二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

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第七章 二つの異世界の者の予期せざる会合

7-6 アリス ~被勧誘者達の事情 その二

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 一日置いて、今度はクレアラス西部の小都市ロバールに向かった。
 ここは空港も無いし、高速軌道もないので、浮上車で向かった。

 私とマイクはハーマンの運転する車に乗り、サラはバックアップのためにもう一台の浮上車でついて来ている。
 クレアラス市内から高速走行レーンに乗り換えたが、それでもロバールまでは8時間ほど掛かった。

 途中二度ほど休憩をしながらの小旅行である。
 朝8時半に出て、ロバールのホテルにチェックインしたのは午後5時であった。

 翌日は、ホテルから農場に向かったが、ホテルからは浮上車で1時間ほどかかる場所に農場はあった。
 ロバールでは男女ともブーツを履いている。

 舗装されていない道路が有るし、農場や牧草地に入るには必需品なのである。
 私達もそのブーツに合せた格好にしたので左程に目立たない。

 カントリー・ジーンズにベニンのシャツ、革ジャンに古ぼけたクリークハットがそのスタイルだ。
 カレンにお願いして帽子からブーツまで古着屋で揃えてもらったものである。

 仮にクレアラスでいつも着ているような格好で現れたならひどく目立つ存在になっていたことだろう。
 当然、ハーマンとサラも同じような中古の服装である。

 ウェルズ農場への道は舗装も無いし、浮上車の道標も埋め込まれてはいないから、ホロ画面に出てくる道路地図を見ながらの運転になる。
 この時期は農閑期ではあるが、畑は枯れていた。

 秋口に収穫できなかった穀物がそのままになっているようだ。
 おそらくは収穫用の機器を動かせるだけの燃料が購入できなかったのであろう。

 それでも家の近くは畑の収穫も終わっているようだった。
 二台の車が家の前に停まると、家の中から男が二人出て来た。

 私とマイクが降り、ハーマンとサラは車に残るように言ってある。
 ハーマンとサラの大きな身体は、ガードマンとしては極めて有効だが、同時に相手には威圧感を与えてしまうから交渉事にはあまり向かないのである。

 私とマイクは並んで二人の男の前に歩み寄った。
 両方とも猪首のいかり肩の体型であり、ハンサムな顔つきも良く似ている。

 親子であろう。
 年配者がドーソン・ウェルズ、若い方がジャック・ウェルズの筈である。

 二人は共にオーラを持っている。
 そうすると家にいるのはクリステル・ウェルズのはずであるが、家の中からもオーラを感じられた。

 彼らの背後で玄関口に現れた中年女性もオーラを持っていた。
 但し、超能力が発現する大きさには至っていないだろうと思われる。

 彼女も若い頃には結構美人で有ったに違いない。
 マイクが声を掛けた。

「こんにちわ。
 こちらはドーソン・ウェルズさんのお宅でしょうか?」

 中年男性が訝し気に応えた。

「ああ、俺がドーソンだが・・・。
 あんたらロバールの者じゃないな。
 ここらの者なら皆顔と名前は知っているが、二人の顔も車の中にいる者も知らねぇ。
 一体どこから来た?
 それに何の用事だ?」

「僕はマイク・ペンデルトン、こちらは僕の妻のアリスです。
 クレアラスから貴方に会いに来ました。」

「ふーん、マイクにアリスか・・・。
 何処かで聞いたような名だが・・・。」

 若い方が何かに気づいたように、二人の顔をまじまじと見て言った。

「親爺、マイクとアリスって、例のMAカップルだよ。
 おれもどこかで見たような顔だと思ったんだけれど、二人ともホロで見た顔だ。」

「ん?
 MAカップルって、何だそりゃぁ?」

「ほら、ブラビアンカの陸上競技で金メダルを二人で16個も取ったカップルがいたじゃないか。
 出場した6つの個人競技全部で世界新記録を持っている二人だよ。
 親爺も凄いのが居たもんだと言っていただろう。」

「おう、あの時の・・・。
 だが、そんなのが何でここに?」

「さぁて、それは俺にもわからねぇな。
 お二人さん、一体何の用事だい?」

「ええ、実は、ドーソンさん、ジャックさん、カミーラさんを僕らが新しく作る会社に採用したいと思って参りました。」

「新しい会社?
 一体、何の会社だ。」

「仮の名前ですが、PMA航空宇宙研究製作所というところです。」

「仮ということはまだ発足していないと言うことか・・・。
 だが、いずれにせよ、俺も息子もハイスクールしか出ていないし、農業しか知らん男だぞ。
 その航空宇宙何とやらにはとてもついて行けん。
 娘のカミーラだって同じだ。
 儂らが勤まるとはとても思えん。」

「いいえ、あなた方はとても能力のある方ですから大丈夫だと思っています。
 少々勉強していただかなければならないのは事実ですが、余り心配をなさらなくても宜しいと思います。
 問題は長年住んだこの農場を離れてクレアラスへ移り住むことができるかです。」

「うむ・・・・。
 それについちゃぁ、問題が無いことも無いのだが、・・・。
 まぁ、ムサイところだが中へ入らんか。
 家の中で話した方が良いだろう。
 車で待っているのも一緒に入るといい。
 ここらで車に悪さをするような奴はいない。」

 マイクはハーマンとサラにも声をかけて4人一緒にウェルズ家の居間にお邪魔した。
 居間は古い農家の造りであり、大人7人が入っても十分な広さを持っていた。

 大家族用に作られたものだろう。
 ソファーもテーブルもあちらこちらに傷がついている骨董品のようだ。

 居間の隣には木製の大きなテーブルがあり、大家族が全員で食事をした名残がある。
 ハーマンとサラの大きな体格に少々驚いた様子だったが、椅子にどっかりと腰を降ろしたドーソンが言った。

「最初に言っておくが、俺のところに金はない。
 三年前から穀物の病気や害虫被害が続いてな。
 今年も市場に出せるような収穫は無かった。
 残ったのは借金の山だ。
 銀行からは土地と家を担保に800万、組合からは限度いっぱいの500万、それに俺と女房の親族からも借りまくってその合計が300万ほどになる。
 来年の種苗を買う金もねぇよ。
 まぁ、あんたらがそうだとは思わないが、俺らから金をむしりとろうというなら無理だぜ。
 廃業するしかねぇとは思っているんだが、踏ん切りがつかねぇ。
 銀行の借金は担保を手放せばいいが、組合も親族からの借金も返す当てがないからな。
 不義理を残すのが悔いだ。
 それと裏手に先祖伝来の墓地があってな。
 俺の代でそれまで無くなってしまうと思うと、情けなくってな。」

「ウェルズ農場の苦境は十分承知しております。
 その上で、一家そろってクレアラスへ移り住み、私どもの会社に入っていただきたいと思っているのです。
 このままでは、家も土地も無くなってしまうし、正直な所、このロバールでは働き口も無いでしょう。
 確か、娘さんのカミーラさんは組合事務所にお勤めの筈ですが、それも正規職員ではなく、アルバイト扱い。
 一家4人がカミーラさんの収入で生活するのは無理です。」

「ああ、わかっているさぁ。
 ジャックも働き口を探してはいるが、雇用状況は買い手市場でな。
 どこもまともな給料では雇ってくれん。
 まして農業しか知らん男は目もかけてもらえん。
 だから、あんたの話には正直言って大乗り気だ。
 だが、何で俺達なんだ。
 借金まみれの俺達を雇えば雇用主になるあんたにも迷惑がかかるかもしれないぜ。」

「あなた方は、我々にとって大事な仲間になると思っています。
 仲間を助けるのは当然の事でしょう。」

「今日会ったばかりの人間がどうして仲間だとわかる?」

「そうですね。
 今の段階ではお話しできないこともありますが、強いて言うならドーソンさん、ジャックさん、カミーラさんは、人には無い能力を持っていらっしゃる。
 そうして残念ながら奥様は持っていらっしゃらないので、会社に採用することはできません。
 私達の会社ではお三方が持っている能力が必要なんです。
 だから、ここに参りました。」

「儂らがあんたの会社に行ったとして、いくらもらえるのか教えてもらえるかい。
 借金の返済計画を立てにゃならんのでな。
 四人が食うだけの給料じゃとても無理だ。」

「お三方が来るという条件で申し上げますと、お一人当たり月に少なくとも4万にはなります。
 それと借金の方も心配は要りません。
 お三方が会社に入るということなら借金を全て私の方で肩代わりします。
 但し、担保となっていた家と土地は名義を変更しますが宜しいでしょうか?」

「おいおい、さっきも言ったけれど、合計すると1600万からの借金だぜ。
 そんな金を支払えるのかい?
 その金が払えるなら、土地も家もくれてやるよ。」

「ええ、御心配は要りません。
 但し、お三方に来ていただけないならこの話は無しになります。」

「おい、ジャックお前はどうだ。」

「俺は、何処にでも行く。
 借金じゃぁ食ってはいけないし、嫁の来てもいないだろう。
 カミーラだって付き合っていたボーイフレンドが手を返したように離れて行ったらしい。
 あいつも、話せばきっと乗ってくる。
 組合の給料は1万5千だぜ。
 4万だって聞いたらあいつもすぐに乗り換えるよ。」

「わかった。
 最終的な話は、カミーラが戻ってからにするが、連絡はどこにすればいい?」

「今日は、ロバールのサムズ・インに泊まっています。
 明日の午前中まではそこにいますのでご連絡をいただけますか?」

「わかった。
 明日の朝一番にサムズ・インに連絡をしに行くよ。
 その時に必要なら名義変更の手続きもできるが、どうする?」

「ロバールにも弁護士事務所が有りましたね。
 必要であればそこで手続きを頼みます。
 それよりも、銀行と組合に借金を返す方が先でしょうね。
 少なくとも担保が付いていると名義変更もできないんです。」

「わかった。
 いずれにしろ、必要な書類を持って行く。
 明日の朝、8時にはホテルに行くつもりだが、遅くなるようなら連絡をホテルに入れるよ。」

「わかりました。
 では、朝8時にホテルのロビーでお待ちしています。」

 私達は、一家に別れを告げて、車に乗り、ホテルへ戻った。
 昼食は、ハーマンやサラも一緒にサムズ・インの隣にあるレストランで軽食を取った。

 ホテルに戻ってみると、ウェルズ一家が4人揃ってロビーで待っていた。

「よぉ、さっきはどうも。
 善は急げというからな。
 カミーラに話しをつけて、今日は半ドンで休みを取らした。
 というよりもカミーラがお前さんたちに会いたがってな。
 皆で来たというわけだ。
 で、結論は、儂と、ジャック、カミーラの三人は、あんたのところの会社に雇ってもらいたい。
 そういうことだ。」

「はい、わかりました。
 では、先に借金の話を済ませておきましょう。
 小切手を用意してあります。
 銀行の借金800万、組合の借金500万、それに知り合いから借りたという300万です。」

 マイクは、四人の前に小切手を三枚並べた。
 呆気にとられている四人を前に続けた。

「他にはございませんか?」

「あぁ、無い。
 というよりも、ほかからは借りることができなかった。
 担保も無しで貸してくれるようなところは身内以外に無いからな。」

「じゃぁ、これで返済を済ませてください。
 土地と建物は、弁護士事務所で名義変更をするように頼んでおきましょう。
 弁護士事務所の、ガリソン氏とは面識がございますか?」

「あぁ、良く知っておる。
 儂の幼な馴染みだ。」

「なるほど、それと、これはあなた方一家がクレアラスへ移転するための支度金40万です。
 クレアラスでは4LDKのマンションを社宅として用意してあります。
 その住所はこちらに書いてあります。
 私どもの連絡先はこちらです。
 マンションは今いる家に比べるとかなり狭くなることが予想されますので、移転の際の荷物の量には十分注意してください。
 できるだけ早めにクレアラスに移転していただくのが宜しいのですが、いずれにしろ年明けになるでしょうね。」

 マイクは、小切手と共に連絡先などの紙を手渡した。

「あんた、・・・。
 随分と無造作に大金を出しておるが、わしらがこれを持って逃げるとは考えないのかね。」

「先ほども申しましたが、あなた方は大事な仲間になる人たちです。
 その仲間を信用できなくては仕事などできません。
 これを持って夜逃げしたところでたかが知れています。
 人を見る目が無かったと諦めればいいことですから。」

「なるほど、仲間か・・・。
 それだけ信用されれば本望じゃわい。
 ところで、家と土地はどうするね。
 あの土地はあれだけ病害虫に痛めつけられれば買い手が着かないと思うが・・・。
 何しろ、儂の土地に居ついたようだからなぁ。
 あれを退治するのは一苦労だ。」

「当面そのままにしておきます。
 墓地もそのままで結構です。
 新たな新規事業が始まってからいずれ土地の利用法を考えます。
 その中には新たな農場方式も入っています。
 その際にはドーソンさんにいろいろ教えてもらうことが有るかもしれません。
 ところでケルヴィスを農地に使ったことはありますか?」

「ケルヴィス?
 いや、儂も親父も使ったことは無いな。
 三代か四代前の先祖は使っていたらしいが、あれは手間がかかる。
 すり潰して粉末にするだけでもかなりの時間が掛かってしまう。
 新たな農薬の方が取扱いに便利で効き目が早いんでな。」

「アリス、どうやら、君の研究目標が見つかったね。」

「え?
 あ、もしかして結晶体の利用方法?」

「そう、養殖にも使っていたぐらいだからね。
 生物や環境には優しいはずだ。
 それを使って病害虫を防ぐ方法があるかもしれない。」

「なるほど、・・・。
 もし可能性があるとすればAかBだろうと思うわ。
 Cじゃ少なくて効果がほとんど認められないだろうから。」

「まぁ、それで試してみるといいい。
 触媒の可能性も無きにしも非ずだ。」

 ジャックが聞いた。

「そのA、B、Cというのは、何ですか?」

「ケルヴィスには、結晶体構造によって、A、B、Cの三つに分類されるの。
 通常、山から掘り出されたケルヴィスはその他の不純物も混じった混合物なの。
 そのどれかが効能があって、昔は魚の養殖場で良く使われていた。
 農業でも使われていたのは文献には無かったけれど、何らかの関連性はあるかもしれないわね。」

 カミーラが口を挟んだ。

「そう言えば、今は閉山されているけれど、ロバールでもケルヴィスの採掘場が有ったようですよ。
 採算が取れなくなって60年以上も前に閉山になったらしいけれど。」

「いずれにせよ、移転の準備が出来て、スケジュールが決まったならお知らせください。
 正式採用となれば会社の方でも種々の手続きがあります。」

「わかったよ。
 社長さん。
 あんたの言う通りにする。
 諸々の手続きを考えると早くて1月上旬、遅ければ中旬になるが、宜しくお願いする。」

「じゃぁ、二人でガリソンさんのところへ参りましょうか。
 私だけよりも、ドーソンさんが一緒に行ってくれた方が話は速い。
 手続きの方は全てガリソンさんに任せるつもりです。」

 ドーソンは頷いた。
 マイクとドーソンは15分ほどで戻ってきた。

「じゃぁ、私どもはこれでクレアラスに戻ります。
 明日戻る予定でしたけれど、ドーソンさんの対応が速かったので、今日で済みました。
 では、皆さんのお越しをお待ちしています。」

 私達は、当面の優先的人材確保を終えて、ロバールを去ったのである。
 
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