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第七章 二つの異世界の者の予期せざる会合
7-5 アリス ~被勧誘者達の事情 その一
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私達は翌日の早朝の便でクレアラスに戻った。
フライト時間は6時間であるが、到着は12時間後の午後8時であった。
ロクサーヌはその二日後12月24日にクレアラスに到着した。
前日に連絡が有ったので、ジェィムスにロクサーヌのホロ写真を渡して空港までの出迎えを頼んでいた。
彼女も当座は我が家の客室に棲むことになったのである。
残念ながら彼女が到着した時には私とマイクは出かけている。
いずれ訓練をしてから彼女には会社の社宅として借り受けるマンションに移ってもらうことになるだろう。
私達には優先的に採用を考えている者として、ほかにも三組の人たちがいた。
それらの人たちについては既にノートン探偵社を使って秘密裏に調査をさせている。
その調査が完了次第、二人でそれぞれの家を訪ねることにしていた。
一組はロバールに住む家族であり、その内の三人が超能力者であることは判っている。
もう一組はサマーリズに住んでいる二人で夫婦か兄妹かはわからないがオーラの陰りから見て一人はかなり重い病気に掛かっているようだ。
更にもう一人は、クレアラスの住人であり、先日のモデルの懇親会に集まった一人である。
その報告書がノートン探偵事務所から届いたのは11月下旬であった。
ロバールに住む家族は、ウェルズ一家であり、ドーソン49歳が家長、クリステル47歳はその妻、ジャック22歳が長男、カミーラ19歳が長女である。
ウェルズ一家はロバール郊外で農場を営み、穀物を栽培しているが、天候不順と害虫に祟られて、ここ三年赤字続きで、膨大な借金を抱え込み農地を手放さなければならない事態に陥っていた。
ジャックは農業を手伝っていたが、それを諦め就職活動を始めたが難しいようである。
一つには慢性的に需要よりも供給が多いと言うクレアラスの雇用情勢にある。
カミーラは一応農業組合の事務所に勤めてはいるものの、アルバイト扱いで給与は低く抑えられているようだ。
ある意味ウェルズ一家は存亡の危機に立たされていたのである 。
サマーリズに住む二人は、パティ・サンダース24歳とアイザック・サンダース22歳の姉弟であるが、アイザックは筋委縮症候群に罹患しており、現在は治療法がない難病である。
姉弟は早くに両親を亡くしており、その遺産も底をついたため、二人で住むアパートで療養しているが、回復の望みは全くない。
パティは近くの病院で看護師をしているが、アイザックの療養費にかなりの経費を取られ、自分の衣服も満足に買えない状況であるらしい。
最後のモデルの一人は、ヨーク・モロトフ27歳であるが、そろそろモデルに限界を感じ始めている。
セレブに一時囲われかけたこともあるが、我儘な女についに我慢が出来ずに破局を迎えた経験を持つ。
懇親会の席で愚痴をこぼすヨークに話しかけたのはマイクであった。
愚痴をこぼしにでもいいから気が向いたら家に来るといいと言い残して分かれた。
そのヨークが懇親会の数日後夕刻にふらっとマイクを訪ねてきた。
「俺もモデルはもう続けられないだろうと思う。
30までは続けられるかもしれないが、華やかな舞台は無理だろうね。
精々がファッショ雑誌のモデルぐらいかな。
セレブの囲われ者ならまだ口もあるけれど、居候ってのはどうも・・。
やっぱり男なら自分で稼ぐのがいいと思う。
でも潰しが効かねぇ。
あんたは俺より年下だけど、あんたなら何か俺にでもできる仕事を紹介してくれるような気がして、恥を忍んでやって来た。
お願いだから、何か俺に向いている仕事を紹介してくれないか。
あんたが言うなら道路工事の人夫でもなんでもやる覚悟はある。
踏ん切りをつけるためにあんたからアドバイスが欲しいんだ。」
マイクはあっさりと言った。
「うん、いいよ。
新たな事業を始めるのに人を捜している。
君なら、というか君でしかできない仕事もある。
但し、モデルの仕事とは一切縁がない。
どうかな?
それでもやるかい。」
「俺でしかできない仕事?
そんなものがあるのか?」
マイクは微笑みながら頷いた。
「わかった。
その話しに乗ろう。
食い扶持が有るだけでもいい。
雇ってくれ。
あんたの言うことなら何でもする。」
「そうだな。
取り敢えずは、今いるマンションを引き払った方がいい。
あのマンションは賃貸だろう。
かなり高い家賃を払っているようだけれど、左程の給料は出ないからね。
別のマンションを用意するからそこに移るといい。
仕事の方は、モデルの廃業とマンションの引っ越しが済んでから詳しい話をしよう。」
ヨークは、新たなマンションの住所を教えられ、1週間以内にモデルを辞める手続きと引っ越しを済ませると言って引き揚げた。
彼が入っているマンションはセレブリティ用の高級マンションであり、家賃は月に2万5000ルーブほども取る。
同じような広さのマンションでありながらマイクが紹介したマンションは月に8000ルーブであり、その内の半額を会社が出す仕組みになっている。
従って、ヨークが支払う家賃は4000ルーブとこれまでの六分の一になった。
繁華街のど真ん中にあるマンションと少し離れたマンションでは家賃に倍以上の差が付くのだが、これまで彼が入っていたのはその中でも特別に高いマンションであった。
虚飾に憧れるものは得てして無駄な金を使っているのである。
◇◇◇◇
私とマイクは、旅行から帰った翌々日の24日にサマーリズへ出かけた。
その日は午後8時頃にロクサーヌが到着する日であったが、止むを得ない。
彼女には一日か二日、我が家で待ってもらうことにしている。
ジェイムスには取り敢えず移転の手続きなどをしてもらうよう頼んでいるし、ロクサーヌにも私達が不在であることは伝えている。
彼女もいずれ社宅の方へ移ってもらう予定であるが、その間は我が家の客室で寝泊まりしてもらうことになっている。
サマーリズは、クレアラスの北西800セトランにあるメィビスでは中規模都市であり、人口100万を僅かに超える。
そんな都市でもスラム街はあり、そこにほど近いさびれた区画にサンダース姉妹のアパートは有った。
私達は、3時間高速軌道に乗って、サマーリズに到着。
無論、ハーマンとサラもしっかりとついて来ている。
カンターク・ホテルにチェックインして、パティが病院から出る時間を伺っていた。
パティは日勤の勤務を終えて午後5時に帰途についていた。
乗合いのフリッターに乗って30分余り、彼女が途中食料品店に寄ってから帰宅したのを確認して、私達は出かけた。
私達はフリッターで移動した。
乗り合いフリッターと異なり、私達は20分程でアパートの前で到着した。
フリッターの運転手には1時間待ってもらうように頼んだ。
ハーマンとサラにはそのままフリッターで待機してもらった。
この辺りはフリッターも利用者が居ないので中々捕まらないところなのだ。
フリッターの運転手は500ルーブのチップを渡すと一も二も無く請け負った。
私達はアパートの二階にあるサンダース姉弟の部屋をノックした。
インターホンは壊れていて使えないようである。
中から姉であるパティが用心深くチェーンを掛けたまま顔を隙間から覗かせた。
私達を見つめ、それから少し警戒を解いたのか、口を開いた。
「どちら様でしょうか?」
「私はマイク・ペンデルトン、一緒にいるのは私の妻でアリスと言います。」
「あの・・・。
どちらかでお会いしましたでしょうか?」
「いいえ、お会いするのは初めてと思います。
私どもがサマーリズを訪ねたのは今回がはじめてのことですので。」
「どちらからいらしたのですか?」
「クレアラスです。」
「でも、どこかでお見かけしたような・・・。
あ、もしかして、MAカップル?」
「ええ、そう言われたこともございますね。」
「ちょっとお待ちください。」
パティは、一旦ドアを閉め、チェーンを外して再度ドアを開けた。
「有名な方がお二人で何の用事かはわかりませんが、ともかく中へお入りください。
狭い家ですし、散らかっておりますが、お二人が座るぐらいのスペースはあります。」
二人は中へ招き入れられ、パティはドアにチェーンを掛けて内鍵を掛けた。
「この辺は夜になると余り治安が良くないんです。
ですから鍵をいつもかけるようにしております。
どうぞ、奥のテーブルの椅子にお座りください。」
二人が腰を降ろすとパティが言った。
「申し遅れましたが、私はパティ・サンダースと申します。
それで、多分接点が無いと思われる私に何のご用でしょうか?」
「実は、パティさんと弟さんのアイザックさんに用事があって参りました。」
「弟・・・?
弟は病気で生憎と話も満足にできない状態ですが、そんな弟にどんな御用事でしょう?」
「はい、筋委縮症候群と伺っておりますが、できればその病気を治せないものかと思いまして。」
明らかにパティは当惑していた。
「ご存じかどうか・・・・。
筋委縮症候群は現在のところ治療法が御座いません。
弟も余命三年と宣告されました。
本来ならばホスピスにでも入れて痛みを抑えてあげたいのですけれど、経済的に無理ですので自宅療養をしております。
自宅療養と言っても、世話をするだけでほとんど何もできません。
比較的安価な痛みどめを処方してもらうぐらいしかできないんです。」
「少なくともディフィビア連合圏内で治療法がないと言われているのは承知しております。
但し、ある療法では治療の可能性が御座います。
今日はそれをお勧めに参りました。」
「普通の方がそう言われるのなら、詐欺だと思って即座に追い返さなければならないのですが、・・・。
あなた方は有名な方ですものね。
私を騙したところで益はない。
でも何故でしょう。
どうして私ども姉弟を気に掛けられるのかそれがわかりません。
あなた方はリス多臓器不全症候群の特効薬ハマセドリンを量産し、しかも効能を高めた功労者と聞いております。
もしや、新たな治療法の実験にでも弟を利用されるおつもりでしょうか?」
「いいえ、そんなつもりはございません。
只、あなた方姉弟が私達にとっても大事な人物であるので、何とか弟さんを助け、そうして私が立ち上げる会社にお二人を採用したいと思っております。」
「新しい会社?
製薬会社なのでしょうか?」
「いいえ、今のところは航空宇宙研究所を立ち上げようと思っています。」
「航空宇宙・・・。
でも、・・・。
私は、しがない看護士です。
航空宇宙なんてまるで知りません。
そんな者を雇ってどうなされます?」
「貴方と弟さんは、私どもの会社になくてはならない存在だと思うからです。」
「何の取り得も無い女と余命三年と言われた男が、どうしてそんなことに?」
「あなた方姉弟は他人には無い力を持っています。
その能力を私の立ち上げる会社で役立ててほしいのです。」
「そんなことを言われても、私には何の保証もできませんが・・・。」
「今はそれで結構です。
あなた方を採用してからならお話しできることもございますが、今のところはこれ以上の御話はできないのです。
ただ、貴方と弟さんには、このサマーリズを離れて、クレアラスに引っ越してもらわねばなりません。
弟さんの治療はクレアラスでしか行えないからです。」
「引っ越すと言っても・・・。」
「貴方と弟さんの支度金として50万ルーブをお渡しします。
貴方の給与としては少なくとも月額4万ルーブを考えています。」
「50万、それに4万・・・。
そんなに高いお給料で一体何をするのでしょう。」
パティの看護士としての給与は月に2万ルーブ余り。
そこから色々と引き去りが入ると月に1万5千か6千ほどである。
4万ルーブというと婦長格の看護士の給与である。
若いパティにとっては夢のような金額でもある。
「当座は事務をしていただくようになるでしょうね。
弟さんについては当座看護が必要でしょうから、別途看護士をつけます。
住居については社宅を用意します。
但し、自己負担もございます。
月に4000ルーブ、仮に駐車場を利用する場合はその使用料として更に1000ルーブを負担しなければいけませんし、光熱費は自己負担になります。
それでも手元には3万ルーブは残る筈です。」
「でも、看護士をつけたならその費用も。」
「看護士の費用は、会社持ちです。
従業員が病気の場合、医療費は会社負担でも差し支えないでしょう。
但し、弟さんは休職扱いになりますので、働けるようになるまでは無給です。」
「どうして、そんなにまで・・・。
私どもと何も関わりは無い筈なのに・・・。」
「先ほども申しましたがあなた方姉弟は私どもにとっては大事な人物なのです。
ある意味では仲間と言っても良いでしょう。
その仲間を助けるのに左程の理由は不要です。
そうは思いませんか?」
「マイクさん、貴方は弟が治ることを前提としてお話をされていますが、治らない場合は、どうします?」
「九分九厘治ると思っていますが、そうでない場合もわずかながらあります。
その場合でも、先ほどの話は有効です。
貴方お一人でも雇います。」
しばし、パティは考え込んだ。
ゆっくりと顔を上げマイクと私の顔を交互に見つめ、やがてため息をついて言った。
「貴方の言葉を信じたい。
ですから貴方の仰せに従いましょう。
でも、私は今の職場をすぐには辞められません。
多分一週間から10日ほどの余裕は見て頂かねばなりませんが、それでもよろしいでしょうか?」
「私の方は構いません。
ただ、弟さんはできるだけ早く治療を始めた方がいい。
ですからできるだけ早く、クレアラスにお越しください。」
「わかりました。
できるだけ早く引っ越すようにします。」
マイクは小切手と連絡先、新たな住まいの住所を書いた紙をパティの前に差し出した。
「看護士の手配が必要なので日程が決ったらできるだけ早くお知らせください。
仮に私どもが不在の場合はジェイムスというものが承ります。
それから、弟さんの病状を考えると、バンタイプのフリッターでクレアラスまで運ばれた方が良いと思います。
メディカルセンターに頼むと結構な費用はかかりますが、付き添いとして貴方も一緒に運んでくれるはずです。
高速軌道は早いですが、筋委縮症候群の患者にとっては増減速が負担になるでしょうから。」
「わかりました。
そのようにしたいと思います。」
私達は再会を約してアパートを去った。
時間は30分を少し超えていた。
フリッターの運転手は約束通り待っていてくれた。
私達は、ホテルに戻り、翌朝クレアラスに戻った。
フライト時間は6時間であるが、到着は12時間後の午後8時であった。
ロクサーヌはその二日後12月24日にクレアラスに到着した。
前日に連絡が有ったので、ジェィムスにロクサーヌのホロ写真を渡して空港までの出迎えを頼んでいた。
彼女も当座は我が家の客室に棲むことになったのである。
残念ながら彼女が到着した時には私とマイクは出かけている。
いずれ訓練をしてから彼女には会社の社宅として借り受けるマンションに移ってもらうことになるだろう。
私達には優先的に採用を考えている者として、ほかにも三組の人たちがいた。
それらの人たちについては既にノートン探偵社を使って秘密裏に調査をさせている。
その調査が完了次第、二人でそれぞれの家を訪ねることにしていた。
一組はロバールに住む家族であり、その内の三人が超能力者であることは判っている。
もう一組はサマーリズに住んでいる二人で夫婦か兄妹かはわからないがオーラの陰りから見て一人はかなり重い病気に掛かっているようだ。
更にもう一人は、クレアラスの住人であり、先日のモデルの懇親会に集まった一人である。
その報告書がノートン探偵事務所から届いたのは11月下旬であった。
ロバールに住む家族は、ウェルズ一家であり、ドーソン49歳が家長、クリステル47歳はその妻、ジャック22歳が長男、カミーラ19歳が長女である。
ウェルズ一家はロバール郊外で農場を営み、穀物を栽培しているが、天候不順と害虫に祟られて、ここ三年赤字続きで、膨大な借金を抱え込み農地を手放さなければならない事態に陥っていた。
ジャックは農業を手伝っていたが、それを諦め就職活動を始めたが難しいようである。
一つには慢性的に需要よりも供給が多いと言うクレアラスの雇用情勢にある。
カミーラは一応農業組合の事務所に勤めてはいるものの、アルバイト扱いで給与は低く抑えられているようだ。
ある意味ウェルズ一家は存亡の危機に立たされていたのである 。
サマーリズに住む二人は、パティ・サンダース24歳とアイザック・サンダース22歳の姉弟であるが、アイザックは筋委縮症候群に罹患しており、現在は治療法がない難病である。
姉弟は早くに両親を亡くしており、その遺産も底をついたため、二人で住むアパートで療養しているが、回復の望みは全くない。
パティは近くの病院で看護師をしているが、アイザックの療養費にかなりの経費を取られ、自分の衣服も満足に買えない状況であるらしい。
最後のモデルの一人は、ヨーク・モロトフ27歳であるが、そろそろモデルに限界を感じ始めている。
セレブに一時囲われかけたこともあるが、我儘な女についに我慢が出来ずに破局を迎えた経験を持つ。
懇親会の席で愚痴をこぼすヨークに話しかけたのはマイクであった。
愚痴をこぼしにでもいいから気が向いたら家に来るといいと言い残して分かれた。
そのヨークが懇親会の数日後夕刻にふらっとマイクを訪ねてきた。
「俺もモデルはもう続けられないだろうと思う。
30までは続けられるかもしれないが、華やかな舞台は無理だろうね。
精々がファッショ雑誌のモデルぐらいかな。
セレブの囲われ者ならまだ口もあるけれど、居候ってのはどうも・・。
やっぱり男なら自分で稼ぐのがいいと思う。
でも潰しが効かねぇ。
あんたは俺より年下だけど、あんたなら何か俺にでもできる仕事を紹介してくれるような気がして、恥を忍んでやって来た。
お願いだから、何か俺に向いている仕事を紹介してくれないか。
あんたが言うなら道路工事の人夫でもなんでもやる覚悟はある。
踏ん切りをつけるためにあんたからアドバイスが欲しいんだ。」
マイクはあっさりと言った。
「うん、いいよ。
新たな事業を始めるのに人を捜している。
君なら、というか君でしかできない仕事もある。
但し、モデルの仕事とは一切縁がない。
どうかな?
それでもやるかい。」
「俺でしかできない仕事?
そんなものがあるのか?」
マイクは微笑みながら頷いた。
「わかった。
その話しに乗ろう。
食い扶持が有るだけでもいい。
雇ってくれ。
あんたの言うことなら何でもする。」
「そうだな。
取り敢えずは、今いるマンションを引き払った方がいい。
あのマンションは賃貸だろう。
かなり高い家賃を払っているようだけれど、左程の給料は出ないからね。
別のマンションを用意するからそこに移るといい。
仕事の方は、モデルの廃業とマンションの引っ越しが済んでから詳しい話をしよう。」
ヨークは、新たなマンションの住所を教えられ、1週間以内にモデルを辞める手続きと引っ越しを済ませると言って引き揚げた。
彼が入っているマンションはセレブリティ用の高級マンションであり、家賃は月に2万5000ルーブほども取る。
同じような広さのマンションでありながらマイクが紹介したマンションは月に8000ルーブであり、その内の半額を会社が出す仕組みになっている。
従って、ヨークが支払う家賃は4000ルーブとこれまでの六分の一になった。
繁華街のど真ん中にあるマンションと少し離れたマンションでは家賃に倍以上の差が付くのだが、これまで彼が入っていたのはその中でも特別に高いマンションであった。
虚飾に憧れるものは得てして無駄な金を使っているのである。
◇◇◇◇
私とマイクは、旅行から帰った翌々日の24日にサマーリズへ出かけた。
その日は午後8時頃にロクサーヌが到着する日であったが、止むを得ない。
彼女には一日か二日、我が家で待ってもらうことにしている。
ジェイムスには取り敢えず移転の手続きなどをしてもらうよう頼んでいるし、ロクサーヌにも私達が不在であることは伝えている。
彼女もいずれ社宅の方へ移ってもらう予定であるが、その間は我が家の客室で寝泊まりしてもらうことになっている。
サマーリズは、クレアラスの北西800セトランにあるメィビスでは中規模都市であり、人口100万を僅かに超える。
そんな都市でもスラム街はあり、そこにほど近いさびれた区画にサンダース姉妹のアパートは有った。
私達は、3時間高速軌道に乗って、サマーリズに到着。
無論、ハーマンとサラもしっかりとついて来ている。
カンターク・ホテルにチェックインして、パティが病院から出る時間を伺っていた。
パティは日勤の勤務を終えて午後5時に帰途についていた。
乗合いのフリッターに乗って30分余り、彼女が途中食料品店に寄ってから帰宅したのを確認して、私達は出かけた。
私達はフリッターで移動した。
乗り合いフリッターと異なり、私達は20分程でアパートの前で到着した。
フリッターの運転手には1時間待ってもらうように頼んだ。
ハーマンとサラにはそのままフリッターで待機してもらった。
この辺りはフリッターも利用者が居ないので中々捕まらないところなのだ。
フリッターの運転手は500ルーブのチップを渡すと一も二も無く請け負った。
私達はアパートの二階にあるサンダース姉弟の部屋をノックした。
インターホンは壊れていて使えないようである。
中から姉であるパティが用心深くチェーンを掛けたまま顔を隙間から覗かせた。
私達を見つめ、それから少し警戒を解いたのか、口を開いた。
「どちら様でしょうか?」
「私はマイク・ペンデルトン、一緒にいるのは私の妻でアリスと言います。」
「あの・・・。
どちらかでお会いしましたでしょうか?」
「いいえ、お会いするのは初めてと思います。
私どもがサマーリズを訪ねたのは今回がはじめてのことですので。」
「どちらからいらしたのですか?」
「クレアラスです。」
「でも、どこかでお見かけしたような・・・。
あ、もしかして、MAカップル?」
「ええ、そう言われたこともございますね。」
「ちょっとお待ちください。」
パティは、一旦ドアを閉め、チェーンを外して再度ドアを開けた。
「有名な方がお二人で何の用事かはわかりませんが、ともかく中へお入りください。
狭い家ですし、散らかっておりますが、お二人が座るぐらいのスペースはあります。」
二人は中へ招き入れられ、パティはドアにチェーンを掛けて内鍵を掛けた。
「この辺は夜になると余り治安が良くないんです。
ですから鍵をいつもかけるようにしております。
どうぞ、奥のテーブルの椅子にお座りください。」
二人が腰を降ろすとパティが言った。
「申し遅れましたが、私はパティ・サンダースと申します。
それで、多分接点が無いと思われる私に何のご用でしょうか?」
「実は、パティさんと弟さんのアイザックさんに用事があって参りました。」
「弟・・・?
弟は病気で生憎と話も満足にできない状態ですが、そんな弟にどんな御用事でしょう?」
「はい、筋委縮症候群と伺っておりますが、できればその病気を治せないものかと思いまして。」
明らかにパティは当惑していた。
「ご存じかどうか・・・・。
筋委縮症候群は現在のところ治療法が御座いません。
弟も余命三年と宣告されました。
本来ならばホスピスにでも入れて痛みを抑えてあげたいのですけれど、経済的に無理ですので自宅療養をしております。
自宅療養と言っても、世話をするだけでほとんど何もできません。
比較的安価な痛みどめを処方してもらうぐらいしかできないんです。」
「少なくともディフィビア連合圏内で治療法がないと言われているのは承知しております。
但し、ある療法では治療の可能性が御座います。
今日はそれをお勧めに参りました。」
「普通の方がそう言われるのなら、詐欺だと思って即座に追い返さなければならないのですが、・・・。
あなた方は有名な方ですものね。
私を騙したところで益はない。
でも何故でしょう。
どうして私ども姉弟を気に掛けられるのかそれがわかりません。
あなた方はリス多臓器不全症候群の特効薬ハマセドリンを量産し、しかも効能を高めた功労者と聞いております。
もしや、新たな治療法の実験にでも弟を利用されるおつもりでしょうか?」
「いいえ、そんなつもりはございません。
只、あなた方姉弟が私達にとっても大事な人物であるので、何とか弟さんを助け、そうして私が立ち上げる会社にお二人を採用したいと思っております。」
「新しい会社?
製薬会社なのでしょうか?」
「いいえ、今のところは航空宇宙研究所を立ち上げようと思っています。」
「航空宇宙・・・。
でも、・・・。
私は、しがない看護士です。
航空宇宙なんてまるで知りません。
そんな者を雇ってどうなされます?」
「貴方と弟さんは、私どもの会社になくてはならない存在だと思うからです。」
「何の取り得も無い女と余命三年と言われた男が、どうしてそんなことに?」
「あなた方姉弟は他人には無い力を持っています。
その能力を私の立ち上げる会社で役立ててほしいのです。」
「そんなことを言われても、私には何の保証もできませんが・・・。」
「今はそれで結構です。
あなた方を採用してからならお話しできることもございますが、今のところはこれ以上の御話はできないのです。
ただ、貴方と弟さんには、このサマーリズを離れて、クレアラスに引っ越してもらわねばなりません。
弟さんの治療はクレアラスでしか行えないからです。」
「引っ越すと言っても・・・。」
「貴方と弟さんの支度金として50万ルーブをお渡しします。
貴方の給与としては少なくとも月額4万ルーブを考えています。」
「50万、それに4万・・・。
そんなに高いお給料で一体何をするのでしょう。」
パティの看護士としての給与は月に2万ルーブ余り。
そこから色々と引き去りが入ると月に1万5千か6千ほどである。
4万ルーブというと婦長格の看護士の給与である。
若いパティにとっては夢のような金額でもある。
「当座は事務をしていただくようになるでしょうね。
弟さんについては当座看護が必要でしょうから、別途看護士をつけます。
住居については社宅を用意します。
但し、自己負担もございます。
月に4000ルーブ、仮に駐車場を利用する場合はその使用料として更に1000ルーブを負担しなければいけませんし、光熱費は自己負担になります。
それでも手元には3万ルーブは残る筈です。」
「でも、看護士をつけたならその費用も。」
「看護士の費用は、会社持ちです。
従業員が病気の場合、医療費は会社負担でも差し支えないでしょう。
但し、弟さんは休職扱いになりますので、働けるようになるまでは無給です。」
「どうして、そんなにまで・・・。
私どもと何も関わりは無い筈なのに・・・。」
「先ほども申しましたがあなた方姉弟は私どもにとっては大事な人物なのです。
ある意味では仲間と言っても良いでしょう。
その仲間を助けるのに左程の理由は不要です。
そうは思いませんか?」
「マイクさん、貴方は弟が治ることを前提としてお話をされていますが、治らない場合は、どうします?」
「九分九厘治ると思っていますが、そうでない場合もわずかながらあります。
その場合でも、先ほどの話は有効です。
貴方お一人でも雇います。」
しばし、パティは考え込んだ。
ゆっくりと顔を上げマイクと私の顔を交互に見つめ、やがてため息をついて言った。
「貴方の言葉を信じたい。
ですから貴方の仰せに従いましょう。
でも、私は今の職場をすぐには辞められません。
多分一週間から10日ほどの余裕は見て頂かねばなりませんが、それでもよろしいでしょうか?」
「私の方は構いません。
ただ、弟さんはできるだけ早く治療を始めた方がいい。
ですからできるだけ早く、クレアラスにお越しください。」
「わかりました。
できるだけ早く引っ越すようにします。」
マイクは小切手と連絡先、新たな住まいの住所を書いた紙をパティの前に差し出した。
「看護士の手配が必要なので日程が決ったらできるだけ早くお知らせください。
仮に私どもが不在の場合はジェイムスというものが承ります。
それから、弟さんの病状を考えると、バンタイプのフリッターでクレアラスまで運ばれた方が良いと思います。
メディカルセンターに頼むと結構な費用はかかりますが、付き添いとして貴方も一緒に運んでくれるはずです。
高速軌道は早いですが、筋委縮症候群の患者にとっては増減速が負担になるでしょうから。」
「わかりました。
そのようにしたいと思います。」
私達は再会を約してアパートを去った。
時間は30分を少し超えていた。
フリッターの運転手は約束通り待っていてくれた。
私達は、ホテルに戻り、翌朝クレアラスに戻った。
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弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
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ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
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