二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

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第八章 新型宇宙船

8-6 緊急事態における依頼

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 シンビック号に乗り込んできた官僚の内の一人は、緊急安全管理局長官のジャービス・デントンであった。
 乗員一同を前にそのジャービス長官が言った。

「メィビスのマービス首長からのメッセージを確かに受け取りました。
 中央政庁宛の通信装置が有るならばここで受け取りましょう。
 着いたばかりのところで誠に申し訳ないが、君たちに是非ともお願いしなければならないことがある。
 実は、このタンデム星系地区の辺境にあたるカッサンド星の入植地で20日前にライムル病と思われる伝染病が発生したのだ。
 ライムル病は発症するとワクチンを与えなければほぼ9割が三日以内に死亡すると言われている恐ろしい伝染病だ。
 昨日夜半に受け取った緊急通信では6日前の時点で50万人以上の患者が発生しており、更に増えそうな見込みだ。
手持ちのワクチンは使い果たし、このデンサルへも救援要請が来ている。
 生憎とカッサンド星へのワームホールはあるものの、非常に遠く離れた場所にあることから、高速巡航艦が500万人分のワクチンを積んで第一報が届いた7日前に出発しているが、最寄りのワームホールから1200億セトランの距離を3Gの加速度で突き進んでも到着は、早くても45日後になる上に、その程度のワクチン量ではその時点では焼け石に水となるだろう。
 下手をすると約5億に達する移住者全てが全滅する恐れもある。
 緊急安全管理局では1000万人分のワクチンを準備して第二便の出航準備を急いでいるところだが、このシンビック号ならば、今日中にでも到着できるのではないだろうか。
 もし、そうであるならば、直ちにワクチンを搭載して出航し、カッサンド星へ向かって欲しいのだ。」

 そう言って必死の目で懇願をした。
 マイクが言った。

「わかりました。
 本船へワクチンを積めるだけ積んでください。
 必要であるなら何度でも往復します。
 また医療関係者も載せられます。
 必要な防疫資機材と共に手配が付き次第本船は出発します。
 それと本船の運航スケジュールをお知らせします。
 緊急事態ですので本船は離陸直後から1Gの加速度で上昇します。
 およそ33秒で音速に達し、高度5千トラン前後でソニックブームが出ることをご注意申し上げます。
 離陸から2分後には高度72セトランの大気圏外に出て、一気に200Gにまで加速します。
 その3分後には、デンサルから1.5光分の距離に進出しますので、そこから連続ワープに入ります。
 可能な限り、デンサルからカッサンド星系への道筋の航路を空けてください。
 ワームホールは使いません。
 そこからカッサンド星系内へはおそらく1秒以内に到達します。
 到達地点で減速してカッサンド星へ着陸するまでおよそ5分から6分です。
 シャトル基地又は着陸できる場所を指定いただければどこにでも降ります。
 医薬品と医療関係者を降ろしたならば、再度デンサルに戻って参りますので、更なるワクチンなり医療関係者を搬送します。
 倉庫は生憎とさほど空いておりませんが、船室は全部で20室、少し窮屈かも知れませんが極々短時間ですので余裕があれば1室に6人から8人は入ります。」

「わかった。
 1時間以内に手筈を整える。
 シンビック号の離陸は最優先で行わせる。」

 それからは、公用シャトル基地に様々なフリッターが出入りした。
 運搬用フリッターは、山ほどのワクチンを搭載してきて、その荷は12の船室を埋め尽くした。

 残りの8室には医療関係者50名ほどが入り、着陸してから55分後にはシンビック号は離陸した。
 デンサルから2.38光年の距離にあるカッサンド星のシャトル基地に降り立ったのはデンサルの公用シャトル基地を出航してから僅かに12分後の事であった。

 マイクは同乗した医療関係者の一人に、本来はクロベニア政庁に渡す予定の通信装置を託した。
 シンビック号には検疫のためカッサンド星住民は一切立ち入らせず、医療関係者が1000万人分のワクチンを全て荷卸ししたのである。

 荷卸しが完了し、医療関係者の下船と同時に、シンビック号は再度離床した。
 デンサル離床から1時間後にはシンビック号は再度デンサルの公用シャトル基地に降り立っていた。

 ワクチンはデンサルでも残り300万人分になっており、製薬会社で製造を急いでいるが1日に1万人分がやっとの状況である。
 その300万人分のワクチンと医療関係者100名を乗せて、再度シンビック号はカッサンドへ向かったのである。

 その後も医療関係者の搬送は続けられ、合計600名の医療関係者を送り込んで緊急輸送は様子見に入った。
 デンサルとカッサンドとの即時通話が開通し、さらにはいつでも輸送ができる体制ができたことで、シンビック号乗員に休息を与える余裕ができたためでもあった。

 さらなる医療関係者の派遣のために公用シャトル基地には既に1200名を超える医療関係者が集結していた。
 第一陣が付いた時は現地医療従事者までもが罹患してかなり凄惨な状況であったが、ワクチンと医療関係者の大量投入により、カッサンドの厄災は最悪の事態を脱却し、沈静化に向かっていた。

 半日後第二陣の4組600名が出発し、シンビック号の緊急搬送業務は終了した。
 彼らの帰還に際しては、シンビック号がまた手伝いをすることが約束されていた。

 通常の客船を使っていたのでは、3カ月ほども掛かる距離であったからである。
 カッサンドに向けて驀進中の巡航艦ディライラ号はワームホールから8光時ほどの距離まで進出した時点で帰還命令を受け、1Gにまで減速し、かなりの長円軌道を描いてデンサルに戻り始めた。

 ディライラ号のデンサル帰還は2週間後の予定になる。
 このシンビック号の活躍は、カッサンドの報道機関とデンサルの報道機関が連携して報じ、即日メィビスにも伝搬されたのである。

 一つの星系の出来事が他星系に即時通報される初めての事例になった。
 シンビック号が一旦搬送を終えると、中央政庁からデンサルの公用シャトル基地に着陸することを要請された。

 要請してきたのは、ディフィビア連合首席代表であるダグラス・アンドリュースその人であった。
 シンビック号に稼働したばかりの高次空間通信装置を介して、直接ビデオフォンで招請をしたのである。

 公用シャトル基地に着陸したシンビック号を待ち受けていたのは大勢の報道陣と警備陣それにダグラス首席代表と首席代表府の幹部職員、ディフィビア連合上下院議長と議員団であった。
 そのまま当直三名を残してマイク以下7名の搭乗員が、ディフィビア連合政庁舎に移動し、大会議室で大勢の政財界の大物が立ち並ぶ中で、ディフィビア連合の白薔薇大十字勲章を授与されたのである。

 白薔薇大十字勲章は、災害発生時の人命救助に尤も功績のあった団体に送られる最高位の勲章であり、これまで500年を超えるディフィビア連合の歴史の中でも僅かに二十例ほどしか授与された試しがない。
 搭乗員全員に白薔薇十字勲章が授与され、PMA航空宇宙研究製作所が大十字勲章を受けたのである。

 その上で、マイクは1年間の限定ながらディフィビア連合圏内名誉公使を拝命した。
 連合圏内であればどこの星系でも首席代表代理としての格式で迎えられるものである。

 そのために首席代表代理としての通信符丁を与えられ、連合圏内であればどのような場合でも最大級の待遇を約束されるものであった。
 その時点で公使の職責を担っているのは連合全体で僅かに2名であるが、この2名は常勤職であり、連合憲章でそのほかに非常勤として名誉公使若干名が設けることができるようになっているのである。

 受賞祝賀会が首席代表公邸で催され、大勢の政財界の人々とも面識を得たマイクであるが、翌日午前中にはデンサルを発って、次の目的地であるシムズへ向かった。
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