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第三章 新たなる展開
3-2 マルス ~覚醒 その二(密談と願い事)
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マルスは隠居宅の屋根に潜みながらサモアールの最後を確認していたが、それから再度カルベックの境界付近の間道に現れた。
馬に近寄ると嬉しそうに嘶いた。
人気のない山道に置いて行かれたのかと馬も心細かったようだ。
その馬に跨り、思念で呼びかけ、今から場所が変わるけれど驚くなよと伝えて馬ごとオズラン峠の大曲付近に遷移した。
流石に馬も仰天したらしいが、マルスの宥めにすぐに応じた。
乗り手が不安がらなければ馬もそれに従うものである。
それからゆっくりと峠の頂上を目指して行った。
頂上に達すると1レグルほど先に、サディス公爵一行の隊列が見えた。
こちらの姿も見つけたのであろう。
先頭の2騎が早足で近づいてくる。
30レム程になるとこちらの顔が判別できたらしい。
馬の速力を弱めて呼びかけてきた。
「そこにおわすは、マルス殿にございましょうや。」
呼びかけてきた騎士は、サディス家を訪れた際に往路の警護に着いてくれたスワソンと言う騎士であった。
「やぁ、確かスワソン殿でしたな。
ご苦労様に存じまする。」
「マルス殿は確か数日前にカルベックにお帰りになられたと聞き及んでおりましたものを、何故このようなところへ。」
「いや、何、たまさか、ハイマル方面に用事がありましてその帰りにございます。
もしや、これからマルビスへお帰りの途中にございますか?」
「はい、公爵ご一家そろってマルビス帰参の途中にございます。」
「おう、それは奇遇。
公爵様にご挨拶は叶いましょうか?」
「この峠の頂上で一休みする予定にございますれば、ここでお待ち願いますか。
某、お伝えして参ります。」
「はい、ではここにてお待ち申し上げる。」
暫し、停止して様子を見ていた一行が、2騎が戻るとすぐに動き出した。
暫くして馬車二台と共に一行が頂上に辿り着いた。
一台の馬車の扉が開いてアンリが飛び降り、マルスの元へ駆け寄ってきた。
「マルス様、お久しぶりです。
まさかこのようなところでお会いできるとは思いもしませんでした。
カルベックにお戻りになっているとばかり思いましたのに・・・。」
「アンリ殿もお元気で何よりです。
ご一家揃っての帰参と先ほどスワソン殿から伺いました。
皆様にも御挨拶を致さなければいけませんね。」
「あら、私に会いに来てくれたのではないのですか?」
少し唇を突き出してアンリが不平を言った。
「もちろんアンリ様にもですが、アンリ様だけでは拙いでしょう。
ここで一休みされると聞いておりますので、アンリ様とは後でまたお話ししましょう。
公爵様に是非とも耳に入れておかなければならない話があります。
それが済んだならアンリ様と少しはお話ができますよ。」
「きっとですよ。」
そう言って少しは機嫌を直してくれたようだ。
マルスは、アンリに綺麗な光が宿っているのに初めて気づいた。
これまでは気づかなかったことである。
降りてきたアマンダ夫人、それにクレインにも同様の光が認められたが、サディス公爵にはその光はなかった。
公爵、婦人、クレインに挨拶をした後、マルスは公爵に内密の話がございますと耳打ちした。
公爵は少し驚いたようであるが、馬車の中にマルスを引き入れて扉を閉めた。
「で、何用かな。」
「はい、公爵一家を悩ませていた刺客集団はミコノスに根拠を持っていたアガシ族の生き残りにございました。」
それを聞いて何かを言いかけた公爵をマルスが押しとどめて言った。
「余り時間がございませんので要点のみ申し上げます。
暫し黙ってお聞きください。
一度しか申しません。
公爵一家を亡き者にしようとしていたアガシ族の末裔83名、悉くこの山中にて討ち果たしました。
そうしてその背後でアガシ族に暗殺の依頼をなしていたサモアール前公爵のお命も縮め参らせました。
このことは誰にも漏らしてはなりません。
サモアール前公爵は、マルビスの領地を現オトゥール公爵に託そうと陰謀を諮ったのです。
現公爵であるオトゥール・クロディール公爵はその謀自体を知りません。
それから城塞に戻られた際には、二人の従者を追放処分にするのが宜しいと思われます。
女官のハンナ・サブディル、侍従のガリソン・ビルロックです。
この二人はアガシ族ではありませんが、その意を受けてご一家の動静を知らせ、或いは破壊活動の手伝いをした者にございます。
しかしながら物証を上げるのは難しいかもしれません。
少なくともこの両名が今後もご一家の間近にいるのは良いこととは思われません。
今一つ、公爵にお願いがございます。
この先の大曲にアガシ族の仕掛けた罠がそのまま残っております。
急斜面の上に丸太や、大きな丸石を一気に崩せるような仕掛けです。
このまま放置すれは仕掛けが風化していずれ崩れて参ります。
場合によっては罪なき旅人が危害を蒙ることになるやもしれません。
今宵の宿泊はハイマル城塞かと思われますが、公爵のお力でハイマル領主グロビデル殿を動かし、それらの仕掛けを取り除いてほしいのです。
場所は急斜面の上にあり、取り除くにしても人手とかなりの危険な作業が伴います。
私の馬に、革袋に入った金貨800枚ほどがございます。
サモアール前公爵がアザシ族に金貨千枚で暗殺を依頼した金の残りです。
それを使ってハイマル城塞の猟師を雇い、仕掛けを取り除くのが一番宜しきかと存じます。
ただ、その仕掛けの傍には80名ほどの死体がございますのでこの埋葬もお頼みできたならと存じます。
以上で、内密の話は終わりですが、今後、公式に何かを聞かれた場合、私は一切知らぬ存ぜぬを通します。」
呆れた顔をして、公爵はマルスを見ていた。
「まさか本当の話とは思えないが、そなたが一人でその全てをやってのけたのか?」
「ご報告できることは致しました。
革袋は、後ほどスワソン殿に渡しておきます。
これ以上の密談は騎士の方にも不安を与えます。
私も、アンリ様やクレイン殿と世間話をしている方が好ましいので、これで失礼をいたします。」
マルスはそう言い置くとするりと馬車を抜け出て行った。
後には呆気にとられた公爵が残っていた。
マルスはスワソンを見つけると、マルスの馬にくくりつけている革袋二つを公爵様に渡してほしいと言い、返事も聞かないうちにそのままアンリの傍に歩み寄っていた。
スワソンは、何とも言いようも無く同僚のカメディスに声をかけて、マルスの馬から革袋を降ろしにかかった。
異様に重い手ごたえに驚いた二人は慌てて中を確認し、大量の金貨であることを見てすぐに馬車に残っていた公爵の元へと運んだのである。
「公爵様、マルス殿からこれを公爵様にお届けしろと言われ、一応中身を改めましたところ大量の金貨でございました。
如何いたしますか?」
「ふむ、確か800枚ほどと聞いておる。
そのまま、この馬車に置いて行きなさい。
ハイマルで使うことになるやもしれぬ。」
鷹揚に答える公爵の返事に、マルスとの間でこの話は既に決着がついていると判断した二人の騎士はそのまま、荷台の中に革袋を大事にしまい込んだ。
四半時ほどマルスとアンリそれにクレインは談笑をし、やがて出立の時を迎えた。
マルスが見送る中、サディス公爵一行はハイマルを目指して、峠を下って行った。
その姿が見えなくなると、マルスと馬は元の間道に戻ったのである。
二度目の遷移に際して、馬は動じなくなっていた。
マルスもまたカルベック城塞への帰路に着いたのである。
マルスが城塞に戻ったのは、昼餉の時期を大分過ぎており、メリダやハドリアヌスに大分お小言を頂いてしまった。
無理もない。
伴もつけずに朝早くから正午過ぎまで行方不明で有ったからである。
マルスは一切言い訳をせずに神妙にお小言を頂戴していた。
一方サディス伯爵の一行は無事にハイマル城塞に辿り着いていたが、大曲の入り口で、スワソンとカメディスは公爵から特命を言いつかっていた。
この大曲の急斜面に何かの罠が仕掛けられているかどうか、それに多数の死体が放置されているかどうかの確認をしてこいという命令であった。
罠が仕掛けてあれば、大曲を通過するのは待たねばならないはずなのに、公爵はそのまま進むので、確認をしたなら後から追いかけてきなさいと言う妙な命令でもあった。
半信半疑ながら急斜面を汗みずくで上った二人は、確かに急斜面の頂部付近に数か所のかなり大がかりな罠の仕掛けを見つけた。
同時に首なしの死体が山ほどあるのにも心底驚かされたのである。
二人がハイマル城塞に辿り着いたのは夕闇が迫る直前であった。
二人が見た様子を公爵に告げると、このことは他言無用と厳命され、公爵は陽が落ちたにもかかわらずグロビデル男爵に会いに行った。
伴の者には革袋一つを持たせていた。
半時ほど男爵と話をした後、公爵は戻って来たが至って寡黙であった。
グロビデル男爵の元には夕暮れ直前にレモノス城塞に起きた訃報が入っていたのである。
サモアール前公爵が自宅の池で溺れ死んだという内容である。
公爵はそれを聞いて驚愕した。
マルスは自ら手を下してサモアール前公爵を死に至らしめたように言っていたのである。
少なくともマルスの情報は確かであった。
大曲には大掛かりな仕掛けがあり、首なしの真新しい死体がゴロゴロと転がっているのが確認している。
その措置については革袋一袋およそ400枚の金貨を渡してグロビデル男爵の配下に任せることで話は落ち着いたのだが、一体どうやればレモノス城塞の奥にある隠居宅に押し入り、人目につかぬように前公爵の息の根を止めることができたのかそれが不思議である。
ましてレモノスからなれば、早馬でも、峠までは間違いなく1日がかりになるだろう。
午前も遅くに亡くなったようだから、それからレモノスを発ったのでは峠までは到底たどり着けないことになる。
マルス自身が行ったのでなければ、その依頼で別のアガシ族の生き残りが動いたのではないかとさえ思えるのである。
だが、マルスが誰にも言うなと言い置いてわざわざ告げに来たのは、刺客はこれ以上来ないので無駄な警戒をしなくて良いと言っているのだろうと推察できた。
彼は早口で要点のみを伝えて別れて行った。
仮にこの件で王宮から問われても何も言わないだろうし、そもそも公爵が聞いた話さえもそのようなことは言っていないと否定するだろうと思えた。
『あれで13歳の少年とは正しく怪童。
知恵も大人並みであり、なおかつ文武両道ならば鬼に金棒じゃろう。
カルベック伯爵は良き子を持たれた。
ん、・・・。
もしかすると、その子がアンリの婿になることも有り得るか。
まぁ、一人息子故、アンリが嫁に行くことになるのだろうが・・・。
ふむ、もう半年ほどは様子を見て、叶うことなれば、伯爵に婚約を申し入れても良いかもしれぬな。
下手に虫がついてしまう前に、決めておくことも良いかもしれぬ。
アマンダもマルスなれば反対はしまい。
問題は、伯爵夫妻がどう思うかだが・・・・。』
一人の親として娘の将来をいろいろ考えていると中々寝付ない公爵であった。
馬に近寄ると嬉しそうに嘶いた。
人気のない山道に置いて行かれたのかと馬も心細かったようだ。
その馬に跨り、思念で呼びかけ、今から場所が変わるけれど驚くなよと伝えて馬ごとオズラン峠の大曲付近に遷移した。
流石に馬も仰天したらしいが、マルスの宥めにすぐに応じた。
乗り手が不安がらなければ馬もそれに従うものである。
それからゆっくりと峠の頂上を目指して行った。
頂上に達すると1レグルほど先に、サディス公爵一行の隊列が見えた。
こちらの姿も見つけたのであろう。
先頭の2騎が早足で近づいてくる。
30レム程になるとこちらの顔が判別できたらしい。
馬の速力を弱めて呼びかけてきた。
「そこにおわすは、マルス殿にございましょうや。」
呼びかけてきた騎士は、サディス家を訪れた際に往路の警護に着いてくれたスワソンと言う騎士であった。
「やぁ、確かスワソン殿でしたな。
ご苦労様に存じまする。」
「マルス殿は確か数日前にカルベックにお帰りになられたと聞き及んでおりましたものを、何故このようなところへ。」
「いや、何、たまさか、ハイマル方面に用事がありましてその帰りにございます。
もしや、これからマルビスへお帰りの途中にございますか?」
「はい、公爵ご一家そろってマルビス帰参の途中にございます。」
「おう、それは奇遇。
公爵様にご挨拶は叶いましょうか?」
「この峠の頂上で一休みする予定にございますれば、ここでお待ち願いますか。
某、お伝えして参ります。」
「はい、ではここにてお待ち申し上げる。」
暫し、停止して様子を見ていた一行が、2騎が戻るとすぐに動き出した。
暫くして馬車二台と共に一行が頂上に辿り着いた。
一台の馬車の扉が開いてアンリが飛び降り、マルスの元へ駆け寄ってきた。
「マルス様、お久しぶりです。
まさかこのようなところでお会いできるとは思いもしませんでした。
カルベックにお戻りになっているとばかり思いましたのに・・・。」
「アンリ殿もお元気で何よりです。
ご一家揃っての帰参と先ほどスワソン殿から伺いました。
皆様にも御挨拶を致さなければいけませんね。」
「あら、私に会いに来てくれたのではないのですか?」
少し唇を突き出してアンリが不平を言った。
「もちろんアンリ様にもですが、アンリ様だけでは拙いでしょう。
ここで一休みされると聞いておりますので、アンリ様とは後でまたお話ししましょう。
公爵様に是非とも耳に入れておかなければならない話があります。
それが済んだならアンリ様と少しはお話ができますよ。」
「きっとですよ。」
そう言って少しは機嫌を直してくれたようだ。
マルスは、アンリに綺麗な光が宿っているのに初めて気づいた。
これまでは気づかなかったことである。
降りてきたアマンダ夫人、それにクレインにも同様の光が認められたが、サディス公爵にはその光はなかった。
公爵、婦人、クレインに挨拶をした後、マルスは公爵に内密の話がございますと耳打ちした。
公爵は少し驚いたようであるが、馬車の中にマルスを引き入れて扉を閉めた。
「で、何用かな。」
「はい、公爵一家を悩ませていた刺客集団はミコノスに根拠を持っていたアガシ族の生き残りにございました。」
それを聞いて何かを言いかけた公爵をマルスが押しとどめて言った。
「余り時間がございませんので要点のみ申し上げます。
暫し黙ってお聞きください。
一度しか申しません。
公爵一家を亡き者にしようとしていたアガシ族の末裔83名、悉くこの山中にて討ち果たしました。
そうしてその背後でアガシ族に暗殺の依頼をなしていたサモアール前公爵のお命も縮め参らせました。
このことは誰にも漏らしてはなりません。
サモアール前公爵は、マルビスの領地を現オトゥール公爵に託そうと陰謀を諮ったのです。
現公爵であるオトゥール・クロディール公爵はその謀自体を知りません。
それから城塞に戻られた際には、二人の従者を追放処分にするのが宜しいと思われます。
女官のハンナ・サブディル、侍従のガリソン・ビルロックです。
この二人はアガシ族ではありませんが、その意を受けてご一家の動静を知らせ、或いは破壊活動の手伝いをした者にございます。
しかしながら物証を上げるのは難しいかもしれません。
少なくともこの両名が今後もご一家の間近にいるのは良いこととは思われません。
今一つ、公爵にお願いがございます。
この先の大曲にアガシ族の仕掛けた罠がそのまま残っております。
急斜面の上に丸太や、大きな丸石を一気に崩せるような仕掛けです。
このまま放置すれは仕掛けが風化していずれ崩れて参ります。
場合によっては罪なき旅人が危害を蒙ることになるやもしれません。
今宵の宿泊はハイマル城塞かと思われますが、公爵のお力でハイマル領主グロビデル殿を動かし、それらの仕掛けを取り除いてほしいのです。
場所は急斜面の上にあり、取り除くにしても人手とかなりの危険な作業が伴います。
私の馬に、革袋に入った金貨800枚ほどがございます。
サモアール前公爵がアザシ族に金貨千枚で暗殺を依頼した金の残りです。
それを使ってハイマル城塞の猟師を雇い、仕掛けを取り除くのが一番宜しきかと存じます。
ただ、その仕掛けの傍には80名ほどの死体がございますのでこの埋葬もお頼みできたならと存じます。
以上で、内密の話は終わりですが、今後、公式に何かを聞かれた場合、私は一切知らぬ存ぜぬを通します。」
呆れた顔をして、公爵はマルスを見ていた。
「まさか本当の話とは思えないが、そなたが一人でその全てをやってのけたのか?」
「ご報告できることは致しました。
革袋は、後ほどスワソン殿に渡しておきます。
これ以上の密談は騎士の方にも不安を与えます。
私も、アンリ様やクレイン殿と世間話をしている方が好ましいので、これで失礼をいたします。」
マルスはそう言い置くとするりと馬車を抜け出て行った。
後には呆気にとられた公爵が残っていた。
マルスはスワソンを見つけると、マルスの馬にくくりつけている革袋二つを公爵様に渡してほしいと言い、返事も聞かないうちにそのままアンリの傍に歩み寄っていた。
スワソンは、何とも言いようも無く同僚のカメディスに声をかけて、マルスの馬から革袋を降ろしにかかった。
異様に重い手ごたえに驚いた二人は慌てて中を確認し、大量の金貨であることを見てすぐに馬車に残っていた公爵の元へと運んだのである。
「公爵様、マルス殿からこれを公爵様にお届けしろと言われ、一応中身を改めましたところ大量の金貨でございました。
如何いたしますか?」
「ふむ、確か800枚ほどと聞いておる。
そのまま、この馬車に置いて行きなさい。
ハイマルで使うことになるやもしれぬ。」
鷹揚に答える公爵の返事に、マルスとの間でこの話は既に決着がついていると判断した二人の騎士はそのまま、荷台の中に革袋を大事にしまい込んだ。
四半時ほどマルスとアンリそれにクレインは談笑をし、やがて出立の時を迎えた。
マルスが見送る中、サディス公爵一行はハイマルを目指して、峠を下って行った。
その姿が見えなくなると、マルスと馬は元の間道に戻ったのである。
二度目の遷移に際して、馬は動じなくなっていた。
マルスもまたカルベック城塞への帰路に着いたのである。
マルスが城塞に戻ったのは、昼餉の時期を大分過ぎており、メリダやハドリアヌスに大分お小言を頂いてしまった。
無理もない。
伴もつけずに朝早くから正午過ぎまで行方不明で有ったからである。
マルスは一切言い訳をせずに神妙にお小言を頂戴していた。
一方サディス伯爵の一行は無事にハイマル城塞に辿り着いていたが、大曲の入り口で、スワソンとカメディスは公爵から特命を言いつかっていた。
この大曲の急斜面に何かの罠が仕掛けられているかどうか、それに多数の死体が放置されているかどうかの確認をしてこいという命令であった。
罠が仕掛けてあれば、大曲を通過するのは待たねばならないはずなのに、公爵はそのまま進むので、確認をしたなら後から追いかけてきなさいと言う妙な命令でもあった。
半信半疑ながら急斜面を汗みずくで上った二人は、確かに急斜面の頂部付近に数か所のかなり大がかりな罠の仕掛けを見つけた。
同時に首なしの死体が山ほどあるのにも心底驚かされたのである。
二人がハイマル城塞に辿り着いたのは夕闇が迫る直前であった。
二人が見た様子を公爵に告げると、このことは他言無用と厳命され、公爵は陽が落ちたにもかかわらずグロビデル男爵に会いに行った。
伴の者には革袋一つを持たせていた。
半時ほど男爵と話をした後、公爵は戻って来たが至って寡黙であった。
グロビデル男爵の元には夕暮れ直前にレモノス城塞に起きた訃報が入っていたのである。
サモアール前公爵が自宅の池で溺れ死んだという内容である。
公爵はそれを聞いて驚愕した。
マルスは自ら手を下してサモアール前公爵を死に至らしめたように言っていたのである。
少なくともマルスの情報は確かであった。
大曲には大掛かりな仕掛けがあり、首なしの真新しい死体がゴロゴロと転がっているのが確認している。
その措置については革袋一袋およそ400枚の金貨を渡してグロビデル男爵の配下に任せることで話は落ち着いたのだが、一体どうやればレモノス城塞の奥にある隠居宅に押し入り、人目につかぬように前公爵の息の根を止めることができたのかそれが不思議である。
ましてレモノスからなれば、早馬でも、峠までは間違いなく1日がかりになるだろう。
午前も遅くに亡くなったようだから、それからレモノスを発ったのでは峠までは到底たどり着けないことになる。
マルス自身が行ったのでなければ、その依頼で別のアガシ族の生き残りが動いたのではないかとさえ思えるのである。
だが、マルスが誰にも言うなと言い置いてわざわざ告げに来たのは、刺客はこれ以上来ないので無駄な警戒をしなくて良いと言っているのだろうと推察できた。
彼は早口で要点のみを伝えて別れて行った。
仮にこの件で王宮から問われても何も言わないだろうし、そもそも公爵が聞いた話さえもそのようなことは言っていないと否定するだろうと思えた。
『あれで13歳の少年とは正しく怪童。
知恵も大人並みであり、なおかつ文武両道ならば鬼に金棒じゃろう。
カルベック伯爵は良き子を持たれた。
ん、・・・。
もしかすると、その子がアンリの婿になることも有り得るか。
まぁ、一人息子故、アンリが嫁に行くことになるのだろうが・・・。
ふむ、もう半年ほどは様子を見て、叶うことなれば、伯爵に婚約を申し入れても良いかもしれぬな。
下手に虫がついてしまう前に、決めておくことも良いかもしれぬ。
アマンダもマルスなれば反対はしまい。
問題は、伯爵夫妻がどう思うかだが・・・・。』
一人の親として娘の将来をいろいろ考えていると中々寝付ない公爵であった。
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