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第五章 催事と出来事
5-8 アリス ~社交ダンス 前夜祭
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9月29日にモード・デ・ヴァリューが終わり、30日午前中に帰宅したが、10月5日からの前夜祭を皮切りにメィビス地区社交ダンス・コンテストが開催される。
前夜祭にも必ず出席してほしいというのが、マッカラム支部長のお願いである。
今回の場合は、現地に宿泊する必要はない。
自宅から会場に通うことで了解は貰っているからである。
ダンス・コンテストが間近に迫っていても、私とマイクの生活は何ら変わることが無い。
朝食後、二人そろってジョギングに出かける。
10月2日、いつものように走り終えてクールダウンしている最中に、初老の男性が話しかけてきた。
ジョギング中にいつも見かける人であるが、これまで話をしたことの無い人物ではあった。
「お二人とも、随分と早いですねぇ。
私も多少足には自信が有ったけれど、あなた方にはとてもかなわない。
陸上競技で記録をお持ちですか?」
「いいえ、単なる趣味でやっていることですから、記録など有りません。」
「うーん、それはもったいない。
あなた方ならきっといい記録がでるはずなのに。
10月12日に市内陸上競技場で二月に一度の記録会が有るのですが、一度出てみてはいかがでしょうか。
記録会は誰でも参加ができるものですし、自分の記録を測っておくと後々励みにもなる物です。
10セトラン、20セトラン、30セトランの競技もありますし、短距離競技にフィールド競技もございます。
最近、記録会への参加者が少なくなりましてね。
本当に好きな者しか出て来なくなったので少し寂しい気持ちでいるのです。
如何なものでしょうか?」
「12日ですか・・・。
気が向いたら参加してみましょう。
雨天や荒天の場合は中止でしょうか?」
「いえ、いえ、10年前に陸上競技場に天蓋ができましてな。
雨天、荒天に関わらず記録会は開かれます。
それに万が一クレアラスの記録を塗り替えた場合にも、公式記録として認められますぞ。
計測は全て国際仕様の電気式計測機器が使われていますし、審判員も国際クラスの資格を持った者達ばかりです。
というのもメジャーな大会に有力選手を取られて、記録会参加者はハイスクールの生徒を除くと、ほとんどロートルばかりになってましてな。
審判員も年季の入った者ばかりなんですわ。」
そう言って陽気に笑う初老の男性は、好感のもてる人物であった。
◇◇◇◇
その日は、アイリーンのために二人で歌曲をいくつか考えてみた。
アイリーンの声域はかなり広いのでそれを有効に使う歌曲をいろいろ考えてみたのだった。
最近流行の若い人向けのサパのリズムはかなり速いテンポである。
しかしながら、彼女の声はそれよりも少しテンポの遅いムーカルに向いている。
あるいはもっと歯切れの良い新しいリズムでも合うかもしれない。
聞きようによってはサパよりも早いリズムにもなる。
その結果、全く新しいリズムの歌曲を二つ、ムーカルのリズムで二曲を作ってみた。
作詞は翌日に先送りした。
そうして翌日には作詞も完成した。
二人で編曲したバックのオーケストラの譜面も作って終了したのは、前夜祭の日であった。
アイリーンのマネージャーに電話を掛けるとすぐにアイリーンに代わってくれた。
アイリーンに歌曲四つを作ってみたので、後で郵送するから良いと思うものを選択するようにと言うと、アイリーンは今から取りに伺いますと言って、住所を聞いてきた。
止むを得ず、マイクが住所を教えると30分後にアイリーンが玄関に現れた。
玄関先ではアイリーンのファンに見とがめられると困るので、アイリーンとマネージャーを家に招き入れた。
我が家では初めての客になる。
アイリーンは楽譜を見てすぐに言った。
「うーん、とてもいい感じがするけれど、・・・。
何となくイメージが沸かないわ。
マイクさん、アリスさん。
どうイメージを浮かべればいいのかしら。」
「楽譜だけじゃまだ無理かな。
アイリーンもその内に楽譜だけでイメージが沸くようになる。
じゃぁ、主旋律を弾いてみるから聞いてご覧。」
我が家にはフォーマルなバリ・アルショークが居間に置いてある。
居間が二つあって、どちらも広いことには間違いないのだが、一方は12トラン四方の間取りで小さい方、もう一つは20トラン四方もある大きなものである。
その大きな方にバリ・アルショークは置かれている。
優に2.5トラン四方の場所を占拠するバリ・アルショークではあるが、これほど大きな居間では小さく見えるから不思議である。
元々天井が高い家である。
通常の家ならば精々3トランもあれば十分な高さと言えようが、注文主が金に飽かして特別に設計させたペンションハウスは天井の高さも4トランほどあり、玄関ホールは二階までの吹き抜けになっているから8トラン以上の高さが有って、とても家とは思えないほどの高さと広さを感じさせるのである。
アイリーンを連れて私たちは大きな居間に移った。
マイクがバリ・アルショークを弾いて、アイリーンに主旋律を聞かせた。
「わぁー、本当にいい曲だわ。
音符だけだとイメージが沸かなかったけれど歌詞にぴったり。
でも流行のサパではないんですね。」
「サパの方が良かったのかな?」
「いいえ、これはムーカルでしょ?
でも新鮮に聞こえるし、私はサパよりもこちらの方が好きだな。」
「そう、良かった。
アイリーンの声はサパよりもムーカルに合っていると思ったから二曲はムーカル、他の二曲は少し早いテンポの新しいリズムだと思えばいい。
アイリーンなら歌いこなせるはずだ。」
「ありがとうございます。
それにこの楽譜の量からするとバックの編曲までされているんじゃないですか?」
「そう、曲のイメージが大事なんでね。
一応フルオーケスラ用の伴奏も入っている。
但し、普通の演奏に慣れてしまった楽団の人にはちょっと難しいかもしれない。
一応、UI記憶装置に楽譜を入れてあるから、情報端末で自動演奏もできるはずだ。
情報端末は楽譜通りに演奏してはくれるけれど、温かみにかける。
出来ればオーケストラに演奏させるのが好ましいね。
もしどうしても困ったら、連絡するといい。
可能であれば、出向いてそれなりのアドバイスはできると思う。
但し、今日から5日間は難しいな。
ちょっと予定が入っているんでね。」
「はい、その間にプロダクションの人と相談してどうするか決めます。」
アイリーンはとびっきりの笑顔を見せて引き上げて行った。
◇◇◇◇
私達は前夜祭に出席するための準備に入った。
今日の前夜祭もピエール記念公会堂で行われることになっている。
マッカラムさんの話では、ダンスの衣装を着る必要はないが、正装での参加をお願いしたいとのことだった。
ダンスの衣装については、今日中にダイアンさんが届けてくれることになっている。
最終日盛大な祝賀会の会場でダイアンさんが約束してくれたのである。
「二人は、お金持ちだものね。
僅かばかりのモデル料をあなた方に払っても意味がない。
だから、あなた方のダンスの衣装は私に造らせてちょうだいな。
今回の成功は全てあなた方のお蔭なんだから。
せめてそれぐらいはさせてほしい。
前夜祭の日の夕方までには二人の家に届けさせるわ。」
私達が出かける1時間前に約束通り品物が届いた。
但し、全部で16着ものダンス用の衣装が届けられ、なおかつショーで使った衣装がそっくり送られてきたのである。
ダンス衣装については、私達も一応の算段はつけていたのだが、ダイアンさんの心遣いを無駄にはできない。
ダンスの演目ごとに用意していた4着の衣装は暫くタンスの肥やしになってもらうしかないようだった。
私の出で立ちはキティホークで購入したものの一つであり、未だ袖を通していないカクテルドレスだった。
細かいスパンコールが入った赤紫色の衣装で、先日のような肌の露出が多いデコルテとは一味違う。
幅の広い赤紫のベルトがアクセントになっているやや丈の短いスカート部に、フリルがついた長袖の袖口が広くなっている。
最大の特徴は肩幅を大きく見せるパットが付いていることだろう。
同じ色合いで大柄な花が描かれているスカーフを首に巻いて行く。
アクセサリーは、ケルヴィスのC結晶の微粉末を骨材に吹き付けて造ったお手製のイヤリングと腕輪である。
とても綺麗な鮮紅色のC結晶は、赤い色の衣装に良く映えるのである。
靴はアルタミルから持ってきたモカシンの紫のミドルヒールである。
抽象模様の透かし模様の入った赤紫色のストッキングが、ボトムを引き締めるはずだ。
全体的に少し可愛く、上品に見せる雰囲気がある。
髪はポニーテールにした。
クレアラスに来て早4か月余り、髪は切りそろえるだけで伸ばしているから結構長くなって、背中の半分ほどにまで達していた。
明日は早朝から予約を取った美容院に行って結い上げてもらうつもりでいる。
結い上げた髪にはティアラを添えるつもりでいた。
ティアラも4種類。
これはマイクが作ってくれたものである。
宝石店で一山いくらの宝石粉末を購入し、ネオプラの素材にその微粉末で花、蔦、葉の模様を描いたものであり、とても素敵な仕上がりになっている。
材料費だけなら1000ルーブもしていないだろう。
でも私にとっては大事な宝物である。
コンテストは午前9時半から始まることになっている。
参加者は全部で42組であり、5組出場の組が2組、4組出場の組が8組できる。
一組15分としても12時までには規定ダンスは終了する。
尤も審査が長引いて時間が伸びることも稀にあるようだ。
午後の自由ダンスは午後2時から始められ、午後6時までには終了する予定である。
マイクは、おしゃれな黒いブラウスに黒のダーベリック風のスーツ姿で居間に現れた。
いつもながらダンディであり、彼の横に並んでいられるのが私の喜びであり誇りである。
少し早いのだが、二人の準備が整ったので出発した。
巷では億ション・ハウスと称されるドラン・コンドミニアムの正面玄関前にはジェイムスが待ち受けていた。
私達二人が乗り込むと間もなくフリッターが宙に浮いた。
行く先は、ここからほど近いベーリン街区のピエール記念公会堂。
途中混雑も無くすんなりついてしまった。
前夜祭の開始時間まで20分以上もあったが、それでもマッカラムさんが待ちくたびれていたようだ。
到着するとすぐにマッカラムさんが色々とダンス協会のお偉方に私達を紹介して歩いたのである。
そのお陰で前夜祭の開演間近まで大勢の人々に挨拶をしまくったことになる。
私達のテーブルは中央の正面席に他の参加者二組それにダンス協会のお偉方と一緒だった。
出席者の人々は皆着飾っているが、若い人は非常に少ないようである。
元々参加者の平均年齢が37歳前後と高い性もある。
それでもちらほらと若いカップルの姿もあるが今回のコンテストの参加者では無いようだ。
ホールの半分ほどはテーブルだけで人がいない状況であるが壁際にはカメラを持ち、報道の腕章を巻いた人たちが異様に多いのが目についた。
多分100人以上もいるのではないかと思われるのである。
そんな状態で前夜祭の宴の開演が告げられ、壇上ではヴァリューと同様に年配者による祝辞が入れ代わり立ち代わり述べられた。
今回はヴァリューのような華やかさは余りないなと思っていたのだが、壇上で始まったショーでは趣向が凝らされて、徐々に華やかな雰囲気になってきた。
流石に舞踊家の集いである。
幼い子供たちのクラシック・ダンスから始まり、フォークダンスや古典的な民族舞踊、更にはクレアラス歌劇団の団員による歌劇の一場面やラインダンスが披露された。
それらの出場者が出番を終えると空いている席を占めて行き、1時間が過ぎた時はあれほど閑散としていたホールが満杯になっていた。
それからコンテスト出場者の紹介が始まった。
今回は42組が一組ずつ壇上に上がり短いスピーチをする。
キティホークで一緒にコンテストに出場したバッケス夫妻の姿もあった。
42組中40組までが夫婦であった。
残り二組のうち一組は私とマイクである。
私達は何故か最後に壇上に呼ばれた。
それまでは出場者の名前だけを紹介して、すぐに引き下がっていた司会者が長々と私達の紹介を始めた。
「さて、42組の出場者の最後にマイク・ペンデルトン氏とアリス・ゲーブリング嬢をご紹介します。
お二人はここにお集まりの舞踊界では馴染みの薄い方ではございますが、皆様既にご承知のとおり、彼の高名なるケイシー・ドグマン氏をして天才音楽家と言わしめたお二人です。
そうしてまた難病と言われたリス多臓器不全症候群の特効薬の増産に道筋を付けられた陰の功労者。
はたまた先頃エクィヴィスのパレ・デ・モーニャにおいて開催されましたモード・デ・ヴァリューにおいて、トップ・デザイナーであるダイアン女史のモデルを勤められ、本日発売された女性週刊誌モノリスで実に2千名にも及ぶ今回の参加モデルの中からトップモデルに選ばれたお二人でございます。
そうしてまた、ヤノシア地区社交ダンス支部長が自ら懇願して出馬を願ったディフィビア連合ダンス協会期待の星でもございます。
若いお二人ながら、その技量は非常に高く評価されております。
明日からのコンテストではその技量を間近にご覧になれると存じます。
長いご紹介になってしまいましたが、それではお一人ずつスピーチをお願い申します。」
私とマイクは互いに譲り合いをしたが、マイクが結局先にスピーチを行った。
「私とパートナーであるアリス嬢とは実のところ初めて出会ってからまだ半年余りでございます。
無論、それまで二人でダンスをしたこともございません。
キティホーク号の中で知り合い、フェアウェルのコンテストで初めて踊った素人ですので、只今ご紹介に有った期待の星というのはちと荷が重いかもしれません。
しかしながら、皆様のご期待に沿うようできる限りの努力を致したいと存じますのでご声援の程よろしくお願い申します。」
「私は、マイクのリードに任せるだけの存在でございます。
しかしながら、社交ダンスの始まりは必ずしも他人に見せるものではなく、互いの想いを、踊りを通じて交わしあい、好ましい異性を捕まえるための方便とも聞いております。
私がマイクの心を捉えることができるかどうか。
どうぞ、皆様の目でお確かめ下さるようにお願いします。」
場内から「よう頑張れ、俺が応援するぞ。」と掛け声が掛かり、場内が爆笑した。
ヴァリューのようなかくし芸を披露しなければならないような不意打ちも無く、盛会の内に前夜祭は終了した。
前夜祭にも必ず出席してほしいというのが、マッカラム支部長のお願いである。
今回の場合は、現地に宿泊する必要はない。
自宅から会場に通うことで了解は貰っているからである。
ダンス・コンテストが間近に迫っていても、私とマイクの生活は何ら変わることが無い。
朝食後、二人そろってジョギングに出かける。
10月2日、いつものように走り終えてクールダウンしている最中に、初老の男性が話しかけてきた。
ジョギング中にいつも見かける人であるが、これまで話をしたことの無い人物ではあった。
「お二人とも、随分と早いですねぇ。
私も多少足には自信が有ったけれど、あなた方にはとてもかなわない。
陸上競技で記録をお持ちですか?」
「いいえ、単なる趣味でやっていることですから、記録など有りません。」
「うーん、それはもったいない。
あなた方ならきっといい記録がでるはずなのに。
10月12日に市内陸上競技場で二月に一度の記録会が有るのですが、一度出てみてはいかがでしょうか。
記録会は誰でも参加ができるものですし、自分の記録を測っておくと後々励みにもなる物です。
10セトラン、20セトラン、30セトランの競技もありますし、短距離競技にフィールド競技もございます。
最近、記録会への参加者が少なくなりましてね。
本当に好きな者しか出て来なくなったので少し寂しい気持ちでいるのです。
如何なものでしょうか?」
「12日ですか・・・。
気が向いたら参加してみましょう。
雨天や荒天の場合は中止でしょうか?」
「いえ、いえ、10年前に陸上競技場に天蓋ができましてな。
雨天、荒天に関わらず記録会は開かれます。
それに万が一クレアラスの記録を塗り替えた場合にも、公式記録として認められますぞ。
計測は全て国際仕様の電気式計測機器が使われていますし、審判員も国際クラスの資格を持った者達ばかりです。
というのもメジャーな大会に有力選手を取られて、記録会参加者はハイスクールの生徒を除くと、ほとんどロートルばかりになってましてな。
審判員も年季の入った者ばかりなんですわ。」
そう言って陽気に笑う初老の男性は、好感のもてる人物であった。
◇◇◇◇
その日は、アイリーンのために二人で歌曲をいくつか考えてみた。
アイリーンの声域はかなり広いのでそれを有効に使う歌曲をいろいろ考えてみたのだった。
最近流行の若い人向けのサパのリズムはかなり速いテンポである。
しかしながら、彼女の声はそれよりも少しテンポの遅いムーカルに向いている。
あるいはもっと歯切れの良い新しいリズムでも合うかもしれない。
聞きようによってはサパよりも早いリズムにもなる。
その結果、全く新しいリズムの歌曲を二つ、ムーカルのリズムで二曲を作ってみた。
作詞は翌日に先送りした。
そうして翌日には作詞も完成した。
二人で編曲したバックのオーケストラの譜面も作って終了したのは、前夜祭の日であった。
アイリーンのマネージャーに電話を掛けるとすぐにアイリーンに代わってくれた。
アイリーンに歌曲四つを作ってみたので、後で郵送するから良いと思うものを選択するようにと言うと、アイリーンは今から取りに伺いますと言って、住所を聞いてきた。
止むを得ず、マイクが住所を教えると30分後にアイリーンが玄関に現れた。
玄関先ではアイリーンのファンに見とがめられると困るので、アイリーンとマネージャーを家に招き入れた。
我が家では初めての客になる。
アイリーンは楽譜を見てすぐに言った。
「うーん、とてもいい感じがするけれど、・・・。
何となくイメージが沸かないわ。
マイクさん、アリスさん。
どうイメージを浮かべればいいのかしら。」
「楽譜だけじゃまだ無理かな。
アイリーンもその内に楽譜だけでイメージが沸くようになる。
じゃぁ、主旋律を弾いてみるから聞いてご覧。」
我が家にはフォーマルなバリ・アルショークが居間に置いてある。
居間が二つあって、どちらも広いことには間違いないのだが、一方は12トラン四方の間取りで小さい方、もう一つは20トラン四方もある大きなものである。
その大きな方にバリ・アルショークは置かれている。
優に2.5トラン四方の場所を占拠するバリ・アルショークではあるが、これほど大きな居間では小さく見えるから不思議である。
元々天井が高い家である。
通常の家ならば精々3トランもあれば十分な高さと言えようが、注文主が金に飽かして特別に設計させたペンションハウスは天井の高さも4トランほどあり、玄関ホールは二階までの吹き抜けになっているから8トラン以上の高さが有って、とても家とは思えないほどの高さと広さを感じさせるのである。
アイリーンを連れて私たちは大きな居間に移った。
マイクがバリ・アルショークを弾いて、アイリーンに主旋律を聞かせた。
「わぁー、本当にいい曲だわ。
音符だけだとイメージが沸かなかったけれど歌詞にぴったり。
でも流行のサパではないんですね。」
「サパの方が良かったのかな?」
「いいえ、これはムーカルでしょ?
でも新鮮に聞こえるし、私はサパよりもこちらの方が好きだな。」
「そう、良かった。
アイリーンの声はサパよりもムーカルに合っていると思ったから二曲はムーカル、他の二曲は少し早いテンポの新しいリズムだと思えばいい。
アイリーンなら歌いこなせるはずだ。」
「ありがとうございます。
それにこの楽譜の量からするとバックの編曲までされているんじゃないですか?」
「そう、曲のイメージが大事なんでね。
一応フルオーケスラ用の伴奏も入っている。
但し、普通の演奏に慣れてしまった楽団の人にはちょっと難しいかもしれない。
一応、UI記憶装置に楽譜を入れてあるから、情報端末で自動演奏もできるはずだ。
情報端末は楽譜通りに演奏してはくれるけれど、温かみにかける。
出来ればオーケストラに演奏させるのが好ましいね。
もしどうしても困ったら、連絡するといい。
可能であれば、出向いてそれなりのアドバイスはできると思う。
但し、今日から5日間は難しいな。
ちょっと予定が入っているんでね。」
「はい、その間にプロダクションの人と相談してどうするか決めます。」
アイリーンはとびっきりの笑顔を見せて引き上げて行った。
◇◇◇◇
私達は前夜祭に出席するための準備に入った。
今日の前夜祭もピエール記念公会堂で行われることになっている。
マッカラムさんの話では、ダンスの衣装を着る必要はないが、正装での参加をお願いしたいとのことだった。
ダンスの衣装については、今日中にダイアンさんが届けてくれることになっている。
最終日盛大な祝賀会の会場でダイアンさんが約束してくれたのである。
「二人は、お金持ちだものね。
僅かばかりのモデル料をあなた方に払っても意味がない。
だから、あなた方のダンスの衣装は私に造らせてちょうだいな。
今回の成功は全てあなた方のお蔭なんだから。
せめてそれぐらいはさせてほしい。
前夜祭の日の夕方までには二人の家に届けさせるわ。」
私達が出かける1時間前に約束通り品物が届いた。
但し、全部で16着ものダンス用の衣装が届けられ、なおかつショーで使った衣装がそっくり送られてきたのである。
ダンス衣装については、私達も一応の算段はつけていたのだが、ダイアンさんの心遣いを無駄にはできない。
ダンスの演目ごとに用意していた4着の衣装は暫くタンスの肥やしになってもらうしかないようだった。
私の出で立ちはキティホークで購入したものの一つであり、未だ袖を通していないカクテルドレスだった。
細かいスパンコールが入った赤紫色の衣装で、先日のような肌の露出が多いデコルテとは一味違う。
幅の広い赤紫のベルトがアクセントになっているやや丈の短いスカート部に、フリルがついた長袖の袖口が広くなっている。
最大の特徴は肩幅を大きく見せるパットが付いていることだろう。
同じ色合いで大柄な花が描かれているスカーフを首に巻いて行く。
アクセサリーは、ケルヴィスのC結晶の微粉末を骨材に吹き付けて造ったお手製のイヤリングと腕輪である。
とても綺麗な鮮紅色のC結晶は、赤い色の衣装に良く映えるのである。
靴はアルタミルから持ってきたモカシンの紫のミドルヒールである。
抽象模様の透かし模様の入った赤紫色のストッキングが、ボトムを引き締めるはずだ。
全体的に少し可愛く、上品に見せる雰囲気がある。
髪はポニーテールにした。
クレアラスに来て早4か月余り、髪は切りそろえるだけで伸ばしているから結構長くなって、背中の半分ほどにまで達していた。
明日は早朝から予約を取った美容院に行って結い上げてもらうつもりでいる。
結い上げた髪にはティアラを添えるつもりでいた。
ティアラも4種類。
これはマイクが作ってくれたものである。
宝石店で一山いくらの宝石粉末を購入し、ネオプラの素材にその微粉末で花、蔦、葉の模様を描いたものであり、とても素敵な仕上がりになっている。
材料費だけなら1000ルーブもしていないだろう。
でも私にとっては大事な宝物である。
コンテストは午前9時半から始まることになっている。
参加者は全部で42組であり、5組出場の組が2組、4組出場の組が8組できる。
一組15分としても12時までには規定ダンスは終了する。
尤も審査が長引いて時間が伸びることも稀にあるようだ。
午後の自由ダンスは午後2時から始められ、午後6時までには終了する予定である。
マイクは、おしゃれな黒いブラウスに黒のダーベリック風のスーツ姿で居間に現れた。
いつもながらダンディであり、彼の横に並んでいられるのが私の喜びであり誇りである。
少し早いのだが、二人の準備が整ったので出発した。
巷では億ション・ハウスと称されるドラン・コンドミニアムの正面玄関前にはジェイムスが待ち受けていた。
私達二人が乗り込むと間もなくフリッターが宙に浮いた。
行く先は、ここからほど近いベーリン街区のピエール記念公会堂。
途中混雑も無くすんなりついてしまった。
前夜祭の開始時間まで20分以上もあったが、それでもマッカラムさんが待ちくたびれていたようだ。
到着するとすぐにマッカラムさんが色々とダンス協会のお偉方に私達を紹介して歩いたのである。
そのお陰で前夜祭の開演間近まで大勢の人々に挨拶をしまくったことになる。
私達のテーブルは中央の正面席に他の参加者二組それにダンス協会のお偉方と一緒だった。
出席者の人々は皆着飾っているが、若い人は非常に少ないようである。
元々参加者の平均年齢が37歳前後と高い性もある。
それでもちらほらと若いカップルの姿もあるが今回のコンテストの参加者では無いようだ。
ホールの半分ほどはテーブルだけで人がいない状況であるが壁際にはカメラを持ち、報道の腕章を巻いた人たちが異様に多いのが目についた。
多分100人以上もいるのではないかと思われるのである。
そんな状態で前夜祭の宴の開演が告げられ、壇上ではヴァリューと同様に年配者による祝辞が入れ代わり立ち代わり述べられた。
今回はヴァリューのような華やかさは余りないなと思っていたのだが、壇上で始まったショーでは趣向が凝らされて、徐々に華やかな雰囲気になってきた。
流石に舞踊家の集いである。
幼い子供たちのクラシック・ダンスから始まり、フォークダンスや古典的な民族舞踊、更にはクレアラス歌劇団の団員による歌劇の一場面やラインダンスが披露された。
それらの出場者が出番を終えると空いている席を占めて行き、1時間が過ぎた時はあれほど閑散としていたホールが満杯になっていた。
それからコンテスト出場者の紹介が始まった。
今回は42組が一組ずつ壇上に上がり短いスピーチをする。
キティホークで一緒にコンテストに出場したバッケス夫妻の姿もあった。
42組中40組までが夫婦であった。
残り二組のうち一組は私とマイクである。
私達は何故か最後に壇上に呼ばれた。
それまでは出場者の名前だけを紹介して、すぐに引き下がっていた司会者が長々と私達の紹介を始めた。
「さて、42組の出場者の最後にマイク・ペンデルトン氏とアリス・ゲーブリング嬢をご紹介します。
お二人はここにお集まりの舞踊界では馴染みの薄い方ではございますが、皆様既にご承知のとおり、彼の高名なるケイシー・ドグマン氏をして天才音楽家と言わしめたお二人です。
そうしてまた難病と言われたリス多臓器不全症候群の特効薬の増産に道筋を付けられた陰の功労者。
はたまた先頃エクィヴィスのパレ・デ・モーニャにおいて開催されましたモード・デ・ヴァリューにおいて、トップ・デザイナーであるダイアン女史のモデルを勤められ、本日発売された女性週刊誌モノリスで実に2千名にも及ぶ今回の参加モデルの中からトップモデルに選ばれたお二人でございます。
そうしてまた、ヤノシア地区社交ダンス支部長が自ら懇願して出馬を願ったディフィビア連合ダンス協会期待の星でもございます。
若いお二人ながら、その技量は非常に高く評価されております。
明日からのコンテストではその技量を間近にご覧になれると存じます。
長いご紹介になってしまいましたが、それではお一人ずつスピーチをお願い申します。」
私とマイクは互いに譲り合いをしたが、マイクが結局先にスピーチを行った。
「私とパートナーであるアリス嬢とは実のところ初めて出会ってからまだ半年余りでございます。
無論、それまで二人でダンスをしたこともございません。
キティホーク号の中で知り合い、フェアウェルのコンテストで初めて踊った素人ですので、只今ご紹介に有った期待の星というのはちと荷が重いかもしれません。
しかしながら、皆様のご期待に沿うようできる限りの努力を致したいと存じますのでご声援の程よろしくお願い申します。」
「私は、マイクのリードに任せるだけの存在でございます。
しかしながら、社交ダンスの始まりは必ずしも他人に見せるものではなく、互いの想いを、踊りを通じて交わしあい、好ましい異性を捕まえるための方便とも聞いております。
私がマイクの心を捉えることができるかどうか。
どうぞ、皆様の目でお確かめ下さるようにお願いします。」
場内から「よう頑張れ、俺が応援するぞ。」と掛け声が掛かり、場内が爆笑した。
ヴァリューのようなかくし芸を披露しなければならないような不意打ちも無く、盛会の内に前夜祭は終了した。
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はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
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◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
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科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
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