二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

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第三章 新たなる展開

3-16 マルス ~コンタクト その一(意識の触れ合い)

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 翌日は、王家の二の姫サラ殿とドゥベラリオン伯爵の御長男アリオン・ドゥベラリオンとの婚礼の日である。
 マルスは招待客ではないから婚礼の宴には出席できないが、その後の舞踏会には参加できるように公爵が手を回していた。

 そのために、アンリの警護を兼ねて王宮に入り、宴の間は待機して、その後の舞踏会会場で待ち合わせることになっていた。
 マルスは前回の式典とは打って変わって、貴族の子息らしい装いに変えていた。

 アンリの警護役がカルベック騎士団の礼服を着ていてはまずいからである。
 今回、母レオが事前に用意してくれた濃紺の衣装である。

 ところどころに蔓草つるくさ模様の銀の刺繍が施してあり、長身のマルスをより見栄え良く見せる衣装である
 マルスがサディス公爵の警護の騎士と共に王宮に入り、婚礼の宴が終わるまで待機している間にちょっとした騒ぎが持ち上がっていた。

 控えの間の一つで、モアディス子爵の騎士の一人が、近衛騎士団の一人とちょっとしたいさかいで剣を抜きあうところまで行ったのである。
 だが未然に防止されたのは一重にマルスの動きが迅速だった性である。

 周囲に多数の騎士がいたが、諍いを起こした二人がどちらもいきり立っており、下手に手を出すと怪我をする恐れもあったから、誰も止めには入らなかった。
 二人が怒声を浴びせながら、正しく剣の柄に手を掛けて、鞘から抜き放った瞬間、濃紺の疾風が通り過ぎた。

 にらみ合っていた二人は抜身の剣を持ったまま相次いでその場に崩れ落ちていた。
 マルスが瞬時に二人に当て身を食らわしていたのである。

 マルスが周囲に居合わせた騎士たちに大声で宣言した。

「本日は、王家にとってもドゥベラリオン伯爵家にとっても目出度き日。
 よりによってその日に何たる不届きな行いを引き起こされるのか。
 万が一、この王宮内で血を流すような振る舞いがあれば、主家やそれぞれの騎士団幹部にもおとがめが来ましょうぞ。
 この者達をそれぞれの騎士団でお引き取りなされ。
 少なくともいさかいを起こしたこの二人は王宮に置いては置けぬ。
 私は、マルス・カルベック。
 逃げも隠れもしない。
 只今はサディス公爵の別邸に厄介になっている。
 二人より何らかの苦情があれば私が受ける。」

 近衛騎士団とモアディス子爵の騎士団は、完全に白目を剥いている二人を抱えあげ、すぐに王宮から運び出していた。
 言われてみれば慶事にこのような騒ぎを起こして王宮内で血を流したとあれば、騒ぎの張本人はもちろん騎士団そのものにお咎めが行く可能性は十分にあり、主家にも厳しいお叱りがあることは間違いないはずであった。

 だが、その場にそれぞれの騎士団を束ねる長が不在だったことが災いの原因だった。
 近衛騎士団は副長までが宴に招かれており、待機している場所も一か所ではなく分散しているため、たまたまその控えの間には責任の採れるような人物がいなかった。

 モアディス子爵の騎士団は、普段よりも少ない陣容で子爵の警護をしていたが、子爵夫人が婚礼の宴が始まってから間もなく突然の体調不良を理由に常宿まで戻ることになったため、責任者である騎士団副長が半分の腕利きを連れて不在の間のことであった。
 マルス・カルベックの名は出陣した近衛騎士団では知らぬ者が無いほど有名であったが、前回の戦役に参加していなかった騎士団や留守組の近衛騎士にとっては無名に等しい。

 だからひときわ大きな体格を持つマルスを誰も14歳の元服前の少年とは考えてはいなかった。
 傍目からはハンサムな顔立ちで、出で立ちからは18歳から20歳ぐらいの貴族の子息にも見える。

 だから、誰しもが中々気が利く若い奴がいると感心していたものである。
 その騒ぎが収拾されて暫くして婚礼の宴は無事に終わっていた。

 出席者の人数が多いため一番大きな広間が婚礼の宴の会場として使われており、そこが一旦整理されて、再度舞踏会の会場に使用されるのである。
 招待客の控え場所が広間の近くにある広間やその他の控えの間であり、大広間につながる庭園である。

 婚礼の宴が終わると、マルスはようやく庭園に入ることができた。
 その庭園がアンリ達との待ち合わせ場所でもある。

 アンリはすぐにマルスを見分けていた。
 どれほど人がいようと野外であればマルスの居場所はすぐにわかる。

 マルスのいる処は、何せ巨大な光が灯台のようにその位置を示している。
 その中心部に必ずマルスがいるのだから間違えようがない。

 アンリとマルスが落ち合って間もなく、左程庭園で待つことも無く舞踏会の会場に入ることができた。
 広い会場も宴参加者の倍近い人数を抱えて壁際、窓際には左程の余地がない。

 舞踏会が始まると最初に花婿と花嫁の舞踏が披露され、その後は一斉に会場の脇に控えていた者達が踊り出す。
 その二番目の曲の時はほとんど皆が一斉に動き出すのでさすがの広い会場も込み合ってしまう。

 アンリとマルスは三番目の曲から踊ることにしていた。
 三曲目もそのまま続けて踊るカップルもいるのだが、少なくとも二番目ほどに込み合う様な混雑は無い。
 マルスとアンリのカップルはとにかく目立った。

 アンリが年若いと言うことも有る。
 アンリよりも若い年齢の娘はまだ満足に踊れないことが多い。

 アンリは薄い青色のドレスに身を包んでおり、少し高いハイヒールの靴を履いていた。
 ために普通の女性よりは背が高いし、あどけないながら少し化粧を施した顔は可愛さが溢れ気味の変わった魅力を備えていた。

 未だ丸顔の名残が抜けきっていないことが、美貌というよりもかっちりとした清純な美を感じさせるのである。
 一方のマルスも背が高く濃紺の衣装を着ており、彫の深いハンサムな顔立ちは美男子なのだが、同じように多少幼さを遺した顔は、見る女性に不思議な魅力を醸し出す。

 その二人が見事な足運びで踊る姿は、見応えがあった。
 二人は注目を浴びる代わりにその弊害もあった。

 マルスの元にもアンリの元にも、ダンスの申し込みが殺到したのである。
 マルスは年齢を理由に断ることもできたが、アンリは正規に申し込まれた場合断ることが難しかった。

 一度は休憩中ですので次の機会にと言うこともできたが、その相手はその場で待っている。
 アンリは止むを得ず5曲目に別の若者と踊った。

 そうして戻って来るなり、マルスを誘って踊りだした。
 その後アンリは一度も休憩に入ることは無かった。

 壁際に戻れば他の者が誘いに来るからである。
 マルスとアンリはそのまま8曲目まで踊り続けた。

 曲の合間にも広間の中央付近でマルスに寄り添うように抱き付いているアンリを流石に誘う若者はいなかった。
 マルスとアンリは曲の合間には、身体をゆっくりと揺らしていた。

 その間もずっとアンリの視線はマルスを見つめており、マルスも無言で答えていた。
 そんな中で8曲目が終わってホールの中央で身体を揺らしていた二人の思念が唐突につながった。

『アンリ殿かい。』

 アンリの目が見開いた。

「マルス様、何・・・。」

 そう言ってアンリは気づいた。
 マルスの口は閉じたままである。

 アンリも口を閉じたまま思念で答えた。

『マルス様、これは一体。』

『さて、僕にもわからない。
 何かが僕の意識に触れてきたから、多分アンリ殿だと思った。
 今は、二人の意識が思念で会話をしている。
 そう思う。』

『そんなことって・・・。
 私、魔女になっちゃったの?』

 マルスが笑顔を見せながら答えた。

『ある意味ではその通り、でも僕とコンタクトを付ける方法がわかったのなら、次にはそれを切る方法も覚えなくちゃね。
 アンリ殿、できるかい?』

『そんなこと・・・。
 わからないわ。
 私、無意識のうちに貴方の気配を探していて、何かの表面をなぞったみたい。
 そうしたらマルス様から呼びかけられた。』

『じゃ、その逆だね。
 なぞる代わりに表面からベールを引きはがすこと。
 やってごらんなさい。』

 アンリは言われたとおりにしようとしてなかなかできなかった。
 居心地がとてもいいからだった。

 だが心を鬼にしてそれから引きはがした。
 何かの痛みが伴った。

 アンリの目から少し涙が溢れた。
 マルスも端正な顔を少し歪めた。

「ちょっと痛かったなぁ。」

「あ、マルス様も。
 なぜかしら。」

「何しろ僕も初めてのことなんでね。
 理由は判らない。
 でも慣れれば大丈夫じゃないかな。
 それよりも疲れてはいないかい。」

「少しは、・・・。
 でも大丈夫よ。
 私は若いもの。
 9曲目が最後だったと思うけれど。」

「うん、ダンスの方はね。
 それよりも今の出来事は突然起きた。
 体力は要らないけれど、意識というか頭の方が疲労するかもしれない。
 何か異常を感じたら早めに言ってくれる?」

「ええ、仮に私が意識を失ったにしても、マルス様がすぐそばにいるから大丈夫でしょう。
 マルス様がちゃんと屋敷まで運んでくれる。」

「勿論、仮に君を抱いたまま屋敷まで歩かなければならないとしても、きちんと送り届けるよ。」

 それから最後の曲が始まった。
 ゆっくりとした動きのウォレールであった。

 マルスとアンリは最後まで無事に踊り切っていた。
 だが、帰りの馬車の中でアンリはうとうととし、半分眠りかけていた。

 別邸に着いて侍女にアンリを託すとようやくマルスはほっとした。
 クレインがその様子をみて声を掛けてきた。

「今日はアンリがべったりだったな。
 曲の合間に広間の中央で抱き合いながら身体を揺らしているあの姿はどう見ても恋人同士だよ。
 一時でも離れたくないって様子が見え見えだ。
 マルス殿、このまま進んじゃ危ういぜ。
 元服前の子が、子供を作るようなことにはなりなさんな。」

「クレイン殿、御忠告真摯しんしうけたまわっておきます。
 でもご心配なく。
 僕たちは決してそのようなことにはなりません。
 クレイン殿こそ、どこぞの女性を孕ませたりなさいませんように。」

「うん?
 誰の事を言っている。」

「フォスター子爵の御令嬢メルーシア様です。」

「メルーシアか。
 マルス殿、良く知っているな。
 確かに逢引の約束はしたが、そこまでだ。
 今のところ抱くつもりはない。
 二度ほど会っては見たが、あれはどうも思い込みが強すぎる。
 顔の方はまぁまぁだが、一度抱いてしまえばこっちが逃げられなくなりそうなんでね。
 止めた。
 ダンスを申し込まれれば逃げるわけにも行かないから二回は踊ったが、三回目は生理現象を理由に逃げてきた。」

「なるほど、と言うわけですね。
 クレイン殿は、その辺の見極めが素早い。
 ですが相手にきちんと理解させないまま放置するのは面倒の元ですよ。」

「ふーん、アンリと踊りながら僕の方もしっかり見ていたというわけだ。
 全く、何という驚くべきだ。
 これで14歳とはとても思えないぞ。
 少なくとも僕の友人にはマルス殿ほど勘のいい奴はいないよ。」

 クレインはそのままお休みを言って部屋に戻って行った。
 マルスも自分の部屋に入った。

 その時、アンリから意識のコンタクトがあった。

『アンリ殿かい。』

『はい、マルス様。
 今日は眠いのでまた明日お話ししましょう。
 おやすみなさいを言いたかったの。』

『お休み、アンリ殿。
 ゆっくり休んでください。』

『おやすみなさい。』

 アンリがコンタクトを切った時、再度の痛みが感じられたが最初の時ほどの痛さは無い。
 やはり慣れが必要なのだろうと感じたマルスだった。

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