星に変化したのである。
恒星系は一瞬にして崩壊していた。
マルスは超新星に変わる直前、カルベック領の間道に戻っていた。
自らに強大な能力が開花したことを本能的に知っていた。
だがマルスは止めども無く襲い来る疲労感に、その場に寝転んで気を失っていた。
左程の時間ではなかったはずだが、目覚めると様相が変わっていた。
マルスの脳裏にその惑星に住むすべての思考が押し寄せ、マルスは半ばパニックに陥りかけていたが、やがて、その中でアンリに対する明確な殺意を抱いている集団の思考を見分けていた。
アンリと言うよりはサディス公爵一家すべてに対する殺戮の意図である。
そうしてその背後にある邪悪な意図を持つ者の意識も瞬時に読んでいた。
しかしながら、何故かアマンダ、クレイン、アンリの思考は読めなかったが、サディス公爵の思考は読めていた。
そのそばにアンリ達3人がいることも分かった。
サディス公爵一家はマルビスへ戻るために王都を離れるところだったのである。
そうして、一団の刺客がその帰路に待ち構えていた。
刺客が襲撃を予定している場所は、オズラン峠である。
王都を早立ちしたサディス公爵の一行は騎士団100名の警護を受けながら小半時もすればオズラン峠に差し掛かる。
その日はオズラン峠から34レグルのハイマル城塞で宿泊予定だったのである。
襲撃を企てているのは、ベンシャ公国のミコノス城塞に根城を置くアザシ族の末裔であった。
三度の襲撃に失敗し、今回はミコノス城塞の手練れ83名を総動員しての襲撃である。
頭目自らが陣頭指揮を執っている。
相手が100名の騎士団であっても、50名で正面突破ができるほどの十分な陣容であるが、今回は確実に成果を上げるために二段構え、三段構えの作戦を取っている。
オズラン峠の峠道は、サドベランス側はなだらかな緩斜面が続くが、ハイマル側の道筋に急斜面の部分が一か所だけある。
路は急斜面を削って造られており、通行には何ら支障は無いものの、西側は急傾斜の山であり、東側は断崖絶壁となって岩だらけの急流がはるか下にある。
無論そこから転落して無事でいられるのは先ず考えられない。
僅かに400レムほどの距離ではあるが、緩やかに道が湾曲している下り坂のここが難所である。
ここを通行する荷馬車が暴走して何度か谷底へ転落した事故があった。
ために現在では、用心のため崖側に太い柱の柵が設けられている場所である。
土地の者はオズランの大曲と呼んでいる。
アガシ族の残党が襲撃場所に選んだのがこの地である。
一行が大曲中央に差し掛かった時点で、大曲両端付近に多数の丸太を落下させて道を塞ぐことになっている。
その上で、中央付近にあって立ち往生している馬車二台をめがけて最初に大量の丸石を、次いで丸太を落下させるのである。
これらは全て索一本を断ち切れば容易に落下するように準備がなされている。
急斜面の山側はほとんど高い木のない灌木と草地になっているが、それらの仕掛けは藪に隠され下からは巧妙に隠されているのである。
仮に、馬車二台がこの襲撃で谷底に落下すればその時点で襲撃は終わりである。
ハイマル側の最寄りの城塞で怪我人が収容されるのを待ち、サディス家の生き残りがいれば再度夜間に襲撃する手はずである。
馬車二台が谷底に落ちなかった場合は、ハイマル側から力押しで馬車を襲うことになっている。
丸太や大石の落下に耐えて、生き残りがいたにしてもおよそ半数と見込んでおり、襲撃側はバルディアスでは余り知られていない弩弓をも準備し、矢には当然毒が塗られている。
これで斜面から狙い撃ちすれば隠れる場所など有り様も無い。
無論、サドベランス側に伏兵を置くのも忘れてはいない。
その場合にはサドベランス側には20名、斜面に20名の射手、ハイマル側に40名を張り付ける予定である。
残り3名はサドベランスから距離を空けて一行を追尾する役目を持っている。
仮に何らかの事情があって一行がサドベランスに引き返した場合の連絡要員でもある。
完璧な計画であったはずであった。
マルスは瞬時に決断し、アガシ族残党が待ち構える急斜面に跳んだ。
出現したのは急斜面の頂部付近のややなだらかな草原である。
賊たちはくつろいで待機していた。
未だ一行が峠に差し掛かっていないと知っているからである。
マルスの前で驚愕している男に剣が閃き、男の首が宙を跳んでいた、
マルスはそのまま短距離の遷移を繰り返しつつ、敵を倒していった。
襲われた方は何が起きたかわからぬうちに次々と精鋭の首が宙を跳んでいるのを目撃していた。
未だマルスの残像が離れた場所にあるうちに目の前に現れた実像に斬り伏されてゆく。
アガシ族に対抗手段は無かった。
弩弓を構えた男も矢を放つ前に首を刎ねられ、剣を構えた男も背後から首を刎ねられていた。
僅かの間に斜面に配置されていた80名の者達全てが命を失っていた。
その場に生き残りがいないことを確認すると、マルスは20レグルほどサドベランス方面に跳んだ。
商人に化けた3人が相次いで首を失っていた。
一行の背後を追尾していた者もいなくなった。
3人目の首が大地に落ちる前にマルスは別の場所に跳んだ。
そこはハイマルから58レグル、マルビスから62レグル離れたレモノス城塞である。
レモノス城塞は、クロディール家が治める荘園であり、サディス公爵とは従兄妹の間柄になるオトゥール・クロディール公爵がいた。
その実父に当たる隠居のサモアール・クロディール元公爵がサディス家襲撃の元凶であった。
サモアールは、前国王の次男であり、現国王の弟でもあるが、王位は継げず公爵を賜った。
しかしながら、若い頃に眼病を患いそれがためにマルビス領主となることを拒まれたのである。
マルビスは現サディス公爵の父である三男のロアが領主となり、サディス公爵家を名乗ったのである。
公爵家はバルディアスには5家あるが、いずれも王家の親族で占められている。
中でもサディス家はマルビスという港町を領有しているために非常に裕福であった。
王都はサドベランスであるがそれに次ぐ繁栄の城塞はマルビスであったのである。
サモアールは智謀に優れてはいたものの文字が読めず政務には向かなかった。
有能な官吏がつけば可能なことではあったが、実際のところ文書が読めなければ政務も難しい。
そのために左程重要視されないレモノス城塞を任されたのである。
お門違いではあるものの、サモアールは実の弟であるロアをそうしてサディス家をマルビスを奪った象徴として呪った。
サモアールは、我が子が元服した時点で隠居し、公爵位を我が子に譲った。
その上で自由に動ける身分を利用し、アザシ族の生き残りと連絡をつけ、人知れずロアを毒殺し、今またサディス公爵家を滅ぼすことを夢見ていたのである。
仮にサディス家一家が死んだにしても自らがマルビスを収めることはできないことは判っているが、我が子オトゥールにその夢を託したかったのである。
そのために、金貨千枚を褒章にアガシ族の末裔に暗殺を依頼したのである。
その事情を知った以上、マルスはサモアールを生かしておくわけには行かなかった。
サモアールは、広い隠居宅にいて多数の妾を侍らして自由気ままに生きていた。
その朝も一人の女官として雇われたばかりの生娘が朝餉後の茶を持ってきたのを良いことに、奥座敷に押し倒して無理やりに手籠めにしたばかりであった。
今しも、めそめそと泣く女を蹴飛ばして追い出し、薄衣を着て汗をかいた身体を覚まそうと庭に出た所である。
目は全く見えないわけではない。
おぼろげながら物が有るのは判るし、色彩も感じられる。
但し、細かい部分が見えないので書物などは読めないのである。
目が見えない分、嗅覚と聴覚は敏感である。
広い庭の池の畔にたたずむのが日課でもあった。
いつものように畔に立ったサモアールが血のにおいを感じた。
振り向いて誰だと言おうとした瞬間、胸を突かれて池の中に落ちた。
池の深さは膝よりも少し深いだけのものである。
水の中に落ちて、すぐに起き上がろうとしたが、できなかった。
胸が強い力でそのまま押さえつけられているのである。
手足をいくらバタバタさせてもその力を除くことはできなかった。
大量に水を飲み、肺の中の空気が逃げ出してもその力は取り除けなかった。
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