二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

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第三章 新たなる展開

3-3 アリス ~メィビスにて その一(下船)

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 アルタミルの軌道衛星を出航後47日目にして、キティホーク号はメィビス第三軌道衛星の至極近傍に達していた。
 ここから先はタグボートと軌道衛星パイロットの操作に任せるしかない。

 既に船内の加速度は消失、無重力状態に入っている。
 船客乗員で特段の業務の無いものはシートレストに止められている筈であった。

 重力が消えて概ね30分が経過した頃、船首が軌道衛星の外殻リングに固定されゆっくりと回転を始めて擬似重力が生まれ始めた。
 それから15分で定速に達し、外殻リング付近で5分の1Gに達した。

 船内放送があり、乗客たちはようやくシートレストから解放された。
 私(アリス)は、自分の荷物は既にまとめており、配送先もタグに記録してある。

 マイクと語らって、取り敢えずはクレアラスの中心街にあるシェラヌートン・ホテルに投宿することにしていた。
 私の手荷物は乗船した時は二つのトランクとハンドバック一つであったが、下船する時は更に大きめのトランク二つに小振りのトランク一つが増えていた。

 とても5つのトランクを運ぶわけには行かないから、別便でホテルに託送してもらうことにしたのである。
 但し、小振りのトランク一つは替え着等を入れて自分で運ぶことにしている。

 マイクも同じであり、どちらもホテルの予約はしていなかったのだが、事務長にお願いすると、下船までに予約が取れていた。
 セミスィートの部屋が二つで有り、マイクと私の部屋は隣り合っているらしい。

 一泊8000ルーブもする部屋であり、かなり贅沢ではあるが、共にお金には不自由はしていないから構わない。
最初に上級クラスの者から下船し、上級クラス専用のシャトルで地上に降りることができる。
 乗船時と下船時の異なるところは上級クラスの者が先に下船し、シャトル第一便をゆったりと使えるという恩恵を受けられることである。

 二等船客と三等船客は、一等特一等が下船するまで船内で待機しなければならないのである。
 下船口まではカスリンがついて来てくれていた。

 カスリンには随分とお世話になったので、心からお礼を言うと、カスリンが涙ぐんでいた。
 下船口には大勢の船員が見送ってくれ、顔見知りになった船員一人一人と握手をし、別れの挨拶をした。

 キティホーク号は二日間停泊をした後に出航する予定だと聞いている。
 マイクも同じように顔なじみの船員と握手をし、挨拶を交わしていた。

 下船口を出る時は二人で連立って出て行った。
 軌道衛星のアシスタント・パーサーが通路を案内してくれる。

 下船直後のシャトル第一便は定員200名のところを僅かに34名の乗客であった。
 第二便以降は定員800名を超える大型シャトル便になる。

 私が乗船する際のアルタミルのシャトルが大型シャトルであった。
 実のところキティホークの船客の三割はここからメィビスの外惑星に向かう人たちでもあった。

 彼らの多くは季節労務者的存在で、ほとんどがアルタミルのマクバニー社から派遣されている人たちである。
 第三惑星がメィビス、第四惑星の表面には住めないが、その衛星サーカスに居留地があり、同じく第5惑星と第6惑星の衛星にも居留地があるのである。

 主として鉱物資源の採掘のためにできた支援都市である。
 さらにその外側に当初の半年ほどマイクが働いていた小惑星帯が存在する。

 第一便が軌道衛星を離れた。
 上級クラスの船客は、その全てが顔見知りである。

 キティホークは決して小さな船ではないが、47日間も同じ船に乗り合わせると誰彼となく船内の随所でつきあいが生じるものである。
 上級クラスは勿論、二等、三等船客であっても半数ほどは少なくとも挨拶を交わした人々であるはずである。

 シャトルは1時間半でシャトル基地の滑走路に降り立った。
 シャトル基地のターミナルに横付けし、昇降口が取り付けられると船客が一斉に降りはじめる。

 私とマイクも連立ってシャトルからターミナルに向かった。
 ターミナルに入るとすぐに税関、入管、検疫の手続きが有るが、四つの大きいトランクの荷物は別便なので、貨物としての別扱いになり検査がなされることになっている。

 そのためにホテルに届けられるのはかなり遅くなると聞いている。
 ために、替え着等当座必要と思われる品を小振りのトランクに入れて携帯して行くのである。

 入星のための検査はすんなりと済んだ。
 しかしながらそこを抜けると驚いた。

 カメラの砲列が待ち構えていたのである。
 ケイシーやダイアンも第一便で降りた筈なので、その人たちを狙っているのだろうと思っていたのだが、大きな間違いで、どうやらマイクと私を待っていたらしい。

 二人を目がけて無数のフラッシュがたかれ、ビデオの眩しいライトが集中した。
 周囲に警備員が多数立って一定の距離を離してくれているが、この調子で追いかけられてはたまらない。

 集音マイクを精一杯伸ばして私やマイクの名を呼ばわり、取材をしようという記者もいて流石に私は尻込みした。

「マイク、これは、一体何なの?」

「さぁ、判らないけれど、厄介だね。
 この調子だときっと出口で待ち構えているのもいるんだろうね。
 何の用事か聞いてみるかい?」

 見ると廊下の先の到着口の出口になっている場所にも黒山の人だかりである。

「うーん、何だか判らないけれど、ここは逃げの一手ね。
 何を聞かれてもノーコメント。
 私達は有名人でもタレントでもないわ。
 何処の記者か知らないけれどお付き合いする必要はないし、彼らに恩義も無いわ。
 さっさとフリッターに乗ってホテルへ入り込んじゃいましょうよ。」

「それで済めばいいけれどねぇ・・・。
 まぁ、取り敢えずそうしようか。
 駄目ならまた考えよう。」

 私とマイクは、目的の判らない報道陣を無視して、出口へと向かった。
 出口の前にも報道陣が殺到していたがひたすら無視して、マイクとターミナルの警備員が記者達を掻き分けるようにして進み、私はひたすらその後について行った。

 トランクは胸の前に抱えている。
 アルタミルのフリッターは無人だが、メィビスのフリッターは運転手が付いている。

 私がまず乗り、次いでマイクがしつこい記者を振りほどきながら、ドアを閉めた。
 運転手が周囲の喧騒に驚きながらも聞いた。

「どちらまで?」

「シェラヌートン・ホテルまでお願いできるかしら。」

「ようがす。」

 運転手は、二、三度警笛を鳴らして、フリッターを地上から浮かび上がらせた。
 それから、高度を保って所定の方角に向けた。

 半自動運転になると、運転手が言った。

「で、お二人さん何をしでかしました。
 乗合いのフリッターにこんだけの記者が群がるのは初めて見ましたよ。
 記者に追いかけられる人は高級車に乗るのが普通ですがねぇ。」

「さぁて、こちらには彼らに追いかけられる理由がわからないけれど、別に警察に追われているわけじゃないよ。」

「でしょうねぇ。
 来ているのはどちらかというと芸能関係の記者が多いから・・・。
 そう言えばあんたたちの顔をどっかで見たなぁ。
 ん?
 あ、そう言えば大分前にディリー・プラネットにお宅たちの顔がでていたっけ。
 何でも天才音楽家だって・・・。
 名前は、確かマイクさんにアリスさん。
 そうでがしょう?
 あぁ、それで芸能記者が集まったんだ。」

「何で?
 私たちの事が、ディリー・プラネットに載るの?」

「そりゃぁ、貴方、音楽界の重鎮とも言われるあのケイシーを唸らせた二人だもの。
 楽器を握っている者なら、子供でもあんたがたの名前と顔は知ってますぜ。
 このメィビスじゃ、とっくに有名人ですよ。」

 私とマイクは顔を見合わせて苦笑した。
 どうやら、記者がキティホークに紛れ込んでいたらしい。

 そうして私は、ふとディリー・プラネットの副社長エスター・バレンツの顔を思い浮かべて納得した。
 騒動元はあの人に違いない。

 マイクも私も普通の人の思念を読みとろうと思えばできるが、できるだけしない方が良いとマイクに言われて、敵意を感じたなら読むように心がけているため、そうした他人の考えまでは知らなかった。
 マイクが思念で呼びかけてきた。

『これは、暫くは要注意だね。
 記者連中がなんだかんだと追いかけてきそうだ。
 そういう連中を事前にチェックする必要がありそうだよ。
 中には性悪な連中もいてゴシップネタを探し回っているから。』 

『そう言うのは願い下げだわ。
 母の事故の時にも随分と嫌な思いをしたもの。』

 マイクが運転手に声をかけた。 

「運転手さん、会社には行き先を言うのかな?」

「ええ、一応決まりなもんで、報告しなければいけないんですが・・・。
 誤魔化しましょうか?
 シェラヌートンじゃなくって、その先のクリストン・ホテルと言っておけば取り敢えずは誤魔化せる。
 お二人さんをシェラヌートンで降ろしてから、このフリッターをクリストン・ホテルン向かわせればつじつまが合う。」

「悪いけれど、お願い。
 その代りチップは弾むよ。」

「へへっ、そいつはありがたいけんど、チップの代わりにお二人のサインを貰えませんかね。
 そいつをあっしの宝物にして娘達に自慢してやりたいもんで。」

「僕らのサインなんて、何の価値も無いと思うけれど、運転手さんのご希望とあればサインしますよ。
 何に書いたらいい?」

「滅多には無いんですがね。
 本当にたまに、高級車の手配が付かなかったタレントさんなんかを乗っけることもあるんで、色紙を用意してあるんですよ。」

 運転手は、手元のダッシュボードの中から色紙とサインペンを取り出した。
 マイクがそれを受け取り、色紙の上の方へ運転手の名前を聞いて書き込み、その下にマイクの署名をした。

 それを私が受け取り、更に下へ私も署名をした。
 その間に、運転者が会社へ「667号、ヘインズ、2名実車、クリストン・ホテル」と報告していた。

 運転手に渡すと、運転手の顔がほころんだ。

「ありがとさんです。
 これで、あっしにも宝物が出来た。」

 二人を降ろして、すぐにフリッターは立ち去ったものの、後を追いかけてきた一団もいる。
 その数台がホテルの前に停まりかけるのを見て、私とマイクは急いでホテルの中に入った。

 ホテルのフロントでチェックインの手続きをしている間にも数人のカメラを抱えた記者連中がホテルに入ろうとしていたが、流石にクレアラスでも最高級の部類に入るシェラヌートン・ホテルは警備の職員がすぐに出張って、彼らの入館を止めていた。
 特段の取材の約束が無い限り報道関係者の自由な出入りは禁止しているのである。

 私は最上階に近い2034号室にマイクは2033号室に無事に落ち着いた。
 時刻は午後3時を少し過ぎていた。
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