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第七章 二つの異世界の者の予期せざる会合
7-9 マルス ~ロンド帝国の侵攻
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ロンド帝国の侵攻は、時候の良い春先に始まった。
ロンド帝国があるアザリオン大陸とバルディアスのあるエルモ大陸の間にあるカバレロ諸島国は、ちょうど中間地点にあることからロンド帝国がエルモ大陸に侵攻するためには補給地点としてどうしても抑えなければならない要衝の地でもあった。
突如、250隻の軍船とほぼ同数の輸送船が沖合に現れ、カバレロ諸島国は多数の兵士により蹂躙されたのである。
リンデル王家は、バルディアスの助言を聞き入れなかったばかりに滅亡した。
国王一家は捉えられ、他の臣民と共に奴隷としてアザリオン大陸へ運ばれて行ったのである。
その情報は、カバレロ諸島国急襲の日から三日後に、エルモ大陸の北岸に当たるバルディアス他の国々にもたらされた。
大津波から二年の月日が経過していたが、エルモ大陸北岸で十分な海軍艦船を保有していたのはバルディアスとバハン侯国だけであり、他の国々は精々数隻の軍船をようやく整備した程度であった。
バルディアスからは技術的な援助を惜しまなかったのだが、彼らは軍船を造る金を惜しんだのである。
ロンド帝国が押し寄せて来なければ或いはムダ金に終わる可能性もあるし、何より大津波で受けた経済復興に力を入れたので海軍の再建予算が余り顧みられなかったのである。
帝国軍のカバレロ諸島国への侵攻で慌てふためいても、軍船は一朝一夕でできるはずもない。
いずれにせよロンド帝国軍がエルモ大陸のどこへ向かうかわからないから彼らは急遽バルディアスとバハン侯国に援軍を求めたのである。
無論バルディアスもバハン侯国も余力があるわけではない。
250隻の帝国海軍に比して、バルディアスが60隻、バハン侯国が20隻の海軍を要しているだけなのである。
但し、そのいずれもが新式の大砲を備えていた。
その日8人もの使者を迎えたサディス公爵領では、地図を広げながら作戦を練っていた。
そこへ、赤い船体と燃えるような赤帆を持つ軍船が入港してきた。
その特徴的な色合いの船はすぐにエドモン大公国の船とわかる。
サディス公爵もエドモン大公国王と王女はマルス・カルベック所縁の者と云う口コミでマルスから半年ほど前に紹介されたのだが、それからは一月に一度ほどは船で来航するのですっかり顔見知りとなっている。
エドモン大公国はエルモ大陸東岸からかなり離れた所にあるらしいが、古参の船乗りですらその名を聞いたことは無く、公爵夫妻もその正確な場所は知らない。
しかしながら、大公国王と王妃それに伴の者の出で立ちを見る限りはかなり富裕な国であることがわかる。
船も極めて精緻な造りであり、軍船と言いながら正しく御座船のようなたたずまいの船なのである。
乗組員は全員制服姿で、きびきびとした動きは見ていて気持ちの良いほどであり、余程訓練が行き届いているようだ。
バルディアス艦隊の大型艦と同じ程度の大きさの軍艦で有りながら、乗組員は150名余りと少ないのが特徴でもある。
その日も大公国王と王妃が二人揃って公爵の館に顔を出し、貴重な情報を知らせてくれた。
ロンド帝国の上陸地点が判明したのである。
ロンド帝国は、海軍を二分して、100隻は手薄な東部海岸地区のダーバンド王国へ、150隻はバハン侯国の隣国であるサバナスの海岸へと向かうとの極秘情報をもたらしてくれたのである。
当然のように輸送船100隻余りがその背後についてくる。
陸軍将兵4万から5万が乗り組んでいるらしく、カバレロには更なる援軍約20万が待機し、なおも続々と集結中との情報である。
仮にもその大軍が海岸に橋頭保を築いたならば一大事である。
その倍々の軍勢を増援されたなら、北部海岸は蹂躙されてしまうからである。
北部海岸諸国は未だに一枚岩ではない。
各個撃破されたなら、とてもかなう相手ではないのである。
バルディアスでさえ動員できる軍勢は精々4万、そのうち5000人は海軍なのである。
バハン侯国は更に少なく陸海軍合わせて3万2千であった。
俄か同盟軍となった北部沿岸国8か国の使者はこれと言った作戦を持ち合わせてはいなかった。
特にダーバンド王国とサバナスの使者は、エドモン大公国の情報に接するや真っ青になった。
ダーバンド王国は広い海岸線を持つ王国ではあるが、軍勢をかき集めても2万に足らず、軍船は僅かに3隻しか保有していない。
他方サバナスの海岸線は狭いが、三方を険しい山岳地帯に囲まれており、陸からの援軍を余り見込めない地形であり、軍勢は同じく2万足らず、海軍とは名ばかりの2隻の新造船を保有しているだけであった。
100隻以上の軍船と4万から5万の軍勢に攻め込まれては、とても持たない。
陸上での戦闘は極力避けるしか生き残る道は無かったのである。
サディス公爵は、軍議で困ってしまった。
隻数から言えば100隻に満たない連合海軍であり、これを二分すれば勝てるものも勝てなくなるからである。
そこにエドモン公国国王が助け船を出した。
「バルディアス海軍とバハン侯国海軍を中心とする連合海軍は、サバナスへ向かう敵本隊を迎え撃たれよ。
我が海軍は、ダーバンド王国海軍とともにダーバンドに向かう支隊を迎え撃つことにいたそう。」
ダーバンド王国の使者であるリカルド将軍が言った。
「あいや、待たれよ。
エドモン公国国王のご提案に水を差すつもりはないが、エドモン公国海軍は一体何隻の軍船をお持ちか。
多少の数ではとてものこと100隻ものロンド海軍を迎え撃つことなど叶う筈もない。」
「されば、我が公国海軍は20隻の軍船を持っております。
この一隻一隻がロンド海軍10隻に相当する力を持っておりますでな。
リカルド将軍、大船に乗ったおつもりでいなされ。
間違いなくロンド海軍支隊を一歩たりともダーバンドの地に踏み入れさせませぬ。
それよりも倍する150隻の本体を迎え撃たねばならぬバルディアス、バハン侯国の備えは如何にございましょうか?」
サディス公爵が、やや緊張の面持ちで言った。
「我が息子クレインからご説明しよう。」
クレインは頷いて、サディス公爵の後を継いだ。
「バルディアス艦隊とバハン侯国艦隊それにメザン王国艦隊、合わせて86隻は、先日お見せした大砲を備えております。
相手は150隻余りと倍する軍勢にはございますが、これに十分対抗できるものと考えております。
心づもりでは86隻で250隻に対抗するも止む無しと考えていたところにございますから、150隻相手の海戦ならば先ず負けは無いと存じます。」
サバナスの将軍ディエロスが言った。
「しかしながら、ロンド帝国海軍も同じような大砲を持っているとか、カバレロ攻略の際は、船からの砲撃でカバレロ城の城門を撃ち破ったと聞き及びます。
大砲同士の戦いなれば、我が方にも相当の被害が及ぶ可能性がございましょう。」
クレインが落ち着いて答える。
「カバレロ城の城門は海岸からほど近い場所にありました故、ロンド帝国の軍船でも砲撃が可能であったものと思われます。
海岸から城門までは半レグルほど、ロンド帝国の大砲の射程は1レグルほどと見ております。
一方で我が海軍の大砲の射程は4レグル以上に及びますので、ロンド帝国の射程外からの砲撃で相手を殲滅することも可能と考えております。」
その応答にリカルド将軍がまたも食いついた。
「バルディアス海軍がお持ちの大砲、一門なりとも我らに分け与えてはくれませぬか。
それにエドモン公国海軍も同様の大砲を備えているは承知にござるが、我らエドモン公国の存在をこの地にて初めて知った。
国王を目の前にして申し上げるは誠に無礼ながら、我が国の存亡が掛かっておりまする故敢えて申し上げるが、エドモン公国がロンド帝国の配下ではないと証明できましょうや。」
マルスが言った。
「そこにおわすエドモン公国国王は我が実の父にございます。
故有って、幼き頃にはぐれたままになっておりましたが、たまたまカルベック領で養子となった私に巡り会い、我らに助力を頂いております。
ロンド帝国の回し者ではないことは私が保証します。」
「バルディアスの麒麟児と巷に言うマルス殿のお言葉ならば信ずるしかござらぬ。
さりながら、100隻に対して20隻では如何にも不足。
せめてあと20隻なりとも増援は頂けぬか。」
エドモン公国国王が言った。
「リカルド将軍、此度の海戦はこれまでの海戦とは全く異なるものであることを承知された方が宜しい。
これまでの戦なれば数の多い方が圧倒的に有利であるが、此度の戦は数ではなく、大砲の性能によってその優劣が決まる。
例えば、この港に停泊中の我が軍船一隻でロンド海軍100隻を相手にしても負けはない。
1隻ずつを撃破して行けば、100隻の大艦隊と言えどいずれは無くなる。
少なくとも砲弾だけならばその数倍の敵を撃ち破れるだけの数を持っていますからな。
後は如何に上手に相手を叩きのめすかどうかというところ・・・。
ところでサディス公爵、輸送船100隻余りの措置は如何様になさるか?」
「あ、いや、そこまでは考えておらなかったが・・・。」
「本隊、支隊合わせて10万ほどの軍勢、ロンド帝国にとっては左程の痛手にはならぬかもしれぬが、後々の事を考えると捕虜としてもこちらの負担が増えるだけ、海の藻屑とするが宜しかろう。
半日経って生きているものがいたならば捕虜として助けるも良かろう。
それに、今一つ。
カバレロを奪われたままでは、後々の憂いになるは必定。
カバレロを奪い返すことも考えて置かれよ。
今現在は、25万の軍勢が溢れかえっているが、その内10万が出撃すればさらに5万が送り込まれて来るようじゃ。」
サディス公爵があえて聞いた。
「エドモン公国国王には何かお考えがござりましょうや?」
「あくまで敵の先鋒である海軍を叩いてからの話ではあるが、先ずはカバレロの補給線を断ち切る。
カバレロは元々6万ほどの住民しか養えない島、そこに15万もの将兵がいては食料が持たない。
彼らの兵糧は帝国より運び込まれる補給で賄われておる。
島での戦闘で元カバレロ軍1万余りの将兵が死んでいるし、奴隷や奴婢として使えぬ老人は既に殺害されている。
生き残った住民の半数は既にロンド帝国に送り込まれて奴隷とされているし、残り半数は駐留軍の奴婢として使われておる。
今現在は島民と軍勢と併せて27万が島にいるはず。
その兵糧だけで毎日数隻の輸送船が往来せねばならぬ。
その輸送船を抑えてしまえば、島の軍勢など忽ち飢えることになろう。」
その後も色々と軍議は続けられたが、結局は東部海岸域の同盟国7か国の軍船13隻とエドモン公国20隻の軍船がダーバンド沖に配備、サバナス沖にはバルディアス艦隊とバハン侯国艦隊それにメザン王国艦隊の86隻が配備することで決定した。
その日から三日後、遂に帝国艦隊がカバレロの北の泊地を出航し、東と西に針路をとって分かれた。
サバナス沖の軍船は沖合で待機したまま待ち受け状態であったが、エドモン公国艦隊20隻は北上を始めた。
7か国からなる13隻の艦隊のうち3隻のみがこれに随伴した。
ダーバンドのリカルド将軍の座上する軍船と同盟国2か国から拠出された軍船2隻である。
10隻は万が一のことを考えて残したのである。
随伴するダーバンドの軍船は、比較的小型の快速軍船である。
しかしながらエドモン公国の艦隊は予想以上に速かった。
ダーバンド随一の快速船であるあるはずのディラ号が遅れがちになるのである。
他の同盟国軍船2隻は左程の速力を持っていないので、間違いなく遅れていた。
出発前から言われていたことではある。
見失ったら煙を目当てに北上せよと指示を受けていた。
カバレロまでは普通ならばこの時期3日かかるところであるが、この速力ならば二日で到着してしまうであろう。
二日目朝方にはディラ号とエドモン艦隊の距離は開き、10レグル以上も引き離されていた。
ロンド帝国があるアザリオン大陸とバルディアスのあるエルモ大陸の間にあるカバレロ諸島国は、ちょうど中間地点にあることからロンド帝国がエルモ大陸に侵攻するためには補給地点としてどうしても抑えなければならない要衝の地でもあった。
突如、250隻の軍船とほぼ同数の輸送船が沖合に現れ、カバレロ諸島国は多数の兵士により蹂躙されたのである。
リンデル王家は、バルディアスの助言を聞き入れなかったばかりに滅亡した。
国王一家は捉えられ、他の臣民と共に奴隷としてアザリオン大陸へ運ばれて行ったのである。
その情報は、カバレロ諸島国急襲の日から三日後に、エルモ大陸の北岸に当たるバルディアス他の国々にもたらされた。
大津波から二年の月日が経過していたが、エルモ大陸北岸で十分な海軍艦船を保有していたのはバルディアスとバハン侯国だけであり、他の国々は精々数隻の軍船をようやく整備した程度であった。
バルディアスからは技術的な援助を惜しまなかったのだが、彼らは軍船を造る金を惜しんだのである。
ロンド帝国が押し寄せて来なければ或いはムダ金に終わる可能性もあるし、何より大津波で受けた経済復興に力を入れたので海軍の再建予算が余り顧みられなかったのである。
帝国軍のカバレロ諸島国への侵攻で慌てふためいても、軍船は一朝一夕でできるはずもない。
いずれにせよロンド帝国軍がエルモ大陸のどこへ向かうかわからないから彼らは急遽バルディアスとバハン侯国に援軍を求めたのである。
無論バルディアスもバハン侯国も余力があるわけではない。
250隻の帝国海軍に比して、バルディアスが60隻、バハン侯国が20隻の海軍を要しているだけなのである。
但し、そのいずれもが新式の大砲を備えていた。
その日8人もの使者を迎えたサディス公爵領では、地図を広げながら作戦を練っていた。
そこへ、赤い船体と燃えるような赤帆を持つ軍船が入港してきた。
その特徴的な色合いの船はすぐにエドモン大公国の船とわかる。
サディス公爵もエドモン大公国王と王女はマルス・カルベック所縁の者と云う口コミでマルスから半年ほど前に紹介されたのだが、それからは一月に一度ほどは船で来航するのですっかり顔見知りとなっている。
エドモン大公国はエルモ大陸東岸からかなり離れた所にあるらしいが、古参の船乗りですらその名を聞いたことは無く、公爵夫妻もその正確な場所は知らない。
しかしながら、大公国王と王妃それに伴の者の出で立ちを見る限りはかなり富裕な国であることがわかる。
船も極めて精緻な造りであり、軍船と言いながら正しく御座船のようなたたずまいの船なのである。
乗組員は全員制服姿で、きびきびとした動きは見ていて気持ちの良いほどであり、余程訓練が行き届いているようだ。
バルディアス艦隊の大型艦と同じ程度の大きさの軍艦で有りながら、乗組員は150名余りと少ないのが特徴でもある。
その日も大公国王と王妃が二人揃って公爵の館に顔を出し、貴重な情報を知らせてくれた。
ロンド帝国の上陸地点が判明したのである。
ロンド帝国は、海軍を二分して、100隻は手薄な東部海岸地区のダーバンド王国へ、150隻はバハン侯国の隣国であるサバナスの海岸へと向かうとの極秘情報をもたらしてくれたのである。
当然のように輸送船100隻余りがその背後についてくる。
陸軍将兵4万から5万が乗り組んでいるらしく、カバレロには更なる援軍約20万が待機し、なおも続々と集結中との情報である。
仮にもその大軍が海岸に橋頭保を築いたならば一大事である。
その倍々の軍勢を増援されたなら、北部海岸は蹂躙されてしまうからである。
北部海岸諸国は未だに一枚岩ではない。
各個撃破されたなら、とてもかなう相手ではないのである。
バルディアスでさえ動員できる軍勢は精々4万、そのうち5000人は海軍なのである。
バハン侯国は更に少なく陸海軍合わせて3万2千であった。
俄か同盟軍となった北部沿岸国8か国の使者はこれと言った作戦を持ち合わせてはいなかった。
特にダーバンド王国とサバナスの使者は、エドモン大公国の情報に接するや真っ青になった。
ダーバンド王国は広い海岸線を持つ王国ではあるが、軍勢をかき集めても2万に足らず、軍船は僅かに3隻しか保有していない。
他方サバナスの海岸線は狭いが、三方を険しい山岳地帯に囲まれており、陸からの援軍を余り見込めない地形であり、軍勢は同じく2万足らず、海軍とは名ばかりの2隻の新造船を保有しているだけであった。
100隻以上の軍船と4万から5万の軍勢に攻め込まれては、とても持たない。
陸上での戦闘は極力避けるしか生き残る道は無かったのである。
サディス公爵は、軍議で困ってしまった。
隻数から言えば100隻に満たない連合海軍であり、これを二分すれば勝てるものも勝てなくなるからである。
そこにエドモン公国国王が助け船を出した。
「バルディアス海軍とバハン侯国海軍を中心とする連合海軍は、サバナスへ向かう敵本隊を迎え撃たれよ。
我が海軍は、ダーバンド王国海軍とともにダーバンドに向かう支隊を迎え撃つことにいたそう。」
ダーバンド王国の使者であるリカルド将軍が言った。
「あいや、待たれよ。
エドモン公国国王のご提案に水を差すつもりはないが、エドモン公国海軍は一体何隻の軍船をお持ちか。
多少の数ではとてものこと100隻ものロンド海軍を迎え撃つことなど叶う筈もない。」
「されば、我が公国海軍は20隻の軍船を持っております。
この一隻一隻がロンド海軍10隻に相当する力を持っておりますでな。
リカルド将軍、大船に乗ったおつもりでいなされ。
間違いなくロンド海軍支隊を一歩たりともダーバンドの地に踏み入れさせませぬ。
それよりも倍する150隻の本体を迎え撃たねばならぬバルディアス、バハン侯国の備えは如何にございましょうか?」
サディス公爵が、やや緊張の面持ちで言った。
「我が息子クレインからご説明しよう。」
クレインは頷いて、サディス公爵の後を継いだ。
「バルディアス艦隊とバハン侯国艦隊それにメザン王国艦隊、合わせて86隻は、先日お見せした大砲を備えております。
相手は150隻余りと倍する軍勢にはございますが、これに十分対抗できるものと考えております。
心づもりでは86隻で250隻に対抗するも止む無しと考えていたところにございますから、150隻相手の海戦ならば先ず負けは無いと存じます。」
サバナスの将軍ディエロスが言った。
「しかしながら、ロンド帝国海軍も同じような大砲を持っているとか、カバレロ攻略の際は、船からの砲撃でカバレロ城の城門を撃ち破ったと聞き及びます。
大砲同士の戦いなれば、我が方にも相当の被害が及ぶ可能性がございましょう。」
クレインが落ち着いて答える。
「カバレロ城の城門は海岸からほど近い場所にありました故、ロンド帝国の軍船でも砲撃が可能であったものと思われます。
海岸から城門までは半レグルほど、ロンド帝国の大砲の射程は1レグルほどと見ております。
一方で我が海軍の大砲の射程は4レグル以上に及びますので、ロンド帝国の射程外からの砲撃で相手を殲滅することも可能と考えております。」
その応答にリカルド将軍がまたも食いついた。
「バルディアス海軍がお持ちの大砲、一門なりとも我らに分け与えてはくれませぬか。
それにエドモン公国海軍も同様の大砲を備えているは承知にござるが、我らエドモン公国の存在をこの地にて初めて知った。
国王を目の前にして申し上げるは誠に無礼ながら、我が国の存亡が掛かっておりまする故敢えて申し上げるが、エドモン公国がロンド帝国の配下ではないと証明できましょうや。」
マルスが言った。
「そこにおわすエドモン公国国王は我が実の父にございます。
故有って、幼き頃にはぐれたままになっておりましたが、たまたまカルベック領で養子となった私に巡り会い、我らに助力を頂いております。
ロンド帝国の回し者ではないことは私が保証します。」
「バルディアスの麒麟児と巷に言うマルス殿のお言葉ならば信ずるしかござらぬ。
さりながら、100隻に対して20隻では如何にも不足。
せめてあと20隻なりとも増援は頂けぬか。」
エドモン公国国王が言った。
「リカルド将軍、此度の海戦はこれまでの海戦とは全く異なるものであることを承知された方が宜しい。
これまでの戦なれば数の多い方が圧倒的に有利であるが、此度の戦は数ではなく、大砲の性能によってその優劣が決まる。
例えば、この港に停泊中の我が軍船一隻でロンド海軍100隻を相手にしても負けはない。
1隻ずつを撃破して行けば、100隻の大艦隊と言えどいずれは無くなる。
少なくとも砲弾だけならばその数倍の敵を撃ち破れるだけの数を持っていますからな。
後は如何に上手に相手を叩きのめすかどうかというところ・・・。
ところでサディス公爵、輸送船100隻余りの措置は如何様になさるか?」
「あ、いや、そこまでは考えておらなかったが・・・。」
「本隊、支隊合わせて10万ほどの軍勢、ロンド帝国にとっては左程の痛手にはならぬかもしれぬが、後々の事を考えると捕虜としてもこちらの負担が増えるだけ、海の藻屑とするが宜しかろう。
半日経って生きているものがいたならば捕虜として助けるも良かろう。
それに、今一つ。
カバレロを奪われたままでは、後々の憂いになるは必定。
カバレロを奪い返すことも考えて置かれよ。
今現在は、25万の軍勢が溢れかえっているが、その内10万が出撃すればさらに5万が送り込まれて来るようじゃ。」
サディス公爵があえて聞いた。
「エドモン公国国王には何かお考えがござりましょうや?」
「あくまで敵の先鋒である海軍を叩いてからの話ではあるが、先ずはカバレロの補給線を断ち切る。
カバレロは元々6万ほどの住民しか養えない島、そこに15万もの将兵がいては食料が持たない。
彼らの兵糧は帝国より運び込まれる補給で賄われておる。
島での戦闘で元カバレロ軍1万余りの将兵が死んでいるし、奴隷や奴婢として使えぬ老人は既に殺害されている。
生き残った住民の半数は既にロンド帝国に送り込まれて奴隷とされているし、残り半数は駐留軍の奴婢として使われておる。
今現在は島民と軍勢と併せて27万が島にいるはず。
その兵糧だけで毎日数隻の輸送船が往来せねばならぬ。
その輸送船を抑えてしまえば、島の軍勢など忽ち飢えることになろう。」
その後も色々と軍議は続けられたが、結局は東部海岸域の同盟国7か国の軍船13隻とエドモン公国20隻の軍船がダーバンド沖に配備、サバナス沖にはバルディアス艦隊とバハン侯国艦隊それにメザン王国艦隊の86隻が配備することで決定した。
その日から三日後、遂に帝国艦隊がカバレロの北の泊地を出航し、東と西に針路をとって分かれた。
サバナス沖の軍船は沖合で待機したまま待ち受け状態であったが、エドモン公国艦隊20隻は北上を始めた。
7か国からなる13隻の艦隊のうち3隻のみがこれに随伴した。
ダーバンドのリカルド将軍の座上する軍船と同盟国2か国から拠出された軍船2隻である。
10隻は万が一のことを考えて残したのである。
随伴するダーバンドの軍船は、比較的小型の快速軍船である。
しかしながらエドモン公国の艦隊は予想以上に速かった。
ダーバンド随一の快速船であるあるはずのディラ号が遅れがちになるのである。
他の同盟国軍船2隻は左程の速力を持っていないので、間違いなく遅れていた。
出発前から言われていたことではある。
見失ったら煙を目当てに北上せよと指示を受けていた。
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