二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

文字の大きさ
63 / 99
第五章 催事と出来事

5-10 アリス ~陸上競技でブラビアンカへの出場?

しおりを挟む
 アラン・グリエールさんがそこに現れ、二人に時間をいただけまいかと丁寧に話しかけてきた。
 私達二人は頷いて、彼の後について行った。

 陸上競技場の客席の下には倉庫や事務室などがあり、彼は競技場の管理事務所へと私達を誘った。
 無論、後をついてくるマスコミ連中はシャットアウトである。

 アランさんは彼らに向かって言った。

「私が後で記者会見を開きます。
 お二人についてはそっとしておいてくださらんかな。」

 管理事務所の会議場を一つ空けてもらって、私たちはそこへ入ったのである。
 アランさんは管理事務所の者ではなさそうであるが、少なくとも事務所の者からは優遇されているようだ。

 テーブルを前にして向き合ってアランさんが話し始めた。

「いやはや、お二人には恐れ入りました。
 貴方がたは幾つもの記録を塗り替えてしまわれた。
 100トラン、槍投げ、走り幅跳び、それに30セトランです。
 マイク君は30セトランで、アリス嬢は100トランで、それぞれディフィビア連合の新記録に過ぎないのですが、私のみるところおそらくはまだまだ余力が御座いましょう。
 マイク君は100トランと投槍で、アリス嬢は走り幅跳びと30セトランで、世界記録保持者になってしまいました。
 それに30セトラン途中の計時記録も参考ながら大変な記録になるでしょう。
 出だしこそ他の出場者に遠慮されて最後尾から出られたようでしたが・・・。
 あなた方は終始トラックの中央を並んで走られ、ゴールも一緒でした。
 アリスさんが先ほど言われた、日常のジョギングの延長でしかないという言葉が頷けます。
 それだからこそ、最後までお二人揃って走られた。
 ただ、あなた方が走られた距離は30セトランではなく、実質は31.8セトランほどの距離を走っていながら連合記録に世界記録なのです。
 もしコースの内側を走られていたならば4分程もタイムが違うのではないかと推測しています。
 きちんとした大会であればあれほど、混雑したスタートはせずとも済みますし、あなた方も内側のコースを走れます。
 従って記録はより伸びることになるでしょう。
 私は、縁あってディフィビア連合陸上競技協会の会長をしておりましてな。
 あなた方を是非ディフィビア連合の代表に加えたいのです。
 既にメィビス地区とヤノシア地区の選抜大会は終了していますのでそこにあなた方を加えるのは最早できません。
 しかしながら、私としては何としてもあなた方お二人を平和の祭典に送り込みたいのです。
 協会理事全員に計らねばできないことではありますが、協会推薦という形でお二人を先ずディフィビア連合大会に特別選手としてご招待したいと考えております。
 無論お二方の同意が前提ですが、私としては是非ともご参加をお願いしたいのです。
 決して、協会の名誉とかディフィビア連合の栄誉とかを考えているのではございません。
 あなた方が陸上競技に参加することで、若い人に夢や希望を与えてやりたいのです。
 今回のディフィビア連合の大会と平和の祭典への各一度の出場だけで陸上競技から引退なされても構いません。
 平和の祭典は陸上競技だけでなく多くの種目が有って、実に多くの方が見守る競技会です。
 お二人は、どうやらそうした華やかな舞台には余り立ちたくないとの意向があるのは先ほどの様子でわかりましたが、後に続く青少年のために何とか参加をしていただけませんかな?
 あなた方が平和の祭典で活躍すれば、若い人たちの夢と希望の象徴になり得ると思っているからです。
 近頃の何でもマスコミに売り込む傾向は、健全なスポーツであるべき陸上競技にも入り込んでおりましてな、
 何かと金儲けの話が付きまとうのは実に嘆かわしいものだと常日頃思って参りました。
 しかしながらあなた方は違う。
 お二人の姿はキティホーク号の演奏の際からたびたびマスコミを通じて拝見させていただいていますが、お二人は実に謙虚であり、決してマスコミに受けようとされているわけではないご様子がうかがえました。
 その姿勢は先ほどのマスコミ対応からも伺えます。
 マスコミに対して何の飾りも無く接し、無駄な発言はなさらない。
 むしろマスコミを避けているようにすら思えるのです。
 スポーツとは本来そうしたもので有らねばならないと私も思っています。
 残念ながら会長などという名誉職に奉られると、嫌でもマスコミ対応はせざるを得ませんが、我々裏方が防波堤となって、競技者に負担が掛からぬようにできるなればそれで本望だと思うておりますのじゃ。
 私ばかりが話をして甚だ失礼なことを致しましたが、どうかお許しください。
 そうして、ディフィビア連合大会と平和の祭典への出場を是非とも真剣に考えていただけませんかな。」

 私とマイクは顔を見合わせた。
 マイクが言った。

「アラン会長の御主旨は判りました。
 しかしながら、或いはご承知かと存じますが、私どもには先約がございます。
 仮に会長の申し出をお受けするにしても、先約を反故にはできませんが、それはご了承いただけますか?」

「 私の承知しているのは、確か、ハイスクール吹奏楽協会と社交ダンス協議会でございますが、ほかにもまだございましょうか?」

「今のところはそれだけです。」

 アランはほっとした表情であった。

「なれば、スケジュール表をご覧いただけましょうか。」

 アランがテーブルに広げた大きな予定表は、ブラビアンカの参加各団体の日程表が埋まったスケジュール表であった。

「ご覧のように、ディフィビア連合の陸上競技会は3月を予定しております。
 その前に、ヤノシア連合ダンス・コンテストが1月に開催され、ディフィビア連合ハイスクール吹奏楽コンテストが2月に予定されております。
 その後、5月にディフィビア連合ダンス・コンテストが開催されますので、当面、二つの予定には支障がないのではないかと推測しております。
 そうしてまた、平和の祭典ブラビアンカのスケジュールでは、9月2日から18日まで陸上競技が開催されまして、9月20日から25日までがダンス・コンテスト、そうしてハイスクール吹奏楽コンテストは10月10日と11日の二日に渡り開催されます。
 従って、お二人がお望みならばどのような陸上競技にも出場が可能です。
 但し、そのためには少なくともディフィビア連合陸上競技大会で何らかの実績を示すことが必要となります。
 既に、マイク君は、100トラン、槍投げ、20セトラン、30セトランでは実績が有り、アリス嬢は100トラン、走り幅跳び、10セトラン、20セトラン、30セトランで実績があります。
 それに場合によっては12月開催の記録会で実績を踏んでいただき、少なくともディフィビア連合の新記録と同程度の記録を出していただければ、その種目についてもおそらく出場は可能と考えております。
 私としては、お二人には400トランと走り高跳び、さらにマイク君には走り幅跳びに、アリス嬢には槍投げにも挑戦いただけたらと考えているのですが、これは無理でしょうか?」

 私とマイクは顔を見合わせて苦笑するしかなかった。

「アラン会長は、私達が何でもできるとお考えのようですわね。
 私達は普通の人間でスーパーマンではありませんことよ。」

 アラン会長は、真面目な顔で言った。

「昨日までは、私もアリス嬢と同じ見方、考え方でした。
 ですが、今日のあなた方を見る限り、スーパーマンとスーパーウーマンの出現と見做して間違いないものと思っています。
 あなた方ならばきっとできるに違いないと勝手な思い込みをしておるのです。」

「しかし、いずれにせよ、この場で即答は致しかねます。
 二日ほどお待ちいただけますか。
 その間に二人で相談して、その結果をアラン会長にご連絡を差し上げます。
 仮に出場するとするならば、その際には出場種目も併せてご連絡いたします。」

 アラン会長は本当にほっとした顔つきをした。

「ありがとうございます。
 承諾が得られたわけではございませんが、少なくとも門前払いは避けられただけましというものです。
 連絡はこちらに。」
 アラン会長は、名刺に自宅の電話番号を書き入れて差し出した。

「朗報をお待ちしております。
 あ、それから、ここでのお話はくれぐれもご内密に。
 これから私は外で待っているであろう記者連中に話をしなければなりませんが、あなた方には本音を言えても、マスコミには建前でしか話せません。
 あなた方の信用を失いたくはないのですが、二枚舌を使うしかありません。
 よろしくご推量くださるようお願いします。
 もし、マスコミの連中に掴まりたくなければ、ここの地下通路を通って守衛所に抜けられますが、どういたしますかな?」

 私たちは其処を利用させてもらった。
 何でも重要人物の来訪の際は、外部には見とがめられずにその地下通路を使って競技場へ出入りすることができるようにしてあるそうだ。

 事務所職員に案内されて私達は陸上競技場の正門守衛所に現れ、通用門を使わせてもらって敷地外に出たのである。
 予め連絡を受けたジェイムスがそのすぐそばで待っていてくれた。

 その日の夕刻からホロ・ビジョンは私とマイクの新記録達成の話しで持ちきりであった。
 カレンとルーシー曰く、昼過ぎからほぼ30分おきにテロップが流されているし、各ニュース番組もトップニュースで扱っているという。

 左程の事はしているようにも思えないのだが、どうやらますます世間が狭くなったような気がする。
 その日初めてMAカップルという言葉がディリー・プラネットで使われ、それが通り名となったのである。

 私とマイクは家に帰ってから色々と話し合い、最終的にブラビアンカの陸上競技に出場を決めたのである。
 但し、通常代表選手ともなれば、強化チームに入って合宿や強化練習に付き合わねばならないのだが、そうした特化した練習には参加しないことを条件とすることにした。

 社交ダンス協会にもその点は参加条件の一つとして了解してもらっていたからである。
 出場種目は、12月のクレアラス陸上競技記録会に400トランと走り高跳びに二人が出場、マイクは走り幅跳びに、私は槍投げにも挑戦することを決めた。

 尤も、私は槍投げなどやったことが無い。
 マイクはすぐにテレパスでコツを教えてはくれたが、とても記録を出せるとは思えなかった。

 家にあるトレーニングマシーンで少し筋肉の強化を図る必要があるかもしれない。
 13日の夕刻にはアラン会長に出場の了解と種目の選定、それに12月の記録会への参加を伝えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。 世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。 王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。 その犯人は5体の神獣。 そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。 一件落着かと思えたこの事件。 だが、そんな中、叫ぶ男が1人。 「ふざけんなぁぁぁあ!!」 王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。 神獣達のママ(男)であった……。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...