二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

文字の大きさ
66 / 99
第五章 催事と出来事

5-13 アリス ~社交ダンスとケルヴィスの利用法

しおりを挟む
 ヤノシア地区社交ダンス・コンテストの前夜祭は1月10日であった。
 その日の私は色鮮やかなマリンブルーのローブ・モンタントにヘアバンド、サングラスとアマレットのコートを羽織って出かけた。

 マイクは薄い茶色のフロックコート、長身痩躯の彼には良く似合う。
 今回の前夜祭は舞踊家以外にもクレアラスに住む各界の方々が集まっていた。

 ソプラノ・オペラ歌手のイブ・コルランディス、俳優のヘンリー・ペーディック、画家のローワン・クラゾック、作曲家のディック・オースティンなどである。
 前回よりも華やかなショーが行われ合間に6星系の代表者18組が紹介された。

 その紹介に際してはクレアラスダンス学校の少女がブーケを持って壇上の出場者に手渡してくれる。
 その際には出場者からなにがしかの小さなプレゼントを渡すのが慣例のようであった。

 一応、華美にならないよう市販の物であれば1000ルーブ以内と制限がなされているが、お手製のものであれば左程の値段にならない限り自由である。
 多くのカップルは刺繍の付いたハンカチやスカーフを贈っていた。

 私達は小さな未来のプリマドンナのためにブレスレットを作って上げた。
 ケルヴィスのC結晶体微粉末を中心に、変性A結晶体とB結晶体を組み合わせて花柄模様を形状記憶合金の細い短針に接着し、ネオプラで造ったバンドに差し込んだ手製のものであり、小さな腕にも合うように自由に曲がるようになっている。

 実際に宝石にもなるC結晶体であり、会場の照明と相まってとても綺麗な鮮紅色が映えていた。
 家の仮設工房にはケルヴィスの加工機器を備えており、私は色々な装飾品を手掛け始めていた。

 10ムーロのケルヴィスから8.3ムーロのA結晶体、1.7ムーロのB結晶体、0.1ミーロのC結晶体が分離できる。
 ケルヴィスの原石は1000ムーロで500ルーブほどであり、左程高いものではない。

 輸送費の方が高いぐらいである。
 私は採掘場にお願いして既に30ドムーロの原石を購入し、家にほど近い貸倉庫にため込んでいるのである。

 これまで用途の無かったA結晶体に熱を加えて色素をまぜることにより、くすんだ色合いの微粉末20種類ができるようになり、また、B結晶体にアニリン化合物を反応させて4種類ほどの青緑を出せるようになったのである。
 その成果物がブレスレットである。

 協会には事前に承認を得たものであった。
 材料費が500ルーブほどと言うと協会の担当者は目を剥いたものだった。

 彼女曰くクレアラス中心街にあるイーライ・センルードの宝飾店に持っていったら多分5万ルーブの値を付けるんじゃないかと思いますと言っていた。
 私にブーケをくれた可愛い女の子は目を輝かせてお礼を言った。

「ありがとうございます。
 MAカップルにいただいた私の宝物です。
 大事にします。」

 その反響は前夜祭の最中にやって来た。
 少女の父親はクレアランス宝飾協会の理事をしているベン・ハーロックさんで、先ほどブレスレットを上げた少女の父親であり、イーライ・セントルードに並ぶ宝飾店の一つとして有名なハーロック宝飾店の経営者でもあった。
自己紹介の後で彼が言った。

「先ほど娘が頂いたブレスレットですが、あれほどの出来栄えのブレスレットを私は見たことが御座いません。
 微妙な色遣いで飾りが浮き出てみえるのは大したものです。
 よくみるとわずかずつ異なる色合いの宝石を用いて陰影をつけていることがわかり、同じ大きさの微粉末であるからこそ可能な技法だとわかりました。
 しかも私の見たことの無い宝石ばかりが使われております。
 仮に私の店で売るとすればおそらくは10万ルーブでも安いと思われます。
 誠に綺麗な色合いと意匠は余程に有名なお人の手になるものと思っていましたが、先ほど念のために協会の方にお伺いしましたところ、ブーケのお礼に贈る品は1000ルーブを超えてはならないとのこと。
 さらにはアリス嬢が自ら作られたお手製とのことも伺いました。
 協会の方の言葉を疑うわけではないのですが、本当に貴方が作られたものなのでしょうか?」

「はい、私がデザインし、作った物に間違いはございません。」

「一体、どのような宝石を使われたのかお教えいただけましょうか。」

「ええ、あのブレスレットに使われている材料は、ケルヴィスとネオプラそれに形状記憶合金だけですが、それがなにか?」

「ケルヴィス?
 まさか・・・。
 確かに赤い色合いは宝石としてのケルヴィスに近いですが、本物はややくすんだ赤い色、あれほど綺麗な鮮紅色ではないはず。
 それに黄色や緑など多様な色合いはケルヴィスにはあり得ない筈です。」

「これまではそうでございました。
 でも、ちょっとした悪戯心でケルヴィスに色を付けてみましたの。
 綺麗な色合いの組み合わせがそれでできたのですよ。」

「ケルヴィスに色を・・・。
 なんとまぁ、途轍もないことを考えるお方ですな。
 しかしながらあの色合いは宝石にも勝る色合いです。
 未加工のケルヴィスよりもよほど宝石らしい。
 アリス嬢、もし、差し支えなければ私の店にあの石を使った品をお納め願えませんでしょうか。
 無論相応の製作費はお支払します。
 利益もさることながら、私の仕事は女性を飾ることが本命と考えています。
 あの宝飾品は女性を飾るにふさわしい品と考えていますので何とか店頭に飾ってお客様の反応を見てみたいのです。
 あのデザインならば売れます。
 しかも宝石と異なり左程高い値をつけずとも良いのではないかと。
 10万ルーブの価値ある物が仮に半値の5万ルーブででもお客様に売ることができるならば、この仕事を選んだ甲斐があるというものにございます。
 私の知る限り、お二方はかなりお忙しい立場にあられる様子ですので無理は申し上げられませんが、一つでも二つでも出来上がったものがあれば私どもに卸していただきたいのです。」

「わかりました。
 あくまで素人の趣味の延長の範囲ですのでその点を御理解いただいて、私が暇な折に作り上げたものを貴方に見て頂くようにいたしましょう。
 その時点でお気に召されれば商品として店に置かれても結構です。
 但し、申し訳ないのですがこれを仕事にするつもりはございませんので個別の注文はお受けかねます。」

「はい、勿論、それで結構でございます。
 いや、しかし、本当に恐れ入りました。
 貴方は色々な才能をお持ちのようですが、宝飾デザイナーとしても超一流の腕をお持ちです。
 そんな方に娘が見事な出来栄えのブレスレットを頂いた。
 あれは娘の一生の宝物になるでしょう。
 本当にありがとうございました。」

 前夜祭は滞りなく済んだが、また一つ私は依頼を受けてしまったようだ。
 ヤノシア地区社交ダンス・コンテストは、予定通り行われた。

 4日間のコンテストの全ての種目で私たちは最高得点を獲得し、出場選手18組の中で私達が一番になってしまったのは当然の結果だったかもしれない。
 私たちは課題曲の全てで何のためらいも無く踊れるが、代表選手の中にはやはり得手不得手があるようで、特にテンポの速いエスポラルでは、リズムに乗りきれないペアも出たのである。

 エスポラルは曲によって若干のテンポの違いが有るので、慌てるとステップを踏み違えることになる。
 特に「エスタナーシャ」という曲は鬼門であったようだ。

 途中6度もテンポを変えるため、ペアの両方又は一方が乗り遅れ或いは早くステップを踏んでしまうことが多いようだ。
 私達も抽選でその曲に当たったが、私達が苦も無くこなすのに比して、一緒に踊ったペア二組は悲惨な結果に終わっていた。

 私達が上手に踊った分、彼らの得点は下がってしまったのである。
 バッケス夫妻は3位につけ、代表を獲得したが、ヴァレッタ夫妻は4位となり代表から洩れたのである。

 特筆すべきことは12月中にダイアン女史が8着の素敵なダンス用ドレスを贈ってくれたことである。
 送り状には、ブラビアンカ用のドレスも必ず送りますと付記し、さらには結婚する場合には二人の衣装は必ず造らせてねとあった。

 どうやら私の部屋のクローゼットはダンス用の衣装で一杯になりそうな雰囲気である。
 後夜祭では出場した代表選手皆さんに祝福を受け、ディフィビア大会での健闘をお願いされた。

 特にディフィビア連合代表の優勝の報をお待ちするという言葉が決り文句のように、私達に投げかけられた。
 確かにメィビス、ヤノシア両地区で何れもこれまでの最高点を獲得しての一位であったから関係者の期待は高まるばかりである。

 そうした周囲の期待とは裏腹に私達はダンスの稽古などほとんどしていない。
 一週間に一度、128曲のステップをテレパスでリンクしながら確認するだけであり、僅かに1時間足らずで済んでしまう。

 その確認作業の間も、私はケルヴィスを使ったアクセサリーの細かい作業を行っていたし、マイクは宇宙船工廠の設計にいそしんでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。 世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。 王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。 その犯人は5体の神獣。 そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。 一件落着かと思えたこの事件。 だが、そんな中、叫ぶ男が1人。 「ふざけんなぁぁぁあ!!」 王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。 神獣達のママ(男)であった……。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...