二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

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第七章 二つの異世界の者の予期せざる会合

7-7 アリス ~募集と特殊な治療

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 年末年始にかけて知り合いが結構、我が家にやって来たが、ルーシーとカレンが獅子奮迅の活躍でそれらの客に応対できた。
 無論、招かざる客の訪問も多かったが、そちらの方は要領を得たジェイムスの対応に任せた。

 寝室の一つをサンダース姉弟に当面利用させることにしており、そのための看護士の手配も行った。
 また、マイクの親族の一人でバーバラという医師が、サンダース姉弟がクレアラスに到着した段階で、対応してもらうことになっていた。

 バーバラの話では筋萎縮症は二つに分類されており、I型は比較的に簡単な措置で治癒し治りも早いのだが、II型は措置も結構面倒な上に治りも遅いという。
 また、筋萎縮症と似たような症状を呈する病気もあり、実際に診てから判断すると言っていた。

 バーバラは、マイクの大伯母に当たるお人らしい。
 バーバラの旦那さんがエドガルドさんの子供になるので、年齢的には120歳を超えている。

 マイクの故郷でも披露宴でお会いしたが、私と同じくらいにしか見えない美人医師である。
 彼女の場合生まれ育った惑星で48歳までは、医師として過ごし、若返り処置を受けてその後別の惑星に旦那様と一緒に移住している。

 そこでは医師という看板は掲げておらず、一族の医師が集まって作った秘密の病院に勤務しているのである。
 彼女の仕事は、一族から依頼を受けた時に訪問して医療措置を講ずる救急医師のような役割を果たしている。

 患者の多くは超能力者であるが、稀にそうではない人の治療もすることが有るらしい。
 但し、その割合は1%未満だと聞いている。

 アイザックの看護士として予定している人は、市内に住む48歳の寡婦でメアリー・ベストンである。
 子供もいるが結婚して独り立ちしており、彼女は夫の遺族年金が有るのでさほど働く必要もない経済状況ではあるものの、看護士の仕事に情熱を燃やしている人であった。

 但し、年齢から病院等での勤務は敬遠されて、人材派遣会社を通して主として介護士の仕事を引き受けているようだ。
 彼女にはアイザックが治癒するまではサンダース姉弟のマンションに同居してもらうつもりである。

 その一方で、超能力者を訓練する場所が必要になって来た。
 12月7日に採用した元モデルのヨークは仮事務所で働き始めている。

 折を見て訓練をしてはいるのだが、中々にこれまでまとまった時間が取れずに、ヨークの場合、ようやくテレパスができる程度になっている段階である。
 12月24日に我が家に着いたロクサーヌは取り敢えず家事手伝いをしてもらっている状況で未だ訓練をしていない。

 1月中には更に5名が来ることになるから、それらをまとめて訓練する場所が必要なのである。
 マイクと私は、仮事務所のビル5階に空き室が有るので、そこを借り受け暫定的な訓練場所として改装することにした。

 単純に言えば、厚いカーペットを敷き詰めた武道場を造るだけである。
 但し、内部が見えないように窓にはシャッターを取り付け、ドアも内部が見えないものに取り換えてもらった。

 ドアは、認証カードが無ければ内部に入れない方式にしており、二重にしてある。
 強盗が入ろうとしても簡単には入れない筈である。

 1月4日からは、その部屋でロクサーヌとヨークの訓練を開始することにしている。
 訓練の時間は勤務が終わる5時半からにしている。

 ロクサーヌとヨークは、その時間まで仮事務所で雑用を取り敢えずこなしているのである。
 ハームルトンの建設用地では11月から上屋の建設が開始されている。

 1月からは設備を外注で造るための部品発注を控えており、この27日まで仮事務所の4人は結構忙しい思いをしたはずである。
 12月28日から1月3日までは彼らに過ぎ越しの休暇を与えている。

 社宅は8月から建設を開始し、1月末までには完成予定である。
 完成すれば屋上に研究製作所との往復に利用できる共用フリッター駐車場を完備した5LDK仕様200戸の世帯用住宅になる予定である。

 共用フリッターは社宅屋上から研究製作所に向けて5分間隔で往復するシャトル便である。
 一度に20名ほどが乗車し、20分で研究所に到達できる。

 運行時間を決めてシャトル便を動かしているので、通勤時間帯以外には通常は動かない。
 但し、会社の了解があれば特別便を動かすことも出来るのである。

 勿論、社宅に入っている住人以外が利用することはできないシステムとなっている。
 その他に現在仮事務所に勤務する四人の従業員や超能力者のために12戸のマンションを確保しているが、社宅が完成した時点で、これらの人々には社宅に移ってもらうことになる。

 1月4日からはいよいよ一般社員の募集広告を開始する。
 1月一杯を広告応募期間とし、2月1日から応募順に面接を行うのである。

 面接会場は、貸しビルを2か月借り受けて行う予定である。
 応募会場での受付等雑用は派遣会社からの人材で対応させる予定である。

 面接は、私とマイクそれに超能力者で仕上がっているものがいればその者も交えて実施することになっているのだが、1月中に全員が仕上がるかどうかは今のところ不明である。
 面接で合格した者は、順次マンションに入居させる。

 クレアラス市内に自宅を構えていて社宅の必要が無い者以外は、社宅に入れることになっている。
 フリッター又は浮上車での通勤で1時間以内に研究製作所に辿り着けないものは原則社宅への入居が義務付けられる。

 応募は1月10日からネットでも受け付けられ、その整理のために人材派遣会社から3名の女子職員の派遣を受けることになっている。
 応募者には順次、面接の時間が割り振られるのである。

 面接は週末と休日を除き毎日午前8時半から正午まで、午後1時から午後5時までが割り振られ、一人当たり10分間としている。
 当座の面接はマイクと私だけで対応することになるが、10日までの仕上がり状況如何では他の能力者も投入することになっている。

 ヨークとロクサーヌは何とか間に合いそうに思うが、パティとウェルズ一家は1月に入ってからの到着になることから間に合いそうにない。
 彼らは仕上がってから順次投入することになるだろう。

 面接は2月1日から3月31日までの2か月間を予定しているからである。
 ハーベンとサラは面接会場での警備に当たることになる。

 午前中21名、午後中24名で一人当たり1日45名の面接をこなす。
 二人なら90名、4人ならば180名の面接がこなせることになり、4人で1か月当り20日3600名の面接が可能となる。

 8人ならば7200名になるが、果たして応募者がどの程度になるかである。
 場合により、マイクは一族の応援要請も視野に入れてあるようである。

 彼の一族には既に子育ても終わり第二の人生に入っている人もおり、状況によってそのような人手がいる場合に応援要請に応えるべく待機している人たちもいるようなのである。
 そうしたもの以外では主として女神の子が多いと聞いている。

 1月4日広告が始まった。
 結構反響が大きく、仮事務所の4台の電話が一時期使えないほどであった。

《月4万ルーブ以上、18歳以上、年齢、学歴、経歴に関わらず採用可能、面接において採用不採用を判断。採用後は適性に応じて事務職、警備職、工員職等に配置。》

 月に4万ルーブを保証する企業はメィビスではほとんどない上に、年齢制限が無く、学歴も不問であることから相当に広い範囲での応募がなされる可能性が事前の意識調査で出て来たのである。
 マイクは仮に8人全員が揃っても面接担当者に不足が生じると判断し、10名の応援要請を行った。

 応援要請を受けた彼の一族のパートは、10名の派遣要請を受け入れた。
 期間は1月29日から3月末日までの約2か月間、衣食住は要請先で準備することが必要であるが、雇用経費は不要である。

 マイクは取り敢えず社宅のマンションの4室を派遣要員のために確保し、食事はメイド二人を新たに確保してその世話に当たらせることにしたのである。
 衣類は来てから本人の体型に合わせるしかない。

 これにより、1万5千名程度の応募者にまで対応できることが確実になった。
 場合により面接時間の開始を30分早め、終了を30分から1時間ほど遅くすることも可能である。

 1月6日夕刻、サンダース姉弟がサマーリズから到着した。
 サマーリズ医療センターに依頼し、専用の浮上車で800セトランを輸送してもらったのである。

 費用は8万ルーブほど掛かったようであるが、マイクが渡した支度金で十分に足りた。
 二人はすぐに臨時社宅と位置付けているマンションに入居した。

 その日の午後7時になって、バーバラが到着、私達はバーバラを連れて、臨時社宅のマンションに向かった。
 看護士のメアリー・ベストンさんも同行したが、バーバラが診断を終えるまで彼女は同じマンションの別室で待機してもらった。

 彼女には聞かれたくない話もあるからである。
 バーバラが介護用のベッドに寝ているアイザックを診断している間パティは不安そうに見ている。

 やがてバーバラが笑みを見せて言った。

「うん、大丈夫。
 かなり重度のI型だけれど、治るわ。
 神経伝達に必要なホルモン分泌が足りなくなっているのだけれど、それが正常に機能するまでに2週間程度かしらね。
 ただ、手足の筋肉も含めて身体全体の筋力が落ちているから、その回復にはリハビリを含めて、先ず三か月は必要ね。
 看護士さんも用意されているようだから、軽いマッサージを極力継続してもらいなさい。
 歩けるようになるには一か月半はかかるけれど、その後は徐々に回復が速くなるはず。
 でも彼の病気が筋萎縮症と他人に言っちゃだめよ。
 彼は事故で昏睡状態になって、ほとんど植物状態になったのだけれど、奇跡的に目覚めて回復を始めたということにしておきなさい。
 少なくともここでは筋萎縮症は不治の病だけれど、長く植物状態にあって蘇った人は、同様に筋肉が落ちてしまって同じような症状を見せるから、一緒に来た看護士さんならその説明で満足するはず。
 私の事は知り合いの医者とでも言っておきなさい。
 いつでも来られるわけではないけれど、マイクかアリスに言えば、必要に応じて参ります。
 パティ、これから弟さんを助けるための措置をするけれど、このことは誰にも言ってはいけません。
 いいですね。」

 パティは、若い女医の気迫に押されるように頷いた。
 バーバラは、両手の掌をアイザックの頭と首筋に置いた。

 パティは、バーバラの掌から金色の光が漏れだしたのを確かに見た。
 それは二分ほども続き、ふっと消えた。

「終わったわ。
 後は徐々に回復を待つだけ。
 今は流動食でしょうけれど、できるだけ滋養のあるものを食べさせてあげなさい。
 薬は不要です。
 多少の痛みやかゆみを本人は感じるかもしれないけれど、それは生きている証拠。
 鎮痛剤を与えると却って治りにくくなります。
 さてと、私は用事も終わったから戻るわね。
 アリス、マイク、元気でね。」

 バーバラは颯爽と部屋を出て行った。
 パティは呆然と見送っていた。

 それから不意に気付いて、当惑した。

『アイザック、気分はどう?』

『パティ姉さん、とても気分がいいよ。
 あの人から元気を貰ったみたいだ。
 それに痛みが減った。
 前はあちらこちらが錐で突かれるみたいな痛みが有ったけれど、今は痺れている感じで、どちらかというと痒みかな。
 あの人の言う通り鎮痛剤は要らないと思う。』

『そう、良かったわ。』

 マイクが言った。

「パティ、アイザックと思念で話ができるんだね。
 違うかい?」

 パティは慌てた。
 そのことは誰にも知られてはならない家族の秘密だった。

 何と言うか迷っている間に、不意にパティの心に話しかけてきた者がいた。

『パティ、マイクだ。
 僕らも同じ仲間なんだ。
 僕とアリスも同じように言葉を交わさずに意思を伝えあうことができる。』

『パティ、アリスよ。
 私達の仲間にようこそ。』

「まさか・・・。
 あなた方もできるなんて・・・。」

 アイザックから思念が送られてきた。

『マイクとアリスは、僕にも話かけてきた。
 二人は、僕らとは兄弟じゃないけれど仲間だって。
 やっぱり、いい人たちだね。』

「パティ、アイザック、このことは誰にも内緒だよ。
 他にも仲間がいるけれどその人たちには秘密にしなくてもいい。
 でも、僕らがそう紹介するまでは内緒にしておくこと。
 そうしなければ他の人にも迷惑をかけることになるし、人の命にもかかわることになりかねない。」

 私が後を続けるように言った。

「でも、二人がテレパスでよかったわ。
 その分、少しは楽ができる。」

 パティが不思議そうな顔で言った。

「え、あの、どういうことですか?」

「テレパスというのは言葉を使わずに意思を伝え合う力の事でね。
 僕らは、最初にそれをパティに訓練することから始めようと思っていた。
 その部分が必要なくなったので、その分僕らに余裕が出来たということだよ。
 パティとアイザックにはそうした能力があると知っていたからあなた方二人を誘った。
 普通そうした力を持っていることに気づかない人も多いのでね。
 二人もそうかと思っていたんだ。」

「じゃぁ、看護士のメアリー・ベストンさんを呼んでくるわ。
 彼女は普通の人だからくれぐれも内緒話に気づかれないようにしてね。
 それからバーバラが言ったことを忘れずに口裏を合わせてね。
 あと、食堂の方に簡単な食事を用意してあるし、冷蔵庫には当面必要な食材が入っている筈、看護士さんの給与はこちらで払うけれど、必要な食費その他はパティで用意してあげてね。
 寝具はパティの分と看護士さんの分も用意してあります。
 当座必要なものは大体揃っているはずだけれど、足りないものは自分で用意してね。」

 私が、メアリー・ベストンを呼んできて、パティの口から症状と必要な手当てを説明させた。
 パティも看護士だけに、要領よく説明を終えて、必要な経費を彼女に渡し、マンションの鍵も渡したのを確認して、私達はお暇をした。

 後はパティとメアリーさんに任せた方が良いと判断したからである。
 パティには、7日に必要な移転手続きを済ませて、8日の日から仮事務所に来るよう指示をしたのである。
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