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第八章 新型宇宙船
8-3 試験飛行
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記者会見以降は、バームルトンのPMA製作所周辺に報道関係者が集まりだした。
但し、製作所周辺は高さが4トランを超える堅固な柵が巡らされ、敷地内部はかなりの範囲が刈り込まれた芝生で覆われているために侵入しても全く身を隠す場所がない。
また敷地の全面を覆う高さ30トラン以上のパラソル状天蓋が多数林立しており、ドローンでさえ上空を飛行しても天蓋に隠された敷地内は何も見ることができないのである。
柵の周辺では天蓋の高さが柵の高さに揃えられて上方に隙間が見当たらない。
ドローンの操縦を誤り天蓋に近づき過ぎると、高圧静電気の電撃でドローンが焼損することは、報道関係者も事前の周知時効で知っている。
そんな無理をするよりは、柵の隙間から敷地内を伺う方が余程効率的である。
当然のように正門付近での検問は厳しく、会社に無縁のものは一切の出入りができない。
実のところその正門からの出入りも非常に少ないのである。
昼前に昼食のデリバリー車両が一台入るぐらいで、ほとんど動きが無いのである。
従業員のほとんどは、市内にある宿舎から社用の大型フリッターで通勤し、社屋屋上で降りるだけであり、その離着陸時だけ屋上のパラソルが一部を開けるが、その中にドローンが侵入できるはずもない。
最終的に試験航海は2月29日午前11時開始に決定し、各関係機関に届け出を出したのが23日であり、各報道機関にもその旨を周知した。
宇宙海軍の方もケイン中佐が一日おきに我が家を訪ねて連絡を図るぐらいであるが、25日にはケイン中佐から試験航海が成功した時点で海兵隊一個大隊が、製作所周辺の空き地に幕舎を立てて警備を開始すると言って来た。
無論敷地内には一切立ち入らないが、警備責任者との連絡設定方法だけは知らせて来たのである。
その他にケイン中佐がもたらした情報は、メィビス海軍基地の技術研究所がキューブの解析に勤めているらしいが、完全にお手上げ状態で、近くデンサルの中央技術研究所にキューブを送ることになったということだけだった。
2月29日に出発する新型宇宙船の乗員は既に決まっている。
残念ながら、私はお留守番である。
当初の段階では、私も選抜のメンバーに入っていたから、試験航海が1月末ならば私も多分行けただろう。
1月の初めに来るべき生理が遅れ、2月になっても来なかったので、産婦人科を訪ねたら妊娠が判明したのである。
マイクは凄く喜んでくれたけれど、その代わりに乗員から外された。
確かに3カ月目に入るくらいだから注意しなければいけない時期ではあった。
新型宇宙船はおそらく妊婦にも影響を与えないと思われるけれど、それでも大事を取った方が良いと言われて私も渋々同意したのである。
40名定員のところではあるが、今回の乗員は10名のみである。
内二人はパイロット、一人は元シャトル・パイロットのグレッグ・バイリス、今一人は恒星間輸送船の航海士だったガーレン・サバテス。
どちらもシャトルのパイロット免許は有しているので軌道衛星までの航行に支障はないし、同じくクルーザークラスのパイロット免許も二人が保有しているのでそこから先の星系内航行についても問題は無い。
そこから先のワームホールを抜けるためにはクルーザークラスの免許者3名が必要なのだが、今回はワームホールを利用する計画は無いのでその心配はない。
宇宙局でもワームホールを使わないで運行する恒星間航宙船が出て来ようなど考えてもいないのである。
留守番とは言え、私は私でマイクから大事な用事を言いつかっている。
仮に星系間航行が成功した場合は、メィビス政府に高次空間通信装置の端末を持って行き、メィビス政府と他の政府の即時通話を開通させる大事な役目である。
手渡してしまえば、後は向こうの技術者に任せるだけなのだが、それでも然るべき人物が首長に手渡すべきという話なのである。
その場合、居残り組のうち、ロクサーヌとジャックが私の付き添いで来ることになっている。
二人とも高次空間通信装置の扱いについては十分承知しているし、ボディーガードとしても十分な能力を持っている。
PMA航空宇宙研究製作所の警備部もハーマンとサラの指導宜しきを得て、武道に関してはかなりの精鋭揃いだが、調査室の室員と互角に戦える者は居ない。
ハーマンとサラは、これでも特殊部隊の連中に引けを取らない連中なんですがねぇと腐るのも無理はない。
病み上がりのアイザックは無論のこと、男の盛りを過ぎたと思われる50男のドーソンにすら格闘技で勝てないのである。
その意味では未だ10代のロクサーヌとカミーラも格闘術のなんたるかを知り尽くした猛者と言えるだろう。
どちらもミニスカートの似合う可愛い女の子であるのだが、いざ格闘してみると並みの男ならば10人がかりでも対抗できないに違いない。
2月29日午前10時半、冬の名残で未だ寒風が吹く初春ではあるが、雲の殆どない快晴に恵まれ、絶好の打ち上げ日和となった。
PMA航空宇宙研究製作所の社屋は地上12階建ての高さ50トラン、南北70トラン、東西250トランに達する直方体の建物であるが、その南側に高さ40トラン、東西250トラン、南北120トランの工廠が付属している。
その工廠の5重のシャッターの一部が開き、牽引車に曳かれた新型宇宙船シンビック号が初めて陽の目を見た。
それと同時に敷地内のパラソル状天蓋が一斉に閉じて、折りたたまれ、支柱とともに地下へ吸い込まれて行く。
10分後には敷地には一つの天蓋も見えなくなっていた。
柵の外に群がる報道陣が一斉にホロビデオを構えて撮影に入った。
海兵隊は未だ展開していないが、おそらくは基地で出動準備を整えていることだろう。
指令があれば30分で軍用フリッターに乗った海兵隊員600人余りが配備につくことになっている。
速ければ今日の夕刻にも部隊の移動が開始される手筈になっている。
従って帰還の際は、報道関係者はかなり遠方からの撮影を強いられることになりそうだ。
私は北に面した社屋4階にある管制センターにいる。
窓は一切ないのだが、壁一面にあるモニター画像で、外の様子は一目瞭然である。
製作所の西寄りにある広い離発着場の中央に新型宇宙船シンビック号の綺麗な流線型が見えた。
大型シャトルのような形状だが、水平翼や尾翼が無い分、違った印象を与える。
強いて言えば極太の葉巻であろうか。
長さが120トラン、直径20トランもある大きなものである。
報道用のブース及び海軍基地内に設置したブースでも現在は、私が見ているものと同じ画面を見ているはずである。
5分前になれば、画面が二分割され、一つは屋上に設置されたカメラ映像を、一台は機体前部が捉えた映像を見ることになる。
必要に応じそれらの画面の切り替え装置もブースにはついている。
管制センターの壁面一杯のモニター群は船体に取り付けられたカメラ全ての映像を捉えている。
カメラは全部で24基あり、社屋屋上に設置されたカメラ映像を含めると32基になる。
更に船内のカメラ群が前部で24基これは6人の職員が分割して確認にあたっている。
出発15分前になって新型宇宙船シンビック号が予定位置に到達した。
既に船内では乗員が出発準備の最終点検に当たっている。
コンソールのモニター表示を見る限り、シンビック号に異常は見当たらない。
離陸に必要な全ての機器が稼働している。
二つの動力炉、合計16基に及ぶシュワルツ型駆動推進器、重力減殺装置、慣性質量減殺装置もスタンバイ表示でいつでも稼働できる状態にある。
高次空間通信装置もモニター画面が送られている以上は稼働している証拠である。
空間遷移装置は現在のところスタンバイ状況にはない。
宇宙空間に出てから種々の確認を行ってスタンバイにまで持って行く予定である。
5分前になって予定通りカウントダウン表示が始まった。
モニター画面の右下端にその表示が出た。
1分前になり、管制センター内に静寂が訪れる。
10秒ごとに計時担当のエリ・ヒルスタインの声が時刻を知らせる。
10秒前からは1秒ずつカウントし、彼女が0を数えて、スタートを宣した。
途端に重力減殺装置、慣性質量減殺装置の二つが稼働し、二基のシュワルツ駆動推進器が稼働を始めた。
推力の5%を使って、シンビック号は毎秒1Gの加速度で水平位置のまま上方へ動き出した。
シンビック号の場合、軸芯方向に向かって上下左右方向のシュワルツ駆動推進機関は主として方向変換のサブ・スラスターなのであるが、それでも20Gまでの加速を掛けられる。
メイン・スラスターである前部及び後部に各4基備えられている推進機関は、その10倍の200Gまでの加速を掛けられるようになっている。
更に質量減殺装置をフル稼働させると千分の一にまで質量補正が可能であるので、一気に20万Gの加速度を掛けられるのだが、通常の場合は其処までの加速度は不要である。
特に光速を超えてしまう可能性もあり、余程の事が無い限り使用はしないことになっている。
当然のことながら民間に販売する場合はかなりマイナーチェンジした仕様になると思われる。
シャトルと異なるところは、補助ロケット・ブースターによる轟音もなく、全くの無音であることである。
シンビック号は、10秒後に地上500トランに達し、モニター画面は一気に16分割になった。
16分割の画面は報道局が必要な処理を行なえば、どれか一つの画面にすることも4画面あるいは9画面に分割することも可能な筈である。
僅かに遅れて、重層シールド装置が稼働を始めた。
地上500トランで自動的に稼働するように設定されているのである。
これで仮に隕石が衝突してもシンビック号に被害を与えることは無い。
元々船体に使用されている特殊金属は、100万度までの耐熱、鉄鋼の10万倍の強度を持つ材質であり、仮に直径100トランの隕石が毎秒2万セトランの速度で衝突しても大丈夫なように設計されている。
海軍に手渡したキューブはこの材質の金属で作られているから海軍技術研究所がいくら頑張っても通常の方法では傷一つできない筈である。
比重は2.6程度でアルミ程度の軽金属ではあるのだが、そのままでは溶融も加工も無理であるはずである。
仮にキューブが海軍から流出したところで成分の確認すらも難しいだろう。
1分後には高度1万8000トラン、速度は音速の二倍程度になっている。
この時点で地上からのカメラの追尾は取りやめになっている。
米粒ほどの白い輝点を追いかけても仕方がないからである。
更に1分後高度は72セトラン、速度は音速の4倍近くに達した。
この高度で飛行する大気圏航空機は存在しない。
後は高次空間センサーで軌道衛星と地上を結ぶシャトルの航路筋に入らなければ問題はない。
シャトルはもともと滑空で降下するし、離陸の際も翼を使って高度上昇よりも水平位置の移動が多いのが特徴である。
従ってシャトル基地を中心に概ねすり鉢状の緩やかな軌道を描くため、ハームルトン直上にはシャトルは存在しない筈なのである。
但し、これから先の空間には数は少ないものの衛星やクルーザーが存在する可能性が有り、センサーで周囲を確認しておく必要があるのである。
幸いにして周囲400セトラン四方には何も支障となる物は無かった。
4分後には軌道衛星の高度を航過していた。
尤も軌道衛星自体は静止衛星であるから赤道付近上空にあって、ハームルトンの鉛直線上空に静止衛星は存在しない。
5分後にはメイン・スラスターを起動し、徐々に加速、方向変換を行って、シンビック号は天頂付近へと放物線軌道を描き出した。
これまでのところ船内の重力変化は一切生じておらず、重力減殺装置はその機能を果たしているようである。
遂にサブ・スラスターを停止し、シンビック号はメイン・スラスターのみで航行を開始した。
船内各部の空気漏れも無く、電気系統、電子回路にも異常は認められない。
一応の第一段階の惑星軌道脱出は成功したようである。
10分後には地表から2000セトランの距離に在って、なおも加速を継続していた。
そこからは5分おきに1Gずつ加速させ、離床から80分経過後には16Gの加速度でメィビス直径の距離ほども離れ、速度は毎秒400セトランを超えていた。
1時間40分経過で20Gを超えたことから更に加速度をあげ、毎分5Gずつ増加させる。
2時間経過で加速度は200Gに達した。
200Gに達した時点で加速度を一定とし、更に2時間。
進出距離は3光分を超えていた。
この時点で加速を停止、第二段階への移行を始めるために準備を開始した。
船体各部の電気的チェック及び目視確認が可能な場所をチェックして、異常がないことを確認したのである。
但し、製作所周辺は高さが4トランを超える堅固な柵が巡らされ、敷地内部はかなりの範囲が刈り込まれた芝生で覆われているために侵入しても全く身を隠す場所がない。
また敷地の全面を覆う高さ30トラン以上のパラソル状天蓋が多数林立しており、ドローンでさえ上空を飛行しても天蓋に隠された敷地内は何も見ることができないのである。
柵の周辺では天蓋の高さが柵の高さに揃えられて上方に隙間が見当たらない。
ドローンの操縦を誤り天蓋に近づき過ぎると、高圧静電気の電撃でドローンが焼損することは、報道関係者も事前の周知時効で知っている。
そんな無理をするよりは、柵の隙間から敷地内を伺う方が余程効率的である。
当然のように正門付近での検問は厳しく、会社に無縁のものは一切の出入りができない。
実のところその正門からの出入りも非常に少ないのである。
昼前に昼食のデリバリー車両が一台入るぐらいで、ほとんど動きが無いのである。
従業員のほとんどは、市内にある宿舎から社用の大型フリッターで通勤し、社屋屋上で降りるだけであり、その離着陸時だけ屋上のパラソルが一部を開けるが、その中にドローンが侵入できるはずもない。
最終的に試験航海は2月29日午前11時開始に決定し、各関係機関に届け出を出したのが23日であり、各報道機関にもその旨を周知した。
宇宙海軍の方もケイン中佐が一日おきに我が家を訪ねて連絡を図るぐらいであるが、25日にはケイン中佐から試験航海が成功した時点で海兵隊一個大隊が、製作所周辺の空き地に幕舎を立てて警備を開始すると言って来た。
無論敷地内には一切立ち入らないが、警備責任者との連絡設定方法だけは知らせて来たのである。
その他にケイン中佐がもたらした情報は、メィビス海軍基地の技術研究所がキューブの解析に勤めているらしいが、完全にお手上げ状態で、近くデンサルの中央技術研究所にキューブを送ることになったということだけだった。
2月29日に出発する新型宇宙船の乗員は既に決まっている。
残念ながら、私はお留守番である。
当初の段階では、私も選抜のメンバーに入っていたから、試験航海が1月末ならば私も多分行けただろう。
1月の初めに来るべき生理が遅れ、2月になっても来なかったので、産婦人科を訪ねたら妊娠が判明したのである。
マイクは凄く喜んでくれたけれど、その代わりに乗員から外された。
確かに3カ月目に入るくらいだから注意しなければいけない時期ではあった。
新型宇宙船はおそらく妊婦にも影響を与えないと思われるけれど、それでも大事を取った方が良いと言われて私も渋々同意したのである。
40名定員のところではあるが、今回の乗員は10名のみである。
内二人はパイロット、一人は元シャトル・パイロットのグレッグ・バイリス、今一人は恒星間輸送船の航海士だったガーレン・サバテス。
どちらもシャトルのパイロット免許は有しているので軌道衛星までの航行に支障はないし、同じくクルーザークラスのパイロット免許も二人が保有しているのでそこから先の星系内航行についても問題は無い。
そこから先のワームホールを抜けるためにはクルーザークラスの免許者3名が必要なのだが、今回はワームホールを利用する計画は無いのでその心配はない。
宇宙局でもワームホールを使わないで運行する恒星間航宙船が出て来ようなど考えてもいないのである。
留守番とは言え、私は私でマイクから大事な用事を言いつかっている。
仮に星系間航行が成功した場合は、メィビス政府に高次空間通信装置の端末を持って行き、メィビス政府と他の政府の即時通話を開通させる大事な役目である。
手渡してしまえば、後は向こうの技術者に任せるだけなのだが、それでも然るべき人物が首長に手渡すべきという話なのである。
その場合、居残り組のうち、ロクサーヌとジャックが私の付き添いで来ることになっている。
二人とも高次空間通信装置の扱いについては十分承知しているし、ボディーガードとしても十分な能力を持っている。
PMA航空宇宙研究製作所の警備部もハーマンとサラの指導宜しきを得て、武道に関してはかなりの精鋭揃いだが、調査室の室員と互角に戦える者は居ない。
ハーマンとサラは、これでも特殊部隊の連中に引けを取らない連中なんですがねぇと腐るのも無理はない。
病み上がりのアイザックは無論のこと、男の盛りを過ぎたと思われる50男のドーソンにすら格闘技で勝てないのである。
その意味では未だ10代のロクサーヌとカミーラも格闘術のなんたるかを知り尽くした猛者と言えるだろう。
どちらもミニスカートの似合う可愛い女の子であるのだが、いざ格闘してみると並みの男ならば10人がかりでも対抗できないに違いない。
2月29日午前10時半、冬の名残で未だ寒風が吹く初春ではあるが、雲の殆どない快晴に恵まれ、絶好の打ち上げ日和となった。
PMA航空宇宙研究製作所の社屋は地上12階建ての高さ50トラン、南北70トラン、東西250トランに達する直方体の建物であるが、その南側に高さ40トラン、東西250トラン、南北120トランの工廠が付属している。
その工廠の5重のシャッターの一部が開き、牽引車に曳かれた新型宇宙船シンビック号が初めて陽の目を見た。
それと同時に敷地内のパラソル状天蓋が一斉に閉じて、折りたたまれ、支柱とともに地下へ吸い込まれて行く。
10分後には敷地には一つの天蓋も見えなくなっていた。
柵の外に群がる報道陣が一斉にホロビデオを構えて撮影に入った。
海兵隊は未だ展開していないが、おそらくは基地で出動準備を整えていることだろう。
指令があれば30分で軍用フリッターに乗った海兵隊員600人余りが配備につくことになっている。
速ければ今日の夕刻にも部隊の移動が開始される手筈になっている。
従って帰還の際は、報道関係者はかなり遠方からの撮影を強いられることになりそうだ。
私は北に面した社屋4階にある管制センターにいる。
窓は一切ないのだが、壁一面にあるモニター画像で、外の様子は一目瞭然である。
製作所の西寄りにある広い離発着場の中央に新型宇宙船シンビック号の綺麗な流線型が見えた。
大型シャトルのような形状だが、水平翼や尾翼が無い分、違った印象を与える。
強いて言えば極太の葉巻であろうか。
長さが120トラン、直径20トランもある大きなものである。
報道用のブース及び海軍基地内に設置したブースでも現在は、私が見ているものと同じ画面を見ているはずである。
5分前になれば、画面が二分割され、一つは屋上に設置されたカメラ映像を、一台は機体前部が捉えた映像を見ることになる。
必要に応じそれらの画面の切り替え装置もブースにはついている。
管制センターの壁面一杯のモニター群は船体に取り付けられたカメラ全ての映像を捉えている。
カメラは全部で24基あり、社屋屋上に設置されたカメラ映像を含めると32基になる。
更に船内のカメラ群が前部で24基これは6人の職員が分割して確認にあたっている。
出発15分前になって新型宇宙船シンビック号が予定位置に到達した。
既に船内では乗員が出発準備の最終点検に当たっている。
コンソールのモニター表示を見る限り、シンビック号に異常は見当たらない。
離陸に必要な全ての機器が稼働している。
二つの動力炉、合計16基に及ぶシュワルツ型駆動推進器、重力減殺装置、慣性質量減殺装置もスタンバイ表示でいつでも稼働できる状態にある。
高次空間通信装置もモニター画面が送られている以上は稼働している証拠である。
空間遷移装置は現在のところスタンバイ状況にはない。
宇宙空間に出てから種々の確認を行ってスタンバイにまで持って行く予定である。
5分前になって予定通りカウントダウン表示が始まった。
モニター画面の右下端にその表示が出た。
1分前になり、管制センター内に静寂が訪れる。
10秒ごとに計時担当のエリ・ヒルスタインの声が時刻を知らせる。
10秒前からは1秒ずつカウントし、彼女が0を数えて、スタートを宣した。
途端に重力減殺装置、慣性質量減殺装置の二つが稼働し、二基のシュワルツ駆動推進器が稼働を始めた。
推力の5%を使って、シンビック号は毎秒1Gの加速度で水平位置のまま上方へ動き出した。
シンビック号の場合、軸芯方向に向かって上下左右方向のシュワルツ駆動推進機関は主として方向変換のサブ・スラスターなのであるが、それでも20Gまでの加速を掛けられる。
メイン・スラスターである前部及び後部に各4基備えられている推進機関は、その10倍の200Gまでの加速を掛けられるようになっている。
更に質量減殺装置をフル稼働させると千分の一にまで質量補正が可能であるので、一気に20万Gの加速度を掛けられるのだが、通常の場合は其処までの加速度は不要である。
特に光速を超えてしまう可能性もあり、余程の事が無い限り使用はしないことになっている。
当然のことながら民間に販売する場合はかなりマイナーチェンジした仕様になると思われる。
シャトルと異なるところは、補助ロケット・ブースターによる轟音もなく、全くの無音であることである。
シンビック号は、10秒後に地上500トランに達し、モニター画面は一気に16分割になった。
16分割の画面は報道局が必要な処理を行なえば、どれか一つの画面にすることも4画面あるいは9画面に分割することも可能な筈である。
僅かに遅れて、重層シールド装置が稼働を始めた。
地上500トランで自動的に稼働するように設定されているのである。
これで仮に隕石が衝突してもシンビック号に被害を与えることは無い。
元々船体に使用されている特殊金属は、100万度までの耐熱、鉄鋼の10万倍の強度を持つ材質であり、仮に直径100トランの隕石が毎秒2万セトランの速度で衝突しても大丈夫なように設計されている。
海軍に手渡したキューブはこの材質の金属で作られているから海軍技術研究所がいくら頑張っても通常の方法では傷一つできない筈である。
比重は2.6程度でアルミ程度の軽金属ではあるのだが、そのままでは溶融も加工も無理であるはずである。
仮にキューブが海軍から流出したところで成分の確認すらも難しいだろう。
1分後には高度1万8000トラン、速度は音速の二倍程度になっている。
この時点で地上からのカメラの追尾は取りやめになっている。
米粒ほどの白い輝点を追いかけても仕方がないからである。
更に1分後高度は72セトラン、速度は音速の4倍近くに達した。
この高度で飛行する大気圏航空機は存在しない。
後は高次空間センサーで軌道衛星と地上を結ぶシャトルの航路筋に入らなければ問題はない。
シャトルはもともと滑空で降下するし、離陸の際も翼を使って高度上昇よりも水平位置の移動が多いのが特徴である。
従ってシャトル基地を中心に概ねすり鉢状の緩やかな軌道を描くため、ハームルトン直上にはシャトルは存在しない筈なのである。
但し、これから先の空間には数は少ないものの衛星やクルーザーが存在する可能性が有り、センサーで周囲を確認しておく必要があるのである。
幸いにして周囲400セトラン四方には何も支障となる物は無かった。
4分後には軌道衛星の高度を航過していた。
尤も軌道衛星自体は静止衛星であるから赤道付近上空にあって、ハームルトンの鉛直線上空に静止衛星は存在しない。
5分後にはメイン・スラスターを起動し、徐々に加速、方向変換を行って、シンビック号は天頂付近へと放物線軌道を描き出した。
これまでのところ船内の重力変化は一切生じておらず、重力減殺装置はその機能を果たしているようである。
遂にサブ・スラスターを停止し、シンビック号はメイン・スラスターのみで航行を開始した。
船内各部の空気漏れも無く、電気系統、電子回路にも異常は認められない。
一応の第一段階の惑星軌道脱出は成功したようである。
10分後には地表から2000セトランの距離に在って、なおも加速を継続していた。
そこからは5分おきに1Gずつ加速させ、離床から80分経過後には16Gの加速度でメィビス直径の距離ほども離れ、速度は毎秒400セトランを超えていた。
1時間40分経過で20Gを超えたことから更に加速度をあげ、毎分5Gずつ増加させる。
2時間経過で加速度は200Gに達した。
200Gに達した時点で加速度を一定とし、更に2時間。
進出距離は3光分を超えていた。
この時点で加速を停止、第二段階への移行を始めるために準備を開始した。
船体各部の電気的チェック及び目視確認が可能な場所をチェックして、異常がないことを確認したのである。
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