二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

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第八章 新型宇宙船

8-2 海軍への対応

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 記者会見後の報道内容に、すぐさま反応したのは申請書類を出した官庁の責任者と海軍である。
 詳しい話を聞きたいので出頭せよとの御託宣である。

 メィビスは自由交易と自由な経済活動を保証しており、許認可も非常に緩やかな規制しか無い惑星である。
 従って通常の場合は、新型宇宙船の試験航海などほとんど事情聴取もなされずに許可されるのであるが、今回は違った。

 メィビスの軌道衛星には、主要造船所の修理工場もいくつかあるが、そこでは新造船を造ることが無いので、全くの新造船がメィビスで造られるとなると話は別物であり、ましてやそれが画期的な性能を有するとなればさらに慎重にもなる。
 私とマイクは手分けして8つの主管庁を回り説明を行った。

 12の公益団体からも依頼が有ったが、こちらは届け出だけで済む筈なので、積極的な対応はしない。
 多忙を理由に御断りをしているのだが、業を煮やして製作所を訪れた団体にはできるだけ応対することにした。

 私とマイクが揃ってメィビス宇宙海軍の基地を訪れたのは2月中旬である。
 基地司令官を始め将官が多数並ぶ会議室に通された。

 最初にメィビス宇宙海軍大将であるグレッグ・バートンから話が有った。

「ケイン中佐から事前に情報は得ていたが、慣性質量減殺装置や重力中和装置の話は、何も聞いていなかった。
 シュワルツ型駆動機関の改良機の話も初耳だった。
 我々が気にしているのは、それよりも今回の記者会見では公表していない空間遷移装置なのだが・・・。
 既にでき上がっているのかね。」

「一応、新型宇宙船に搭載しております。
 実験は地上では出来ませんので、宇宙空間で行うことにしております。」

「何故かな?」

「理論上、空間遷移装置を作動させると遷移の際に重力構造震が発生します。
 仮に惑星から0.5光分以内の距離で作動させると重力波の影響で地上に大きな影響を及ぼす可能性がございます。
 補正装置も考案して取り付けてはありますが、これも作動させてみないとその効果が判明しません。
 また、補正装置が故障した場合などを考慮すると、惑星など居住域から一定距離では遷移装置そのものを作動させない方が安全でしょう。
 従って安全係数を見込んで1.5光分以内での作動は避けた方が宜しいと思われるからです。」

「ほう、ではその装置を惑星近傍で作動させるだけで武器にもなると?」

「まぁ、地上社会に混乱を招く意味では武器にもなるでしょうが、海軍さんが意図しているような地上の軍事施設や海軍施設への被害を引き起こすことは難しいでしょうね。」

「具体的には?」

「地上の人々が空間自体の振動をめまいと感じるでしょうね。
 従って運行中の航空機やフリッターや浮上車の運転手に影響を与えて事故を誘発する危険があるでしょう。」

「それを防ぐ方法が有るかね。」

「駆動機関そのものに改変不可能なリミッターを取り付けて、惑星近傍での作動をできないようにしてしまうことです。
 新型宇宙船にはそのリミッターが装備されています。」

「そんなものは、外してしまえば何にもならないだろう。」

「リミッターを外すこと自体が出来ないでしょうね。
 それに仮に外せたとしても、リミッターが無い状態若しくは作動できない状態では、遷移装置は作動しません。
 そのような回路を設定しています。」

「およそ人が作った物ならば、ばらすことはできるはずだ。
 仮に敵方がそれを入手して武器として使われた場合は困ることになる。」

「敵方というのが何処なのかは知りませんが、連合宇宙海軍の最新技術でも現状では難しいと思います。」

 マイクはポケットから小さな立方体キューブを取り出した。

「試しに、技術研究所にこれを渡して分解できるかどうかやってご覧になればよろしいでしょう。
 このキューブは27個の直方体を組み合わせてできています。
 このキューブを27個のピースに綺麗に分解できるならば、将軍のご要望を何でも聞いて差し上げますよ。」

「うむ、その話、本当だな。
 シカと約束するか?」

「私は、嘘は嫌いです。
 将軍のご用件はそれだけでしょうか?」

「いや、・・・。
 仮にその遷移装置が上手く機能してワープが成功したならば、海軍に独占的に提供してほしいのだが、頼めるかな?」

「専守防衛ということであれば、海軍さんにも勿論提供いたしますが、独占的な提供にはならないでしょう。」

「うん?
 どういうことだ?」

「軍事機密とはせずに民間でも利用できるようにしますし、連合圏内だけで作動する装置にして提供します。
 従って、海軍が敵方と称する宙域では作動しません。」

「馬鹿な、それでは装備の意味合いが半減するではないか。」

「宇宙海軍は、連合圏内を守るための軍ですか、それとも敵方と称する陣営に攻め込むための軍ですか?」

「無論、連合圏内の防衛が主たる任務だが、戦況によっては敵方陣営に踏み込むこともあるだろう。」

「私は政治家でも軍人でもありませんが、私どもが作った宇宙船又は機器で無辜の民の殺戮が行われるのであれば、そのようなものは破棄します。
 私どもは武器商人ではありませんので。」

「しかしながら、国防は軍人だけの義務ではない。
 民間人と謂えど協力する義務が有ろう。」

「必要とあればお手伝いもしますが、左程に必要とは思われないのです。
 将軍は現状においてそうした危機が有ると仰るのですか?」

「いや、・・・。
 今のところはその懸念はない。
 だが不測の事態に備えていてこそ軍の役割が果たせるのだ。」

「不測の事態とは敵が攻撃してきたときであって、相手の陣営に攻め込むことではないと思われますが、如何ですか。」

「うむむ、・・・。
 だがそのような兆候が有れば未然に叩いておくことが戦略上必要な場合もある。」

「そのような兆候を事前に知ることができるならば、その時点で当該場所の防御を固めれば宜しいのでは。
 それが専守防衛です。」

「我々が信用できないと言うのか?」

「さて、私と将軍はここで始めてお会いしたばかり、信用せよと仰られても困ります。
 メィビス宇宙海軍は、24万の将兵を抱えておいでです。
 将軍はその全てを100%信用されていますか?」

「およそ海軍将兵たる者であれば信用はしておる。」

「昨年メィビスで刑事法令に違反した将兵は全部で100名を超えております。
 中には痴情のもつれから殺人を犯した将校もいた筈。
 そうした者が現に存在する組織を全面的に信用することなどできません。
 例え一人の馬鹿がしでかしても、惑星規模の住民の命が危険に晒されます。」

「ウーン、確かに君の言う通りではある。
 だがそれは海軍に限ったことではない。
 何処の組織にも一人や二人の脱落者は居るものだ。」

「普通の企業ならばそれでも構いません。
 ですがあなた方は民間人の持たない強力な兵器を有している。
 それが暴発したならば、民間人では防ぎようがないんです。
 あなた方にも自浄能力はあるでしょうけれど、そうした武器に加えて、敵方の陣営に容易に侵攻できる手段が有れば、愚か者一人の行為で全面戦争に陥りかねない。
 その結果として敵方陣営に攻め込み、相手が降伏するまでに幾多の人命が失われることか。
 抑止力としての船であるならば提供しますが、侵略兵器としての船は提供しません。
 これは我が社の創立理念でもあります。
 避け得ないことでしたので進んで情報も与えて参りましたが、今後はその情報提供も取りやめましょうか?」

 グレッグ大将はマイクを睨みつけた。

「我々を脅すつもりかね。」

「脅しではないのです。
 実際に必要な措置であればそうします。
 予め申し上げて置きますが、我が社に対して圧力をかけても無駄です。
 また、国営企業化を目指されても無駄です。
 そうなれば我々は一切の協力をしませんし、出来上がった宇宙船もただの金属の塊と化すでしょう。
 あなた方も何も得られないことになる。
 我が社は一切の特許申請をしませんし、理論情報や技術情報の公開もしません。
 大手企業が真似しようとしても理論的裏付けや技術力がないままであれば100年経っても我々のレベルには達しえない。
 製作所を抑えれば色々な機材を入手できるかもしれませんが、それも全く稼働しないでしょう。
 それよりは、実際に実験が成功した時点で、連盟や連邦の工作員が破壊工作に乗り出すことへの対策を講じられた方が余程有益だと思います。
 メィビスだけでも11名の工作員が潜伏中ですから。」

 末席の方に控えていた人物が大声を上げた。

「何と、11名?
 それらの者の所在を承知なのか?」

「確か、情報部のキーナン大佐でしたね。
 後で、メィビスでの偽名とアジトをお知らせしましょう。
 但し、下手に動くと市民が巻き添えを食うことになります。
 アジトには爆発物が設置されていて遠隔操作で爆破できるし、本人の奥歯には、即効性の毒薬を仕込んでいるようです。
 捕獲するならば気づかれないようにPLXガスを使うしかないでしょうね。」

 唖然とした表情を見せながらキーナン大佐が言った。

「何で・・・。
 PLXガスを知っている。
 軍の中でも限られた者しか知らない筈なのに・・・。」

 マイクはすました顔で応えた。

「我が社も、自社防衛に必要な情報網はあります。
 情報の出所は教えられませんので悪しからず。」

 将軍が言った。

「そのPLXガスとはなんだ?」

 苦々しげにキーナンが言う。

「宇宙海軍中央技術研究所が1年前に開発したもので、特殊部隊要員と我が情報部の工作員の一部しか知らないはずですが、即効性の暴徒鎮静ガスです。
 これを吸い込むと即座に意識を失います。」

 微笑みながらマイクが言った。

「将軍、我が社にそのガスを使って制圧できないかと一瞬考えられたでしょう。
 でも無駄ですよ。
 意識を失った者は何もできないし、意識の有る者は協力しません。
 我が社のIDカードを持たない者が操作しても一切の装置は動かないし、不審人物が一定の敷地内に侵入しただけで、全ての機器が稼働を止めます。
 そのようなセキュリティになっているんです。」

 言われた将軍は、正しくどきっとした。
 確かにその手を考えていたからである。

「ケイン中佐からも言われてはいたが、中々一筋縄では行かない様だな。
 止むを得んな。
 今日のところは引き下がろう。
 キューブを分解できたなら何でも要望を叶えるという先ほどの約束に望みを託そう。
 いずれにせよ、今後とも海軍を宜しく頼む。
 君との折衝にはこれまで通りケイン中佐が当たる。
 但し、情報部関係についてはキーナン大佐の部下で然るべきものを当てる。
 後刻、キーナン大佐から話が有るだろう。
 では諸君、ご苦労だった。
 散会してくれ。」

 2月20日までに8つの役所からそれぞれ許認可が降りた。
 役所としても、メィビス発展の起爆剤になるかもしれない事業の邪魔をすることはできなかったのである。

 これがデンサル辺りならば全く別の様相を呈していただろうが、メィビスは自由商業惑星であり自由交易と自由経済を惑星政府の理念としているから、それに反する行為そのものが例え役所であろうとも逆に制限されているのである。
 無論報道の自由もその一環である。
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