二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

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第五章 催事と出来事

5-14 アリス ~カインズ高校

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 時は少し遡るが。12月20日には、クレアラス陸上競技記録会が行われ、私とマイクは、400トラン、走り高跳びに出場、更にマイクは走り幅跳びに、私は槍投げにも挑戦した。
 マイクは400トランでも世界記録を、そのほかの競技はディフィビア連合記録を更新した。
 私は、400トランでディフィビア連合記録を更新したが、他の記録はディフィビア記録にもうすこしというところまで迫ったもののヤノシア地区の記録を更新するにとどまった。

 ◇◇◇◇

 1月末には、ブレスレット、ブローチ、ペンダントそれにイヤリングの4種類のアクセサリーを作り上げ、ハーロック宝飾店に宅配便で届けさせた。
 その際には、余裕があればまた二つか三つのアクセサリーを作ってみるけれど早くても2月の末になるだろうことを添付の手紙で知らせた。

 すぐにもベン・ハーロック氏から礼状が届いた。
 そうして、ハーロック宝飾店では、ショーウィンドウにアリスの宝石箱というコーナーを設けて、そこに4つのアクセサリーを陳列することにしたという。

 当面、お見せするだけで売ることはしないつもりであり、次の品が出来た時点でオークションを考えているという。
 その時期は早くて3月初めごろを考えているものの、店頭に出した途端に数件の引き合いが有ったという報告であった。

 ベンさんは、私への報酬として取り敢えず5000ルーブの小切手を送ってきており、1万ルーブ以上の高値で取引される場合は売値の半分を報酬とすることを考えているらしい。
 私は電話で礼を述べ、報酬についてはそのような配慮は無用ですと言ったのだが、ベン・ハーロック氏は、実際に店が高額で取引をした場合、それが税金に跳ね返ることになり、特に高額品の場合は、卸元である私に贈与税が掛かってしまうことになるから、それを避けるためにも適正な報酬を受け取ってもらう必要があるというのである。

 この場合、材料も人件費も全て私が負うべきものであって、店としては単に品物の売買の斡旋料として受け取ったほうが税金対策上は無駄にならないのだそうである。
 そのためにも店に一月以上の展示を行ってから売ることを考えたようである。
 本来半額の手数料を取ること自体が適正会計の面からは余り望ましくないのだと教えられた。

 ◇◇◇◇

 2月4日キティホーク号が、アルタミルから47日間の航海を終えて到着した。
 カインズ校の生徒達は夕刻までにはホテルに到着しているだろう。

 ホテルはクレアラス・プラザ・インの予定である。
 協会からは6日から5日間の私達の指導があることを伝えられている筈であった。

 ある意味で教え子たちであったからホテルへ会いに行ってやっても良いのであるが、マイクはシュルツ校或いはランスロップ校の手前もあり、2校と差を付けない方がいいと注意してくれた。
 従って、彼女たちには会いに行かなかった。

 2月6日、彼女たちは協会が手配した練習場であるフォックス・ハイスクールの講堂に集合していた。
 私達が講堂に出向くと、皆が一斉におはようございますと言って出迎えてくれた。

 私の目から見ても彼女たちの健康に異常はない。
 彼女たちの弱いオーラがそう教えてくれる。

 私とマイクも声を併せておはようございますと言った。
 懐かしい顔が皆輝いていた。

「今日から5日間、このフォックス校の講堂をお借りして午前三時間、午後三時間の指導を行います。
 このフォックス校には無理を言ってお世話になっているのですから迷惑をかけてはいけません。
 少なくとも最終日には、来た時よりも綺麗になるぐらい掃除をして帰ること。
 それが御世話になった人への心遣いだ。
 じゃぁ、皆がどれだけ精進したかを聞かせてもらおう。
 その上で必要な指導をします。
 最初に規定曲から演奏してください。」

 講堂に規定曲の演奏音が流れた。
 大会の時そのままの練度を彼女たちは維持していた。

 そうして同時に彼女たちのブレスに余裕が出て来ていた。
 多分、サーキットの成果が出たのだろう。

 彼女たちはアルタミルでも船でやったようなサーキットを続けていたに違いない。
 自発的にか、あるいは部長など大人の指示があったのか。

 いずれにしろ継続は力に変わる。
 その余力は更なる向上につながるものである。

 演奏が終わって、マイクは私から好評を言うようにテレパスで促してきた。

「皆さん、大変良く練習をしてきたと思います。
 ヤノシア地区大会の時と同じ演奏をしてくれました。
 特にブレスに余裕が出来たと感じました。
 多分サーキットを継続して来たからじゃないかと考えていますが、その分、以前ならばできなかったことが、今ならばできるようにもなっています。
 従って、これからの5日間に更なるものを目指して稽古をしてみましょう。
 まず、個別の指導を行います。
 ケレックとフェルシェは、マイクに指導を受けてください。
 ベムレットとイェルシンは私が指導します。
 他の方はどちらでもいいですから分かれて見学に廻ってください。
 前回と異なって、今回の見学は意味が有ります。
 あなた方は一緒に演奏しているのですから、周囲の楽器の音色にも気を配らねばなりません。
 私やマイクが注意したことは、周囲の者が気を付けていなければ当事者にはわかりにくいものなんです。
 前回はそこまであなた方に求めることはしませんでした。
 でも、今やあなた方はヤノシア地区を代表する吹奏楽団なのです。
 ヤノシア地区のコンテストの最後に、審査委員長であるファルド・コーンウィスキーさんが言ったことを覚えている人もいるかと思いますが、彼はハイスクールの吹奏楽団には80点以上を付けることを良しとはしないお方です。
 そのお人が、規定曲で85.4点、自由曲で89.9点の得点を与えてくれました。
 その意味はあなた方を一人前の吹奏楽演奏者として扱うという意味なのです。
 あなた方はその評価に応えなければいけない。
 今日からの私達の指導も、その意味ではあなた方をハイスクールの生徒だとは思わないで、一人前の演奏者として扱います。
 無茶かもしれませんが、皆さん一人一人がそうした気概と目標を持たなければ、これ以上の頂点を極めることができません。
 あなた方が挑戦するのは目前のディフィビア連合大会ではなくその先のブラビアンカです。
 私達二人は、あなた方をブラビアンカに送り出すための指導をいたします。
 ここで迷い、悩んだ結果は直接演奏に響きます。
 多分、三日目には相当ひどい演奏になるのではないかと予想しています。
 しかしながら、そこから這い上がってこそ、ブラビアンカで素晴らしい演奏ができるものと私達は信じています。
それでは分かれてください。」

 それから彼女たちの個別指導がはじまった。
 前回とは違って一人一人に時間をかけて1日で一巡りするように指導をしていった。

 今回指導するのは規定曲だけである。
 三日目の最初の演奏では全体の音が乱れていた。

 普通の人では聞き逃してしまうかもしれない。
 しかしながら彼女たち自身がその乱れに気づいていた。

 4日目にやや持ち直し、5日目の演奏では深みが加わっていた。
 5日目は個人指導を止め、午前中演奏を四回繰り返して、全員の身体にその音色を浸みこませた。

 午前中の最後にマイクが言った。

「皆よくやった。
 規定曲の演奏は十分なまでに水準があがった。
 午後は自由曲の練習をしよう。
 多分僕たちの指導は要らないはずだ。
 最初の一時間を使って楽譜を読みなさい。
 次の一時間は僕たち二人の演奏を聞きなさい。
 そうして最後の1時間は、全員で二度の練習をする。
 皆の感性が自由曲であってもどの音をどの程度に出せばよいかは知っているはずだ。
 これまでの自由曲の演奏にこだわらなくてもいい。
 君たちの感性で演奏をしてごらんなさい。
 一度目の練習が終わったなら皆で何が必要かを話し合いなさい。
 二度の練習を行うのは、一度目で周囲の音を聞き、二度目でその調整をするためだ。
 君たちはそれだけの力を持っている。
 では、午後、またここで会いましょう。」

 一旦分かれて昼食をとり、午後から再び講堂に集まった。
 午後三時からは最終練習をするのでフォックス校の生徒達も良ければ自由に見学して下さいと校長先生に御話しておいた。

 午後最初の一時間は繰り返し楽譜を読ませた。
 二時からは私がヤーヴェロンをマイクがセロディエスを持って、自由曲の演奏を二度繰り返した。

 二時半ごろになるとフォックス校の生徒達が静かに講堂に集まりだし、床に腰を降ろして演奏を聴き始めた。
 三時前には講堂の8割が生徒達と教師たちで埋まっていた。

 マイクがカインズ校の生徒達に向かって言った。

「この曲のイメージは受け取る者によって少しずつ違う。
 その違いこそが演奏者の感性だ。
 それをどう現すか。
 前回、キティホーク号で指導を行った際は、僕たちの考えを君たちに押し付けた。
 それは貴方たちが未だ自分で読み取れるほどには力が無かったからだ。
 しかしながら、今回は違う。
 あなた方は既にその力を持っている。
 今僕たちの演奏を聞いてどう思ったか、それを一度目の演奏で体現しなさい。
 そうして、その演奏を自分たちの中で評価するために話し合いなさい。
 それで納得出来たら二度目の演奏をしなさい。
 それが貴方たちの感性であり、自己表現だ。
 先ほども言ったが、貴方たちはその力を十分に持っている。」

 一度目の演奏が行われた。
 ヤノシア地区大会よりも見事な演奏だった。

 演奏が終わって彼女たちが自分で色々と話し合った。
 30分もその話し合いを続け、ようやくまとまった。

 そうして二度目の演奏を行った。
 とてもいい演奏だった。

 彼女たちはヤノシア地区大会を超える演奏をしてのけたのだ。
 私が、最後の好評を行った。

「皆さん、よくやりました。
 とても見事な演奏でした。
 あなた方の成長を指導者として大いに誇りに思います。
 あなた方はどこに出しても恥ずかしくない吹奏楽の演奏者です。
 最後に、お世話になったフォックス校の皆様にお礼を申し上げましょう。
 全員起立して。」

 一拍おいて全員で「ありがとうございました。」とお辞儀をした。
 フォックス校からは暖かい拍手が起きた。

「さて、全員で掃除をして引き上げよう。」

 マイクがそう言って全員が掃除を始めたのだが、フォックス校の生徒達の多くも手伝ってくれた。
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