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第七章 二つの異世界の者の予期せざる会合
7-8 アリス ~PMAの発足
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そうして1月10日最初の応募が始まった。
1日で5000人を超える応募があり、10人の応援要請が正しかったことを物語っていた。
1月11日、ウェルズ一家がクレアラスに到着した。
一家は大型トラック一杯の荷を持ってきたが、それでも半分以下の荷物に収めたのだそうで、配送会社が引っ越しに丸々一日掛けて何とか4LDKの部屋に押し込めたようである。
彼らは13日から出勤できるようになった。
そうして13日から本格的な訓練に取り掛かった。
訓練は夕刻5時半からの30分乃至1時間だけである。
1月24日までには何とか初期の訓練を終えていた。
1月26日ギルバートという男がやってきて、6人の被験者を死ぬほどの目に会わせて帰って行った。
パティとヨークはほとんど外部への影響がないだろうと言われたが、ロクサーヌとウェルズ一家は、南半球の孤立した無人島に運ばれ、そこで一夜を過ごす羽目になった。
但し、パティとヨークも念のため、別の島へ運ばれた。
パティとヨークには私が、ロクサーヌとウェルズ一家にはマイクがついていた。
私の方は大した異変も起きずに終わったが、ロクサーヌ達は大変な一夜を過ごしたようであった。
島が絶え間ない地震と暴風雨に見舞われ、死ぬかと思ったそうである。
マイク曰くそれでもアリスに比べれば大したことは無かったそうである。
◇◇◇◇
かくして2月1日から始まった面接には、18人の面接員が対応した。
1日に一人が45人を面接し、18人で800人を超える応募者をさばいて行く。
ほとんどの場合面接前日に選別は済んでいた。
但し、中にはオーラを持っていて意思を読ませない者も居る。
マイクが初めて魔法を使ったのもこの時である。
意識を読ませない人物に対しては住居周辺での素行をその土地や家から情報を得るのである。
家や土地は歴史という形で情報を蓄えていた。
従って、対象となる人物の生まれに遡ってその素行を調べることも可能なのである。
概ね200人を採用することにしていたが、多少の増減は許容の範囲である。
優秀な人材については、面接後二日目には採用通知を出していた。
3月下旬半ばにはほぼ面接が終わりかけていた。
3月27日最後の500名足らずの面接を終えて、採用試験は終了した。
合計44,221名の応募者を面接し採用したのは214名であった。
このうち80名余りは自宅を市内に持っていることから社宅の必要はない。
200倍にも達する面接者の名から選択した人材は優秀であった。
中に3人の超能力者も存在した。
彼らはメィビスの外惑星居留地に住む人たちであったが、取り敢えずの超能力者発掘からは漏れていた人物である。
事前にその存在は判ってはいたものの、外惑星居留地まで会いに行くにはかなりの日数が掛かるので、採用のための働きかけは見送られていた人物である。
いずれ新たな宇宙船が建造されてから訪れる予定であった人たちだ。
ジェシカ・レインは24歳、第4惑星ドーム居留地の環境管理士をしている。
グレッグ・バイリスは27歳、第4惑星居留地でシャトルのパイロットをしている。
ノーマン・ケンドッリクは35歳、第5惑星居留地の軌道衛星で整備士をしている。
ジェシカとグレッグは独身、ノーマンは妻帯者であるが、それぞれ半年の長期休暇でクレアラスに帰省していたのである。
居留地勤務は中々に厳しいものがあり、1年半の勤務で半年の休暇が貰えるのである。
ジェシカとグレッグは、ある意味で宇宙空間での生活に夢を描いて宇宙へ出て行った者ではあるが、厳しい環境とドーム居留地を金食い虫の前進基地と考える経営理念に馴染めないところもあって、転職を考えていたし、ノーマンはたまたま軌道衛星での同僚の死亡事故を目の当たりにして、改めて宇宙での危険性を認識し、妻や幼い子供たちのためにも転職することを考えていたのである。
もう一家族第6惑星の居留地にいるのは判っているが、こちらの方は別の機会を待つしかない。
派遣会社から来ていた12名ほどの女性の中からその働きぶりを見て、優秀な二人を別途採用したのも離れ業かも知れない。
採用された人物については1週間後には社宅に移転を始め、順次、仮事務所で簡単な仕事に就きはじめていた。
ハーベンとサラは警備要員に予定されている人物を順次訓練し始めていた。
このためこれ以後は私とマイクの警護は暫く付かなくなる。
いずれ警備要員が育った段階で、必要ならば警護に着くこともあり得るだろう。
27日夕刻、応援で来てくれたマイクの親族、それに派遣会社からの派遣要員の労をねぎらって会食をした。
それが終わると、マイクの親族たちは一斉に異世界へと戻って行った。
28日から三日間、新入社員の教育が、開始された。
場所は、ホテルのホールである。
ホテル従業員は完全に閉めだして、周辺にはダンベルク警備保障の人員を配置しての教育である。
私を含む8人の超能力者が代わる代わる講師を勤めて、事業概要と従業員の仕事の内容を説明した。
4月1日からは実際に航空宇宙研究製作所の開所式を行い、即日必要な機材整備に入る予定である。
4月1日の開所式には建設に関わった業者、新たに採用された従業員が集まった。
私達を含む会社関係者は228名、建設業者は8業者126名が参加してくれた。
午前中にテープカットで始まった開所式は正午で終了し、午後から現場での機材組み立てが開始された。
機械工学に詳しい者も初めてみる部品や機材が多かったのだが、8人の超能力者が分散してその指導に当たった。
この日から47名に及ぶ警備部の活動も始まった。
常時12名の人員が交代制で研究製作所の内外を警備するほか、サラが監督する電子対策班9名が、交代で当直をしながら製作所の電子対策全般を行う。
最新式の警備装置はほとんど人手を不要とするものであったが、マイクは更に別の装置を取り付け、サラも別の観点からの警戒装置を組み立て始めていた。
市販の警備装置は、如何に優秀でも穴はある。
それを埋め合わせる生体認証装置やセンサーであり、これらの仕様は業者にも秘密にしている。
事務方には20名が配属、総務系に4名、経理に4名、補給に6名、契約に4名、法務に2名、仮事務所で会社発足から頑張っていた4名はいずれも課長又は課長見習いとなっていた。
秘書室に3名の女性を配置し、調査室に超能力者9名を配置。
第一から第4までの作業班に各36名、それに通勤の足となる大型フリッターの運転手4名である。
これらの運転手は、同時に社用車の運転手にもなる。
第1作業班は動力炉製造、第2作業班は船体製造、第3作業班は操縦系機器及びセンサー機器製造、第4作業班は駆動機関の製造に携わる。
何れも全く新たな理論に基づく製造方法を取ることから今のところ従業員に専門家はいない。
全ては部材、素材の製造から始められるのである。
概ね2週間を区切りにして次の工程に入るが、部材、素材の製造機器は外注していた物が約半数であるが、いずれも部品ばかりで発注先は多岐に渡っているところから、当該発注先で最終形を思い描ける者は先ずいないだろう。
それらの部品とマイクが予め準備していた部品を使用して、おおよそ1月半で組み立てを終了した。
それが新素材を生み出す製造機になる。
その製造機械を使ってこれまで知られていない新素材を徐々に製造し、その部材と素材を使った機器の組み立てに更に1か月半を要した。
真っ先に完成したのは動力炉である。
一辺が2トランほどの立方体ではあるが、発電能力は大規模原子力発電所の20か所分ほどになり、1台でメィビス全土の発電所の半分ほどの能力を秘めている。
それまで外部給電に頼っていた電源は、敷地内の街灯照明を除いて動力炉からの給電にとってかわられた。
それがある意味で試験運転になる。
その一月後には駆動機関のうち推進機関となる第一機関が完成し、製作所内の実験室で負荷をかけて、繰り返し作動試験を行っている。
様々に環境を変えて耐久度と出力を確認しているのである。
空間転移の駆動機関となる第二機関の組み立てが終わったのは年末であった。
この機関ばかりは地上での実験はできない。
作動させると重力波による空間構造震を引き起こし、地表面では様々な障害を引き起こす可能性があるからである。
そうした重力波を軽減させるアブソーバーも開発中であるが、完成までには今少し時間がかかる見込みである。
いずれにしろ駆動機関がきちんと作動できるかどうかを確認してからアブソーバーの調整もしなければならない。
12月中旬の時点では新素材を用いた船体も出来あがり、必要なセンサー機器や操縦系機器も取り付けが完了し、シミュレーションによる作動試験を行っていた。
第二機関は最終チェックを繰り返しており、年明け早々には第一、第二の二つの機関を船体に据え付ける作業が始まる予定である。
据え付けが終了次第、宇宙海軍のケイン中佐に連絡を入れて試験航海の予定を告げる予定である。
但し、海軍関係者の見学その他はお断りすることになっている。
軍が前面に出てくるとろくなことにならないからである。
ケイン中佐への連絡の後で、各関係先へ試験航海の計画を申請して許可を得る一方で、報道機関へ公表する予定である。
関係先の公的機関は、宇宙交通省、宇宙海軍宙域管制官事務所、軌道衛星管理事務所など多岐に渡る。
それらの全てがある意味で難物であるが、報道機関への公表をしてしまえば、後は世論が味方になる筈である。
世論に押されれば、お役所も無駄な時間稼ぎはできなくなるとの見込みである。
必ずしもそううまく行くかどうかは判らないのであるが、左程に心配はしていない。
どのような事態が起きても対応できるように準備はしているからである。
私とマイクはこのところ新型の通信装置に掛かりきりである。
高次空間通信装置であり、距離には無関係に即時通話が可能である。
PMA航空宇宙研究製作所の地下に設置した交換機を介して端末装置同士の通信ができるようにしている。
そのためにはこれまで開発されている高速演算装置の百万倍も高速な演算装置を組み合わせる必要があり、そのプログラムと親機、子機の製造を行っているのである。
これも年明け早々には完成の見込みがついている。
当面8台の子機を製造予定であり、最終調整の段階であった。
あくまで理論値ではあるが一台の子機で一つの惑星のネットをカバーできるだけの容量がある。
従って一台は製作所に、一台は船に、もう一台はドラン・コンドミニアムの我が家に設置するが残り5台をメィビス他の惑星4つに分けることができる。
従って、試験航海はその通信機を送り届けるための航海でもあった。
既に宇宙船製造事業は左程の人手を掛けずにできるようになっていたので、概ね四分の一の人員である36名をこの通信装置の製造事業に振り向ける予定である。
おそらく月間で2台の子機を製造することが可能になるであろうと見込まれている。
また事業拡大のために4月には10月期卒業見込みの大学生とハイスクール生徒を新規募集する計画である。
募集人員は100名前後を予定している。
未だ何の収益も上げていないPMA航空宇宙研究製作所ではあるが、動力炉にしろ、高次空間通信装置にしろ、はたまた新型宇宙船にしろ100億ルーブ以上の価値がある製品であることは間違いがない。
このために産業スパイ更には同盟、連邦それに帝国などの工作員の暗躍も想定されており、調査室の面々は既に潜入工作員の監視に入っている。
メィビスは交通の要衝だけに工作員も少なからずいる。
同盟が4人、連邦は2人、帝国は2名でその他諸星系の工作員が3人滞在している。
それらの者から或いは報道により情報を得た各勢力が本格的に動き出すのは早くて記者会見から二か月後のことになるだろうと見ている。
メィビスにはライバル企業は存在しない。
造船業は、主星デンサルに本拠を置くカーマイン造船とシューバン造船が覇権を競っているし、推進機関はハマーシェルド重工が受注の9割近くを占めている。
通信機器は、バッカニア地区星系のホームズ電子工業とクロベニア地区星系のフラット電気通信工業が二大勢力である。
原子力発電機器はデンサルに本拠を置くラッセル重工とバッカニア地区星系のゼウス重工が連合圏内では主要なメーカーである。
PMAが本格操業を始めれば、これら企業も生き残りをかけた熾烈な情報戦に入ることは間違いない。
幸いにして従業員は厳正に選び抜いた人物ばかりであるから、滅多なことでは金に靡くようなことはないが、家族などを人質に取られたりすると面倒なことになる。
そのためにも調査室の予防工作が重要になるのである。
私とマイクはそのための布石も既に打っていた。
危ない人物を絞ってバグを仕掛け、彼らの端末に監視ソフトを潜りこませているのである。
年明け早々の予定が別の用事が入って少し遅れることになった。
いよいよマルスの居る世界でロンド帝国が覇権を期して動き出したのである。
このために、マーサ叔母様を始めとする義勇軍の手伝いを私達もせざるを得なかったのである。
彼らも木造帆船を20隻用意し、義勇軍を800名余り準備していた。
全ては無人惑星で準備され、彼らが乗って船ごとテレポートする手はずになっているのである。
そのための調整連絡にマーサ叔母様やデニス叔父様が、マルスの世界の扮装で盛んに出入りをしていたのである。
1日で5000人を超える応募があり、10人の応援要請が正しかったことを物語っていた。
1月11日、ウェルズ一家がクレアラスに到着した。
一家は大型トラック一杯の荷を持ってきたが、それでも半分以下の荷物に収めたのだそうで、配送会社が引っ越しに丸々一日掛けて何とか4LDKの部屋に押し込めたようである。
彼らは13日から出勤できるようになった。
そうして13日から本格的な訓練に取り掛かった。
訓練は夕刻5時半からの30分乃至1時間だけである。
1月24日までには何とか初期の訓練を終えていた。
1月26日ギルバートという男がやってきて、6人の被験者を死ぬほどの目に会わせて帰って行った。
パティとヨークはほとんど外部への影響がないだろうと言われたが、ロクサーヌとウェルズ一家は、南半球の孤立した無人島に運ばれ、そこで一夜を過ごす羽目になった。
但し、パティとヨークも念のため、別の島へ運ばれた。
パティとヨークには私が、ロクサーヌとウェルズ一家にはマイクがついていた。
私の方は大した異変も起きずに終わったが、ロクサーヌ達は大変な一夜を過ごしたようであった。
島が絶え間ない地震と暴風雨に見舞われ、死ぬかと思ったそうである。
マイク曰くそれでもアリスに比べれば大したことは無かったそうである。
◇◇◇◇
かくして2月1日から始まった面接には、18人の面接員が対応した。
1日に一人が45人を面接し、18人で800人を超える応募者をさばいて行く。
ほとんどの場合面接前日に選別は済んでいた。
但し、中にはオーラを持っていて意思を読ませない者も居る。
マイクが初めて魔法を使ったのもこの時である。
意識を読ませない人物に対しては住居周辺での素行をその土地や家から情報を得るのである。
家や土地は歴史という形で情報を蓄えていた。
従って、対象となる人物の生まれに遡ってその素行を調べることも可能なのである。
概ね200人を採用することにしていたが、多少の増減は許容の範囲である。
優秀な人材については、面接後二日目には採用通知を出していた。
3月下旬半ばにはほぼ面接が終わりかけていた。
3月27日最後の500名足らずの面接を終えて、採用試験は終了した。
合計44,221名の応募者を面接し採用したのは214名であった。
このうち80名余りは自宅を市内に持っていることから社宅の必要はない。
200倍にも達する面接者の名から選択した人材は優秀であった。
中に3人の超能力者も存在した。
彼らはメィビスの外惑星居留地に住む人たちであったが、取り敢えずの超能力者発掘からは漏れていた人物である。
事前にその存在は判ってはいたものの、外惑星居留地まで会いに行くにはかなりの日数が掛かるので、採用のための働きかけは見送られていた人物である。
いずれ新たな宇宙船が建造されてから訪れる予定であった人たちだ。
ジェシカ・レインは24歳、第4惑星ドーム居留地の環境管理士をしている。
グレッグ・バイリスは27歳、第4惑星居留地でシャトルのパイロットをしている。
ノーマン・ケンドッリクは35歳、第5惑星居留地の軌道衛星で整備士をしている。
ジェシカとグレッグは独身、ノーマンは妻帯者であるが、それぞれ半年の長期休暇でクレアラスに帰省していたのである。
居留地勤務は中々に厳しいものがあり、1年半の勤務で半年の休暇が貰えるのである。
ジェシカとグレッグは、ある意味で宇宙空間での生活に夢を描いて宇宙へ出て行った者ではあるが、厳しい環境とドーム居留地を金食い虫の前進基地と考える経営理念に馴染めないところもあって、転職を考えていたし、ノーマンはたまたま軌道衛星での同僚の死亡事故を目の当たりにして、改めて宇宙での危険性を認識し、妻や幼い子供たちのためにも転職することを考えていたのである。
もう一家族第6惑星の居留地にいるのは判っているが、こちらの方は別の機会を待つしかない。
派遣会社から来ていた12名ほどの女性の中からその働きぶりを見て、優秀な二人を別途採用したのも離れ業かも知れない。
採用された人物については1週間後には社宅に移転を始め、順次、仮事務所で簡単な仕事に就きはじめていた。
ハーベンとサラは警備要員に予定されている人物を順次訓練し始めていた。
このためこれ以後は私とマイクの警護は暫く付かなくなる。
いずれ警備要員が育った段階で、必要ならば警護に着くこともあり得るだろう。
27日夕刻、応援で来てくれたマイクの親族、それに派遣会社からの派遣要員の労をねぎらって会食をした。
それが終わると、マイクの親族たちは一斉に異世界へと戻って行った。
28日から三日間、新入社員の教育が、開始された。
場所は、ホテルのホールである。
ホテル従業員は完全に閉めだして、周辺にはダンベルク警備保障の人員を配置しての教育である。
私を含む8人の超能力者が代わる代わる講師を勤めて、事業概要と従業員の仕事の内容を説明した。
4月1日からは実際に航空宇宙研究製作所の開所式を行い、即日必要な機材整備に入る予定である。
4月1日の開所式には建設に関わった業者、新たに採用された従業員が集まった。
私達を含む会社関係者は228名、建設業者は8業者126名が参加してくれた。
午前中にテープカットで始まった開所式は正午で終了し、午後から現場での機材組み立てが開始された。
機械工学に詳しい者も初めてみる部品や機材が多かったのだが、8人の超能力者が分散してその指導に当たった。
この日から47名に及ぶ警備部の活動も始まった。
常時12名の人員が交代制で研究製作所の内外を警備するほか、サラが監督する電子対策班9名が、交代で当直をしながら製作所の電子対策全般を行う。
最新式の警備装置はほとんど人手を不要とするものであったが、マイクは更に別の装置を取り付け、サラも別の観点からの警戒装置を組み立て始めていた。
市販の警備装置は、如何に優秀でも穴はある。
それを埋め合わせる生体認証装置やセンサーであり、これらの仕様は業者にも秘密にしている。
事務方には20名が配属、総務系に4名、経理に4名、補給に6名、契約に4名、法務に2名、仮事務所で会社発足から頑張っていた4名はいずれも課長又は課長見習いとなっていた。
秘書室に3名の女性を配置し、調査室に超能力者9名を配置。
第一から第4までの作業班に各36名、それに通勤の足となる大型フリッターの運転手4名である。
これらの運転手は、同時に社用車の運転手にもなる。
第1作業班は動力炉製造、第2作業班は船体製造、第3作業班は操縦系機器及びセンサー機器製造、第4作業班は駆動機関の製造に携わる。
何れも全く新たな理論に基づく製造方法を取ることから今のところ従業員に専門家はいない。
全ては部材、素材の製造から始められるのである。
概ね2週間を区切りにして次の工程に入るが、部材、素材の製造機器は外注していた物が約半数であるが、いずれも部品ばかりで発注先は多岐に渡っているところから、当該発注先で最終形を思い描ける者は先ずいないだろう。
それらの部品とマイクが予め準備していた部品を使用して、おおよそ1月半で組み立てを終了した。
それが新素材を生み出す製造機になる。
その製造機械を使ってこれまで知られていない新素材を徐々に製造し、その部材と素材を使った機器の組み立てに更に1か月半を要した。
真っ先に完成したのは動力炉である。
一辺が2トランほどの立方体ではあるが、発電能力は大規模原子力発電所の20か所分ほどになり、1台でメィビス全土の発電所の半分ほどの能力を秘めている。
それまで外部給電に頼っていた電源は、敷地内の街灯照明を除いて動力炉からの給電にとってかわられた。
それがある意味で試験運転になる。
その一月後には駆動機関のうち推進機関となる第一機関が完成し、製作所内の実験室で負荷をかけて、繰り返し作動試験を行っている。
様々に環境を変えて耐久度と出力を確認しているのである。
空間転移の駆動機関となる第二機関の組み立てが終わったのは年末であった。
この機関ばかりは地上での実験はできない。
作動させると重力波による空間構造震を引き起こし、地表面では様々な障害を引き起こす可能性があるからである。
そうした重力波を軽減させるアブソーバーも開発中であるが、完成までには今少し時間がかかる見込みである。
いずれにしろ駆動機関がきちんと作動できるかどうかを確認してからアブソーバーの調整もしなければならない。
12月中旬の時点では新素材を用いた船体も出来あがり、必要なセンサー機器や操縦系機器も取り付けが完了し、シミュレーションによる作動試験を行っていた。
第二機関は最終チェックを繰り返しており、年明け早々には第一、第二の二つの機関を船体に据え付ける作業が始まる予定である。
据え付けが終了次第、宇宙海軍のケイン中佐に連絡を入れて試験航海の予定を告げる予定である。
但し、海軍関係者の見学その他はお断りすることになっている。
軍が前面に出てくるとろくなことにならないからである。
ケイン中佐への連絡の後で、各関係先へ試験航海の計画を申請して許可を得る一方で、報道機関へ公表する予定である。
関係先の公的機関は、宇宙交通省、宇宙海軍宙域管制官事務所、軌道衛星管理事務所など多岐に渡る。
それらの全てがある意味で難物であるが、報道機関への公表をしてしまえば、後は世論が味方になる筈である。
世論に押されれば、お役所も無駄な時間稼ぎはできなくなるとの見込みである。
必ずしもそううまく行くかどうかは判らないのであるが、左程に心配はしていない。
どのような事態が起きても対応できるように準備はしているからである。
私とマイクはこのところ新型の通信装置に掛かりきりである。
高次空間通信装置であり、距離には無関係に即時通話が可能である。
PMA航空宇宙研究製作所の地下に設置した交換機を介して端末装置同士の通信ができるようにしている。
そのためにはこれまで開発されている高速演算装置の百万倍も高速な演算装置を組み合わせる必要があり、そのプログラムと親機、子機の製造を行っているのである。
これも年明け早々には完成の見込みがついている。
当面8台の子機を製造予定であり、最終調整の段階であった。
あくまで理論値ではあるが一台の子機で一つの惑星のネットをカバーできるだけの容量がある。
従って一台は製作所に、一台は船に、もう一台はドラン・コンドミニアムの我が家に設置するが残り5台をメィビス他の惑星4つに分けることができる。
従って、試験航海はその通信機を送り届けるための航海でもあった。
既に宇宙船製造事業は左程の人手を掛けずにできるようになっていたので、概ね四分の一の人員である36名をこの通信装置の製造事業に振り向ける予定である。
おそらく月間で2台の子機を製造することが可能になるであろうと見込まれている。
また事業拡大のために4月には10月期卒業見込みの大学生とハイスクール生徒を新規募集する計画である。
募集人員は100名前後を予定している。
未だ何の収益も上げていないPMA航空宇宙研究製作所ではあるが、動力炉にしろ、高次空間通信装置にしろ、はたまた新型宇宙船にしろ100億ルーブ以上の価値がある製品であることは間違いがない。
このために産業スパイ更には同盟、連邦それに帝国などの工作員の暗躍も想定されており、調査室の面々は既に潜入工作員の監視に入っている。
メィビスは交通の要衝だけに工作員も少なからずいる。
同盟が4人、連邦は2人、帝国は2名でその他諸星系の工作員が3人滞在している。
それらの者から或いは報道により情報を得た各勢力が本格的に動き出すのは早くて記者会見から二か月後のことになるだろうと見ている。
メィビスにはライバル企業は存在しない。
造船業は、主星デンサルに本拠を置くカーマイン造船とシューバン造船が覇権を競っているし、推進機関はハマーシェルド重工が受注の9割近くを占めている。
通信機器は、バッカニア地区星系のホームズ電子工業とクロベニア地区星系のフラット電気通信工業が二大勢力である。
原子力発電機器はデンサルに本拠を置くラッセル重工とバッカニア地区星系のゼウス重工が連合圏内では主要なメーカーである。
PMAが本格操業を始めれば、これら企業も生き残りをかけた熾烈な情報戦に入ることは間違いない。
幸いにして従業員は厳正に選び抜いた人物ばかりであるから、滅多なことでは金に靡くようなことはないが、家族などを人質に取られたりすると面倒なことになる。
そのためにも調査室の予防工作が重要になるのである。
私とマイクはそのための布石も既に打っていた。
危ない人物を絞ってバグを仕掛け、彼らの端末に監視ソフトを潜りこませているのである。
年明け早々の予定が別の用事が入って少し遅れることになった。
いよいよマルスの居る世界でロンド帝国が覇権を期して動き出したのである。
このために、マーサ叔母様を始めとする義勇軍の手伝いを私達もせざるを得なかったのである。
彼らも木造帆船を20隻用意し、義勇軍を800名余り準備していた。
全ては無人惑星で準備され、彼らが乗って船ごとテレポートする手はずになっているのである。
そのための調整連絡にマーサ叔母様やデニス叔父様が、マルスの世界の扮装で盛んに出入りをしていたのである。
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